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英雄の行く末 ⑥
しおりを挟む仕事、と言われて連れてこられたのは団長の私室だった。
仕事とは、と問おうとすると掴んでいた腕をそのまま押され、ベッドサイドまで進むと押し倒された。
ズボンのウエスト部分から団長の左手が入り込み、股間をまさぐられる。
引っ張られるように扱かれて反射的に「いやだ」と声を出すと、更に強く握られて扱かれた。
「お前のここは、勃っても小さいな。これじゃ、女は満足させられない」
嘲るような口調で言われ、ショックを受ける。確かに自分のモノは小さい。多分平均より大きいであろう団長のモノと比べると大人と子供の差がある。
なけなしの男のプライドが傷付いたが、それでも扱かれ続けると達してしまった。
「おまけに早漏だ」
こんなに意地悪く責められたことなどなかった。初めて抱かれた時も怒っていたが、自分を直接傷付けるような言葉はぶつけられなかった。
それほど『聖女』に近付いたということが、許せないらしい。
申し訳ありませんと謝ったが、その返答は団長の気に入るものではなかったようで、眉間のシワが更に深くなった。
「服を脱げ」
命じられるままに全裸になると、足を開いて穴が見えるようにしろ、と言われ、四つん這いになり着いた膝をなるべく開き腰を落とした。
しかし「違う」と言われ体をひっくり返された。
仰向けで大股開きになり、太ももの裏を自分の手で支えるような体勢にさせられた。
恥ずかしい。
自分に辱しめを与える為にこんなことをするように指示したのか。
だが、ひょっとしてこのまま抱いてもらえるのかもしれないという浅ましい期待も持ってしまう。
初めて後背位以外で交わることができると胸を高鳴らせていたが、団長は自分に入ってくることをせずに、チェストの傍らに置いてある鏡を手に取った。
鏡は女が化粧をする際に使うような大きめのもので、裏には写真立てのように支える棒がついている。おそらく火傷痕に軟膏を塗る際に使っていたのだろう。ただし今はサリー・モウセンの手で薬は塗られている為、用無しになっているものと思われる。
恥ずかしい体勢のまま団長の行動を見守る。
団長はベッド上で鏡を立てて自分に向け、角度を調整し、それが定まると後ろの棒を立て固定した。
「鏡を見ろ」
視線を移すと、鏡には団長を毎晩受け入れている穴が見えた。
「っ」
何故、自分の排泄器官をわざわざ見せられているのか。恥ずかしくて目を反らそうとすると、ちゃんと見ろと言いつけられた。
「どうなっている?」
何が、どうなっている、なのか質問の意味が分からず、首を横に振ると、なぞるように団長の指が穴に触れた。ゾクゾクし思わず声が出てしまう。
「ン、ンンッ」
「お前のここは縦に割れているだろう?」
「……はい」
確かに言われてみれば穴が3センチほど縦に割れている。しかし、この状態が何だと言うのか。他人の穴など見たことが無い為によく分からなかった。
困惑していると、ふ、と鼻で笑った気配がした後、人差し指と中指を使われ穴をぐいっと広げられた。
縦に口を開けた穴から赤色が覗き生々しい。
しかもヒクリヒクリと呼吸するように蠢いていて、自分では止めることが出来ない。
羞恥でじわりと涙が浮かんでくるが、同時に興奮もしていた。先ほど達したばかりだというのに雄が勃ち、自分の下腹を押している。
「どうだ? まるで性器のようじゃないか? ……お前のここはな、俺のモノを受け入れたからこうなったんだ。普通の人間は縦になど割れていない」
団長の言葉に雄がビクンと跳ね、先端から滲み出た液が臍へと伝う。
団長が自分の体に変化をもたらした。胸の先を弄られながら「ピアスをつけてやろうか」と言われた時と同じような胸の高鳴りと疼きを感じていた。
堪らず吐息を漏らすと、それを相槌と取ったのか、団長は話を続けた。
