【BL】英雄の行く末・完

さかい 濱

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英雄の行く末 ⑩

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    サリー・モウセンは予定通り三日後に修道院へと出立することになった。

    当日は、我々は勿論、古城で働く者たち全員がサリー・モウセンのことを見送った。
    約三ヶ月間の滞在中、寝食は完全に別であり、それ程皆と交流があったわけでは無いが、団長の火傷痕が治癒していく過程を目の当たりにしていたので、一言話をしたいと皆、見送りにやってきたのだ。

    サリー・モウセンは感激し、一人一人と丁寧に挨拶をしてからこの古城を去った。
    シュタートン辺境伯所有の馬車三台も彼女の乗った馬車を追うように出発した。
    馬車の中にはお詫びの品、――表向きにはお礼の品、がぎっしりと積まれている。


    我々はサリー・モウセンを巻き込んでしまったことを深く反省し、禊として彼女が出立するまでの間は自分達に禁欲生活を強いていた。
    たった三日で何が禊だと鼻で笑われそうではあるが、想いを通じ合わせた二人にとって、とても苦しいことではあった。

    今晩、それが解かれる。

    夕食後、風呂の介助を申し出ると、待ってましたとばかりに団長は自分の手を引き、食堂から私室までを走った。
    食堂にはまだ人がおり、廊下にも執事はいたが「ほどほどになさってくださいね」と生暖かく見守られたり口笛で冷やかされたりしたのみであった。

    我々二人の関係は、サリー・モウセン破門騒ぎの際に皆の知るところとなってしまったのだ。
    少し恥ずかしくはあるが、団長が堂々としており、関係を隠すつもりが微塵も無いことを感じ嬉しくも思った。


    団長の私室に入るなり、キスをされ、キスをしながら服を脱いで、服を部屋に散らかしながら浴室まで歩いた。

    最後に眼帯――団長の火傷跡はサリー・モウセンのお陰ですっかり消え、失明した右目を覆う眼帯のみを今は着けている状態である――を外し、完全に裸になった。


    浴室に入ると、すぐに股間に手が伸びてきて「もう我慢できない」と団長に言われたが「風呂を上がってからにしましょう」と手を掴むと渋々「リアムがそう言うのなら」と手を離してくれた。

    少し拗ねたような表情が可愛らしくて笑ってしまい、自分の笑顔を見た団長も嬉しそうに表情を明るくした。
    想いを通じ合わせた今だから思うが、団長は結構分かりやすい人だったのかもしれない。


    団長が大好きで、自分だって早く一つになりたいが、入浴介助は自分だけが許された特別な仕事であり、完璧にこなしたかった。


   手の平で体を撫でるようにして団長の体を洗っていく。
     団長が一人で洗う際、手が届かない左腕は念入りに、右の肩口は優しく丁寧に洗った。

    今までは右肩の縫合痕をあまり見ないようにしていた。
    自分の冒した罪を突きつけられているようで、泣き出しそうで直視できなかった。
しかし、今の心境は少し違ったものになっていた。

    罪悪感は勿論あるが、それを上回る感情、――愛しさ、に胸が熱くなっていた。

    無理やり皮膚を繋ぎ合わせたような歪な縫合痕は、身を挺して自分を守ってくれたことの証で、大事な人から贈られた宝物を見るような気持ちになる。

    もしかしたら、前からそう思っていたのかもしれないが、以前の自分ではそれを認めることは絶対に出来なかった。
    胸に湧く感情を一纏めにして『罪悪感』と名付けていたのだ。


    体をすべて洗い終え、髭も下の毛も剃って、湯をかけて泡を流し、自分の体もささっと洗って剃って、自分の今日の仕事は完了した。

    ここからは仕事ではなく、二人だけの時間だ。

    浴槽に入ってもらうのを「ちょっと待ってください」と引き留め、洗い場に立っている団長の右の肩口に少し背伸びをして唇を寄せた。

    触れた皮膚は当たり前に温かくて、やはり、愛しい。
    熱い気持ちが溢れて伝えずにはいられなくなる。

「好きです、団長。団長の全部、何もかもが好きなんです」

    高揚感に包まれ、歌うような口調になりながら告白をし、何度も唇を落とした。
    黙ってそれを受け入れていた団長だったが、やがて、ゴクリと喉を鳴らす音がした後、自分は団長の肩に担ぎ上げられた。

