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おっぱいと宅飲み
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取り敢えず部屋の中まで入れてしまったら〈基樹くんが〉危険だと思い、外食にでも連れ出した方がいいだろうと考えた。
しかし基樹くんの手にはレジ袋が二つぶら下がっている。一つは日本酒の一升瓶(箱入り)が入っているようで、うっすらと見える銘柄は私の好きなものだった。昨晩居酒屋でした会話を基樹くんは覚えていたらしい。
ごくり、と喉が鳴った。
そしてもう一つはスーパーの名前が書かれてあるレジ袋。中身がパンパンに詰まっている袋から『あたりめ』と書かれたパッケージが透けて見えている。中身はほぼ全部つまみ関係だろう。
「……仕方ないなぁ。取り敢えず入って。」
だめな大人代表の私は子羊ちゃんを自分のテリトリーに入れてしまった。一升瓶の入っている方の袋を受け取り、1Kの間取りのキッチンの奥にある居間兼ベッドルームに『散らかってますけど』と今更なことを言いながら通した。
そこで、さっきまですはすはしていた使用済み絆創膏がベッドの上に置いてあるのに気が付き、何気ない風を装ってポケットの中に隠した。基樹くんにバレたかどうかドキドキしながら『そこら辺に座って』とローテーブル近くのラグが敷かれた辺りを指差す。基樹くんは素直に従い、レジ袋の中のつまみをテーブルに並べ始めた。
私は『冷やでいいよね』と決定事項を伝え、琉球ガラスのコップを二つ用意した。そして一升瓶からワイン用のデカンタに日本酒を詰め替え、氷の入ったシャンパンクーラーの中に突っ込んだ。がっつり美味しく飲む気満々である。基樹くんはそんな私の様子と並べたつまみを眺めてニコニコと楽しそうだ。
「おつまみも美味しそう。たこわさ買ってくるとか良くわかってるね、キミ。よしっ、早く乾杯しよう。」
5分前には絶対に部屋に入れるつもりがなかったのに、日本酒一本でこの有り様である。
イタリア式に陰茎の別名で乾杯をするという、おっさん特有の軽いセクハラをかましながらグラスを合わせた。帰るなら今だぞという気持ちを込めてのセクハラだったのに、基樹くんは少し顔を引きつらせて苦笑いをしただけだった。
冷えた日本酒は喉ごしが良く、ぐいぐい進んで危険である。なのでチェイサーとしてレモン水も基樹くんに渡しておいた。
「レモン水2、日本酒1の割合で飲んで。今日は一人で帰れるくらいまでしか飲まないようにしようね、基樹くん。お酒とおつまみのお礼としてタクシー代は私が出してあげるから。」
「俺は帰りませんから。」
これは、私はちゃんと先輩として正しいことを言ったんだからね、と後に何かあっても自己責任だぞ、という確認であるからして、基樹くんの返事に対してそれ以上駄目だと言い返すことはしない。
「まぁ、何にせよ、飲み過ぎるのはおよしよ。」
「……はい。俺、昨日のこと後悔してるんで、ほどほどにします。」
基樹くんは私の言い付け通りレモン水を口に含んだ。
――後悔、か。
そりゃ、会社の先輩に勝手に体を弄ばれるなんて後悔もするだろう。
彼は恨み言を一晩中言うために私のところに来たのか。だとしたら早めに酔っ払って寝た方がいいのかもしれないな、と受け止めてやる気ゼロの私はコップをぐいっとあおった。それを見て基樹くんも一口だけ日本酒を飲んだ。そしてコップをテーブルに置いて、それを見つめながら、ぼそりと呟いた。
「……初めて、だったんです。」
「ん?何が?」
おいしそうな生春巻に箸を伸ばす。
「女の人に胸を触られたたのが、です。だから酔っ払って記憶がないのを後悔してるんです。」
私は箸で掴んだ生春巻を、ぽとりと落としてしまった。けれど幸いお皿の上だったのでセーフだった。
しかし、そんなことはどうでもいい。
「え、え、ちょっと待って、基樹くんゲイだったの!?ひょっとしてその乳首『ご主人様』の苦労の賜物!?やだどうしよう!M奴隷の体勝手に触っちゃったら怒られちゃうよね?マジでごめんなさいっ。」
「ちょっ、ち、違いますからっ。もちろん男にだって触られたことないですからっ。話の半分も理解できませんが、絶対に違いますからっ。……堤さん、ちょっと黙って俺の話の聞いてもらえますか。」
紛らわしい言い方すんなや、変な知識披露しちゃったじゃんか、と赤面しながら黙って頷いた。
基樹くんは胡座をかいた姿勢から、わざわざ正座に座り直した。
「俺、中学校の頃から、胸がコンプレックスなんです。そのあたりから乳首が大きくなって、乳輪も膨らんできたので。……初めはプールの時間に、お前の乳首でかくね?って言われたのが始まりでした。それから変なあだ名つけられたりして『気持ち悪い』だの『女男』だの、からかわれるようになりました。それで学校に行くのが辛くなったんです。」
思ったより重い話が始まったので、私も正座で聞くことにした。
