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【第一章】第一次セトラ村攻防戦
【第七話】王国軍襲来
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オトラス王国軍の使者がやって来てから、半月近くが経った。
山中の小屋や庵への物資の運搬はほとんど完了しており、いつでも避難が出来る体制ではある。
僕もいつでも避難出来るように、荷物はまとめてある。
と言っても、この世界に来たばかりだから貴重品や財産は全く無かった。
村の自警団は常に周辺の見回りをしており、少しでも早く王国軍を発見出来るように万全の体制である。
そして、ついに王国軍がやって来た。
夕方だった。
見回りに出ていた自警団の騎馬が全速力で駆け戻って来たのだ。
「王国軍発見、西におよそ十キロ。騎馬が五十、歩兵がおよそ三百」
第一報はそれだった。
総数は三百五十で、それほど大きな軍ではない。
しかしセトラ村の人口は三百人程度で、すでに村人よりも数は多い。
そして自警団と戦える若者をかき集めても、百にも満たないのだ。
村長やカシュカの指示で、すぐに避難が始まる。
自警団は装備を整えて、広場に集まっていた。
自警団は村人の全員が避難し終わるまで、この村に残る事になっている。
しかし、自警団の人数は五十人程度で、訓練はしているものの、戦いについては素人同然だった。
「おい、カイト。早く行くぞ」
テジムが、慌てた様子で小屋にやって来た。
彼の家族はすでに避難を始めたらしい。
第一報から三十分程してから、別の騎馬が戻ってきた。
「王国軍は西に八キロの所で停止。夜営するつもりのようです」
空は暗くなりつつあった。
そこで一夜を過ごし、翌朝に攻めてくるつもりなのかもしれない。
だとすれば、わずかだが時間的に余裕が出来るというわけだ。
「みんな、油断は禁物だ。そう見せ掛けて急襲してくる可能性もある。夜襲だってありえるのだ」
カシュカは冷静に指示を出している。
僕も他の村人と共に山に向かって歩き出した。テジムも一緒である。
「カイト」
カシュカが、僕を呼び止めた。
「これを持ってろ」
差し出されたのは、一振りの剣だった。
「剣ですか」
「護身用だ。何かあれば、他の村人も守ってやるんだ」
剣を触るのは初めてである。
それはずしりと重く、それとは別に精神的にも重みを感じた。
「しかし、僕は剣なんか使った事ないです」
「そんな事を言ってる場合ではないのだ。剣を抜いて振る。それだけだ」
そう言うと、カシュカは自警団の方に戻っていった。
テジムが急かすので、それ以上は話せないまま、村を出た。
冬が近いので、肌寒い。
しかし、なぜか体の芯は暑かった。
走っているからか、緊張から来るものなのか。
どちらかは分からない。
とにかく、僕は走り続けた。
山中の小屋や庵への物資の運搬はほとんど完了しており、いつでも避難が出来る体制ではある。
僕もいつでも避難出来るように、荷物はまとめてある。
と言っても、この世界に来たばかりだから貴重品や財産は全く無かった。
村の自警団は常に周辺の見回りをしており、少しでも早く王国軍を発見出来るように万全の体制である。
そして、ついに王国軍がやって来た。
夕方だった。
見回りに出ていた自警団の騎馬が全速力で駆け戻って来たのだ。
「王国軍発見、西におよそ十キロ。騎馬が五十、歩兵がおよそ三百」
第一報はそれだった。
総数は三百五十で、それほど大きな軍ではない。
しかしセトラ村の人口は三百人程度で、すでに村人よりも数は多い。
そして自警団と戦える若者をかき集めても、百にも満たないのだ。
村長やカシュカの指示で、すぐに避難が始まる。
自警団は装備を整えて、広場に集まっていた。
自警団は村人の全員が避難し終わるまで、この村に残る事になっている。
しかし、自警団の人数は五十人程度で、訓練はしているものの、戦いについては素人同然だった。
「おい、カイト。早く行くぞ」
テジムが、慌てた様子で小屋にやって来た。
彼の家族はすでに避難を始めたらしい。
第一報から三十分程してから、別の騎馬が戻ってきた。
「王国軍は西に八キロの所で停止。夜営するつもりのようです」
空は暗くなりつつあった。
そこで一夜を過ごし、翌朝に攻めてくるつもりなのかもしれない。
だとすれば、わずかだが時間的に余裕が出来るというわけだ。
「みんな、油断は禁物だ。そう見せ掛けて急襲してくる可能性もある。夜襲だってありえるのだ」
カシュカは冷静に指示を出している。
僕も他の村人と共に山に向かって歩き出した。テジムも一緒である。
「カイト」
カシュカが、僕を呼び止めた。
「これを持ってろ」
差し出されたのは、一振りの剣だった。
「剣ですか」
「護身用だ。何かあれば、他の村人も守ってやるんだ」
剣を触るのは初めてである。
それはずしりと重く、それとは別に精神的にも重みを感じた。
「しかし、僕は剣なんか使った事ないです」
「そんな事を言ってる場合ではないのだ。剣を抜いて振る。それだけだ」
そう言うと、カシュカは自警団の方に戻っていった。
テジムが急かすので、それ以上は話せないまま、村を出た。
冬が近いので、肌寒い。
しかし、なぜか体の芯は暑かった。
走っているからか、緊張から来るものなのか。
どちらかは分からない。
とにかく、僕は走り続けた。
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