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ウェルカム【完】
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私たちはそうやってしばらく抱き合っていたのだけれど、通行人が現れて気恥ずかしくなってしまって離れた。
でもまだ一緒に居たかった。
「長谷川くんの部屋に行ってもいい?」
「だ、ダメ!」
「あ、…ごめん、なさい。私のことふしだらな女だと思ったよね。忘れて。」
「違う!そんなこと思ってない。ただ…。」
「ただ?」
「部屋が、散らかってて…。」
「何だそんなこと?気にしないよ。て言うか、部屋が散らかってくれてた方が安心する。同じ人間なんだなって。長谷川くん完璧過ぎるから。…でも、長谷川くんが嫌なら今日は帰る。ごめんね、困らせて。」
「困ってないし、俺は完璧なんかじゃない。」
「そう、なの?じゃあそういうところ私に見せてくれたら嬉しいな。」
「……俺の残念なところを見たらそんなこと言えなくなるよ。」
不安そうな顔で見つめられて、最悪の事態を考えた。
「隠し妻が、いるとか?」
「そういうことじゃ、ない。……俺、あの、何て言えばいいんだろう、ぜ、ゼロ、だから。」
「ゼロ?」
「俺、高一から真由のこと好きだって言ったよね。」
「うん。」
「一筋だから。誰とも、……キス、もしたことない、から。」
「嘘!?」
「……引いた?」
「う、ううん。凄く嬉しい。」
「なら、良かった。」
会っていない間も私だけを好きでいてくれたなんて信じられないくらい嬉しい。
でも益々自分じゃ長谷川くんに相応しくない気がしてきた。
だから、早めに残念なところを教えて欲しかった。
「あとね、長谷川くんがどんな残念な人でも私は嫌いになったりしないから。むしろ長谷川くんが普通に欠点のある人間だってこと、私に教えてほしいくらい。」
「俺のは普通の欠点じゃない、かも。」
「犯罪?」
「違う、はず、…たぶん。」
「じゃあ、大丈夫だよ。」
「……じゃあ、見せる。俺の部屋に来てくれる?」
部屋の前でもう一度、絶対に嫌いになったりしないかを確認され、頷くと神妙な面持ちで鍵を開けた。玄関にはやっぱりさっき見たブーツがあった。
これが残念なところに関係するのだろうかと、観察してみる。
ブーツはベージュのショートブーツで、新品のように見える。どんな服にも合わせやすそうで、一部にもこもこのファーがついていてそれが可愛らしさを演出している。何もおかしなところがない履きやすそうなブーツだった。
「それ、去年のクリスマスプレゼント。」
「誰かに貰ったの?」
「違う、俺が真由に買ったクリスマスプレゼント。」
「え!?私の?」
「そう。そういう、設定。」
「せ、設定?」
「うん。取り敢えず中に入って。」
もこもこのピンクのスリッパを履かされて短い廊下を歩いた。
どうして女の子用のスリッパがあるのかを聞こうと思ったけれど、女もののブーツがあるのだからスリッパも同じ理由なのだろうと聞かなかった。
「うん。可愛い想像の10倍は可愛い。」
長谷川くんは私を足元から頭までゆっくり見た後にそう言った。
「あ、ありがと。」
「入って。」
通されたのはリビング(LDK)で、散らかってなんていなくて、全体的に可愛らしくて女の子の部屋のようだった。
ソファーに座るように言われて、とうとう秘密を聞かせてくれるのかと思っていたら、長谷川くんはテーブルの上にラッピングされた小さな箱と紙袋に入った何かを置いた。
「こっちはチョコで、こっちはマフラー。」
「誰かに貰ったの?」
「どっちも俺が作った。」
「……見てもいい?」
紙袋から出てきたのはネイビーのマフラーだった。編み目は揃っていてとても丁寧に仕上がっていた。そして端の方にクリーム色の毛糸で『A.H』と入っている。
長谷川くんのイニシャル?
イニシャル入りなんて、何と言えばいいのか、随分古風なタイプ、の手編みマフラーだ。
何気なくもう片方の端っこを見ると同じクリーム色の毛糸で『M A Y U』。
まゆ?
