93 / 94
【本編 第一章】 デルギベルク戦役編
【第九十二話】
しおりを挟む
レハール小隊長を探したかったが、一千騎近い騎馬隊に囲まれていて身動きが取れなかった。
突き出された武器を避け、隙があれば反撃する。
それ以上のことをしようとすると、逆に俺の方に隙ができてしまう。
ゲルクに攻撃されるのを心配していたが、ゲルクはゲルクで、みずから動いて攻撃を避けていた。
戦馬として長く駆けてきただけあって、その辺りは慣れているのだろう。
息が、かなり上がってきた。
しかし、敵からの攻撃は容赦ない。
剣を掴んでいるだけで苦痛だった。
限界が、近付いている。
死域に入るには、この苦しさを感じたまま動き続けなければならないのだ。
視界がかすみ始めていたが、もともと辺りが暗いので、対して変わらない。
レハール小隊長は目が見えていないまま、しばらく敵騎と渡り合ったのだ。
不意に、敵の騎馬隊の視線が外側に逸れたのが分かった。
ほんの少しだが、攻撃の手が緩んでいる。
ヘルケルトだった。
信じられない勢いで敵の騎馬隊を突き破り、あっという間に俺の横まで来た。
両腕の魔法陣は、まだ輝いている。
「レハールのおっさんは」
ヘルケルトは、全身に細かい傷を負っていた。
「分からない、さっきまで並走していたが」
ヘルケルトの顔が、一瞬怒りに染まった。
彼が嵐威を頭上で回すと、その迫力に押されて敵騎が距離を置いた。
「はんっ、臆病な奴らめ」
「それよりもヘルケルト、その腕はなんだ」
息苦しさを我慢しながら、俺は途切れ途切れで言った。
「そんな事は今どうでもいいだろう! 話すと長くなる。戦いが終わってからだ」
味方の補給部隊とは、かなり距離が開いてきた。
敵の騎馬隊の指揮官や将校を最初に減らしておいたおかげで、指揮系統は乱れているようだ。
本来なら騎馬隊を分けて補給部隊にも向かわせるだろうが、それもしていない。
二千騎全てが、こちらに釘付けだった。
「それにしても、まずい」
ヘルケルトが、ぽつりと言った。
返事をする力は、俺には無かった。
ヘルケルトが並走してくれるため、俺は半分だけを相手にすればよかった。
だとしても、多過ぎる。
振っている剣も、連戦に次ぐ連戦で、斬れ味が落ちていた。
本来なら、こまめに手入れをしないといけないのだ。
血や脂が巻いて、使いずらい。
敵の武器を奪う事も出来ないことはないが、そう何度も簡単に出来ることではない。
再び、包囲が縮まってきた。
攻撃が激しくなる。
剣、槍、戟。
様々な武器が、自分を襲う。
ほとんど無意識で、それらを避けた。
それを続けてすぐ、何かをくぐり抜けたような感じがした。
体力の限界をくぐり抜けたのだ。
死域。
自覚した途端、全身に力がみなぎった。
突き出された武器を避け、隙があれば反撃する。
それ以上のことをしようとすると、逆に俺の方に隙ができてしまう。
ゲルクに攻撃されるのを心配していたが、ゲルクはゲルクで、みずから動いて攻撃を避けていた。
戦馬として長く駆けてきただけあって、その辺りは慣れているのだろう。
息が、かなり上がってきた。
しかし、敵からの攻撃は容赦ない。
剣を掴んでいるだけで苦痛だった。
限界が、近付いている。
死域に入るには、この苦しさを感じたまま動き続けなければならないのだ。
視界がかすみ始めていたが、もともと辺りが暗いので、対して変わらない。
レハール小隊長は目が見えていないまま、しばらく敵騎と渡り合ったのだ。
不意に、敵の騎馬隊の視線が外側に逸れたのが分かった。
ほんの少しだが、攻撃の手が緩んでいる。
ヘルケルトだった。
信じられない勢いで敵の騎馬隊を突き破り、あっという間に俺の横まで来た。
両腕の魔法陣は、まだ輝いている。
「レハールのおっさんは」
ヘルケルトは、全身に細かい傷を負っていた。
「分からない、さっきまで並走していたが」
ヘルケルトの顔が、一瞬怒りに染まった。
彼が嵐威を頭上で回すと、その迫力に押されて敵騎が距離を置いた。
「はんっ、臆病な奴らめ」
「それよりもヘルケルト、その腕はなんだ」
息苦しさを我慢しながら、俺は途切れ途切れで言った。
「そんな事は今どうでもいいだろう! 話すと長くなる。戦いが終わってからだ」
味方の補給部隊とは、かなり距離が開いてきた。
敵の騎馬隊の指揮官や将校を最初に減らしておいたおかげで、指揮系統は乱れているようだ。
本来なら騎馬隊を分けて補給部隊にも向かわせるだろうが、それもしていない。
二千騎全てが、こちらに釘付けだった。
「それにしても、まずい」
ヘルケルトが、ぽつりと言った。
返事をする力は、俺には無かった。
ヘルケルトが並走してくれるため、俺は半分だけを相手にすればよかった。
だとしても、多過ぎる。
振っている剣も、連戦に次ぐ連戦で、斬れ味が落ちていた。
本来なら、こまめに手入れをしないといけないのだ。
血や脂が巻いて、使いずらい。
敵の武器を奪う事も出来ないことはないが、そう何度も簡単に出来ることではない。
再び、包囲が縮まってきた。
攻撃が激しくなる。
剣、槍、戟。
様々な武器が、自分を襲う。
ほとんど無意識で、それらを避けた。
それを続けてすぐ、何かをくぐり抜けたような感じがした。
体力の限界をくぐり抜けたのだ。
死域。
自覚した途端、全身に力がみなぎった。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在三巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~
K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。
次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。
生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。
…決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。
スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした
メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました!
1巻 2020年9月20日〜
2巻 2021年10月20日〜
3巻 2022年6月22日〜
これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます!
発売日に関しましては9月下旬頃になります。
題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。
旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~
なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。
────────────────────────────
主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。
とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。
これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる