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【本編 第一章】 デルギベルク戦役編
【第二十七話】
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気付いたら、夕方になっていた。
話しに夢中になり過ぎてしまったようだ。
「もうこんな時間になってしまったか、今夜はわが隊の兵舎で泊まるといい」
レハールはそう言うと兵を呼び、俺とヘルケルトを案内させた。
喋ってみると、レハールは意外にも悪い人ではなかった。
人の話しはよく聞き、口を挟んだとしても話しの軸は折らない。上官として、最低限の心得はあるように俺には見えた。
ヘルケルトの方は、まだ認めてはいないようだった。
兵舎の一室まで案内された。
さっきまでレハールと喋っていた方の兵舎は、おそらく将校用だったのだろう。
こちらの部屋は、いくらか狭く、辛うじて手入れがされている程度の設えである。
ヘルケルトは部屋に入ると、すぐに寝台に横になった。
「疲れたのか」
「ずっと座っていたからな。俺はああいうのが嫌いだ」
「体を動かすよりは楽だと思うけどな」
「自由に動いていた方が、楽な時がある」
ヘルケルトは、性格からして武術が向いているのだろう、と思った。
「そうだ、言い忘れていたことがある」
俺はもう一つの寝台に腰を降ろし、ヘルケルトに言った。
「どうした?」
「俺のためについて来てくれて、ありがとうな」
ヘルケルトは一瞬、ぽかんとした。
「何だよ改まって」
「共に戦場に行くんだ。言いたい事は言い合わなければな」
「俺の気持ちの問題だ。礼を言われるようなものじゃねぇ」
ヘルケルトは見て分かるほどに、照れていた。
陽が完全に落ちた頃、兵が部屋に食事を運んできた。レハールが手配してくれたようだ。
俺とヘルケルトはその食事を食べ、すぐに眠った。
◇◇◇◇◇
陽が昇り、起床の鐘が鳴らされた。
「おはよう諸君」
着替えていると、レハールが直接呼びに来た。
「朝食がてら、今後の話しをしようと思ってね」
外では、兵が動き回っている。掛け声も飛び交っていて、かなり騒がしかった。
連れて行かれた部屋は、軍営の中にある会議室のような所だった。
席に座ると朝食が運ばれ、大きなテーブルの真ん中に地図が広げられた。
「出撃まで時間が無くてね、食べながら話そう」
広げられた地図は、ここデルギベルク要塞都市を中心としたものである。
既に地形はハイゼの頭に入っていたが、さらに細かい事が書かれていた。
山の高さや河の幅はもちろん、邪魔になりそうな大岩であったり、林の木々の高さに至るまで書き加えてある。
レハールが自身で書いたものだろう。
俺が補給隊長をしている時も、同じように詳細な地図に更に書き加えていたものだ。
今回の敵軍は、北から進軍しているとヘルケルトは言っていた。
デルギベルク要塞都市の北には原野があり、万単位の軍が充分に展開出来るほどの広さがある。
実際、先発している一万の正規軍が、牽制のために展開している。
レハールは、今分かっている限りの情報を話した。レハールが言う情報の量は膨大だったが、無駄なものは無く、どれも戦況分析するのに有益な情報ばかりだった。
「兵書を学んだハイゼ君だったら、どうする」
ひとしきり説明を終えると、レハールは聞いた。
三人とも、食事は早々に終わらせている。
「周りの地形から見て、敵軍がこの原野を通ることは間違い無いでしょう」
斥候によれば、本日中にこの原野に到着し、明日には対峙ということになる。
しばらく、黙って考えた。
あらゆる想定を繰り返し、その都度条件を変えていく。そうやって、想定の精度を高めていくのである。
ヘルケルトは、必要な情報だけを頭に入れると、部屋を出て行った。
「敵軍を撤退させるだけであれば、容易でしょう」
俺は自信を持ってそう言った。
「ほう」
レハールは、関心したように頷いた。
話しに夢中になり過ぎてしまったようだ。
「もうこんな時間になってしまったか、今夜はわが隊の兵舎で泊まるといい」
レハールはそう言うと兵を呼び、俺とヘルケルトを案内させた。
喋ってみると、レハールは意外にも悪い人ではなかった。
人の話しはよく聞き、口を挟んだとしても話しの軸は折らない。上官として、最低限の心得はあるように俺には見えた。
ヘルケルトの方は、まだ認めてはいないようだった。
兵舎の一室まで案内された。
さっきまでレハールと喋っていた方の兵舎は、おそらく将校用だったのだろう。
こちらの部屋は、いくらか狭く、辛うじて手入れがされている程度の設えである。
ヘルケルトは部屋に入ると、すぐに寝台に横になった。
「疲れたのか」
「ずっと座っていたからな。俺はああいうのが嫌いだ」
「体を動かすよりは楽だと思うけどな」
「自由に動いていた方が、楽な時がある」
ヘルケルトは、性格からして武術が向いているのだろう、と思った。
「そうだ、言い忘れていたことがある」
俺はもう一つの寝台に腰を降ろし、ヘルケルトに言った。
「どうした?」
「俺のためについて来てくれて、ありがとうな」
ヘルケルトは一瞬、ぽかんとした。
「何だよ改まって」
「共に戦場に行くんだ。言いたい事は言い合わなければな」
「俺の気持ちの問題だ。礼を言われるようなものじゃねぇ」
ヘルケルトは見て分かるほどに、照れていた。
陽が完全に落ちた頃、兵が部屋に食事を運んできた。レハールが手配してくれたようだ。
俺とヘルケルトはその食事を食べ、すぐに眠った。
◇◇◇◇◇
陽が昇り、起床の鐘が鳴らされた。
「おはよう諸君」
着替えていると、レハールが直接呼びに来た。
「朝食がてら、今後の話しをしようと思ってね」
外では、兵が動き回っている。掛け声も飛び交っていて、かなり騒がしかった。
連れて行かれた部屋は、軍営の中にある会議室のような所だった。
席に座ると朝食が運ばれ、大きなテーブルの真ん中に地図が広げられた。
「出撃まで時間が無くてね、食べながら話そう」
広げられた地図は、ここデルギベルク要塞都市を中心としたものである。
既に地形はハイゼの頭に入っていたが、さらに細かい事が書かれていた。
山の高さや河の幅はもちろん、邪魔になりそうな大岩であったり、林の木々の高さに至るまで書き加えてある。
レハールが自身で書いたものだろう。
俺が補給隊長をしている時も、同じように詳細な地図に更に書き加えていたものだ。
今回の敵軍は、北から進軍しているとヘルケルトは言っていた。
デルギベルク要塞都市の北には原野があり、万単位の軍が充分に展開出来るほどの広さがある。
実際、先発している一万の正規軍が、牽制のために展開している。
レハールは、今分かっている限りの情報を話した。レハールが言う情報の量は膨大だったが、無駄なものは無く、どれも戦況分析するのに有益な情報ばかりだった。
「兵書を学んだハイゼ君だったら、どうする」
ひとしきり説明を終えると、レハールは聞いた。
三人とも、食事は早々に終わらせている。
「周りの地形から見て、敵軍がこの原野を通ることは間違い無いでしょう」
斥候によれば、本日中にこの原野に到着し、明日には対峙ということになる。
しばらく、黙って考えた。
あらゆる想定を繰り返し、その都度条件を変えていく。そうやって、想定の精度を高めていくのである。
ヘルケルトは、必要な情報だけを頭に入れると、部屋を出て行った。
「敵軍を撤退させるだけであれば、容易でしょう」
俺は自信を持ってそう言った。
「ほう」
レハールは、関心したように頷いた。
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