私が長谷川くんの顔を見ると、彼は無言で小箱のラッピングを剥いだ。中に入っていたのは手作りなのだろうか、生チョコレート、と、メッセージカード。
『長谷川くんへ
マフラー、長谷川くんに
バレないように編むの
大変だったんだよ
大事に使ってね☆
真由より』
――真由?
メッセージカードの筆跡は私のものと似ている。でも、もちろん書いた覚えはない。
「こういうことだから。」
「ど、どどどういうこと!?」
「…………俺は真由と同棲してるんだ。」
「同棲…?」
「って、いう設定。」
「……一応聞くけど、真由って、私なんだよね?」
「うん。」
「い、いつから同棲してるの?」
「同棲は去年のクリスマスから。付き合ったのは一昨年の俺の誕生日の8月21日。真由がこの日に告白の返事をくれたから、だから毎月21日は記念日。」
そう言い、指差した先には卓上カレンダーがあって、21日がピンクのハートで囲まれていた。
「っていう設定?」
「そう。」
この部屋で私と長谷川くんが同棲かぁ、と、もちろん同棲なんてしてないけど感慨深くなって室内を見渡してしまった。
メイク落としシート、お揃いのマグカップ、ディ○ニーキャラクターのぬいぐるみ。あれはクリスマスに使ったのだろうか少しだけ使われたキャンドルがある。
同棲経験がないからよく分からないけれど、多分カップルが一緒に住んだらこんな部屋、みたいなイメージだった。
「……俺のこと、気持ち悪いと思った?」
「正直に言っていい?」
「……うん。」
不安そうに私を見る長谷川くんに『大丈夫だよ』の意味で微笑みかけた。
「全然、気持ち悪くない。ていうか健気で愛おしいなって思った。でも、真由ちゃんの女子力高すぎて、私でいいのか心配。」
長谷川くんは私の言葉を聞くと、くしゃりと顔を泣きそうに歪ませて、首をぶんぶんと横に振った。そしてソファーに座る私を横から抱き締めてくれた。
「女子力なんてなくていい。真由が、生身の真由がいい。本物の真由のぬくもりを知ったら、妄想するだけなんて耐えられない。」
「私、こんなに長谷川くんに好かれてるなんて知らなかったから、凄く嬉しい。残念なところ、教えてくれてありがとう。」
泣きそうに喉を詰まらせた長谷川くんが私の名前を呼んで、私がそれに返事をするということを何度か繰り返した。
「夢でも妄想でもない真由がこの部屋にいるなんて信じられない。」
「ふふ。私も今日長谷川くんの部屋に入ることになるなんて思ってもみなかった。しかも終電逃しちゃったし。」
「え?あ、もうこんな時間かよ。……と、泊まってく?」
赤い顔でごくりと息を飲んだ長谷川くんをなんだかとっても身近に感じて、これまでだったら言えないようなことも口から滑り出してしまう。
「うん。もっと、朝まで一緒にいたい。」
着替えたいと言ったら、パーカーの付いたもこもこのワンピースタイプのルームウェアを渡された。
長谷川くんはもこもこがお好きなようだ。
着替えをするために寝室に入らせてもらうと、セミダブルのベッドが目に入る。枕が2つ横に並べてある。あれの片方は多分私用だ、そう思うと脈拍が急上昇した。
「お風呂どうぞ。あと、よかったらこれ。」
コンビニで売っているようなショーツ(新品・未開封)を渡された。
「……あ、ありがとう。」
「去年、花火見に行った日に急に雨に降られちゃって、真由も俺も全身ずぶ濡れになった時に着替え用に買ったやつだから。」
「……っていう設定ね。」
「そう。」
これは多分、人によっては『お巡りさんコイツです』って案件のような気がする。
でも、私はちょっと楽しい気分になってきていた。一体どんな設定の話が飛び出すのかわくわくしてさえいた。
