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【本編 第一章】 デルギベルク戦役編

【第九十二話】

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 レハール小隊長を探したかったが、一千騎近い騎馬隊に囲まれていて身動きが取れなかった。
 
 
 突き出された武器を避け、隙があれば反撃する。
 
 
 それ以上のことをしようとすると、逆に俺の方に隙ができてしまう。
 
 
 ゲルクに攻撃されるのを心配していたが、ゲルクはゲルクで、みずから動いて攻撃を避けていた。
 
 
 戦馬として長く駆けてきただけあって、その辺りは慣れているのだろう。
 
 
 息が、かなり上がってきた。
 
 
 しかし、敵からの攻撃は容赦ない。
 
 
 剣を掴んでいるだけで苦痛だった。
 
 
 限界が、近付いている。
 
 
 死域に入るには、この苦しさを感じたまま動き続けなければならないのだ。
 
 
 視界がかすみ始めていたが、もともと辺りが暗いので、対して変わらない。
 
 
 レハール小隊長は目が見えていないまま、しばらく敵騎と渡り合ったのだ。
 
 
 不意に、敵の騎馬隊の視線が外側にれたのが分かった。
 
 
 ほんの少しだが、攻撃の手が緩んでいる。
 
 
 ヘルケルトだった。
 
 
 信じられない勢いで敵の騎馬隊を突き破り、あっという間に俺の横まで来た。
 
 
 両腕の魔法陣は、まだ輝いている。
 
 
「レハールのおっさんは」
 
 
 ヘルケルトは、全身に細かい傷を負っていた。
 
 
「分からない、さっきまで並走していたが」
 
 
 ヘルケルトの顔が、一瞬怒りに染まった。
 
 
 彼が嵐威を頭上で回すと、その迫力に押されて敵騎が距離を置いた。
 
 
「はんっ、臆病な奴らめ」
 
 
「それよりもヘルケルト、その腕はなんだ」
 
 
 息苦しさを我慢しながら、俺は途切れ途切れで言った。
 
 
「そんな事は今どうでもいいだろう! 話すと長くなる。戦いが終わってからだ」
 
 
 味方の補給部隊とは、かなり距離が開いてきた。
 
 
 敵の騎馬隊の指揮官や将校を最初に減らしておいたおかげで、指揮系統は乱れているようだ。
 
 
 本来なら騎馬隊を分けて補給部隊にも向かわせるだろうが、それもしていない。
 
 
 二千騎全てが、こちらに釘付けだった。
 
 
「それにしても、まずい」
 
 
 ヘルケルトが、ぽつりと言った。
 
 
 返事をする力は、俺には無かった。
 
 
 ヘルケルトが並走してくれるため、俺は半分だけを相手にすればよかった。
 
 
 だとしても、多過ぎる。
 
 
 振っている剣も、連戦に次ぐ連戦で、斬れ味が落ちていた。
 
 
 本来なら、こまめに手入れをしないといけないのだ。
 
 
 血や脂が巻いて、使いずらい。
 
 
 敵の武器を奪う事も出来ないことはないが、そう何度も簡単に出来ることではない。
 
 
 再び、包囲が縮まってきた。
 
 
 攻撃が激しくなる。
 
 
 剣、槍、げき
 
 
 様々な武器が、自分を襲う。
 
 
 ほとんど無意識で、それらを避けた。
 
 
 
 
 
 それを続けてすぐ、何かをくぐり抜けたような感じがした。
 
 
 体力の限界をくぐり抜けたのだ。
 
 
 死域。
 
 
 自覚した途端、全身に力がみなぎった。
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