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【本編 第一章】 デルギベルク戦役編

【第七話】

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 肉が焼けても、ロペスはしばらく悔しそうな表情で座り尽くしていた。
 
 俺は薄く切った方の肉を火から離し、少しずつ食べた。
 
「おい、せっかくの肉を焦がす気か。分厚い方をやるから」
 
 ロペスは表情を変えず、肉に手を伸ばす。
 
 俺はさり気ない仕草で地に置いてある短剣を足の下に隠した。
 
「よく考えて食べるんだな」
 
 俺はいつの間にかロペスに関心を持ち始めていた。
 
 彼の父親の境遇に自分自身を当てはめてしまったからなのか。
 理由までは自分でも分からなかった。
 
「よく考えろって、どうゆう事だ?」
 
 肉に伸ばした手が止まった。
 
「飢えて死ぬだけだったお前を助けたのだ。俺はお前にとって命の恩人ということだ」
 
「大袈裟な言い方だけど、意味は分かってるつもりだ」
 
「俺に一回分の命を貰った。そういう事だからな」
 
 ロペスは束の間考えたようだが、小さく「ああ」と言って干し肉にかぶりついた。
 
 俺は荷物から硬くなったパン切れを出してロペスに渡した。
 
「腹が空の時にいきなり肉だけ食うと胃に悪いぞ。少ないが、これも食うんだ」
 
「どうして、そんなに親切なんだ」
 
 そう言いながら、ロペスは結局パンを受け取った。
 
「理由か、自分でも分からない。ただのお節介かもしれないな」
 
 ロペスは返事をせず、ただ肉とパンを食べ続けた。
 
 旅を始めて数ヶ月、こんな出逢いを経験するのは初めてだ。
 軍隊を追放されたことで、俺の中で何かが変化しているのかもしれない。
 
 ロペスはあっという間に肉とパンを食べ終えた。
 身体は小さいといっても、満腹にはならかっただろう。しかし、無闇に食べ物をあげ続ければ良いというものでもない。
 
「俺は寝るから、朝までにどこかに行くんだな」
 
 ロペスは指に付いた肉の油まで丁寧に舐めとっていた。
 
 だいぶ夜が更けてきた。ゲルクもいつの間にか眠っている。
 
 俺はそのまま地面に横になり、目をつむった。
 
 ロペスはしばらく火に当たっていたようだが、小一時間ほど経つとどこかに去っていった。
 
(全く、妙な出逢いもあるものだな・・・・・・)
 
 ロペスが離れた事を音で確認した後、俺はようやく眠りについた。
 
 
 ◇◇◇◇◇
 
 
 それから数日、俺はゲルクに乗って更に西に進んだ。
 
 ようやく街に立ち寄れたので、久し振りに宿屋のベッドで寝た。
 
 道中で狩ったウサギなどの小動物の皮を売り、それで得たお金で保存の効く食料を買った。
 
 この街でも少し情報収集をした所、ユニティア王国まではまだ距離があるらしかった。
 
 大陸地図で見ると、ユニティア王国はガデステラ帝国の真反対にあるのだ。
 
(やっと半分って所かな・・・・・・)
 
 改めて大陸の広さを感じたのだった。
 
「お兄さん、見たところ一人旅のようだけど、やけに食料買い込んでるじゃないか」
 
 食料を買って宿屋に戻ると、主人にそう言われた。
 
 次の街までは四日で着くようなので、本来なら沢山買う必要が無いのだが、あえて多く買ったのだ。
 
「まぁ、旅は道連れって言うしね」
 
 宿屋の主人には言っている意味が分からなかったようだったが、俺はそのまま部屋に戻った。
 
 あえて多く食料を買ったのには、もちろん理由がある。
 
 あの日以来、ロペスが俺の跡をつけているようなのだ。
 
 姿を見た訳ではないのだが、視線というか、気配のようなものを感じていた。
 
 なぜ俺を尾けているのかは大体見当が付いていたが、そろそろ姿を見せるはずだ。
 
 俺はその日も宿に泊まり、翌日になって街を出た。
 
 街を出てすぐ、後ろから気配を感じた。
 
「やれやれ、やはりな・・・・・・」
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