自分が主人公のお伽噺を、好きな人に読んで聞かせてもらっている、そんな気分だった。パンツはちょっと恥ずかしかったけど。
「お風呂、ありがとう。」
当たり前のように置いてあった私専用の歯ブラシやボディータオル、化粧水などを使わせてもらった。
「うん。もう寝る?真由がベッド使っていいよ。俺はソファーで寝るから。」
「……もっと長谷川くんと話がしたいんだけど、…一緒に、寝ちゃ、ダメ?」
「っ、ダメ。俺は確かに童貞だけど、手を出さないなんて約束出来ないから。」
「ん、長谷川くんが嫌なら、我慢するね。」
「真由、その言い方はずるい。…ずるくてめちゃくちゃ可愛いっ。はぁ。ねぇ、俺の理性壊すつもりなの?……恐るべし生身。」
興奮してぶつぶつと喋る長谷川くんが可愛くて、もっと困らせたくなってしまう。
「妄想の真由ちゃんとは一緒に寝たことあるんだよね?私はダメなの?真由ちゃんだけいいなぁ。」
「……く…真由、拗らせた童貞を煽ると大変な目に合うよ?」
長谷川くんの瞳は熱を孕んでいてまるで飢えた獣のようだった。
彼に貪られたい。
本能的にそう思った。
「合いたいの、大変な目に。」
「っ。」
長谷川くんは私を横抱きにし、リビングから寝室に続く扉を足で開けた。
ベッドの上に私を降ろすと、噛みつくようにキスをしてきた。
「真由っ、唇やわらかいっ。ずっとずっと、ん、触れたかった。っ、真由っ。」
「はせが、わくん。もっと、食べて私の唇っ。口の中まで犯してっ。」
「犯して、やるよ、全部、真由の全部、っ、俺のもんだっ。」
長谷川くんの舌は私の歯列を奥まで執拗に舐めた。しばらくそうした後に唇を離し、私にしゃぶらせるように指を奥まで差し込んできた。
唾液にまみれ抜き差しされる指を『美味しい』と言いながらしゃぶる。ちゅぷちゅぷと水音が響いて、それがより一層私を淫らな気持ちにさせた。
やがて、唾液でぬるぬるになった指は口から引き抜かれ、首筋をぬるぬるとなぞっていった。
「は、ぁん。」
「首も、感じるの?真由すごくいやらしい顔してる。はぁ、っ、こんな顔、するんだな。愛しすぎて頭、おかしくなりそう。」
「ん、もっと、触ってぇ。キスもしてっ、色んなとこにっ。長谷川くんに、ぁあっ、いっぱい触れられたいっ。」
ワンピースタイプの部屋着の下の方から手が入ってくる。そして剥ぎ取られるように脱がされた。
「……!!の、ノーブラ!」
「ん、寝るときはブラ、しないから。」
「なんて童貞に優しい設定っ。」
「設定じゃ、ないよぅ。ほんとのこと、だもん。」
「うぅっ。ヤバすぎ。生身最高。真由っ、最高。」
むにゅっと両胸を掴まれて柔らかさを堪能するように揉まれる。手の平の中の胸の先端が少しずつ触れて、快感を拾い上げ起ち上がってくるのが自分でも分かった。
「はぁっ、真由のおっぱい、凄く可愛いっ。ふにゅふにゅなのに、ここは固くなってて、食べてって言ってるみたいだ。」
「うん。食べてって言っ、あああっ、ん、ふぅ、ん、気持ちいいっ、長谷川くんの舌、すっごく気持ちいいっ。」
「俺も、っ、何か舐めてるだけで、ん、いっちゃいそう、ふ、なくらい気持ち、いいっ。美味しいっ、美味しいよ、真由っ。何にも出てきてないのに美味しいっ。はぁ、真由、もっともっと俺におっぱいちょうだいっ。そんで、何年後かにっ、ホントにミルク、むぐ、飲ませてっ。」
「んああっ、うんっ。約束っ、するっ。…ぁあんっ。」
左手を胸に残したまま右手が下腹部に伸びていき、すっかりぬかるんでいる合わせ目に到達した。そこでも襞の柔らかさを堪能するようにもどかしいくらいに優しく触れられる。
「凄い、濡れてる。…てらてらだ。ピンクで光ってて、…すっごい、うまそう。中開いて見てもいい?」
