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成長 ★真木

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「真木君、好きー」

ルイは大学へ行った日以降、俺にちょくちょく『好き』を伝えてくるようになった。

それはもう、おはようやおやすみの挨拶並みに気安く。

言われる度に俺は「わかったわかった」とか「知ってるし」って返事すんだけど、それを聞いたルイは無邪気な顔をして笑う。

『好き』と言われて内心ドキドキして、その後に無邪気な笑顔を見せられて、ちょっとだけ邪な気分になってしまったことを反省する。それの繰り返し。

ルイの『好き』はそういう意味じゃない。その証拠に過去、子供の頃のルイからもよく好きって言われてた。

ルイが俺を『好き』って言う理由は、はっきりしてる。

愛情不足で育った子供だったから。

ルイの家庭環境は複雑だった。

両親の離婚後、ルイは母親に引き取られたが、すぐに母親は自分の父親にルイを預けた。
ルイの祖父は耳も遠く、良く言えば昔気質の人で厳しく、ルイにあまり構ってくれなかった。
人と接することが少ない為、コミュニケーション能力が極端に低い子供だった。

当時子供だった俺は、そんな事情もわかってなくて、ただルイが寂しそうにしてるから時間の許す限り一緒に居て、よく構った。
そんな相手おれに依存して『好き』と言うのは子供の行動として正しい。
そして現在、また同じことを繰り返してる。

確か中学に上がる頃まで、ルイは俺のことを好き好き言ってた気がするから、こんな状況もルイの精神年齢が上がる?戻る?までのことだろうって思った。


それも何かちょっと寂しいな。



――なんて、そんなことを思ってた時期が俺にもありました。


ルイの精神は日に日に成長した。
毎日一緒にいる俺でさえ、その変化にハッとさせられるくらいに。

同居1ヶ月を過ぎると、子供っぽい口調も抜けて、会話をする時に長文がするすると出てくるようになった。
定期検査で病院に言っても恐いと言わなくなったし、医師とも普通に話せてる。態度も落ち着いてるし、俺との勉強中も積極的に、しかも鋭い質問をしてくるようになった。
コンビニやスーパーにも一人でも行っている。

自分が置かれている状況、――記憶喪失である、ということも、よく理解してるようだ。

医師が言ってた『肉体に精神が追い付くのはそう難しいことではない』って言葉は本当だったみたいだ。

このペースだと夏休みが終わるまでに、本当の精神年齢に近付けるかもしれない。

――でも、やっぱり風呂は一緒に入りたがるし、相変わらず俺に『好き』って言ってくるんだよな……。これは想定外だ。


大人ならではのオンとオフの切り替えを身に付け、真面目な時は真面目に、でも、甘える時は思いっきりルイは俺に甘えてくる。

「本当に真木君が好き」
「ずっと僕の真木君でいてね」
「はい、これ、コンビニで買ってきたから食べて。真木君、好きだったよね? 僕はこれを食べてる時の幸せそうな顔の真木君が好き」

非モテは勘違い男になりやすい。
ルイ相手でも、勃つかもしれないな、なんて最低なことも頭を過ったりする。



そして、ルイの精神が成長すれば下半身事情も変わってくるわけで……。

今までのルイは朝勃ちをしても、出さないで治めることが出来てた。ただの生理現象だったから。
けど、精神年齢が上がり、そういった本能的な欲を感じるようになった。

所謂エロい気分になる、というヤツだ。

切羽詰まった感じで、どうしたらいいのか相談されて、取り敢えず水着の女の子の画像を検索してやって、それ見ながら抜いてこいとトイレに送り込んだ。

けど、なかなかトイレから出てこない。もう30分も経ってる。

おかしい。

謂わばルイはオナ禁1ヶ月の状態だ。
健全な男子なら、というか俺なら5分も持たないだろう。

をもう少し過激なものにしてやるべきか迷って、トイレの前まで言って扉越しに声を掛けた。

「ルイ?」
「っ、真木君」
「出たか?」
「出ない。真木君、出したいのに、出せなくて苦しいよ」
「マジか。画像、おっぱい映ってるヤツにしたらイケそうか?」
「……無理、っ、さっきの画像も、見てると、嫌な気分になったからもう見てない」

ルイの好みじゃなかったみたいだ。

「じゃ、どんな女の子がいい? さっきは俺の好みでおっぱい大きい子にしちゃったから、もっとほっそりした子がいいか?」
「…………」
「……ルイ?」
「っ、イケそうかも。真木君っ、お願い、応援して」

オナニーの応援って、そんなモンしたことないぞ。

「が、頑張れ、ルイ」

「んっ、僕の名前、もっと呼んで」
「へっ? ……る、ルイ…? ルイ、るいくーん?」
「ンアッ、早く出せよ、って命令、してほしいっ」

マ ジ か 。

「お願いっ、真木君。僕、ほんと、もう、苦しい」

啜り泣き懇願するようなルイの声と、竿を擦るくちゅくちゅとした湿り気のある音。臨場感溢れるエロい雰囲気に飲まれた俺は言われた通りにした。

「わ、わかった。……る、ルイ?早く出しちゃえよ、……出せって、ルイ」
「ア、出るっ、っ、―――ンッッ」

ルイは切なく喘いで、その後はハァハァと荒い息をする音しか聞こえなくなった。

「……落ち着いたら、外に飯、食いに行こうぜ。俺、自分の部屋で着替えてくるから」
「……」
「ルイ? 聞こえてるか?」
「あ、……うん。わかった」


俺はルイがトイレから出てくる前に隣の自分の部屋に駆け込んだ。

――半勃起。

さっきルイに言ったことの本音は、
『(俺の半勃起が)落ち着いたら、(二人っきりだとヤバい雰囲気になりそうだから)外に飯、食いに行こうぜ。俺、自分の部屋で着替えて(反省して)くるから』


これ以降、ルイとの共同生活は俺の理性との戦いの場になった。
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