上 下
59 / 94
【本編 第一章】 デルギベルク戦役編

【第五十八話】

しおりを挟む
 レハール小隊長が連れてきた千騎の騎馬隊を加え、俺が指揮する騎馬隊は一気に一千数十騎にまで増えた。
 
 これだけの数があれば、敵の七万を充分叩くことが出来る。
 
 百騎の時は敵陣の表層を削る程度だったのが、それが千騎になると、本格的な打撃を与えれるようになった。
 
 唯一気掛かりだったのが、敵の騎馬隊だった。
 
 敵の騎馬隊五千騎が離脱していったが、それでも尚、二千騎の騎馬隊がまだ残っていた。
 
 その騎馬隊は、今はまだ陣形の中央で本陣を護衛していたが、遊撃に回られると分が悪くなる。
 
 今のところ、敵陣の各所を突いて気を逸らせるくらいしか出来ることはなさそうだった。
 
「おい、ハイゼ。ガルツァーのおっさんが気を失っちまった」
 
 馬の後ろにガルツァー部隊長を乗せたヘルケルトが、彼を馬上で支えながら言った。
 
 敵陣に攻撃をしている時、たまたま敵中に孤立しているガルツァー部隊長をヘルケルトが見付けたのである。
 
 間に合う可能性はかなり低かったが、近くだった事もあり、全騎で救援に駆け付けたのだ。
 
 それに、今ガルツァー部隊長を失うのはかなりの損失だと判断した。
 歩兵部隊が今まで全滅しなかったのも、ガルツァー部隊長のおかげだったからだ。
 
 戦場から四里(二キロメートル)ほど離れた所に、負傷兵をかくまう陣地を設置してある。
 
「ヘルケルト、一旦離脱して、負傷兵が集められている所へ運んでくれ」
 
 駆けながら、ヘルケルトにそう言った。
 ガルツァー部隊長を支えながら、器用に馬を操ってヘルケルトは隊列から離れた。
 
 俺はすぐに敵陣に目を向け、陣形が緩んでいる所を探した。
 
 部隊と部隊の間は、守りや隊列が緩みやすい。
 指揮系統が違うため、騎馬で突っ込めば容易に崩せる。
 
 そういった所を狙うが、やはり素人ではそれが分からない。
 
 多分、この騎馬隊では俺とレハールくらいしか分からないだろう。
 
「ハイゼ、あそこだ」
 
 すぐ後ろを駆けているレハール小隊長が早速、陣形の緩みを見付けて教えてくれた。
 
 片手で合図を出すと、騎馬隊は隊列を整え、俺を先頭にして縦に長くなった。
 
 突っ込む。
 
 抵抗を感じたのは、一瞬だった。
 
 大きく剣を振り、敵兵を斬り続ける。
 
 一千騎以上ともなると、簡単には押し負けない。
 
 レハール小隊長は意外にも剣の扱いが上手く、斬りつけた相手はほとんど一撃で死んでいる。
 
 陣形の中央が近付いたが、騎馬の二千が立ち塞がろうとしているのが見えた為、進む向きを変えて陣形を出た。
 
 かなり多くの兵を討てたようで、敵軍の混乱は百騎の時の比では無かった。
 
「損害を報告」
 
 速度を落として隊列を組み直させながら指示すると、同時に損害も調べさせた。
 
「犠牲三名、負傷四名」
 
 兵の損耗もそれほどでは無い。
 
 これなら、日暮れまで充分に戦える。
 
 俺はそう思った。
しおりを挟む

処理中です...