「やっ、見ないでっ、恥ずかしいからっ。あっ、だめっ、だめって言ったのにぃ、っん。」
「ごめんっ、我慢出来なくてっ。うねってて、凄くやらしい。ここっていつもそうなの?」
「っ、違っ、気持ち、良くなっちゃって。」
「見られて気持ちいいの?じゃ、いっぱい見てあげるっ。」
「ひん、そんなに顔くっつけちゃ、だめっ、や、やっ、舐めちゃだめぇ。だめなのにぃっ。んっぁあっ。」
「はぁ、えっちな汁、中からどんどん出てくるっ、ちょっと酸っぱくて、ふぅ、美味しい。ん、これが、ちゅ、真由の、ふ、味、なんだねっ。これで真由さん菌飲料、作って、ちゅぷ、毎日、ん、大学に行く前に、飲みたいっ。」
「もうだめっ、もうだめっ、へんなこと言わないでっ、…あ、あ、そこっ、だめ、だめっ、クリ、鼻でぐりぐりしちゃだめっ、も、ああ、っ、ん、…ンァアアアアーーッ…ひ、ん、っ。」
「真由?…真由いったの!?俺の舌が気持ち良くていっちゃったの?ああー、ほんと可愛い。愛しくて萌え死ぬ。はぁ、もう俺、限界かもっ、真由、いい?」
「ふ、…ん、……わたしも、はせがわくんが、ほしぃ。」
「真由っ、真由っ、まゆーーっ。」
その後、長谷川くんは何度も爆発した。
「ごめん、がっついちゃって。体、大丈夫?」
腕枕をされて、頭を撫でられて一気に眠気が襲ってくる。
「うん。大丈夫。でも、もう瞼がくっついちゃいそう。」
「寝顔見ててもいい?」
「涎とか出てたら嫌だからだめ。」
「大丈夫だよ。ちゃんと舐めてあげるから。」
「ふふ、長谷川くんも早めに寝るんだよ。」
「うん。……真由、大好きだよ。」
「うん。私も。」
――だいすき、長谷川くん。
私だけを大事にしてくれない恋人と別れたら、ちょっと残念だけど、私だけを一途に愛してくれる素敵な彼氏が出来ました。
おしまい
番外編へ続く
でもまだ一緒に居たかった。
「長谷川くんの部屋に行ってもいい?」
「だ、ダメ!」
「あ、…ごめん、なさい。私のことふしだらな女だと思ったよね。忘れて。」
「違う!そんなこと思ってない。ただ…。」
「ただ?」
「部屋が、散らかってて…。」
「何だそんなこと?気にしないよ。て言うか、部屋が散らかってくれてた方が安心する。同じ人間なんだなって。長谷川くん完璧過ぎるから。…でも、長谷川くんが嫌なら今日は帰る。ごめんね、困らせて。」
「困ってないし、俺は完璧なんかじゃない。」
「そう、なの?じゃあそういうところ私に見せてくれたら嬉しいな。」
「……俺の残念なところを見たらそんなこと言えなくなるよ。」
不安そうな顔で見つめられて、最悪の事態を考えた。
「隠し妻が、いるとか?」
「そういうことじゃ、ない。……俺、あの、何て言えばいいんだろう、ぜ、ゼロ、だから。」
「ゼロ?」
「俺、高一から真由のこと好きだって言ったよね。」
「うん。」
「一筋だから。誰とも、……キス、もしたことない、から。」
「嘘!?」
「……引いた?」
「う、ううん。凄く嬉しい。」
「なら、良かった。」
会っていない間も私だけを好きでいてくれたなんて信じられないくらい嬉しい。
でも益々自分じゃ長谷川くんに相応しくない気がしてきた。
だから、早めに残念なところを教えて欲しかった。
「あとね、長谷川くんがどんな残念な人でも私は嫌いになったりしないから。むしろ長谷川くんが普通に欠点のある人間だってこと、私に教えてほしいくらい。」
「俺のは普通の欠点じゃない、かも。」
「犯罪?」
「違う、はず、…たぶん。」
「じゃあ、大丈夫だよ。」
「……じゃあ、見せる。俺の部屋に来てくれる?」
部屋の前でもう一度、絶対に嫌いになったりしないかを確認され、頷くと神妙な面持ちで鍵を開けた。玄関にはやっぱりさっき見たブーツがあった。
