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友人とばーちゃん ★真木

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共同生活終了まであと三週間。

俺は積極的にルイを外に連れ出すようにしていた。
勉強も大事だけど外に出るのも大事。
外出先は動物園や遊園地、図書館、博物館、あと観光地なんかも行った。

いずれもルイと以前行ったことがある場所だけど、今のルイには初めて行く場所だった。
でも以前行った場所ってことは秘密にした。ルイが「思い出さなきゃ」って焦っても可哀想だから。焦れば思い出せるものじゃないし、どうせなら楽しんでくれた方がいい。

結局何も思い出した様子は無かったけど、ルイは外出を純粋に楽しんでくれた。
俺も楽しくて、ただ二人で遊びに行った感じになった。
まぁ、医師が「いいことです」と言ってくれたから、これでいい。

色々な場所に行った結果、一つ発見があった。

記憶を失う前のルイと今のルイの、外出先での行動がそっくりだってこと。

今のルイの方が若干テンションが高いって違いはあるけど、興味を持つものと苦手なものが同じだった。遊園地でアトラクションを体験した後の感想なんかも一緒だった。
同じ人間なんだからそりゃそうだろ、って思うかもしれないけど、今のルイは以前のルイと違って、俺のことをカッコいいって言い出すような突飛な思考の持ち主なのに、そういうところは一緒なんだなって感動した。

思い起こせば食べ物の好みだって以前と一緒だし、割りと几帳面なとこも、笑いのツボだって基本同じだ。

違うのは俺に対する感情だけ。

そこだけイレギュラーなのは、ルイのせいじゃない。

小学校を卒業するまでのルイは俺以外に友人がいなくて、学校でも家でも俺くらいしか話す相手がいなかった。だから俺が大好きだった。
その時の感情のままのルイが、俺と二人きりで他の人間の影響を受けず短期間で精神を成長させていった。そして性欲が芽生えて、それを俺に向けるようになった。必然だ。
ルイ的には仕方の無いことで、受け入れそうになった俺が全部悪い。

だから、あと三週間で記憶が戻るように協力するのは勿論、出来るだけルイの交遊関係を広げる、……のは俺に甲斐性が無くて無理だから、せめて回復させてあげたいって思った。

まず初めに高校時代の友人二人に連絡を取ることにした。
卒業旅行のメンバーでもある二人は地元から近くの大学通ってて、元々、帰省がてら遊ぶ予定にはなってた。
でもルイがこんなことになって、帰省する予定だってメッセージを送ったきり何の連絡もしてなかった。

電話をしてルイの事情を話したら、すごく驚いてた。
俺だって以前は記憶喪失なんて小説の中の世界でしか知らなかった。驚くのも無理ない。

ルイはメッセージの返信がマメな方じゃない。だからメッセージのやり取りがなくても友人達は「またか」程度に思ってたらしい。それなのに、まさかの記憶喪失。
本当に驚いて、そして凄くルイを心配した。
「俺達がそっちに行こうか?」とも言ってくれた。
でも、ルイには俺のばーちゃんとも会ってもらいたかったから地元で会うことになった。

日程は一泊二日。
地元で友人二人に会って、夕方、俺のばーちゃんにも会って、ビジネスホテルに一泊して翌日は小学校と中学校を見学して帰ってくる。
一泊二日では短い気がするけど、ルイの精神的なストレスを考慮した結果だ。



当日、ルイは明らかに緊張してた。新幹線の中でも言葉が少なかった。
二人とは高校からの付き合いだから、今のルイにとっては全く面識の無い人間だ。人見知りでなくとも、緊張はするだろう。

それでも、何か思い出せるかもしれないとルイは勇気を出して会いに来た。

しかし、結果から言えばルイは友人を見て、会話をしても何も思い出せなかった。

友人達には、今回は記憶を取り戻す云々は抜きにして、今のルイに会って普通に話をしてほしい、という旨は伝えていた。
だからルイが何も思い出した様子がなくても、落胆したりはせずに場を盛り上げてくれた。

その甲斐あって、初めこそよそよそしく、何も思い出せないことに少し焦りを見せていたルイだったが、高校時代の話を色々聞いたり、くだらないギャグを言われるうちに警戒心を解いていった。楽しそうに皆と一緒に笑い、会話をすることもできた。昔みたいに。


最後は「また遊ぼうぜ」とか「メッセージの返信よこせよな」なんて、普通の友人同士がする会話をして別れた。
昼食を含めた4時間ほどの時間は俺的にはあっという間だった。
ルイも楽しめていたように思う。今の表情は柔らかくて、新幹線の中での緊張した顔とは全然違ってるから。


ルイに疲れてないかと確認して大丈夫そうだったから、次はばーちゃんの家に行った。

ばーちゃんのことはルイは覚えてる。

ばーちゃんのやってた銭湯が閉業するまで、――中学二年の頃まで、ほぼ毎日、俺と一緒に通ってたから。

子供時代の俺とルイはタダで銭湯の風呂に入らせてもらう代わりに、仕事の手伝いをしてた。
手伝いと言っても男風呂の脱衣室の床のモップがけとか、脱衣かごの整頓とかロッカーの拭き掃除とか、子供二人でやって15分とかからない、ちょこっとした雑用だった。
それが終わるとばーちゃんは決まって俺らの頭を「助かったよ」と言って撫でてお菓子をくれていた。

ルイにとっては"自分に優しくしてくれた大人"という認識がある。

だから、ばーちゃんにも会いに来た。
10歳あたりまでの記憶しかないルイが『会いたい』もしくは『会ってもいい』と思える数少ない人物の一人だから。



会うなりばーちゃんはルイを見て抱きついた。泣きながら「大変だったね」って背中をぽんぽんと撫でて。
ルイも「ばーちゃん、年取っちゃったね。元気だった? 銭湯やめちゃったって、本当?」と声を詰まらせながら聞いてた。
感動的な場面に俺もつられて泣きそうになったのは秘密だ。

ばーちゃんは夕食の用意をしてくれてて、同居してる娘(俺の叔母さん)夫婦と一緒に5人でご馳走になった。

ばーちゃんに泊まっていってと言われたけど、ビジネスホテルを予約してるからと言って夜の8時頃にばーちゃんの家を出た。

ホテルまでは叔母さんが車で送ってくれた。


ホテルはツインベッドルームの部屋を予約していた。チェックインを済ませて部屋に入るとルイは「すごい」と喜び、ベッドに飛び込んだ。スプリングが反発してポヨンと少しだけ体が浮くのが楽しいらしく何度か繰り返した。

ルイはベッドで寝るのが初体験のようだ。

そう言えば以前、中学校の修学旅行でベッドの部屋に二人で泊まることがあって、そん時もルイは同じように飛び込んでた。

懐かしい思い出に頬を緩ませながら自分の荷物とルイの荷物を置いて、夜食に食べなさいとばーちゃんに持たされたおにぎりを冷蔵庫に入れた。
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