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似た者同士【完】
しおりを挟む彼がこの部屋に来たのは私が部屋に着いてから30分位経った後だった。その時の様子から考えると、おそらく会社から、急いでここに来たように思われる。だから私がここに来たことをマンションの近くで直接見張っていた訳じゃないはずだ。
――きっと防犯カメラだ。
「カメラを仕掛けて置いて、スマホから監視してた。」
ああ、やっぱり。
「それ、どこにあると思う?」
彼はくすりと笑った。
――まさか。
「高画質の録画設定もしておいたんだ。きっと綺麗に映ってるはずだよ。俺のを咥え込んだ祥子の精液まみれのまんこが。」
私は足を閉じようとした。けれど一瞬早く口から指が抜かれ両太ももを持たれてしまった。
「っ…、あっ、や…、だめぇ。」
駄目と言いつつ甘い声が出てしまうのは下から突き上げられて気持ちいいのと、正孝くんの強い執着を感じてしまったから。
「っ、中狭くなった。撮られてるのに感じたの?…はぁっ…く。分かってる?これで祥子は俺に脅されるんだよ。」
正孝くんの漏らした吐息はすごく色っぽかった。
撮られてるのが気持ちいいんじゃない。正孝くんに執着されてるのが気持ちいい。
「私をっ、脅すのっ?」
「…そうだよ。祥子に好きな男がいるのなら、これを見せるって言って脅すんだ。っ、…俺のこと軽蔑していいよ。でも、絶対に祥子を誰にも渡さない。」
正孝くんの声には迷いがなかった。
好きな男なんて、正孝くん以外いない。
「はっ、ぁああっん。」
「祥子、俺のものになってくれ。」
低く掠れた切なげな声で言われて、体の中心がぎゅうぎゅうと痙攣して一気に熱が放出された。
もう限界だった。
「正孝くんっ、っ、いっ、いっちゃうっ、ぁああああっ。」
「っ、俺も、出るっ。」
快感による涙を流しながら私は精液を受け入れた。
執着されるってサイコー!と思いながら。
その後私たちは、場所をベッドに変えトイレに行く暇さえ惜しみながら何度も交わった。私は途中で意識を失ってしまったけれど、その間にも正孝くんの精を中に受け続けた。やがて意識を戻すと、また激しく求められ何度も達した。それは彼が倒れ込み『もう無理だ』と言うまで続いた。日付がとっくに変わり太陽が昇りきった頃だった。
今日が休日で良かった。
私を抱き込むようにして正孝くんは横になった。そしてすぐに規則正しい寝息が聞こえた。
私は大概ゆるゆるになって解け掛けていたネクタイの拘束を外した。最後の方はネクタイが外れてしまわないように私が必死に握っていた気がする。
『このままここに閉じ込める』
『この胸は俺と俺の子だけのものだ』
『お前がいない6年の間どうやって息をしていたのか分からない』
そんなことを数えきれないくらい言われて、身体も心も蕩けさせられた。今までのセックスの中で一番感じて乱れてしまった。
私は正孝くんの腕から抜け出した。あちこち痛む体を庇いながら、亀のようにゆっくりとベッドの上を擦りながら。
そしてヘッドボードを両手で掴み、生れたての子鹿のように震えてなんとか起き上がった。
股間からは彼が出したものが溢れているのだろうけれどそこの感覚がない。あまりにもし過ぎてヒリヒリしているからだ。そして乳首は吸われ過ぎて真っ赤になって腫れ上がっている。身体中にキスマークが点々とし、左手の薬指には歯形がついていた。おまけにメイクも髪の毛もぐちゃぐちゃだった。
お風呂に入ろう。
彼が起きたら私はプロポーズの返事をしようと思っている。だから、その時には少しでも綺麗な私でいたかった。
私は自身が持ち込んだスーツケースが置いてある所に歩いて行こうとした。私物として持ち帰る予定だったメイク落としとスキンケア用品を取り出そうと思ったのだ。
けれど一歩目を踏み出した途端に背中と腰と股関節と膝に力が入らず、バッターンと大きな音を立てて前方に倒れた。
「祥子…、どこ、行くの?俺ここから出さないって言ったよね?」
寝起きとは思えない位しっかりとした口調だった。
私としてはすぐに起き上がらせて欲しかった。腕は長時間後ろに回していたせいで痺れてしまっていた。だから床に手を着いて踏ん張れなかったのだ。おまけに首も痛くて動かない。長時間のセックスが身体に掛けた負担は相当なものだった。
けれどそれも自業自得だった。
正孝くんの嫉妬や執着が嬉しくて、わざと返事をしないままセックスを堪能してしまったのだから。
ギシリという僅かな音が聞こえ、彼がベッドから降りたのだと分かった。
でも、正孝くんは私を起き上がらせてくれなかった。両腕を掴み、また拘束してきたのだった。
堪らず私は喘ぎ過ぎて掠れた声で叫んだ。
「まざだがぐんのぉ、およべざんにじでぐだはいぃ(正孝くんの、お嫁さんにしてください)」
モゴモゴと返事をしたくないだとか、執着セックス最高です、だとか、少しでも綺麗なワ・タ・シ、とかいう思いは全て吹っ飛んだ。
これ以上したら二人とも死ぬ。
私は健やかで幸せな正孝くんとの未来がほしい。
「…諦めてくれたんだね。ありがとう。」
「ぢがうんでふ。あいひでまふ(違うんです。愛してます)」
「…もうセックスしたくないからそう言ってるんだよね。それでも嬉しいよ。」
「ぢがいまふ。だいずぎでふ(違います。大好きです)」
「……。」
「まださだがぐんのぉ、ごどぼほじいでふ(正孝くんの子供欲しいです)」
***********
誤解を解くのは大変だった。
でも、私がすぐにプロポーズの返事をしなかった理由を話すと納得してくれた。
『分かる。好きな人から執着されるって最高だよね』と言って。
どうやら私たちは似た者同士になったらしい。でも私が束縛を積極的には出来ないことを申し出ると『互いに自然体で生活しよう。祥子が一緒に居てくれることが一番だから』と言ってくれた。
互いの両親に挨拶をして、とんとん拍子に結婚が決まり、私の誕生日に籍を入れ式を挙げた。
結局私はあの時妊娠しなかった。相談の結果、もう少し二人だけで生活をしようと決まった。
お揃いの名字になり、愛し愛され夢に描いたような幸せな毎日を送っている。
たとえ、GPSで行動を監視されても、全てのショーツにでかでかと彼の名前を書かれても。
パソコンを開いた時に
『貞操帯 作成』
『貞操帯 排泄』
『局部ピアス 南京錠』
という履歴を発見してしまっても、だ。
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