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【本編 第一章】 デルギベルク戦役編
【第三十七話】
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マテオに礼を述べ、食堂を出た。
外は涼しかった。
冬の気配は完全に消え、これからは暖かくなっていくだろう。
食堂の裏手に小さな小屋があり、ゲルクはその中で過ごしていた。
俺が軍営に居た間は、宿屋の人間が世話をしていてくれたらしい。
「ゲルク、久し振りな気がする」
ゲルクは馬首を上げ、小さく頭を振った。
鼻を撫で、それから首に抱き着くと、今度は大きく首を振った。
「狭い小屋に押し留めて悪かったな。共に駆けよう」
ゲルクは年老いているが、元は軍馬である。
狭い小屋で過ごすよりも、広大な原野で駆ける方がきっと性に合っている。
ゲルクに語り掛けながら、柵に繋いでいた縄を解き、鞍馬を乗せた。
ゲルクの体調に悪い所は無さそうだった。
毛並みは綺麗で、瞳には何かが秘めている。
◇◇◇◇◇
ゲルクを引いて、内城に戻った。
出る時とは違う門を通ったが、そこの見張りは賄賂をせびる事はせず、通行証を見せると通してくれた。
軍営には比較的大きな馬小屋があり、二百頭ほどの馬が留められている。
ゲルクはその小屋にある柵に縄で繋いだ。
かなり、遅くなったと思った。
兵舎に戻ってすぐに眠れば、八刻(四時間)は眠れるだろう。
マテオから貰った肉が入った包みを提げ、兵舎に向かった。
◇◇◇◇◇
微かな睡魔を感じながら歩いていると、不意に強い気配を感じた。
兵舎の方からだった。
殺意などでは無い。
しかし、身体が押されるような大きな気配だった。
俺は逆に、気配を殺した。
これだけ大きな気配を放てる人間は、他の気配にも敏感であることが多い。
足音も殺して兵舎に近付くと、風を切るような音がした。
棒のような物を振り回しているような音だ。
ヘルケルトだった。
兵舎の前の広場で、上裸の彼が棒の素振りをしていたのだ。
ただの棒ではなく、それは鉄製だった。
長さは六尺(一八〇センチ)ほどで、俺の身長より長かった。
その長さの棒でさえ、ヘルケルトの身長には届いていない。それ程、ヘルケルトは背が高いのだ。
篝火の明かりの中で、ヘルケルトは汗を飛ばしながら激しく動いていた。
一瞬、俺の中の血が騒いだ。
少しからかってみよう、という思いに襲われ、彼の死角から近付いて気配を放ってみた。
「っ!?」
俺に気付いていないヘルケルトは、気配だけを感じてこちらを向いて棒を構えた。
顔は、怯えているようだ。
ほとんど反射的な動きだった。
反応は悪くない、と俺は思った。
「なんだ、ハイゼだったか」
彼は俺の姿を見ると、安心したように息を吐いた。
「ただならぬ気配を感じた。だから俺も気配を発してみたんだが」
「こっちこそ、尋常ではない気配だったぞ。背中を蹴られたような感覚さえした程だ」
外は涼しかった。
冬の気配は完全に消え、これからは暖かくなっていくだろう。
食堂の裏手に小さな小屋があり、ゲルクはその中で過ごしていた。
俺が軍営に居た間は、宿屋の人間が世話をしていてくれたらしい。
「ゲルク、久し振りな気がする」
ゲルクは馬首を上げ、小さく頭を振った。
鼻を撫で、それから首に抱き着くと、今度は大きく首を振った。
「狭い小屋に押し留めて悪かったな。共に駆けよう」
ゲルクは年老いているが、元は軍馬である。
狭い小屋で過ごすよりも、広大な原野で駆ける方がきっと性に合っている。
ゲルクに語り掛けながら、柵に繋いでいた縄を解き、鞍馬を乗せた。
ゲルクの体調に悪い所は無さそうだった。
毛並みは綺麗で、瞳には何かが秘めている。
◇◇◇◇◇
ゲルクを引いて、内城に戻った。
出る時とは違う門を通ったが、そこの見張りは賄賂をせびる事はせず、通行証を見せると通してくれた。
軍営には比較的大きな馬小屋があり、二百頭ほどの馬が留められている。
ゲルクはその小屋にある柵に縄で繋いだ。
かなり、遅くなったと思った。
兵舎に戻ってすぐに眠れば、八刻(四時間)は眠れるだろう。
マテオから貰った肉が入った包みを提げ、兵舎に向かった。
◇◇◇◇◇
微かな睡魔を感じながら歩いていると、不意に強い気配を感じた。
兵舎の方からだった。
殺意などでは無い。
しかし、身体が押されるような大きな気配だった。
俺は逆に、気配を殺した。
これだけ大きな気配を放てる人間は、他の気配にも敏感であることが多い。
足音も殺して兵舎に近付くと、風を切るような音がした。
棒のような物を振り回しているような音だ。
ヘルケルトだった。
兵舎の前の広場で、上裸の彼が棒の素振りをしていたのだ。
ただの棒ではなく、それは鉄製だった。
長さは六尺(一八〇センチ)ほどで、俺の身長より長かった。
その長さの棒でさえ、ヘルケルトの身長には届いていない。それ程、ヘルケルトは背が高いのだ。
篝火の明かりの中で、ヘルケルトは汗を飛ばしながら激しく動いていた。
一瞬、俺の中の血が騒いだ。
少しからかってみよう、という思いに襲われ、彼の死角から近付いて気配を放ってみた。
「っ!?」
俺に気付いていないヘルケルトは、気配だけを感じてこちらを向いて棒を構えた。
顔は、怯えているようだ。
ほとんど反射的な動きだった。
反応は悪くない、と俺は思った。
「なんだ、ハイゼだったか」
彼は俺の姿を見ると、安心したように息を吐いた。
「ただならぬ気配を感じた。だから俺も気配を発してみたんだが」
「こっちこそ、尋常ではない気配だったぞ。背中を蹴られたような感覚さえした程だ」
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