上 下
53 / 94
【本編 第一章】 デルギベルク戦役編

【第五十二話】 ※ロキタス視点

しおりを挟む
「総員、全速で敵に突っ込め」
 
 大声で、ガルツァー部隊長はそう言った。
 
 三度目の突撃である。
 
 ロキタスは疲れも忘れて走り出した。
 
 七万の敵軍は、我々の遊撃に対処するために、前進を止めていた。
 
 ハイゼが指揮する騎馬隊は、攻撃と離脱を繰り返し、敵を惑わせている。
 
 自分も負けてはいられない、という気持ちにロキタスはなった。
 
 先頭のガルツァー部隊長が、敵陣にぶつかった。
 
 ガルツァー部隊長はレハール小隊の中でも一番強い将校である。
 体術が最も得意だったが、こういった戦いでは剣をつかっていた。
 
 やや後方にいたロキタスも、敵陣の中に入っている。
 
「一人で戦おうとしなくていい。一人の敵を、二人、三人で倒すんだ」
 
 敵兵を斬り倒しながら、ロキタスは叫んだ。
 
 歩兵の多くは新兵なのだ。
 実戦経験は‎無く、敵と斬りあったことも無い者ばかりだ。
 
 だから部下の兵には、二人から三人で組んで戦うように教えていた。
 そうすれば、多くの敵兵を倒すことは出来なくても、生き残る確率が上がる。
 
 先頭のガルツァーから後退の合図が出されると、今度は後方のロキタスが先頭になる。
 
 回り込もうとしている敵兵を斬り伏せながら、味方の撤退を促した。
 
 剣を振りながら周りを見ると、少し離れた所でハイゼを先頭とした騎馬隊が突っ込んでいた。
 
 その衝撃でここらの敵兵も抵抗力が少なくなる。
 多分、そういう狙いを付けてハイゼは攻撃する所を決めているのだろう。
 
 その隙にと、三・四人を斬り倒し、味方の全員が離脱した。
 
 距離を取っても、敵は追ってこない。
 
 全身が、血で染まっていた。ガルツァー部隊長も同じだった。
 
「三、四百はっただろう」
 
 ガルツァー部隊長が血で塗れた剣を拭きながら言った。
 こうしている間も、歩兵部隊は移動をしている。
 
「しかしガルツァー部隊長、敵が多過ぎてらちが明きません。それに、こちらの損害も無視できない」
 
 三度の突撃で、百名ほどの損害が出ていた。
 
 ロキタスの副官も二度目の突撃の時に戦死し、直属の兵も二十名以上を失っている。
 
「確かに、このままではいずれ擦り切れてしまうな」
 
 一万の友軍は楯を並べるだけで、攻めようとしていなかった。
 
 せめてあの一万が動いてくれれば。
 
 ロキタスはじれったく思いながらも、敵軍を観察した。
 
 突っ込んでいた騎馬隊が離脱し、こちらに向かっている。
 
 先頭のハイゼは血で濡れていたが、怪我ではなく返り血だろう。
 
 その姿を見て、ロキタスはハイゼを認める事にした。
 気に食わない男だと思っていたが、腕は立つ。
 
 何度も先頭で敵陣に突っ込みながらも、見事生き残っているのだ。
 
 一旦、騎馬隊と合流し、怪我人を下がらせた。
 
 騎馬隊は七十騎まで減っている。
 
 歩兵部隊が擦り切れるのが先か、騎馬隊の方が先か、という所だろう。
しおりを挟む

処理中です...