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聖夜③
しおりを挟む『正孝くんに話したいことがあるの』
そう言って始まった祥子の話はいかに俺を愛しているか、というのを祥子の言葉で伝えてくれたものだった。
『私は正孝くんに嫉妬されるほど愛されているのは嬉しいことだと思っています。私の、過去も未来も、独占したいって思ってくれてるってことだから。……でも、正孝くんが苦しんでしまうのは、辛いから。……だから、その苦しみが少しでも無くなるように私はあなたに自分を捧げたいと思っています。……あなただけを愛しています、正孝くん』
直接言われるのとは別に、形に残るように言葉が貰えたことが純粋に嬉しくて、お礼を言いたくてテレビ画面から目を離し祥子の方を見ると、彼女は自分の顔を両手で覆っていた。隠されていない耳はピンクになっている。
彼女にとってこれはとても恥ずかしいことだったのだと思えば余計に愛しさが湧いてくる。
抱き締めたい。
そう思って祥子に手を伸ばした瞬間にテレビの方向から衣擦れの音がした。
画面を見ると、祥子は着ていた服を脱ぎ初めていた。
「え……?」
戸惑って間抜けな声を出して、画面の中の祥子と隣にいる祥子を交互に何度も見てしまう。
画面の中の祥子は下着姿になり、隣の祥子は体を折るようにして自分の膝で顔を隠している。どちらも見えている肌はピンクに色付いていた。
画面の中の祥子は、ブラをぎこちない手つきで外し、でかでかと俺の名前が書かれたショーツも脱いだ。胸の先も股間も見えないように手で隠していたけれど『わ、私の全部をあげます』と言うとその手を外した。
キスマークの散らばる裸体は、部屋の照明に照らされて白く艶かしく映っている。
――何をするつもりなのか。
自分の喉がごくり、と音をたてた。
『私のこの体は、正孝くん無しではいられなくなりました。……い、今もこの動画を正孝くんが見るのかと思うと、ここ、が、ぬ、濡れてしまっています』
画面の祥子はおずおずと足を開き、M字になるようにソファーの上に両足を置いた。そしてそこを自分の指で割広げると、薄い毛に縁取られた性器か赤い口を開けた。内部はてらてらと光りひくつきながら蜜を漏らしていた。
『わ、分かるかな?』
真っ赤になった顔でテレビ越しに見つめられて、下半身に熱が集まった。
さらに祥子は指を自分の中に入れた。
くちゅ、と音がしてそれは呆気なく飲み込まれていく。
『っあ、……私の、…ふ、…ここは、一生正孝くんの、もの、です。…ま、さたかくんはっ、私をこんなに、っ、い、厭らしい女にした責任を取って、ください。一生っ、ぁあっ』
指は2本に増え水音が増し、左手は自分の右胸の先端を擦っている。
目は潤みとろんと虚ろになっているし、口は嬌声と熱い息を吐き出す為に半開きになっている。
本気の自慰だった。
今まで一度も見たことが無かった祥子の自慰は、艶かしくて美しくて野性的で。
見てはいけないものを見てしまったという背徳感で、腰のあたりからぞくぞくとした、射精直前のような熱が上がってくるのが分かった。
『ん、あぁ、ああっ、っ、…正孝くんっ、まさた、かくんっ、っ、ぁあ、まさたかく、っ、あああぁっ』
祥子は俺の名を呼びながら達して、そこでDVDは終わった。
俺は、とんでもない物を貰ってしまった。
確かに俺は"祥子自身"を捧げて貰った。このDVDが俺の手の中にある以上、祥子は一生俺に囚われる。何があっても、これを誰かに見せられてしまうと思えば俺から離れることは出来ない。
前に祥子を手に入れる為に撮った動画なんて比べものにならない。あれはレイプを映したもので、映っていたのは加害者と被害者だ。でもこれは違う。祥子自身が俺に縛られる為に、恥ずかしい"自分の弱み"をさらけ出してくれたものだ。
感動して体が震えてきてしまった。
いまだに顔を上げられずに羞恥で固まっている祥子の頭を優しく撫でた。
さらさらとした髪の手触り、これがごわごわとした白髪になっても祥子はずっと俺のものでいてくれる。婚姻届を出した時よりも、そう強く感じた。
「祥子、顔、上げて。」
「……無理。恥ずかし過ぎて死ぬ。」
「じゃあ照明暗くするから。」
テレビの電源を消し、デッキからDVDを取り出して引き出しに入れた後、部屋を暗くしてツリーの明かりだけにした。すると祥子はやっと顔を上げてくれた。
「祥子、ありがとう。こんなに嬉しいプレゼント貰えるなんて思って無かった。本当に嬉しい。……でも、いいの?祥子が俺と離婚したいって思ったって、出来なくなるよ。」
俺はDVDを返すつもりもなんて微塵もないのに、妻を気遣った振りをした。
「いいの。私はずっと正孝くんを好きでいる自信があるから。…あ、……でも、正孝くんが離婚したい時に使われる可能性もあるのか。…それは考えてなかった。」
そう言って顔を青くした祥子を俺は抱き締めた。
「離婚なんてするわけない。俺は二度と祥子を離さない。……それに祥子を淫乱にした責任も取らなきゃいけないし、ね。」
「いっ、淫乱って……。」
「自分でそう言ってたけど?」
「で、でも、淫乱って何か響きが良くないような。」
「そう?俺の淫乱な奥さん、ショーツの中がどうなってるのか確かめさせて?」
「あ、っ、だ、だめっ、あんっ。」
「ほらもうヌルヌルになってる。指も直ぐに入っちゃうよ?」
「ああぁっ、掻き回しちゃだめぇ。」
「どうして?ここは俺のものなんでしょ?」
「そっ、そうだけどっ。」
「そうだけど、何?祥子のまんこは俺の指ぎゅうぎゅうに締め付けて嬉しがってるけど?」
「っ、もう!わ、私も正孝くんの、触っちゃうんだからっ。」
「わっ、祥子ちょっと、待って。」
「待たないっ。もうっ、こんなにカチカチにしちゃって。正孝くんもヌルヌルじゃないっ。」
「あ、あーっ、舐めないでっ、気持ち良すぎるからっ。」
「気持ちいいんだったら、いいでしょ。」
「じゃあ、俺も祥子の舐める。」
「えっ、あ、んんっ、やだっ、もうっ、こんな格好恥ずかしいっ。」
「そう?カメラの前でオナニーするのとどっちが恥ずかしい?」
「っ、意地悪!」
「あ、痛っ、噛むのはやめてっ。優しくして。」
「ふふ、優しくしてもらいたかったら、今度私にも正孝くんのオナニー動画頂戴?」
「……それで俺を一生縛るの?」
「そうだよ。ガチガチに縛り付けちゃう。」
「今すぐ撮るっ。祥子っ、カメラ回して。」
「あ、や、今じゃ無くていいから。」
「何で?欲しくないの俺の動画。」
「欲しいけど、でも今は、正孝くんのこれ、が欲しい、の。いっぱい愛して?」
「っ、祥子っ。」
「あんっ、正孝くんっ。」
そんな一夜を過ごした次の日の朝、俺の胸の痛みや苦しさはすっかり消えていることに気がついた。
自分の横で眠るサンタさんは夕べの余韻が残っているのか頬がピンク色になっている。幸せを色で例えるならば、きっとこんなピンク色なんだろうな、と思いながら俺はそこにそっと唇を落とした。
メリークリスマス。
――――――――――――――――
季節外れですみません(汗
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