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【プロローグ】

【第一話】最後のホームルーム

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 ~西暦二〇二三年 二月~
 
 
 灰色の、高校生活だった。
 
 
 僕こと冬崎雪斗は、ふとそんな事を思った。
 
 
 高校生活も残すは卒業式だけである。
 
 
 三年間同じクラスメイトだったけれど、友人はゼロ。
 話し掛けられることすら、ほとんど無かった。
 
 
 だから登校から下校まで、言葉を発さないのはよくある事だった。
 
 
「よーし、じゃあ帰りのホームルームはこれで終わりだ。お前たち、卒業式は遅刻するなよー」
 
 
 担任教師のその言葉で、日直が号令を出す。
 
 
「起立、気をつけ、礼」
 
 
 意味の無いいつものルーティンだけど、それも今日で最後だ。
 
 
 明日から卒業式までの約一ヶ月間、僕たち三年生は自由登校期間に入る。
 
 
 よほどの用事が無ければ学校に来ることは無いし、友達が居ない僕はクラスメイトと顔を会わせることすら無いだろう。
 
 
「よっしゃあ、これで自由だ!」
「なぁなぁ、この後カラオケ行かねぇ?」
「女子も誘わね?」
 
 
 荷物をまとめていると、陽キャグループの会話が耳に入った。
 
 
 放課後のカラオケなんて、僕には夢のまた夢だ。
 しかも、女子も居るだなんて。
 
 
 言うまでもなく、僕はクラスの中で孤立していて、クラスカーストは間違いなく最下位だろう。
 
 
 目が合っただけで緊張するし、多分、挙動もおかしいと思われている。
 
 
 教室でクスクスと笑い声が聞こえたら、それはきっと僕の悪口を言って笑っている声だ。
 
 
 このクラスに、落ち着ける居場所なんて無かった。
 
 
 それでも、不登校にならずにちゃんと高校に通ったのは我ながら凄いと思う。
 
 
 小さい時から、耐えることには長けていた。
 
 
「あれ、おかしいぞ」
「何やってんだよ?」
「分からねぇ、ドアが動かねぇんだよ」
 
 
「後ろのドアも開かないんだけどぉ?」
「やだぁ、なんか怖ぁ~」
 
 
 異変が起き始めたのは、それからだった。
 
 
 教室の出入り口のドアが動かなくなったようだ。
 
 
 不審に思った担任教師もドアを開けようと試みるが、ガタガタと音をたてるだけで、開く気配は無かった。
 
 
 教室中がざわつき始めた、その時だった。
 
 
 激しい揺れが、教室を襲う。
 
 
 机や椅子が倒れ、立っていられないくらいの激しさである。
 
 
「きゃああぁぁっ!」 
「地震か!」
「痛え!」
 
 
「みんなっ! 姿勢を低くして頭を守るんだ!」
 
 
 担任教師の指示で、僕はその場で床に伏せた。
 
 
 窓ガラスは割れていないが、揺れが収まる気配は無い。
 
 
「何だこれ! 床が!」
 
 
 誰かが言った。
 
 
 次の瞬間、床の一面が輝きだした。
 
 
 僕は無我夢中で頭を守っていたけど、光を放つ床に、幾何学模様があるのがかろうじてみえた。
 
 
 魔方陣。
 
 
 とっさに、それが頭に浮かんだ。
 
 
 そして次の瞬間には、僕の意識は途絶えていた。
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