これが残念なところに関係するのだろうかと、観察してみる。
ブーツはベージュのショートブーツで、新品のように見える。どんな服にも合わせやすそうで、一部にもこもこのファーがついていてそれが可愛らしさを演出している。何もおかしなところがない履きやすそうなブーツだった。
「それ、去年のクリスマスプレゼント。」
「誰かに貰ったの?」
「違う、俺が真由に買ったクリスマスプレゼント。」
「え!?私の?」
「そう。そういう、設定。」
「せ、設定?」
「うん。取り敢えず中に入って。」
もこもこのピンクのスリッパを履かされて短い廊下を歩いた。
どうして女の子用のスリッパがあるのかを聞こうと思ったけれど、女もののブーツがあるのだからスリッパも同じ理由なのだろうと聞かなかった。
「うん。可愛い想像の10倍は可愛い。」
長谷川くんは私を足元から頭までゆっくり見た後にそう言った。
「あ、ありがと。」
「入って。」
通されたのはリビング(LDK)で、散らかってなんていなくて、全体的に可愛らしくて女の子の部屋のようだった。
ソファーに座るように言われて、とうとう秘密を聞かせてくれるのかと思っていたら、長谷川くんはテーブルの上にラッピングされた小さな箱と紙袋に入った何かを置いた。
「こっちはチョコで、こっちはマフラー。」
「誰かに貰ったの?」
「どっちも俺が作った。」
「……見てもいい?」
紙袋から出てきたのはネイビーのマフラーだった。編み目は揃っていてとても丁寧に仕上がっていた。そして端の方にクリーム色の毛糸で『A.H』と入っている。
長谷川くんのイニシャル?
イニシャル入りなんて、何と言えばいいのか、随分古風なタイプ、の手編みマフラーだ。
何気なくもう片方の端っこを見ると同じクリーム色の毛糸で『M A Y U』。
まゆ?
私が長谷川くんの顔を見ると、彼は無言で小箱のラッピングを剥いだ。中に入っていたのは手作りなのだろうか、生チョコレート、と、メッセージカード。
『長谷川くんへ
マフラー、長谷川くんに
バレないように編むの
大変だったんだよ
大事に使ってね☆
真由より』
――真由?
メッセージカードの筆跡は私のものと似ている。でも、もちろん書いた覚えはない。
「こういうことだから。」
「ど、どどどういうこと!?」
「…………俺は真由と同棲してるんだ。」
「同棲…?」
「って、いう設定。」
「……一応聞くけど、真由って、私なんだよね?」
「うん。」
「い、いつから同棲してるの?」
「同棲は去年のクリスマスから。付き合ったのは一昨年の俺の誕生日の8月21日。真由がこの日に告白の返事をくれたから、だから毎月21日は記念日。」
そう言い、指差した先には卓上カレンダーがあって、21日がピンクのハートで囲まれていた。
「っていう設定?」
「そう。」
この部屋で私と長谷川くんが同棲かぁ、と、もちろん同棲なんてしてないけど感慨深くなって室内を見渡してしまった。
メイク落としシート、お揃いのマグカップ、ディ○ニーキャラクターのぬいぐるみ。あれはクリスマスに使ったのだろうか少しだけ使われたキャンドルがある。
同棲経験がないからよく分からないけれど、多分カップルが一緒に住んだらこんな部屋、みたいなイメージだった。
「……俺のこと、気持ち悪いと思った?」
「正直に言っていい?」
「……うん。」
不安そうに私を見る長谷川くんに『大丈夫だよ』の意味で微笑みかけた。
「全然、気持ち悪くない。ていうか健気で愛おしいなって思った。でも、真由ちゃんの女子力高すぎて、私でいいのか心配。」
長谷川くんは私の言葉を聞くと、くしゃりと顔を泣きそうに歪ませて、首をぶんぶんと横に振った。そしてソファーに座る私を横から抱き締めてくれた。
