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【第四章】資金調達編

【第六十二話】

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「これは何だ、ゼフナクト?」


 冊子を受け取ったゼクトアは、表紙を読んで首を傾げた。


「俺やガンテス、そして蓮牙山の同志が仰ぎ見る、志のようなものだ」


 ゼフナクトが真剣な顔で言ったので、俺は内心気恥ずかしかった。


「【志】か。大層な事を言うようになったな」


 ゼクトアは、しばらく黙って考え込んだ。


「お前の要件については、少し考えよう。代わりに、武器などが必要になったら言うがいい」


 そう言うと、ゼクトアは替天行道の冊子を懐にしまった。


「分かった。その冊子を読めば、お前は考えが変わるだろう、と俺は思っているぞ」


 ゼフナクトはそう言い、卓に銭を置き、立ち上がった。


 ゼフナクトと俺は、そのまま店を出た。


「あれで、良かったのですか?」


「ああ。あいつはあいつで、色々と思うことがあるのだろう。意志が固い人間を動かすには、時を掛けるしかない」


 やはりそれだけ、塩を取り扱うことは危険だということだろう。


 しかし、これで資金調達の手段は絶たれた事になる。


 ゼフナクトにも他の案は無さそうだった。


 二人で、しばらく街を歩いた。
 ゼフナクトがこの街でよく利用するという宿があるらしく、そこに向かう途中だった。


 大通りの端の方が、何やら騒がしくなっている。


 十人ほどのごろつきが、何者かを取り囲んでいるようだった。


 喧嘩だろうか。


 街の雰囲気からして、こういった揉め事はよくありそうだ、と俺は思った。


 ゼフナクトも歩きながら、ごろつき達に目をやっていた。


 ごろつきに囲まれているのは、肥えた巨漢と細身の男の二人だった。


 二人とも着ているものは綺麗で、立ち姿からして、それなりにいい暮らしをしているのだと分かる程である。


 そして、十人のごろつきに囲まれているにも関わらず、二人とも戸惑っている様子は無かった。


「ゼフナクト殿、放っておくのですか?」


「見たところ、高い身分の人間のようだ。ごろつきが手を出すような事があれば、助太刀しよう。恩を作る機会かもしれんな」


 ゼフナクトは無表情に言ったが、どこか楽しんでいるような口調だった。


 さりげなく、そばに寄って様子をうかがった。


 ごろつき達の声が聞こえる距離である。


「おい。さっき、懐から大量の銭を出してるのを見たぞ。この道を通りたければ、その銭を渡しな」


「はて、私は単なる商人でして、あまり儲かってもいないので銭など持ち合わせておりません」


「とぼけるんじゃねぇ、おっさん」


 巨漢の商人の態度に、ごろつきが苛立ち始めていた。


 従者と思われる細身の男が、主人を守るようにごろつきの前に立ち塞がった。


「おいおい。そんな細い身体で、俺たちに勝てると思ってるのか? 冗談もいい加減にしな」


 ごろつき達は、多数である余裕からか、笑っていた。


 細身の男は、表情を変えず、ただ立っている。


「仕方ねぇ。痛い目に合わないと分からねぇらしいな」


 ごろつきの一人がそう言うと、細身の男に向かって拳を振り下ろした。


 ついに始まってしまったかと思い、俺は考えるよりも先に駆けようとしていた。


 しかし、ゼフナクトに肩を捕まれ、足を止めた。


「よく見ろ」


 言われて視線をごろつきに戻すと、すでに三人のごろつきが地面に倒れていた。


 周りに居た他のごろつきも襲い掛かるが、細身の男が素早く動き、次々と倒していく。


 細身の男は、紙がひらひらと落ちていくように動きながら拳を避けて、逆に放たれた弓矢のような速さで蹴りを繰り出していた。


 あっという間に九人のごろつきが倒れた。


 ほとんどのごろつきが悶え苦しみ、完全に気を失っている者もいる。


「さて、あなたが最後の一人です。お相手しましょうか?」


 細身の男の声は、女性のように聞こえた。


 最後に立っていた男は声も出せずに首を横に振り、這うようにして逃げ去っていった。


 細身の男は、全く息を乱していなかった。


 倒れているごろつき達をそのままにして、主人と従者は歩き始めた。


 俺が呆気にとられていると、いつの間にかゼフナクトが彼らに向かって歩き始めていた。


 しばらく二人の後を追って歩くと、肥えた商人の方から振り向いてきた。


「私に、何か用でも?」


「さっき、ごろつきを倒していたな」


 ゼフナクトが近付きながらそう言うと、警戒するように細身の男が前に出た。


「誤解しないでくれよ、さっきの仲間じゃない。ただ、通り掛かっただけなんだ」


「ほう、そうでしたか」


「そこの細身の従者が、簡単にごろつきを倒しているのを見て、俺は関心したんだ。ただな、護衛なら、もっと強そうな奴にしたらどうだ?」


「この者は、幼い頃から私の屋敷で暮らしていて、良く仕えてくれているのです。武術も達者で、護衛としては充分だと思っております」


 でっぷりと太った男だったが、どこか嫌味な感じはしなかった。


 むしろ目の強さは、武人に近いものだと思った。


「そうか、それはお節介なことを言ったな。気を悪くしないでくれ」


 細身の男は、まだ警戒を続けている。








「どうやら、私に話したい事があるようですね? 良ければ、どこか店にでも入りましょうか」


 主人の商人がそう言うと、ようやく従者は警戒を解いた。
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