【R18】『お前と別れてから、誰と付き合っても物足りなかった』と元恋人は言ったけれど、今の私は昔の私と違うのです。

さかい 濱

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予想外の告白

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私はいまだに、卒業式の日に言われた言葉を、度々思い出しては胸が痛くなっていた。
今日また、そのバリエーションが増えるのかと思ったら、体が震えてきた。

「どうしたの?寒い?取り敢えず、中入って。」
「…お邪魔、します。」

ソファーに座るように言われたけれど私は床に座った。

彼は何か言いたげな顔で私を見たけれど、諦めたのか自分も床に座った。

「俺も、祥子に謝りたかった。6年前のあの日、あんな別れ方して、ごめん。」
正孝くんは私に頭を下げた。

そうだ、こういう人だった。
だから、あんなことをした私とでもすぐに別れたりせずに、我慢して一年半も付き合ってくれたのだ。きっと、別れ話を卒業式の日にしてくれたのも、私が学校で気まずい思いをしないようにという心遣いだったのだと思う。
心臓が掴まれたかのように、ぎゅっと痛くなった。

「あ、あの、頭を上げて。そんなの、別れて当然だから。友達ともまともに遊べなくて辛かったでしょ。鈴木さんは何にも悪くない。謝らなくていいよ。」

正孝くんは顔を上げてくれた。

これで話は終わり、だろうか。
それほど恨まれていなかったということなのだろうか。

「じゃあ、私、」
「祥子、今、付き合ってる人、いる?」

自分の心臓が、どくんと音を立てたのが分かった。

何故そんなに切ない顔で私を見てくるのか。
誤解をしてしまいそうだった。

「…いない、けど。」
上ずった声で返事をしてしまった。

「良かった。…俺、駄目みたいで、お前じゃないと。…誰と付き合っても、何か物足りないっていうか、違うような気がして。何でだろうって考えたら、…きっと、初めて付き合ったのが祥子だったから、あんな風に束縛されないと、愛されてるって気がしなくなったんじゃないかと、思う。だから、もし、祥子さえ良かったら、また付き合ってほしいんだ。」
彼は少し紅潮した顔で私を真っ直ぐに見つめた。

「だ、だって、束縛が、嫌で別れたんだよね?」
卒業式に言われた言葉が頭の中をぐるぐると駆け回っている。

「うん。自分の時間が全然無くて嫌だった。別れてからは、自分の好きなこといっぱいした。すっごい楽しかった。…でも、どこか虚しい気分になってる自分もいて…。認めるの恥ずかしけど、俺、ガチガチに束縛されたいんだ。勝手なこと言ってるって分かってる。…だけど、付き合ってほしい。」

頬を染め真摯な態度で正孝くんは愛の告白をしてくれているけれど、私はいたたまれない気持ちになった。

彼が求めているのは『執着してガチガチに束縛してくる女性』だ。
きっと、私と別れてから付き合った人は、彼のレベルに合った綺麗な人たちだったに違いない。そんな人たちは、私のように醜く嫉妬して束縛するようなタイプではないだろう。だから私しかそんなことをする女がいないように思っているのかもしれないけれど、彼が求めればきっとお眼鏡に適う女性がいるはずだ。

それに私はもう誰かを束縛したりしない。

大人に、なったのだ。

「…付き合え、ません。別の人を探して、ください。」

「……俺のこと、嫌い?」

そんなに苦しそうな顔で見ないでほしい。
本音を言えば、付き合いたい。
正孝くんは、私が生きてきた中で一番好きになった人だった。
たった今も胸はドキドキしているし顔にも熱が集まってる。
けど、私はもう昔の私じゃない。正孝くんのご期待には添えない。

「嫌い、じゃないけど、付き合うのは…。」
嘘でも嫌いと言えないあたりが我ながら未練がましい。

「頼む。人助けだと思ってくれないか。…俺、ここ何年か、お前が大量に寄越してきたメールの文章見ながらじゃないと、抜けないんだ。でも、」
「ちょ、何の話してるの?」
「何って、しもの話だけど。今、お前と話してるだけで、起ってきちゃって、ヤバイ。」
正孝くんが自分の股間を見たので、ついつい私もつられて見てしまった。
そこは、服の上からでも分かるくらいに盛り上がっていた。

「さっき、何でもするって土下座しながら言ってたよね。俺をこんな風な変態にした責任、取ってよ。」

潤んだ瞳で見つめられ、クラクラする。こんなに熱く求められたことなど過去になかったから。

『こんな風な変態』とは『ガチガチに束縛されたがり男』に私が彼をしてしまったということなのか。

私は彼の一年半を無駄にしただけでなく、性癖まで歪ませてしまったんだ。
それの責任の取り方が『付き合う』じゃ、私に都合が良すぎないだろうか。

――でも、付き合う場合は、私が『束縛女』を演じなくてはいけない。
それ自体を『償い』ということにしてしまおうか。

私は、あっさり首を縦に振ってしまった。

嬉しそうな顔の正孝くんが近づいて来る。あっという間に唇を奪われ舌をねじ込まれた。

「ま、…さたか、…くん。」
「やっと、名前呼んでくれた。嬉しい。今度また、俺の名前百回くらい打ってメールで送ってきて欲しいなぁ。」

口を離し、うっとりとした顔で私の黒歴史を語る彼は、高校時代には見たことのないくらい色っぽかった。

よし、彼の為に頑張ろう。
私は鼻息荒く決意した。

けれど、私が束縛のスペシャリストだったのは6年も前だ。
そううまくはいかなかった。

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