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六年ぶりの再会
しおりを挟む二度と、顔を合わせられないと思っていた男が目の前にいる。
場所は、同窓会の二次会の為に移動した先の、バーだ。
友人たち6人でドヤドヤと店に入るなり『おう』と声を掛けられて、前を見たら彼がいたのだ。
鈴木 正孝。
私の元カレだ。
ほろ酔い気分も覚め、体から血の気が引いてくる。
無言で回れ右をして、出口に向かおうとした私の腕を彼は掴んだ。
「待って、祥子と話したい。」
なんとか逃げ出したくて、一緒に店に入ってきた友人たちに視線を送ったけれど、にっこり、もしくはニヤニヤとした笑みを返されただけだった。
君たち『今回は鈴木くん不参加だし、久々にみんなで会いたい』って電話寄越して来たよね。
ああ、嵌められた。
彼がここに居たのは偶然じゃなかったのだ。
逃げられない。
助けてくれる味方もいない。
私と彼、正孝くんは付き合っていた。高校二年生の秋から高校生最後の日まで。今から6年前のことだ。
多分卒業式よりもとっくの昔に私たちの関係は破綻していたのだけれど、はっきりと別れ話をされたのはその日だった。
『もう無理』
『自由になりたい』
『別れて』
彼は下駄箱の前で待ち伏せていた私にそう言った。
私は初めて出来た彼氏に対して酷いことをした。
正孝くんは格好良くて人当たりも良くて、スクールカーストの上位に位置する人間で、彼に想いを寄せている女の子は結構いた。
いつか誰かに心移りされてしまうのではないかと不安だった。
だから、私は監視するように彼といつでも一緒にいた。
男同士の集まりだからと言われても無理やり彼について行った。友人の家でゲームをするだけ、と言われてもその友人の、いるかどうかも確かでない、姉妹との接触をさせない為について行った。トイレまで。
彼は段々、友人と出掛けたりしなくなった。誘われなくなったのか、自粛したのかは分からない。
それでも不安で、彼の家まで送り迎えもした。『帰りは危ないから俺に送らせてほしい』と言われても、彼が家に入り部屋の灯りが点くまでは、どこかに行ってしまうのではないかと不安でその行為を続けた。
そして『今何してる?』等の、多量のメールを送り付け、返事が遅いと何度も電話をした。
その時のことを知っている友人は『何かに取り憑かれているようで怖かった』と私に言った。
でも当時は、そんなことをしたら嫌われるという、当たり前のことに気が付いていなかった。周りが全く見えていなかったのだ。
けれど年月が経ち、何人かと付き合って、ほどよい距離感というものを学ぶことが出来た。
今、昔の私がどれだけ異常だったかを思い出すと、体をじたばたとさせて悶えてしまうくらい恥ずかしい。そして同時に正孝くんに対して、とんでもない酷いことをした、という気持ちになる。
謝らなければならない。
でも合わせる顔が無いし、彼だって会いたくないだろうから、一生顔を見せないということで赦してほしかった。
同窓会だって今まで行かなかったし、彼の実家にも近寄らなかった。遠回りでも、彼の実家の最寄り駅を通過しないような路線を選んで電車に乗っていた。
でも会ってしまったのなら、することは一つしかない。
私は腹を括った。
「ごめんなさいっ。土下座して謝るので許してくださいっ。」
私はその場で膝をつこうとしたけれど、掴まれている腕のせいで出来なかった。
「ちょっと、何?何に対しての謝罪?」
彼の榛色の瞳にじっと見つめられて、体がカッと熱くなるのを感じた。
「あの、高校時代、まさ、鈴木さんの交遊関係をおかしくしてしまったことと、物凄くしつこく連絡を取って迷惑を掛けたこと、…です。」
自分の黒歴史を口に出すのは辛い。でも正孝くんはもっと辛かったはずだ。輝かしいはずの青春時代の一年半、私に振り回されて無駄にしてしまった。
「…そう。俺もそれについて話があるんだけど、ここで話していい?場所変える?」
周りを見ると、みんな、好奇心を隠しきれない顔で聞き耳を立てている。関係のないバーのお客さんまで、こちらを向いてはいないものの、黙って様子を伺っているようだった。
「べ、別の場所で、お願いします。」
きっと、恨み辛みを言われるのだ。私は何を言われても頭を下げ続けようと思った。
だから、どこに行くのかなども確かめたりせずに、タクシーに二人で乗った。
「ここ、俺の今住んでるとこ。」
私がタクシー代を払おうとしたら露骨に嫌な顔をされたので、お財布を引っ込めた。
彼に促されるまま、マンションのエントランスを通り、エレベーターに乗った。
新しくて立派なマンションだった。
正孝くんは頭も良くていい大学に入った。そしてこのマンションを見る限りいい会社にも勤めているようだ。
そんな彼に一年半も無駄な時間を過ごさせてしまったのだ。本当に何て言って謝ったらいいか分からない。
部屋に入れてもらうなり、私は土下座をした。
「本当に、申し訳ありませんでしたっ。」
玄関の大理石に頭をくっ付けた。
床は綺麗に磨かれていて、膝も頭も汚れたりはしなそうだった。
人目の無いところで、しかもこんなに綺麗な大理石の上で土下座をさせてもらえて彼には感謝したい。
「わっ、ちょっ、やめてよ。」
彼は慌てて私を立たせようとした。でも私は立ち上がる訳にはいかなかった。
「赦してくださいっ。本当に、ごめんなさい。何でもしますから赦してくださいっ。」
「もう、いいから、立って。」
「もう二度と、迷惑をお掛けしませんから。」
「分かったから。だから立って。」
自分なりの贖罪を終えた私は立ちあがり、もう一度『すみませんでした』と言って部屋を出ようとした。
「どこ行くの?まだ、俺の話終わってないんだけど。」
正孝くんは焦ったように私の腕を掴んだ。
やっぱり謝るだけじゃなくて、恨み辛みを聞かなくちゃ駄目らしい。
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