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【本編 第一章】 デルギベルク戦役編

【第九十三話】 ※ロキタス視点

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 敵軍の野営地から炎が上がってから、何刻が経ったのだろうか。
 
 
 ロキタスは、部下と共に伝令が戻ってくるのをただじっと待っていた。
 
 
 さっきから、胸騒ぎがする。
 
 
 頼っていたガルツァー隊長は負傷し、離れた所にある療養所で治療を受けている。
 
 
 そして上官であるレハール小隊長は、ハイゼと共に行動していて、すぐに連絡は取れなかった。
 
 
 誰かに指示をあおぐ事が出来ないのだ。
 
 
 一応、七千の軍に組み込まれた形だったが、指揮系統は区別されていた。
 
 
 つまりこの場では、部下たちにとって自分が最高位指揮官だった。
 
 
 部下たちも、心なしか落ち着きが無いようだった。
 
 
「ロキタス隊長」
 
 
 不意に声を掛けてきたのは、ジゴンという名の若兵だった。
 
 
「おう、どうした」
 
 
 ジゴンは別の部隊に所属しているが、戦場で隣合ってからというもの、よくこの部隊に出入りしている。
 
 
 臆病な性格ではあるものの、何かと気が合うと思い始めていた。
 
 
「敵軍の野営地から上がっている火の手は、レハール小隊と関係があるのでしょうか」
 
 
「それは、分からん」
 
 
 分からないというのが、とにかく焦れったかった。
 
 
「もしそうだったとしたら」
 
 
 言い続けようとしたジゴンを、ロキタスは手で制した。
 
 
「もしそうだとしても、レハール小隊長は無事だ」
 
 
 周りに居た部下たちが、自分の方に顔を向けたのが分かった。
 
 
 ジゴンは、変わらず不安そうな表情を浮かべている。
 
 
「ど、どうしてそんなことが言えるのですか」
 
 
「レハール小隊長は、むやみやたらに死にに行くような人ではないからだ」
 
 
「し、しかし」
 
 
 再び、手で制した。
 
 
「それに、レハール小隊長には、とても優秀な副官が就いているのだ」
 
 
 自分は、あいつを認め始めている。
 
 
 素直にそう感じてしまうのが、不思議だった。
 
 
「優秀な、副官・・・・・・」
 
 
 ジゴンは首を傾げた。
 
 
「そうだ。性格はいけ好かないが、戦術、戦略と言い、たぐいまれなるものを持っている奴だ」
 
 
 部下の何人かが、小さくうなづいていた。
 
 
「ロキタス隊長が、そこまで言うとは」
 
 
 ロキタスは、目の前の焚き火を眺めた。
 
 
 レハール小隊長には、ハイゼが付いている。
 
 
 しかし、どうしてか胸騒ぎが治まらない。
 
 
 火を眺めたまま、手で隣に座るように促すと、ジゴンは無言で地に腰を降ろした。
 
 
「ロキタス隊長。レハール小隊長という方と副官のハイゼという方は、どんな人物なのか教えて頂けますか」
 
 
 そう聞かれたが、すぐに話す気にはなれなかった。
 
 
 そういう話をするのは、戦いが終わってからがいい。
 
 
「伝令! 伝令!」
 
 
 様子を見に行っていた騎馬が、戻ってきたようだ。
 
 
 その騎馬は、真っ直ぐ司令官の幕舎に向かっていった。
 
 
「ロキタス隊長!」
 
 
 ジゴンが、慌てたようにこちらを見た。
 
 
 
 
「おいジゴン、慌てすぎだ。それに、俺は隊長じゃなく、分隊長だ」
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みんなの感想(5件)

いまだき かんき

長いので文字数制限にかかりました。連投申し訳なく。
作者様の騎兵での戦いでは、騎兵対歩兵の一般的な交換比が1:5です。騎兵中隊(50騎)の突撃を食い止めるには、第一法則で単純に5倍、歩兵250人で双方生存なしです。ケチって歩兵200人等としたら、第二法則が効いてきます。50の自乗/1の自乗-200の自乗/5の自乗で2500-1600の√値で30。歩兵殲滅で騎兵の残数が20騎ですね。
数字化しにくいですが、分母には錬度や装備の違い、士気の差、なども加えられます。こうなると、私達素人ではどうにもなりません。