「女子力なんてなくていい。真由が、生身の真由がいい。本物の真由のぬくもりを知ったら、妄想するだけなんて耐えられない。」
「私、こんなに長谷川くんに好かれてるなんて知らなかったから、凄く嬉しい。残念なところ、教えてくれてありがとう。」
泣きそうに喉を詰まらせた長谷川くんが私の名前を呼んで、私がそれに返事をするということを何度か繰り返した。
「夢でも妄想でもない真由がこの部屋にいるなんて信じられない。」
「ふふ。私も今日長谷川くんの部屋に入ることになるなんて思ってもみなかった。しかも終電逃しちゃったし。」
「え?あ、もうこんな時間かよ。……と、泊まってく?」
赤い顔でごくりと息を飲んだ長谷川くんをなんだかとっても身近に感じて、これまでだったら言えないようなことも口から滑り出してしまう。
「うん。もっと、朝まで一緒にいたい。」
着替えたいと言ったら、パーカーの付いたもこもこのワンピースタイプのルームウェアを渡された。
長谷川くんはもこもこがお好きなようだ。
着替えをするために寝室に入らせてもらうと、セミダブルのベッドが目に入る。枕が2つ横に並べてある。あれの片方は多分私用だ、そう思うと脈拍が急上昇した。
「お風呂どうぞ。あと、よかったらこれ。」
コンビニで売っているようなショーツ(新品・未開封)を渡された。
「……あ、ありがとう。」
「去年、花火見に行った日に急に雨に降られちゃって、真由も俺も全身ずぶ濡れになった時に着替え用に買ったやつだから。」
「……っていう設定ね。」
「そう。」
これは多分、人によっては『お巡りさんコイツです』って案件のような気がする。
でも、私はちょっと楽しい気分になってきていた。一体どんな設定の話が飛び出すのかわくわくしてさえいた。
自分が主人公のお伽噺を、好きな人に読んで聞かせてもらっている、そんな気分だった。パンツはちょっと恥ずかしかったけど。
「お風呂、ありがとう。」
当たり前のように置いてあった私専用の歯ブラシやボディータオル、化粧水などを使わせてもらった。
「うん。もう寝る?真由がベッド使っていいよ。俺はソファーで寝るから。」
「……もっと長谷川くんと話がしたいんだけど、…一緒に、寝ちゃ、ダメ?」
「っ、ダメ。俺は確かに童貞だけど、手を出さないなんて約束出来ないから。」
「ん、長谷川くんが嫌なら、我慢するね。」
「真由、その言い方はずるい。…ずるくてめちゃくちゃ可愛いっ。はぁ。ねぇ、俺の理性壊すつもりなの?……恐るべし生身。」
興奮してぶつぶつと喋る長谷川くんが可愛くて、もっと困らせたくなってしまう。
「妄想の真由ちゃんとは一緒に寝たことあるんだよね?私はダメなの?真由ちゃんだけいいなぁ。」
「……く…真由、拗らせた童貞を煽ると大変な目に合うよ?」
長谷川くんの瞳は熱を孕んでいてまるで飢えた獣のようだった。
彼に貪られたい。
本能的にそう思った。
「合いたいの、大変な目に。」
「っ。」
長谷川くんは私を横抱きにし、リビングから寝室に続く扉を足で開けた。
ベッドの上に私を降ろすと、噛みつくようにキスをしてきた。
「真由っ、唇やわらかいっ。ずっとずっと、ん、触れたかった。っ、真由っ。」
「はせが、わくん。もっと、食べて私の唇っ。口の中まで犯してっ。」
「犯して、やるよ、全部、真由の全部、っ、俺のもんだっ。」
長谷川くんの舌は私の歯列を奥まで執拗に舐めた。しばらくそうした後に唇を離し、私にしゃぶらせるように指を奥まで差し込んできた。
唾液にまみれ抜き差しされる指を『美味しい』と言いながらしゃぶる。ちゅぷちゅぷと水音が響いて、それがより一層私を淫らな気持ちにさせた。
やがて、唾液でぬるぬるになった指は口から引き抜かれ、首筋をぬるぬるとなぞっていった。
