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棘 ◆ルイ

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愛しい男の愛しい部分をしゃぶりながら僕は夢心地だった。

勃起状態の真木の性器は見るのも初めてだった。それを触って、更に口に入れているなんてこの状況がいまだに信じられない。

しかも真木のモノはすごく堅くて熱かった。それに笠も大きい。
僕のよりも男らしさのある陰茎に胸がときめいて、形を脳にインプットしたくて唇や舌や喉奥で丹念に味わった。
すると、真木は「いいぞ」と僕の行動を肯定するように頭を撫でてくれた。

昼間の『ナデナデ』とは少し違う。

指先が耳やうなじを擽ってきたり、毛先をくるくると指で絡め取られて遊ばれたり。
行動に官能的な甘さを感じ酔いしれた。


真木から艶かしい吐息が聞こえ始めた。
僕の頭を撫でている手も余裕が無くなってきたのか心なしか力が入っているようだ。

僕が真木を気持ち良くさせている。

その事実に感動し、もっと気持ち良くさせたくて、しゃぶる動きを加速させた。
唾液で滑りを良くさせた唇で、吸い込みながら頭を振ると、じゅぶじゅぶと下品な音が鳴った。
それさえも気にせず必死に頭を動かしていると真木が苦しげに唸った。

「ルイ、っ、出るッ」

そう宣言された直後に、僕の中の真木はビクンビクンと震えた。
人肌の液体は喉奥めがけて勢い良く5度ほど飛んできた。
それをすべて受け止めて、陰茎を口に含んだまま何度かに分けて大事に飲みこんだ。

濃度の高いぷるりとした液体がゆっくりと食道を通り胃に収められてゆく。

僕は他に例えようのない幸福感に包まれ、嬉しくて真木に感謝を伝えたくなりモノを咥えたまま、顔を上げた。

荒い息を繰り返す真木と目が合う。
真木は僕の顔を見て一瞬目を見張ると、その後にじわじわと顔を紅潮させていった。そしてフイと視線を逸らされた。
真木にこんな態度を取られることは初めてで、変なことをしてしまったのかもしれないと不安を覚えた。
しかし、少し柔らかくなり始めていた口の中のモノがピクピクと動き出し、意識はそちらへと向いた。

陰茎は口の中で元の堅さを取り戻した。

もう一度あの幸福感を味わえるのかと、僕は喜び勇んでまたしゃぶり始めた。
頭上から僕を制するような真木の声がするが、止めたくなかった。

ずっとこのまま真木の体の一部を僕の体内に収めていたい。

そんな考えに囚われていると、後ろの孔がヒクヒクと収縮し疼き始めた。

堅くて熱いもので埋めてもらいたい。疼きは脳にまで浸透して口から溢れ落ちた。

「真木のッ、……入れてほしいッ」

欲望のままに懇願すると真木の体が僅かに震えた。

「っ、ダメ、だって。尻、痛むんだろ?」

ハスキーな真木の声がさらに掠れて、苦しげな吐息のように聞こえた。真木の感情の昂りを知り、また孔がヒクリと動いてしまった。

「全然、痛くない。平気、だから……僕の中に入って…お願い、真木を感じたい」
「……マジで、大丈夫なのかよ?」
「うん。大丈夫」

元より少し違和感があっただけで痛くなどない。何年もかけてここを弄ってきた。だから大丈夫か大丈夫でないかの判断は間違っていないはずだ。

真木は僕の顔を見て嘘を吐いていないことを感じ取ったのか、少し思案した後に口を開いた。

「……大丈夫なら、俺も、ルイと繋がりたい。……いいんだな?」
「うん。したい」

僕は準備してくると行って風呂に向かった。真木は手伝うかと聞いてくれたが断った。
『僕』は後ろの洗浄を真木にしてもらっていたのかもしれないが、僕には羞恥で耐えられそうになかった。