「だから、高校は同じ中学の奴がいないところに行ったんです。普通に高校生活を送って、彼女も出来ました。でも、彼女とそういうことをするような雰囲気になってきて、裸を見せなきゃならないことに不安を覚えました。でも隠しておけるものでもないし、彼女ならそのままの俺を受け入れてくれるんじゃないかっていう期待があったんです。…………でも、彼女は俺の体を見て、……キモくて、マジ無理、って言ったんです。もちろん彼女にはふられました。……それから俺は、誰とも付き合ったり出来なくなりました。好きな人ができても、怖くて先の関係には進めないんです。好かれたくて近づくくせに、好かれると自分から距離を置いて、中途半端なことやって、結局相手を傷付けてしまいました。でも、この子もどうせ俺のことをキモいって言うんだろうなって思えば、どうしても付き合うことはできなかったんです。そんな自分が嫌で、また逃げるようにして北海道から東京に来ました。それに東京には美容整形の病院もいっぱいあるから、ここで稼いでお金を貯めて手術を受けようって思ったんです。」
「…………。」
基樹くんは『黙って聞いて』と言ったのだから、私に何かを求めているわけではないのだろう。私だって気の利いた慰めをうまく言える気がしない。だから黙って、隣に座って頭を撫でてあげた。可哀想だとかそういった気持ちよりは、よくちゃんと自分の言葉で吐き出すことができたね、という気持ちで。
「……あんまり優しくされると俺、泣きますよ?」
もうすでに泣きそうな顔じゃんか。泣かせてやれ、という気持ちで髪の毛がぐしゃぐしゃになるくらい撫でてあげた。
基樹くんは、喉を詰まらせながらぽろっと涙を一粒だけ流した。そして目をごしごしと擦った。
「堤さん、聞いてくれてありがとうございました。」
「……。」
「もう喋っていいですよ。」
「基樹くんは、頭の形がいいね。将来スキンヘッドになっても格好いいと思うよ。」
「……それ、将来禿げそうだって、俺、言われてます?」
「ううん。髪の毛サラサラだから、ふと思っただけ。」
「しっかり禿げそうって思ったんじゃないですか。」
「ひひひ。」
それからは、私の子どもの頃の話だとか、将来ペットを飼うなら犬か猫かなんてどうでもいい話を真剣に討論して、楽しい時間を過ごした。
気がつけば時計は十二時を回りそうになっていて、そろそろお開きにした方がいいだろうと思った。
「基樹くん、シンデレラの魔法が解けてしまう時間だよ。さっさとお帰りよ。」
「はいはい。でも俺、シンデレラじゃないですから。」
何言ってんだこの酔っ払い、とでも言うようないなされ方をして、分かってないなーとため息が出てしまった。キミの為に言ってるのにな。
「魔法が解けるのは私の方だよ。今は優しげな先輩に見えているかもしれないけど、12時を過ぎるとただのエロオヤジに戻るからね。いい子はちゃんと靴を履いて早くお帰んなさい。」
飲む前まではお望みとあらば寝てもいいかなと思っていた。でも基樹くんの辛かった学生時代の話を聞いた感じでは、おそらく彼はDT(どーてー)だ。
そんな初物、私が食っていいわけがない。ほんとに昨日最後までしなくて良かった。
彼はちゃんと彼女を作って、素敵なDT卒業をするべきだ。今まで辛い思いをした分、一生の思い出になるようなセックスを。
私がそんな気持ちで逃がしてやると言っているのに、基樹くんは眉尻を下げて悲しそうにこちらを見ている。
「堤さん、どうしてですか?俺のこと、…俺の胸のこと、可愛いって言ってくれたのは嘘だったんですか?……やっぱり気持ち悪いって思ってたんですか。」
「一ミリもそんなこと思ってない。今だって服をひん剥いて絆創膏ベリベリ剥がして舐め回したいと思ってるけど、キミにはもっと相応しい人がいるんじゃないかな。」
一夜限りの相手で済ませていいことじゃないと思うから。もっと大事に自分で選んだ人としてほしい。なんていつになく格好いいことを考えて自分に酔っていたら、基樹くんが徐に立ち上がり服を脱ぎ始めた。
「だったら、お願いします。俺は堤さんがいいんです。」
あっと言う間に上半身が裸になって、絆創膏だけが貼られている美しい肉体が露になった。
思わずごくりと喉が鳴ってしまい恥ずかしくなる。
「あの、も、基樹くん?お願いしますって言われても……。もうちょっと、自分を大事に、ね?」
抗いきれない魅惑的な身体の前で、小さい声でごにょごにょと説得を試みる。しかし聞こえていないのか基樹くんの手は止まらず、とうとう絆創膏に触れた。けれど躊躇しているのか震える指でほんの少しだけ絆創膏を剥がしたところで、自分の両胸を手で覆い隠した。
真っ赤になって瞳を潤ませて泣きそうな顔の基樹くんに私は見つめられた。
「堤さん、あの、そんなにじっと見られてると、恥ずかしい、です。……っ。」
胸が大きく揺れて荒い息が吐き出されると、それはまるで喘ぎ声のように私の耳に届いた。
そのせいでもともと存在しているかどうかが定かでない理性が吹っ飛んだ。
「基樹くん、自分で脱ぎ始めたくせに恥ずかしがって隠すとか、どこでそんな高等テクニック覚えたの?」
そんな悪い子にはお仕置きしちゃうぞ!