「は、ぁん。」
「首も、感じるの?真由すごくいやらしい顔してる。はぁ、っ、こんな顔、するんだな。愛しすぎて頭、おかしくなりそう。」
「ん、もっと、触ってぇ。キスもしてっ、色んなとこにっ。長谷川くんに、ぁあっ、いっぱい触れられたいっ。」
ワンピースタイプの部屋着の下の方から手が入ってくる。そして剥ぎ取られるように脱がされた。
「……!!の、ノーブラ!」
「ん、寝るときはブラ、しないから。」
「なんて童貞に優しい設定っ。」
「設定じゃ、ないよぅ。ほんとのこと、だもん。」
「うぅっ。ヤバすぎ。生身最高。真由っ、最高。」
むにゅっと両胸を掴まれて柔らかさを堪能するように揉まれる。手の平の中の胸の先端が少しずつ触れて、快感を拾い上げ起ち上がってくるのが自分でも分かった。
「はぁっ、真由のおっぱい、凄く可愛いっ。ふにゅふにゅなのに、ここは固くなってて、食べてって言ってるみたいだ。」
「うん。食べてって言っ、あああっ、ん、ふぅ、ん、気持ちいいっ、長谷川くんの舌、すっごく気持ちいいっ。」
「俺も、っ、何か舐めてるだけで、ん、いっちゃいそう、ふ、なくらい気持ち、いいっ。美味しいっ、美味しいよ、真由っ。何にも出てきてないのに美味しいっ。はぁ、真由、もっともっと俺におっぱいちょうだいっ。そんで、何年後かにっ、ホントにミルク、むぐ、飲ませてっ。」
「んああっ、うんっ。約束っ、するっ。…ぁあんっ。」
左手を胸に残したまま右手が下腹部に伸びていき、すっかりぬかるんでいる合わせ目に到達した。そこでも襞の柔らかさを堪能するようにもどかしいくらいに優しく触れられる。
「凄い、濡れてる。…てらてらだ。ピンクで光ってて、…すっごい、うまそう。中開いて見てもいい?」
「やっ、見ないでっ、恥ずかしいからっ。あっ、だめっ、だめって言ったのにぃ、っん。」
「ごめんっ、我慢出来なくてっ。うねってて、凄くやらしい。ここっていつもそうなの?」
「っ、違っ、気持ち、良くなっちゃって。」
「見られて気持ちいいの?じゃ、いっぱい見てあげるっ。」
「ひん、そんなに顔くっつけちゃ、だめっ、や、やっ、舐めちゃだめぇ。だめなのにぃっ。んっぁあっ。」
「はぁ、えっちな汁、中からどんどん出てくるっ、ちょっと酸っぱくて、ふぅ、美味しい。ん、これが、ちゅ、真由の、ふ、味、なんだねっ。これで真由さん菌飲料、作って、ちゅぷ、毎日、ん、大学に行く前に、飲みたいっ。」
「もうだめっ、もうだめっ、へんなこと言わないでっ、…あ、あ、そこっ、だめ、だめっ、クリ、鼻でぐりぐりしちゃだめっ、も、ああ、っ、ん、…ンァアアアアーーッ…ひ、ん、っ。」
「真由?…真由いったの!?俺の舌が気持ち良くていっちゃったの?ああー、ほんと可愛い。愛しくて萌え死ぬ。はぁ、もう俺、限界かもっ、真由、いい?」
「ふ、…ん、……わたしも、はせがわくんが、ほしぃ。」
「真由っ、真由っ、まゆーーっ。」
その後、長谷川くんは何度も爆発した。
「ごめん、がっついちゃって。体、大丈夫?」
腕枕をされて、頭を撫でられて一気に眠気が襲ってくる。
「うん。大丈夫。でも、もう瞼がくっついちゃいそう。」
「寝顔見ててもいい?」
「涎とか出てたら嫌だからだめ。」
「大丈夫だよ。ちゃんと舐めてあげるから。」
「ふふ、長谷川くんも早めに寝るんだよ。」
「うん。……真由、大好きだよ。」
「うん。私も。」
――だいすき、長谷川くん。
私だけを大事にしてくれない恋人と別れたら、ちょっと残念だけど、私だけを一途に愛してくれる素敵な彼氏が出来ました。
おしまい
番外編へ続く
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