腸内洗浄は自慰をする為、何年も毎日のようにしており慣れたものだからすぐに処置が出来る。
さほど真木を待たせずに済むはずだが、それでもその短い間に萎えられてしまったらどうしようと気が気ではなかった。

準備を終え、全裸のまま風呂から真木の元へと向かうと、真木は労うように抱き締めてくれた。
ぴったり体を密着させると堅いモノが腹を押してきて萎えていなかったことに僕は心から安堵した。


ゆっくりと押し倒され布団に仰向けになると、真木は僕の顔を囲むように両手を着き、キスの雨を降らせてきた。

額、瞼、鼻の先、唇、と見せかけて顎に。次こそは唇、では無く頬。

フェイントに少し不服そうな顔をすると真木は笑って、今度こそ唇にキスをくれた。

啄むように何度もキスをした後はぎゅっと抱き締めてくれた。
真木の重みを感じるのは二度目だが、今は二人とも全裸で何も隔てるものは無い。
まるで二人で一つの塊のようだ。そんなことを考えた時、胸に小さな痛みが走った。
間違いなく幸福に包まれていたはずなのに、水を差すような痛みは、心に直にトゲを刺したかのように、消えて無くならない。

それでも、真木の手が動き出し体をまさぐられると体は大袈裟なほどに反応した。

胸の先を指で捏ねられ、片方は口に含まれ吸われる。

真木は胸の大きな女性が好きだ。

それなのに自分の筋肉さえもろくに付いていない貧相な胸を執拗に愛撫してくれている。
愛を感じ、胸が熱くなる。
その一方で、また胸がチクリと痛んだ。

やがて真木は僕の中心に触れた。先走りの汁が大量に出ていたようで、それを真木にまた指摘された。

「昨日より、びしゃびしゃだな」

――昨日より。

言葉はトゲになってまた一つ僕の心に痛みを残していった。

真木は『僕』と愛し合っている。

わかっていた。
『僕』と僕が違うことには気付いていた。
それでも一晩だけの夢を見させてもらうつもりだった。

しかし、真木の献身を身をもって感じ、虚しさと申し訳なさが痛みとなって降り積もっていった。


真木が好きになってくれた『僕』はもう存在しない。

ここにいるのは、真実も話さずに『僕』の恩恵を受け、抱いてもらおうとする汚い僕だけ。

それを思い知り愕然とした。



真木が僕のモノを口に含んだ。
快感に体は震えたが、小さなトゲが沢山刺さった心は熱くはならなかった。

真木の口の中で呆気なく達し、出した精液は真木の体内へと飲み込まれていった。

嬉しいはずなのに僕が『僕』じゃないせいで、真木に汚いものを口にさせたと感じ気持ちがグチャグチャになる。

真木は何かを僕に語りかけているが、言葉がなかなか頭に入ってこない。
ろくに返事も出来ずにいる僕を、感じ過ぎてぼんやりとしているのだと思った真木は優しい触れ合うだけのキスを何度もしてきた。

そしてキスの合間に僕に囁き掛けた。

短い途切れ途切れの言葉は、今度はしっかりと僕の頭の中に入ってきた。


「可愛い」
「好きだよ」
「……僕もって」
「言わねーの?」
「ま、いいや」
「今日は俺が」
「いっぱい言う日」
「好きだよルイ」

「大好きだ」

「俺の、ルイ」


甘く囁かれた言葉は、僕の頭のどこかにいる『僕』に届いているのだろうか。

聞こえているなら戻って来てほしい。そう思った。

しかし何度そう語り掛けても状況は変わらない。

胸が痛くて涙が溢れてきた。

僕の涙に気付き、キスを止め「どうした?」と心配そうに見つめてくる真木を見て、これ以上は欺くことが出来ないと観念した。
しかし真木の目を見ながら言うのは恐怖で自分の顔を隠して謝った。

「ごめんっ、僕、今朝から、記憶が戻っててっ、だから、真木の恋人の『僕』はもういなくなった。だっ、騙してて本当にごめん」
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