しかし基樹くんの手にはレジ袋が二つぶら下がっている。一つは日本酒の一升瓶(箱入り)が入っているようで、うっすらと見える銘柄は私の好きなものだった。昨晩居酒屋でした会話を基樹くんは覚えていたらしい。
ごくり、と喉が鳴った。
そしてもう一つはスーパーの名前が書かれてあるレジ袋。中身がパンパンに詰まっている袋から『あたりめ』と書かれたパッケージが透けて見えている。中身はほぼ全部つまみ関係だろう。
「……仕方ないなぁ。取り敢えず入って。」
だめな大人代表の私は子羊ちゃんを自分のテリトリーに入れてしまった。一升瓶の入っている方の袋を受け取り、1Kの間取りのキッチンの奥にある居間兼ベッドルームに『散らかってますけど』と今更なことを言いながら通した。
そこで、さっきまですはすはしていた使用済み絆創膏がベッドの上に置いてあるのに気が付き、何気ない風を装ってポケットの中に隠した。基樹くんにバレたかどうかドキドキしながら『そこら辺に座って』とローテーブル近くのラグが敷かれた辺りを指差す。基樹くんは素直に従い、レジ袋の中のつまみをテーブルに並べ始めた。
私は『冷やでいいよね』と決定事項を伝え、琉球ガラスのコップを二つ用意した。そして一升瓶からワイン用のデカンタに日本酒を詰め替え、氷の入ったシャンパンクーラーの中に突っ込んだ。がっつり美味しく飲む気満々である。基樹くんはそんな私の様子と並べたつまみを眺めてニコニコと楽しそうだ。
「おつまみも美味しそう。たこわさ買ってくるとか良くわかってるね、キミ。よしっ、早く乾杯しよう。」
5分前には絶対に部屋に入れるつもりがなかったのに、日本酒一本でこの有り様である。
イタリア式に陰茎の別名で乾杯をするという、おっさん特有の軽いセクハラをかましながらグラスを合わせた。帰るなら今だぞという気持ちを込めてのセクハラだったのに、基樹くんは少し顔を引きつらせて苦笑いをしただけだった。
冷えた日本酒は喉ごしが良く、ぐいぐい進んで危険である。なのでチェイサーとしてレモン水も基樹くんに渡しておいた。
「レモン水2、日本酒1の割合で飲んで。今日は一人で帰れるくらいまでしか飲まないようにしようね、基樹くん。お酒とおつまみのお礼としてタクシー代は私が出してあげるから。」
「俺は帰りませんから。」
これは、私はちゃんと先輩として正しいことを言ったんだからね、と後に何かあっても自己責任だぞ、という確認であるからして、基樹くんの返事に対してそれ以上駄目だと言い返すことはしない。
「まぁ、何にせよ、飲み過ぎるのはおよしよ。」
「……はい。俺、昨日のこと後悔してるんで、ほどほどにします。」
基樹くんは私の言い付け通りレモン水を口に含んだ。
――後悔、か。
そりゃ、会社の先輩に勝手に体を弄ばれるなんて後悔もするだろう。
彼は恨み言を一晩中言うために私のところに来たのか。だとしたら早めに酔っ払って寝た方がいいのかもしれないな、と受け止めてやる気ゼロの私はコップをぐいっとあおった。それを見て基樹くんも一口だけ日本酒を飲んだ。そしてコップをテーブルに置いて、それを見つめながら、ぼそりと呟いた。
「……初めて、だったんです。」
「ん?何が?」
おいしそうな生春巻に箸を伸ばす。
「女の人に胸を触られたたのが、です。だから酔っ払って記憶がないのを後悔してるんです。」
私は箸で掴んだ生春巻を、ぽとりと落としてしまった。けれど幸いお皿の上だったのでセーフだった。
しかし、そんなことはどうでもいい。
「え、え、ちょっと待って、基樹くんゲイだったの!?ひょっとしてその乳首『ご主人様』の苦労の賜物!?やだどうしよう!M奴隷の体勝手に触っちゃったら怒られちゃうよね?マジでごめんなさいっ。」
「ちょっ、ち、違いますからっ。もちろん男にだって触られたことないですからっ。話の半分も理解できませんが、絶対に違いますからっ。……堤さん、ちょっと黙って俺の話の聞いてもらえますか。」
