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怒り ◆ルイ

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尻を押し付けると孔に竿が直接触れ、それだけでじわりと涙が浮かぶほど感動した。

こういった妄想を今までに何度してきただろうか。
目を閉じ、誰に言うでもなく感謝の意を心で繰り返していると
胸の先に小さな痛みが走った。

真木は僕の両方の胸を指で摘まんでいた。

「入れたくなるから止めろって」

止めろと言うのに真木の指は先端を摘まんだまま、クリクリと刺激を送り続けてくる。
胸が痛くて気持ち良い。
それに真木に『入れたくなる』と言わせたことが誇らしくて切なくて、いてもたってもいられず真木のモノを体内に収めようと腰を浮かせた。
真木の硬い陰茎を掴み、角度を調整して自分の孔へと導いた。
つるりとした先端が密着する。
緊張で引き締まっている孔を深呼吸をしながらなるべく緩ませ、狙いを定め、腰を落とした。
しかし、既のところで真木に前方へと引き寄せられ体勢が崩れた。

もう少しだったのに何故止めるのかと恨めしい気持ちで抱き留められている胸から顔を起こすと、怒った顔の真木と目が合った。

つい最近、真木にこんな恐い顔をされたことがあった。だから、それがどういった感情を表しているのかわかった。

真木は僕を非難している。

【佳奈子ちゃん】のことで僕に怒り、その後に距離を取ろうと真木は言ってきた。その時の恐怖が甦り、血の気が引き頭と体の温度が下がった。

「何やってんだよ」

呆れたような声に、恐くて顔が見られず視線をそらした。それでも抱き締められた腕の強さに少しだけ勇気をもらって、返事をした。

「ま、真木、……お、怒らないで」


少しの沈黙ののち、真木は僕を抱き抱えながら上体を起こした。
さっきまで真木の硬いモノを感じていた尻が今は柔らかな布団の上にあった。
体も離れ、もう終わりと真木に告げられたようで酷く悲しい気持ちになった。

同意がないのに、入れようとしたのだから先程自分がしたことはレイプになるのかもしれない。怒られて当然だ。
気持ちが盛り上がってつい、なんて犯行理由は性犯罪者の常套句だろう。

泣きたくなって俯いていると、両脇に手が添えられた。
いつの間にか立ち上がっていた真木に、そのまま体を持ち上げられた。
少しだけ足が浮いて不安定さに思わず真木の首に腕を回すと、真木は僕の尻へと腕を回して抱き抱えた。
小さい子供がよく親にされる、抱っこ、の体勢になった。

「え、な、なに!?」

何事かと混乱する僕に真木は「よっこらせっと」という場にそぐわない掛け声を返した。

顔を見る限りはもう怒ってはいなそうだった。そのことには安堵したが、今の状況は理解できない。

真木が覚束ない足取りで向かったのは浴室だった。
入り口の折れ戸の真ん中を真木は足で押して開けた。

そこでやっと床に足が着いた。

「……何、するの?」
「何って、わかってるだろ? 後ろ向いて、壁に手、突けよ」

真木はシャワーを掴みヘッドを外している。

そこでやっと気付いた。
真木は、洗浄もせずに生で入れようとしていた僕に対して怒っていたのだと。
後先考えずに、ただ繋がりたい一心で僕はあんなことをしてしまった。
腸内洗浄を毎日のようにしていた為、今日に限ってしていないことがすっぽり頭から抜け落ちていた。

「ごめん、真木、僕、一人でやれるから」
「ダメだ」

真木はシャワーを渡してくれない。しかも洗い場の隅に置かれていたローションを何プッシュかして、シャワーのホースの先に塗りたくっている。

「それはヤダ、絶対。謝るから」
「謝ってもダメだ」
「真木、お願い」

僕が涙目になりながら懇願すると真木は、口をへの字にした。

「……お願いってそんな顔で言うのはズルいだろ。……俺だってさ、頭にきてんだよ」
「っ、ごめん」
「ルイはすぐ謝るけどさ、本当に俺の気持ち、わかってんのか?」
「わかってる。洗浄もしないでナマで入れようとしたから、だよね」
「は?」
「……違うの?」
「そりゃ、綺麗にしてからの方がいいとは思うけど、俺が怒ってんのはそこじゃねーよ」
「じゃあ、レイプ、だから?」
「え? 何言ってんの?」

真木は本気で意味がわからないという顔をしている。僕も他の理由がわからずに困惑した。

いつもなら、真木は僕に正解をすぐに教えてくれる。

それでも、なかなか教えてくれようとしないのは、もっと僕自身で考えて悩めという意味だ。
しかし、いくら考えてもダメなものはダメだった。

「……ごめん、真木が怒った理由、僕にはわからない」

降参すると、真木は溜め息を吐き、シャワーホースを床に置き浴槽の縁に腰をかけた。そして僕の腕を引っ張り隣に座らせた。
浴槽は小さく縁の幅も狭い。肩と肩が重なりあって、温かい体温が伝わってきた。それだけで赦されたような気持ちになり、落ち着いて話を聞くことができた。

「俺はさ、ルイとの初めてを、すげー大事に思ってんの。後で思い出して幸せな気持ちでニヤニヤするような初体験にしたいんだよ。……ルイは迷ってただろ? 俺の初めてをもらう資格がどうとか。だからルイが二ヶ月間のことを思い出すか、思い出せなくてもちゃんと心の整理ができるまで待とうと思ってた。昨日だって一昨日だって、ルイに触れたかったけど歯止めが利かなくなると思って、キスだけで我慢してさ、寝る時もムラムラして夜中に何度も一人で抜いて。なのに、あんなに雑に、ろくに解しもしてないで入れようとするとか、初体験を痔の思い出にする気かよって、頭にきた」

僕はたとえ尻が裂けても構わないと思っていた。
血で滑りが良くなれば、真木だって気持ちいいだろう、と。

真木は僕よりも僕を大事に思ってくれている。

何故さっき、真木が怒った理由を思い付けなかったのだろう。
人生の中で僕を一番大切に扱ってくれたのは真木だったのに。

「真木、ごめん」
「……いいよ、言ったらすっきりしたし。……それで、確認しときたいんだけど、気持ちの整理はついた、ってことでいいのか?」
「うん」

今の僕は、真木の元で二ヶ月間、愛情をもらいながら生活していた『僕』のことを、まるで子供時代の自分に向けるような感情で「良かったね」と言ってあげることができる。

『僕』は、僕の一部で、僕自身もきっと『僕』の一部。

そんな風に思えたから。


「そうか」

真木はそう言って嬉しそうに笑うと、隣に座る僕の頭を引き寄せ髪を撫でてくれた。

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