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姉さまは僕を捨てるのですか

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クロードは、わたくしのネグリジェ越しの胸の上に、手を置きました。

あまりのことにわたくしは体が一瞬、動かなくなってしまいました。でも、クロードをやめさせなくてはいけません。

「クロード、胸は触らない約束でしょう。」

早く手を避けてほしいです。恥ずかしくて胸がドキドキしているのです。

「先程、姉さまは、起きている時は触っていいと、約束してくれたではないですか。」

そんなこと、言っていません。曲解です。

クロードはわたくしの胸をふにふにと揉みながら、幸せそうに谷間に顔を埋めています。

その顔はとても可愛らしくて、陶器のような肌が紅潮してピンクになっています。

なんて愛らしい。お人形のようです。天使にもお人形にも勝るとも劣らないクロードに、自分の置かれている立場を忘れて、見入ってしまいました。気が付くとクロードの頭をわたくしは撫でていました。それに対して彼はうっとりと目を細めました。

そういえば昔はこうやってよく頭を撫でてあげました。クロードはわたくしに褒められるのが好きなようでしたので、勉強や馬術など頑張った時には、わたくしの膝の上に彼の頭を乗せ、よしよしと撫でてあげたものでした。懐かしいです。でもあの時よりクロードは髄分大きくなりました。背もわたくしより高くなりましたし、何より力が強くなりました。伯爵家を出る時、彼はわたくしを軽々と持ち上げました。

「……もう、小さな子どもではないのね。」

わたくしは何だか寂しいような、嬉しいような気分になり独り言を呟きました。

クロードは、胸から頭を上げました。

「はい。僕は姉さまの夫になるのですから。」

わたくしは、耳を疑ってしまいました。

彼は確かにこのお腹の子の父かもしれません。けれど弟なのです。夫にはなり得ません。

「クロード、わたくしたちはきょうだいなのですよ。夫婦にはなれないのです。」

「姉さまは僕がお嫌いなのですか?」

クロードはとても悲しげな顔をしています。わたくしまで胸が締め付けられるようです。

「わたくしがクロードを嫌いなわけが、ないでありませんか。」

とても大事で、大好きで愛しい弟です。物心ついたころから一緒にいるのですから。

「ユーリオン様より、僕の方が好きですか?」

ユーリオン様とクロードのどちらが好きかなんて、比べたことはありません。難しい質問です。

わたくしが返答に困り、黙っていましたら、クロードはその深い青の瞳から涙をポロポロと溢しました。

「ユーリオン様は弟の子を宿した姉さまを、受け入れてはくれないと思います。」

ええ、そうだと思います。ユーリオン様はとても穏やかなお方ですが、さすがにこれは許してはいただけないでしょう。わたくしも合わせる顔がありません。

せめてユーリオン様には他の誰かと幸せになっていただきたい。今となってはそう願うことしかできません。

「姉さまは、僕とずっと一緒にいるしか選択肢はないのですよ。」

そうなのかもしれません。でもずっとは一緒にいられないのです。

「いいえ。それはいけません。……そうですね、このお腹の子が歩けるくらいにまで成長したら、貴方は伯爵家に帰るのです。」

クロードはお兄様を支え、伯爵家を守っていかなくてはいけません。子の父が自分であることを言わずに、可哀想な姉を、ただ逃がしてあげただけなら、お父様も突然いなくなったクロードを許してくれるはずです。

「姉さまは僕を捨てるのですか?」

わたくしはクロードの頬に伝う涙を、手で拭いながら微笑みます。

「わたくしは姉です。弟を、捨てたりなどいたしません。ただ、少し離れて生活するだけです。」

クロードには、素敵なお嫁さんが来てくれるはずです。きっと幸せな家庭を築けるでしょう。

「っ、同じことでは、ありませんかっ。」

そうでしょうか。わたくしはクロードの幸せを、離れていても毎日願うはずです。

「…僕はずっと、愚かにも夢を見ていました。大好きな姉さまと結婚式を挙げ、素敵な初夜を迎える夢を、です。」

クロードは震えています。頬に置いた手からそれが伝わってきました。

「ですから、姉さまの純潔を守ったのです。」

そうだったのですか。そういう想いがあったのですね。

何をもって純潔とするかはさて置き、クロードは懐妊のこと以外は、普通の夫婦が歩むべき道を辿りたかった、ということなのでしょう。

そこまで強く想われていると感じることが出来たのは、とても嬉しい気がします。でもそれに、わたくしは応えてはいけないのです。いくら弟に甘いわたくしでも、それくらいは分別がつきます。

「わたくしはクロードを弟として愛しているのです。ですから伯爵家で幸せになってもらいたいのです。わかりますね?」

わたくしは、諭すように優しく語りかけました。

「わかりませんっ。好きで弟に生れたわけではありませんから。僕がユーリオン様だったなら、何度そう夢見たかわかりません。あの方は家柄だけで姉さまと一緒にいることを約束されていました。けれど弟の僕には姉さまと離れる未来しか無かった。だから姉さまを孕ませたのです。世間から身を隠しながら寄り添って、ずっとずっと一緒にいられるように。」

「…………。」

クロードがそこまで思い詰めてしまっていたなんて、今まで全く気が付きませんでした。わたくしがもう少し早く彼の苦しみに気付いてあげられていれば、二人とも納得できる答えを探すことができたのかもしれません。

感情が昂ってしまっているクロードを、今、説得するのは難しいのかもしれません。子が産まれ歩けるようになるのはまだまだ先です。後でゆっくりと説得した方がいいのかもしれません。

「このことは、また後でお話しましょう。今日はもう遅いので寝ましょう。」

しかしクロードは頷きませんでした。

「姉さまは、知らないかもしれませんが、姉さまのお体は僕無しではいられないはずなのです。」

――どういう意味でしょうか。

クロードはネグリジェの前を両手で掴み、一気に力を入れそれを開きました。ボタンが全て飛び、下着一枚になった体が露になります。

「起きている姉さまに、教えて差し上げます。姉さまがどれだけ僕を求めているかを。」
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