「これから尻を晒すような場面になった時に、相手にバレてしまうんだよ。お前が男を受け入れたことがあるってことをな」
団長が何を言いたいのかは分かった。
短小で早漏で、しかも男に抱かれた形跡が体に残る自分にはどうせ女は抱けないのだから、サリー・モウセンに近付くのは止めろと言われているのだ。
そういった目的だった訳ではないが、近付いたのは事実だった。
「赦してください。もう二度とサリーさんには近付きませんから」
余計なことをした。
しかも、サリー・モウセンの気持ちを確認したのは本当に団長の為だったのかと自問すれば、後ろめたく隠していた気持ちが涙と共にぼろぼろとこぼれ落ちてくる。
自分はサリー・モウセンに「お慕いしている」そう答えられた時、落胆しなかったか。
「本当に、申し訳ございません」
「……もういい」
「……はい」
もう謝らなくていい、という意味ではないことを理解したのは返事をした少し後だった。
自分が脱いだ服がパサリと体にかけられ、鏡から肌色が消えた。そしてその鏡も元のチェストの上に伏せて戻された。
「鏡を見ろ」という命令が解けた為、団長の顔を見ると何とも言い様のない顔をしてこちらを見ていた。
怒りはもう見られず、悲しみと何か、――諦め?失望?悔恨?が混じったような複雑な表情をしていた。
「あの」
「もういいと言っている。服を着て、自分の部屋に戻れ」
その日以降、自分は風呂の介助を断られ夜にお呼びがかかることも無くなった。
宣言した通り、サリー・モウセンには近付かなかった。
団長ともあまり話すことは無くなり、剣術の指導はもっぱら庭師のサムにしてもらっている状況だった。
「俺、聞いちまったんだよな」
鍛練の休憩時間、サムが言った言葉に、凍りついた。
「マニス様がさ、サリーちゃんに、修道院に戻らないでくれって頼んでんの」
「ハァ? あんた立ち聞きしたのかい?」
今日の手合わせの相手だった洗濯婦が、投げナイフの手入れをしながら呆れたように返事をした。
「人聞きの悪いこと言うなって、たまたま聞こえちまっただけだって、窓が開いててさ」
「どうだか。にしても聖女様はマニス様のタイプじゃないと思ってたけどねぇ」
ナイフから視線を上げ、何故か同意を求めるかのように自分を見た洗濯婦に「そうなんですか」と返した。精一杯笑みを返したつもりだったが、笑えていたかどうかは分からない。
洗濯婦はシーツの洗濯もする。おそらく自分と団長の関係がバレていたのだろう。そして最近はシーツが汚れていないことも分かっている。
「いやいや、可憐で清純そうな女を嫌いな男なんていないだろ」
「聖女様をいやらしい目で見んじゃないよ。……リアム、もう一戦やるかい?」
頷いたものの、手合わせに集中することは出来なかった。
サリー・モウセンは団長の言葉に何と返事をしたのか。考えるまでもなく答えは一つしかない。
ここに留まってほしいと自分が頼んだ時には困惑の表情を浮かべていたが、"慕っている"本人に「ここに居てほしい」と言われたのなら、断れるわけがない。
相手はマニス・シュタートンなのだ。
右腕を失くす大怪我を負いながらも、瞬く間に回復した強靭な肉体と、騎士団を去っても国の平和を守りたいと願い鍛練を欠かさない気高い精神。
それに火傷痕もどんどん薄くなり、昔の面影、――『神の姿』を取り戻している。
『闇夜のような瞳に見つめられながら愛を囁かれたら死んでもいいわ』
昔、雑貨屋の娘が言っていたことを思い出したが、全くその通りだと思う。
ちゃんと祝福しなくてはいけない。自分の想いなどよりもずっと団長の幸せが大事なのだから。なんども自分に言い聞かせた言葉を、また胸に刻んだ。
そして来るべき時は思ったより早くやってきた。
洗濯婦に二連敗した日の夜、自分の部屋を訪ねてきた団長にこう命ぜられたのだ。
「お前は王都に戻れ」と。
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