上 下
24 / 65
【第二章】蓮牙山同盟

【第二十三話】修行

しおりを挟む
 後日、俺とカシュカは村長の屋敷の庭で、修行をつけてもらうことになった。


 雲は厚かったが、雪は降っていない。


 カシュカは、ドライスから剣術の修行を付けてもらう事に張り切っているようだった。


 王国軍との戦い以来、俺の稽古とは別に、自分の稽古も怠ってはいない。
 むしろ、激しくなっているほどである。


 剣術の修行だったが、遣うのは木刀だった。


「まずは、私の前で二人が立合うのだ。それで、癖や隙などがないか見させてもらう」


 ドライスは、修行の時になると口調が変わった。


 俺の予想では、武術を教えるような仕事でもしていたのかもしれない。


 カシュカと向かい合い、構えた。


 木刀だからと、甘い考えは持たないことにした。


 ジラサとの一騎討ちを、想像する。


 束の間、お互いの動きが止まった。


 潮の満ち干きのように気が満ちて、また干いていく。


 これ以上に無いと感じる程気が満ちた瞬間、お互いが同時に動いた。


 木刀がぶつかり合い、位置が入れ替わる。


 お互いに、隙は無い。


 カシュカが踏み込んできたので、俺はあえてもっと深くに踏み込んだ。


 カシュカにとってそれが不意だったのか、僅かに木刀の筋がぶれた。


 その瞬間を見逃さず、俺は木刀を弾き、振り下ろす。


「止め」


 ドライスが言った。


 僕の木刀は、カシュカの頭上数センチの所で止まっていた。


 お互い汗をかいていることに、初めて気付いた。


「カシュカは基本に忠実で、無難な剣術を持っているようだ。だが、だからこそ相手が予想外の動きをすると太刀筋がぶれるのだ。カイトは、反射神経に優れ、身の危険を顧みない所がある。危険と分かっても、あえて懐に入り込むほどの豪胆さがお前にはあるのだな」


 自覚は無かったが、ドライスは的確なことを言っていると思った。
 どうやら、カシュカも同じことを考えているのだろう。


 それからはカシュカと俺で、別々に修行を付けてもらうようになった。


 午前はカシュカ、夕刻は俺ということになった。


 日が経つに連れ、ソランは少しづつ体調が良くなっているようだった。


 初めは布団から出ることも出来なかったのが、起き上がれるようになり、今では屋敷の庭先まで出ることも多くなった。


 武術の修行は、カシュカのものとは比べ物にならない程、厳しかった。


 向かい合って構えるが、隙があると容赦なくそこに打ち込んでくるのだ。


 俺は真剣を遣っているが、ドライスは木刀だったり、棒術、素手だったりする。


 彼は剣士ではあるものの、他の武器も相当に使いこなせるようだ。





 そして次の来訪者が現れたのは、ひと月ほど経ってからだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...