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聖夜②
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恐れていたことが起こった。
祥子と暮らす日々が幸せ過ぎて浮かれていたら、一気に奈落の底に落とされた。
俺と別れてから祥子が、何人かと付き合っていただろうということは分かっている。直接聞いたことは勿論ないけれど、同級生からそういった話を以前聞いたことはあった。
でも実物を見せられるというのは、思っていた以上にきつかった。
あの男は女児と手を繋いでいた。多分親子なのだろう。
その女児の年齢から考えると、俺と別れた後初めて付き合った男なのかもしれない。もしくは不倫をしていた、ということも考えられなくはないけれど、祥子の性格的にそれはないような気がする。
とにかく俺と別れた後、祥子はあの男に抱かれたのだ。
そう考えたら息が吸えないほど胸が痛み、胃も内容物を吐き出してしまいそうなほど気持ちが悪くなった。
そして視界が黒く狭まり、自分が今どこに居るのか分からなくなった。
なんとか家にたどり着いて、祥子と向き合った時、自分がどんな顔をすればいいのか分からなかった。もちろん気持ちをそのまま表すなら悲しみ、苦しみ、怒り、そんな感情になるだろう。でも、それは祥子に向けるべきものではない。
昔、別れを告げたのは俺で、だから自業自得だ。
別れなければ祥子は俺だけをずっと愛して、俺だけしか知らない人生を歩んでくれたかもしれなかったのに。
それを手放したのは、愚かな自分。
悔やんでも悔やみきれず、胸がギリギリと絞り上げられるように痛んだ。
祥子は何一つ悪くない。
ましてや、その話をして苦しい感情を彼女にぶつけたりするのは完全なお門違いだ。
それに俺がその事を気にしている素振りを見せると、その度に彼女はあの男のことを思い出してしまうだろう。
俺の知らない二人だけの、秘密の思い出を。
そして、あの男と俺を比べるかもしれない。
嫌だ。
もちろん今さらあの男と何かあるとは思っていない。でも祥子の心の中にいるのはいつも自分だけでありたい。
でも祥子の心までは縛ることは出来ない。
『嫌だ』とガキのように駄々を捏ねることも、めそめそと泣いて同情を乞う権利も俺にはない。
この苦しさは自分一人で背負うべきもので、一度祥子を酷く傷付けた俺への罰だ。
怪我をしたって血はいつか止まる。そんな風に苦しさが薄れていくのをじっと耐えるしかない。
そう思っていた。
けど祥子はそんな俺に気遣って、信じられないようなクリスマスプレゼントをくれた。
それは『祥子自身』と言っていいようなものだった。
「プレゼント、色々考えたけど、私があげたいものを正孝くんにあげることにしたの。」
自宅でシャンパンを開けて『メリークリスマス』とフルートグラスを合わせた後、少し緊張した面持ちで祥子はそう言った。
クリスマスプレゼント、と言うにはそぐわない、ラッピングも何もない素っ気ない剥き出しのDVDを手渡される。
少し戸惑いながらもお礼を言って、自分も用意していたプレゼントを渡した。祥子が前から欲しがっていたネックレスはもちろん男性店員がいる店で買ったものだ。
ほっそりとした首におさまったネックレスは、ツリーの電飾がチカチカと点滅する度、胸元の石にキラキラと光が反射した。
嬉しそうな彼女の顔を見ると、今も尚抱えている痛みが少し薄れるのを感じた。
祥子の持ち物に自分で贈ったものが増えていく喜びに浸っていると『私のプレゼントも』と言って、俺の手からDVDを取り、デッキにセットした。
いつもの見慣れたソファーに座る祥子。改まったようにきっちりと背筋を伸ばして、正面を真っ直ぐに見据えている。
『正孝くんに話したいことがあるの』
祥子と暮らす日々が幸せ過ぎて浮かれていたら、一気に奈落の底に落とされた。
俺と別れてから祥子が、何人かと付き合っていただろうということは分かっている。直接聞いたことは勿論ないけれど、同級生からそういった話を以前聞いたことはあった。
でも実物を見せられるというのは、思っていた以上にきつかった。
あの男は女児と手を繋いでいた。多分親子なのだろう。
その女児の年齢から考えると、俺と別れた後初めて付き合った男なのかもしれない。もしくは不倫をしていた、ということも考えられなくはないけれど、祥子の性格的にそれはないような気がする。
とにかく俺と別れた後、祥子はあの男に抱かれたのだ。
そう考えたら息が吸えないほど胸が痛み、胃も内容物を吐き出してしまいそうなほど気持ちが悪くなった。
そして視界が黒く狭まり、自分が今どこに居るのか分からなくなった。
なんとか家にたどり着いて、祥子と向き合った時、自分がどんな顔をすればいいのか分からなかった。もちろん気持ちをそのまま表すなら悲しみ、苦しみ、怒り、そんな感情になるだろう。でも、それは祥子に向けるべきものではない。
昔、別れを告げたのは俺で、だから自業自得だ。
別れなければ祥子は俺だけをずっと愛して、俺だけしか知らない人生を歩んでくれたかもしれなかったのに。
それを手放したのは、愚かな自分。
悔やんでも悔やみきれず、胸がギリギリと絞り上げられるように痛んだ。
祥子は何一つ悪くない。
ましてや、その話をして苦しい感情を彼女にぶつけたりするのは完全なお門違いだ。
それに俺がその事を気にしている素振りを見せると、その度に彼女はあの男のことを思い出してしまうだろう。
俺の知らない二人だけの、秘密の思い出を。
そして、あの男と俺を比べるかもしれない。
嫌だ。
もちろん今さらあの男と何かあるとは思っていない。でも祥子の心の中にいるのはいつも自分だけでありたい。
でも祥子の心までは縛ることは出来ない。
『嫌だ』とガキのように駄々を捏ねることも、めそめそと泣いて同情を乞う権利も俺にはない。
この苦しさは自分一人で背負うべきもので、一度祥子を酷く傷付けた俺への罰だ。
怪我をしたって血はいつか止まる。そんな風に苦しさが薄れていくのをじっと耐えるしかない。
そう思っていた。
けど祥子はそんな俺に気遣って、信じられないようなクリスマスプレゼントをくれた。
それは『祥子自身』と言っていいようなものだった。
「プレゼント、色々考えたけど、私があげたいものを正孝くんにあげることにしたの。」
自宅でシャンパンを開けて『メリークリスマス』とフルートグラスを合わせた後、少し緊張した面持ちで祥子はそう言った。
クリスマスプレゼント、と言うにはそぐわない、ラッピングも何もない素っ気ない剥き出しのDVDを手渡される。
少し戸惑いながらもお礼を言って、自分も用意していたプレゼントを渡した。祥子が前から欲しがっていたネックレスはもちろん男性店員がいる店で買ったものだ。
ほっそりとした首におさまったネックレスは、ツリーの電飾がチカチカと点滅する度、胸元の石にキラキラと光が反射した。
嬉しそうな彼女の顔を見ると、今も尚抱えている痛みが少し薄れるのを感じた。
祥子の持ち物に自分で贈ったものが増えていく喜びに浸っていると『私のプレゼントも』と言って、俺の手からDVDを取り、デッキにセットした。
いつもの見慣れたソファーに座る祥子。改まったようにきっちりと背筋を伸ばして、正面を真っ直ぐに見据えている。
『正孝くんに話したいことがあるの』
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