    そのまま浴槽から出ようとする団長に、お湯に入らなくていいのかを聞いたが、足は止まらず、ベッドまで運ばれてしまった。

    体も髪の毛も濡れたままの状態で二人ベッドに沈み、掛け布にはどんどん水分が染み込んでいった。
    同じ城で働く身として、洗濯婦の顔がチラついたが今は考えないことにする。


    沢山キスをされて、こちらからも沢山キスを返した。

    口は勿論、鼻の先や額や頬、そして、右の瞼の上にも。
    以前は火傷による肌の引き攣りが酷く常に瞼が薄く開いている状態であった。それが今は綺麗に閉じられるようになっていた。

    火傷痕があろうが無かろうが、どんな顔であっても団長のことは好きだが、キスに照れて頬を赤くするのを見ることが出来るのは、とても嬉しい。


    肌や唇での触れ合いはどんどん深くなり、団長の手と口は自分の胸の尖りを捉えていた。

    そこを口で愛撫されるのは初めてで、濡れた唇に挟まれちゅうちゅう吸い上げられると変な声が出てしまった。
    未知の感覚と飼い慣らされた快感が合わさって体の震えが止まらない。
    まだ触られてもいない後ろが疼き、思わず腰が動いてしまう。
    何かに縋りたくて胸に居る頭を抱き込むと、得も言われぬ幸福感で涙がじわりと出てきた。

    愛する人が自分の腕の中にいるということが、こんなに幸せなことだとは知らなかった。

「気持ちいいのか、リアム」
「はい。気持ちよくて、幸せです」
「そうか。私も幸せだ」


    団長の左手が、胸の先から離れ腹を伝って股間へと到達した。
    口は胸の先を捉えたまま、左手に扱かれて、両方から得た快感で、すぐに吐精してしまった。

「この前、早漏だなんて言って、悪かった」

    そう謝られたが、実際その通りで、今だって瞬殺であった。

「いいんです」
「それに、小さいとも言ってしまった。本当にすまなかった。サリー・モウセンとお前がそういう関係になることを想像したら、頭に血が上ってつい貶すようなことを言ってしまった。本当はそういったところも全て可愛いと思っている」

    可愛いなど、言われて嬉しい言葉ではない。しかし団長に言われると頬が熱くなり、口角が勝手に上がってしまう。

「嬉しいです、団長」

    そう答えるとホッとしたように団長は笑って、自分の股の間へと移動した。

    団長のモノを受け入れる為の準備に入るのだと思った。
    しかし団長は、腹に吐き出された先程の精液を舐め始めた。
    驚き「何をするんです」と声を上げたが、団長は止めないばかりか、全て舐め終わると雄までも口に含み出した。


    英雄マニス・シュタートンの端麗な顔が自分の股間の前で上下している。

    信じられない光景に唖然となった。

    じゅぽじゅぽといやらしい水音を立て、唇は茎に吸い付き、舌は穿ほじくるようにして先端を弄んでいる。

    気持ちがいいのと、団長にこんなことをさせてしまっているという背徳感で瞬く間に二度目の限界の間際に立たされた。

「ひぃ、ア、だんちょ、そんな吸っちゃ、だめっ、……んああ、っ、やっ、そんな、あ、ア、っ、出ますっ、出ますから、ン、ほんとにっ、……だめっ、口、はなし、てッ……――ッアア」

    予告をしたのにも関わらず、団長は口を離さず、精液の全てを口で受け止めた。

    腰がガクガクと揺れ、脳が焼き切れそうな程の快感を得て、一瞬意識が飛びその微睡みの中から抜け出せずにいた。
    しかし、団長が、ちゅうと管の中に残っている精液までも吸い出そうとしているのを感じて我に返った。


