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一つのベッド ★真木

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「ルイ、大浴場あるみたいだけど、行くか?」

ポヨンポヨン遊びを終え、疲れたのかベッドで大の字で寝てたルイに声を掛けた。
ルイは大浴場と聞いてむくりと起き上がった。

「行くっ」

部屋のタオルを持って最上階にある大浴場に行くと、俺たち以外にも3人ほど先客がいた。
洗い場は6つ。タイル貼りの浴槽は10人くらいは入れそうな大きさだ。

体を洗ってさて入浴、という頃までに先客はいなくなってて、ルイと二人きりになった。

同時に浴槽に入ると、俺は窓の外に目をやった。まばらに光が散らばる駅前通りの夜景が見える。
ルイも同じ窓から外を覗こうとしたから、俺はそこから少し離れた。

でかい風呂には逃げ場がある。

あの日、――俺がルイを抱しめて色々触っちゃった日――以降、風呂の時はルイの裸を見ないようにしてた。
またヘンな気持ちにならないように。
それでも、アパートの狭い風呂だと目に入ってしまうことがある。慌てて目を瞑ってやり過ごしたりしてたけど、今日はそんな必要はない。こんなに広い浴槽だから視界に入れないことは容易いのだ。

久々にリラックスした気持ちで風呂に入ってる。

「ふぅ。でかい風呂はやっぱいいな」
「うん。気持ちいいね。……でも、ばーちゃんの銭湯も入りたかったな」
「老朽化じゃ仕方ない」
「……うん」

顔は見なくとも声でルイがどんな気持ちでいるのかわかる。

銭湯はルイにとっての想い出の場所だから(もちろん俺にとっても)ばーちゃんに会って、本当に閉業したことを確認して寂しい気持ちになってしまうのは仕方ないことだ。

こんな時、頭を撫でて慰めてやりたい。
けどルイに触れるのは極力避けなくちゃいけないから水面から出かけた自分の手を戻した。


ゆっくり風呂に浸かり部屋に戻ると、眠気が襲ってきた。
今日はいつもより早起きをしたから、早めに寝ることにしよう。
まだ10時だけど、ルイも眠そうな目をしてる。

明日は7時に起きようと決め部屋の電気を消した。

「真木君、寝ちゃった?」

ベッドに入って5分くらいだろうか?少し微睡みかけていた時ルイから話しかけられた。

「いや、まだ起きてる。どうした?」

暗闇に目が慣れたからベッドに横たわり俺の方を向いているルイの顔がぼんやりと見えた。

「あのね。今日は僕の為にありがとう、って言いたくて」
「交通費や宿泊代はルイの母さんが出してくれた生活費からだぞ? 俺は別に礼を言われるようなことやってねーって」
「ううん、お金のことじゃなくて、真木君は僕の為に色々考えて行動してくれてるでしょ? 貴重な時間も使ってくれてるし。……だから、ありがとう」
「別にいいって。これは俺がやりたくてやってることでもあるから」
「……そっか。……ねぇ、真木君、もう一つ言いたいことがあるんだけど」
「ん?」
「真木君がね、言われたくないってこと、僕、本当は気付いちゃってたんだけど、やっぱりどうしても口に出して言いたいんだ」

ルイはベッドから降りて俺のベッドの端に座った。そして暗闇でも表情がわかるくらいの距離まで顔を近付けて俺を見つめた。

言いたいことって?なんて聞き返さなくてもルイの表情で言いたいことがわかった。

「真木君が、好き」
「……何回も聞いたし、わかってるって」
「ううん。全然伝えきれてない。僕は真木君が大好き。真木君の周りを取り囲む全部が好き。それがね、今日ちゃんとわかった。……今日、友達に会う前はね、すごく不安だったんだ。友達とは言っても写真で見たことがあるだけの人たちと話すの。でも二人とも穏やかで優しくて人を笑わせることが得意で、雰囲気が真木君に似てて一緒にいて安心できた。ばーちゃんも変わらず優しくて温かかった。それが嬉しくて、真木君の近くにいる人ってなんでこんなに安心できるんだろうって考えた。……それってやっぱり真木君が優しい人だからなんだよね」
「……別に俺はそんなに優しい人間じゃねーよ。慈善活動だってしたことねーし。ルイは俺のこと過大評価し過ぎなんだよ」
「……もどかしい。もっと勉強すればちゃんと正しい言葉で真木君に想いを伝えられるのかな」

ルイはそう言うと俺の掛け布団を捲った。

「は? 何してんだよ、ルイ」

驚いて起き上がろうとしたけど、体を覆い被さられるようにぴったり抱きつかれてしまった。

「お願い。ちょっとだけこうしていたい」
「……ルイ」
「真木君が、好き。僕がどれだけ真木君のことが好きか、わかってほしい」

くっついた体は震えていて、拒絶することなんて出来なかった。

「やっぱり真木君は温かい。……僕ね、体にずっと違和感があったんだ。心と体のバランスが取れてないっていうか、自分だけど自分じゃないみたいな感じがして気持ちが悪かった。でもね、真木君が体の色んなとこ触ってくれた時があったでしょ? あの時、触れられた体が嬉しがってるのがわかったんだ。それでこれは本当に僕の体なんだって自覚が出来た。真木君の手のぬくもりで心と体が一つになれたんだよ。だから、お願い。僕にもっと真木君を感じさせて。真木君が僕に触れるのが駄目でも僕から触れるのならいいんでしょ?」
「……いや、ルイ」
「お願い。もう少しだけだから」

『お願い』はズルい。
ルイがこんなに言ってるんだからいいだろって自分の決めたルールについ甘くなってしまう。


ホテルのナイトウェア越しにもルイの鼓動が感じられる。
感じられるのは鼓動だけじゃない。
ルイの湿気を含んだ呼吸に、柔らかな髪の毛。
どれもじれったく俺の体を擽って、もどかしくなってもっとしっかり触れ合いたくなる。


もっと強く抱き合いたい。
抱きしめるだけで本当に済むのか?

素肌で触れ合いたい。
手を出したら友人には戻れなくなるぞ?


俺の葛藤を知ってか知らずか、「少しだけだから」なんて言った本人は俺の胸の中で寝息を立て始めた。

「ったく、無防備な寝顔晒しやがって」

少しだけ恨めしい気分になって、俺はついルイの鼻を突付いてしまった。

触れないように我慢してたのに。

あっさりルール違反を犯した俺は、天を仰いでため息を吐いた。

そして、形のいい額に唇を押し当てた。

「おやすみ、ルイ。……俺も、好きだよ」

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