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ロマンチックな ◆ルイ
しおりを挟むあんなに先走りを滴らせ、腹に付くほど陰茎を勃たせているのだから早く出したくて堪らないはず。息だって荒くなってる。
それなのに、真木は僕の後ろを丁寧に解してくれている。
シャワーホースが入るのだからと、多少性急に進めてもいいところを指一本から始め慎重に時間をかけている。
早く真木を自分の中に入れたいという気持ちが逸ってしまったが、このもどかしさも真木の優しさと確かな愛情を感じる大切な時間。
真木が言った『後で思い出して幸せな気持ちでニヤニヤするような初体験』の一部になるのは間違いない。
やがて三本目の指が入ってきた。
くちくちという粘着質な音と僕の情けない声が部屋には響いている。そして真木の息遣いも。
「痛く、ないか?」
「いたく、な……ア、ァ、気持ち、よくて……ひィ、ン、死に、そう」
僕の後ろは十分すぎるほど解され柔らかくなっており、死にそう、が比喩ではないほどにとろとろに蕩けている。
真木にもそれがわかったのか、指はやっと引き抜かれた。
ああ、ついに、という思いと腸壁を擦られた刺激で今日一番の快感に襲われた。
声を上げ体を震わせていると、真木が覆い被さってきた。
開いた足の間に膝を入れ、手を敷き布団に突いて僕に体重があまりかからないように体を密着させている。
体は汗ばんでおり、少し汗の匂いもした。
エアコンは効いているが、暑がりの真木は僕を解すのに集中して熱くなり汗をかいたのだろう。
自分の肌も汗で濡れたが、不快には思わなかった。むしろ、真木の体液で全身を覆い尽くされたいと思った。
そんなことを思う自分は変態的だろうかと考えていると、うなじにキスをされ、耳元で囁かれた。
「もう、ルイに入りたい。……いいか?」
尻に真木の先端が触れた。
それはすぐに離れたかと思うと、またすぐに尻たぶを突付いて、同じ動きを繰り返している。
真木がゆらゆらと腰を動かしているせいだ。
それがわざとなの無意識なのかはわからないが、早く入りたいと言外でも伝えられているような気がして、僕は慌てて「うん」と返事をした。
「この体勢の方がルイが楽なのはわかってるんだけど――」
真木はそう前置きをして、僕の体勢を仰向けにした。
顔を見ながらしたい、そう言われて拒否できるワケがない。
足を持ち上げられ少し尻が浮き、期待と恥ずかしさと心もとなさで心臓がバクバクと音をたてている。
ゴムを被せた真木のモノが孔に触れ、直後にぐぐっと先端がめり込んだ。
指とは違う質感と質量。
これが真木のモノ。
そう実感すると腰が砕けそうなほどの甘美な衝撃に襲われた。
何かに掴まりたくて、真木目掛け手を伸ばすと、真木は指を絡めるようにして手を繋いでくれた。
「苦しく、ないか?」
真木の方がよっぽど苦しそうだ。
すぐにでも全部を収めて動きたいはずなのに先端だけを入れたまま、僕を気遣っている。
「真木の、ぜんぶ、ほしい」
「っ、……ハァ、……ゆっくり、入れる。痛かったり苦しかったらすぐ言えよ。……あと、俺、多分、全然もたない、と思う」
夢のような心地だった。
張り出した先端は前立腺をぐりっと擦り上げ泣くほど気持ちが良くて、奥に進むにつれ段々苦しくなってくることにも歓びを覚えた。
真木によって未知の部分を拓かれているというロマンチックな痛み。
真木としては爪の先ほども僕を痛がらせたくないと思っているのだろうが、この痛みこそ真木を初めて受け入れたという勲章だ。ディルドを買って慣らしてしまわなくて良かったと心から思った。
「全部、入った。……ルイの中、あったかくて、キツくて、天国、みたいだ」
掠れた吐息のような声で真木は言い、握り合っていない方の僕の手を取り結合部に導いた。
手は僕の尻と真木の腰の僅な隙間に差し入れられ、堅い陰茎が孔に入っていることを指で確認させられた。
「ン、すごい……ハァ……マキ、サキ、だ」
僕は感動のあまり、頭に浮かんだ言葉を口走っていた。
『マキサキ』とは、真木の木と木崎の木を重なり合わせた造語だ。
真木は昔、僕に『俺らの名字並べて書けばさ、木っていう字が重なってるから、一個でよくね』と言った。
くだらない子供の思い付きで何気なく言ったのであろう言葉が僕は嬉しくて常に重なっていたいと願った。
呪文のように心の中で何度も唱えた『真木崎』という言葉。
それで僕は精通し、そのことを後ろめたいと思っていた。
しかし僕と真木が繋がっている今の状況がまさしく『マキサキ』だと感じてしまい口から溢れ出た。
真木は絶対に覚えていないだろうし、何のことだかわからないこの言葉を聞き流してくれるだろうと思った。
しかし、真木は目を見開き驚いた顔で僕を見ていた。
「ホントに、覚えてんだな」
言葉の意味がわからず、僕は呆気に取られたがすぐに真木が腰を動かし始めた為、言及は出来なかった。
「ルイ、好きだ」
何度もそう言われ、腸壁をぬぷりぬぷりと擦られ、陰茎を扱かれる。心と体、全てが悦んで、すぐに吐精してしまった。
それを待っていたかのように真木は動きを少しだけ早め「いく」と告げたのち、倒れ込み僕に体を預けながら達した。
僕は中で真木自身がピクピクと震えているのを、真木の頭をしっかりと抱き込みながら感じた。
この世にこれ以上の幸福があるだろうか。
僕はこの人の為だったら何でも出来る。
充足感と幸福感で胸がいっぱいで、感謝の言葉を真木に伝えたかった。
しかし真木と自分の息が整うのを待っていたら先を越されてしまった。
「ルイ……俺を、好きになってくれて、ありがと、な」
「そんな、僕こそ、ありがとう、だよ。こんな日が来るなんて本当に信じられない。今、僕は最高に幸せだよ」
堅い髪質の毛を撫でると、真木は顔を上げた。
真木の瞳は潤んでいる。余韻を残しているような色っぽい顔にときめき、胸がきゅっと痛む。
見とれていると真木はボソッと何かを呟いた。
「え? ごめん、聞こえなかった」
「……マキサキ」
「あ…さっきの」
「ああ。俺、『マキサキ』のこと、ルイに伝えてないはずなのに。さっき、そう言われたから。俺も忘れてたし、記憶が戻ったルイもそのことは忘れてるんだろうな、って思ってたからビックリした」
『記憶喪失中の僕』は『マキサキ』のことを真木に話していたようだ。
「……忘れるはずないよ。言われた時、すごく嬉しかったし。その言葉が僕の心の支えになった時もあったし」
「そんな些細なことで……ホントにルイは、昔っから俺のことが好きだったんだな」
「……うん」
頷いたものの、満足げなニヤニヤ顔で見つめられると何だか無性に恥ずかしくなり、真木の頭を再度抱き込んで自分の顔を見られないようにした。
「おい、そんな可愛いことすんなよ。もう一回するぞ?」
冗談っぽい口調とは裏腹に僕の中に入っているものがグッと堅さを増した。
僕は「お願い」と甘ったれた声を上げた。
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