「んっ、ハァ、ッ、ごっ、ごめんなさいっ、ふ、す、すぐに吐き出して、くださいッ」

    申し訳なくてすぐに吐き出してもらいたくて、両手の平で器を作るようにして口元に差し出したが、団長は雄を咥えたまま口を離さない。

    咥えながらじっと自分の顔を見つめると、ごくり、と音がしそうなほど大きく喉仏を上下させた。そこでやっと口を離してくれた。

「こんなことも、ずっとしてみたかったんだ。……私はお前に嫌われたくなかったから、したいことを今まで沢山我慢してきた。だから、もういいよな?」

    先程の行為についてまだ呆然としているうちに、そんなことを言われ整理が追い付かず頭が爆発しそうになる。
    なにが、もういいよな?なのか、さっぱり分からない。
    戸惑う自分を他所に、団長は「これもしていいか?」と今度は足を持ち上げ、露になった穴に口を付けようした。

    これは本当にダメなやつだ、と本能的に体が動き、穴と団長の口の間に間一髪、手を滑らせることに成功した。

「だめか?」
「だめに決まってます」

    団長は不服そうに息を一つ吐いた。

「じゃあ、仕方ない。先の楽しみに取っておく」
「本当にだめですから」
「……リアムがそう言うなら我慢する」

    本当に小さな声で「今日のところは」と付け足され、今までで一番信用ならない『リアムがそう言うなら』だった気がしたが、取り敢えず思い止まってもらえたことに安堵した。


「そろそろ繋がりたい」そう言われて大分前からそう思っていた自分は、頷いて四つん這いになった。

    唾液を含ませた指が入り込み、腹の中が軽くなって、中を拡張させるような動きを指がし始めて、ああ、もうすぐだ、と期待に胸が踊った。

    今日は正面から抱いてほしい、自分がそう言い出すより前に団長からそう言われて、正常位の体勢で交わることになった。

    正面から交わることも、今まで我慢してきたことの一つだったと言われ、自分達は本当に同じ思いを抱えていたのだと思った。
    互いを好きな気持ちはもちろん、サリー・モウセンの事を始めとする不安や葛藤までもが同じだ。
    すべてが明らかになった今となっては『どれほど気が合うのか』と笑い話にも出来そうだが、誤解したまま王都に戻っていたら、ということを考えると恐ろしい気持ちにもなった。

    このぬくもりを手放さずに済んだという実感を今はただ感じていたかった。

「入れてください、団長」
「ああ」

    右足をぐいと持ち上げられ、入れやすいように自分も腰を浮かした。
    ぐぐ、と、いつもの軟膏を纏わせた団長の茎がゆっくりと入ってくるのが見えた。

    そして、団長の顔も見ることができた。

    自分を抱く団長がどんな顔をしているかを、ずっと見てみたかった。

    団長は目の下をほんのり赤くし、余裕の無い呼吸を繰り返している。黒曜石の瞳は真剣に結合部を見ていたが、全部中に収まると、視線は自分の方へと向けられ、目が合うと泣きそうな顔をされてしまった。眉を下げ縋るように見つめられると、鳩尾あたりが甘く痛んだ。

「団長、好きです」
「ああ。私もだよ、リアム。愛している」

    心からの告白が嬉しくて手を伸ばすと、自分に覆い被さるように団長の体は倒れ、こつんと額どうしが触れ合った。
    団長しか視界に入らないほど間近になり、耐えられずに自分からキスをした。

    唇を合わせながら、舌を絡ませて、そのリズムと合わせて腰が揺れ、ゆっくりとした抜き差しが始まった。

    幸せ過ぎて泣き出してしまいそうだ。

    ただでさえ気持ちいい行為の中に愛が含まれているのまで感じてしまうと、ここまで幸福感を得られるものなのか。

    それに、リアム、リアム、と何度も余裕なく呼ばれるのも嬉しい。
    求められているのだと実感すると、愛しくて切なくて、結合している部分がきゅうきゅうと動いてしまう。
    そうなると団長はもっと余裕のない声で「リアム」と叱るように名を呼んでくれる。
    そして、こちらから「団長」と呼び掛けると蕩けそうな声で「リアム」返してくれて、甘いキスをくれるのだ。



    団長が達しても、自分が達しても互いに離れたくなくて、自分は足でカニ挟みにするように団長を抱き締めたし、団長も、もっと奥へ、一ミリでも深くへと中を抉り続けた。

    そうやって、その日は空が白むまで。二人、何度も溶け合った。
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