ですので、単純化するわけです。基本、不意遭遇戦や隘路でのやむを得ない戦闘及び撤退戦の殿でもない限りは、第一法則に出番はないと簡易に考えるのです。

最後に、前回述べた損害計算にも触れておきます。これは敵に対する見方であって、自軍に適用するものでは本来ありませんが、一般の多くの作品では自軍にも適用している例が多いですね。
戦場での人員損害は、死者1に対して重症2、軽症4と考え、それ以外は早期戦闘復帰可能軽症者として計算する、という統計則です。ここでの重症は、戦場復帰困難者で後送確定者が該当します。軽症は、1週間程あれば復帰可能という程度です。軽度な捻挫や裂傷などは早期復帰可能者で、応急処置でそのまま戦闘続行です。
死者を基準で「1」にするので、特に戦闘不能者の数が甘めになりがちなのが統計的には欠点とされています。
この数字化により、最近は殺すことより戦闘不能にする方が優先されます。死んだら放置でマイナス1人ですが、怪我人は後送する必要があり、最低でも一人、通常は2人がその支援で減るからマイナス2~3人になるのが理由です。

長々と失礼致しました。この先の物語も楽しみにしています。

解除
いまだき かんき

お言葉に甘えてお邪魔します。長くなるので、連投になりましたらご容赦下さいませ。
ご指摘を受け、私もネットを見てきました。確かに、第一法則が近接用で第二法則が射撃戦用、と引用されている文が散見されてしました。敢えて申し上げますが、これは完全な説明簡略化の誤りです。

1.ランチェスターの法則は、第一次世界大戦を研究しての発表で、比較する敵味方の装備や錬度は同等を前提にしてます。
2.『パトリオト』など、独立戦争や南北戦争を題材にした映画を参照されるとわかりますが、この時代の銃兵の戦闘は横隊で段列を組み、互いに正面から撃ち合って勝敗を決める方法でした。ファランクスの剣や槍が銃になっただけです。
第一と第二の違いは、戦闘状況によるものです。第一は遭遇戦などの正面から戦った場合で、第二は遊兵なく全戦力が包括的に戦った場合を想定しています。

例題としてあげますと、A軍6人とB軍5人が殲滅戦を行うとします。
第一法則での戦いは、丸太橋の真ん中で双方が戦うと言う状況です。当然、壮烈な殴り合いの末に残るのはA6一人です。
第二法則での戦いは、平原戦です。A1からA5はB1からB5と殴り合いですが、A6がB5を羽交い絞めにするのでA5が勝ちます。次にA4を支援に、を繰り返します。6の自乗から5の自乗を引いた11の√値で3.3。つまりA軍は3人健在1人重症です。
ランチェスターが示したかったのは、Bの状況にはなるなということで、ざっくばらんに言えば、孫子の兵法を見やすく損害という数字化したに過ぎません。B軍の状況であれば、A軍を分断せよと言うことです。
先ほどの例に例えれば、B軍は速攻でA1とA2を拉致ってタコ殴りにして沈め、A軍4人B軍5人にしろということです。
ですが、ランチェスターの式には様々な要因が分母としてはいりますが、戦術までは入っていません。ですので、少数による奇襲戦や包囲殲滅戦などは、完全に例外である点は注意が必要です。

解除
綾瀬太郎次郎

非常に面白く、一気に71話を読了しました。
戦争エンターテイメントの才能を感じさせますね。
どこかで休んで書き溜め、その後に間隔を狭く投稿すれば、もっと注目されて「お気に入り」がひとケタ増えるかもしれません。それほどのスキルを感じました。

尾関 天魁星
2022.04.02 尾関 天魁星

 コメントありがとうございます!

 そのように言っていただいて、本当に恐縮です!

 投稿頻度に関しては、自分も間隔を開けずに投稿しなければと考えておりました笑

 今はストックが少ないのですぐには無理ですが、いずれは書き溜めて連続投稿が出来ればなと思っております!

 まだザックリと考えてるだけですが、第二章からは書き溜めて放出しようかなと( ̄▽ ̄;)

 今後もご意見よろしくお願いします!!

解除

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