紛らわしい言い方すんなや、変な知識披露しちゃったじゃんか、と赤面しながら黙って頷いた。
基樹くんは胡座をかいた姿勢から、わざわざ正座に座り直した。
「俺、中学校の頃から、胸がコンプレックスなんです。そのあたりから乳首が大きくなって、乳輪も膨らんできたので。……初めはプールの時間に、お前の乳首でかくね?って言われたのが始まりでした。それから変なあだ名つけられたりして『気持ち悪い』だの『女男』だの、からかわれるようになりました。それで学校に行くのが辛くなったんです。」
思ったより重い話が始まったので、私も正座で聞くことにした。
「だから、高校は同じ中学の奴がいないところに行ったんです。普通に高校生活を送って、彼女も出来ました。でも、彼女とそういうことをするような雰囲気になってきて、裸を見せなきゃならないことに不安を覚えました。でも隠しておけるものでもないし、彼女ならそのままの俺を受け入れてくれるんじゃないかっていう期待があったんです。…………でも、彼女は俺の体を見て、……キモくて、マジ無理、って言ったんです。もちろん彼女にはふられました。……それから俺は、誰とも付き合ったり出来なくなりました。好きな人ができても、怖くて先の関係には進めないんです。好かれたくて近づくくせに、好かれると自分から距離を置いて、中途半端なことやって、結局相手を傷付けてしまいました。でも、この子もどうせ俺のことをキモいって言うんだろうなって思えば、どうしても付き合うことはできなかったんです。そんな自分が嫌で、また逃げるようにして北海道から東京に来ました。それに東京には美容整形の病院もいっぱいあるから、ここで稼いでお金を貯めて手術を受けようって思ったんです。」
「…………。」
基樹くんは『黙って聞いて』と言ったのだから、私に何かを求めているわけではないのだろう。私だって気の利いた慰めをうまく言える気がしない。だから黙って、隣に座って頭を撫でてあげた。可哀想だとかそういった気持ちよりは、よくちゃんと自分の言葉で吐き出すことができたね、という気持ちで。
「……あんまり優しくされると俺、泣きますよ?」
もうすでに泣きそうな顔じゃんか。泣かせてやれ、という気持ちで髪の毛がぐしゃぐしゃになるくらい撫でてあげた。
基樹くんは、喉を詰まらせながらぽろっと涙を一粒だけ流した。そして目をごしごしと擦った。
「堤さん、聞いてくれてありがとうございました。」
「……。」
「もう喋っていいですよ。」
「基樹くんは、頭の形がいいね。将来スキンヘッドになっても格好いいと思うよ。」
「……それ、将来禿げそうだって、俺、言われてます?」
「ううん。髪の毛サラサラだから、ふと思っただけ。」
「しっかり禿げそうって思ったんじゃないですか。」
「ひひひ。」
それからは、私の子どもの頃の話だとか、将来ペットを飼うなら犬か猫かなんてどうでもいい話を真剣に討論して、楽しい時間を過ごした。
気がつけば時計は十二時を回りそうになっていて、そろそろお開きにした方がいいだろうと思った。
「基樹くん、シンデレラの魔法が解けてしまう時間だよ。さっさとお帰りよ。」
「はいはい。でも俺、シンデレラじゃないですから。」
何言ってんだこの酔っ払い、とでも言うようないなされ方をして、分かってないなーとため息が出てしまった。キミの為に言ってるのにな。
「魔法が解けるのは私の方だよ。今は優しげな先輩に見えているかもしれないけど、12時を過ぎるとただのエロオヤジに戻るからね。いい子はちゃんと靴を履いて早くお帰んなさい。」
飲む前まではお望みとあらば寝てもいいかなと思っていた。でも基樹くんの辛かった学生時代の話を聞いた感じでは、おそらく彼はDT(どーてー)だ。
そんな初物、私が食っていいわけがない。ほんとに昨日最後までしなくて良かった。
彼はちゃんと彼女を作って、素敵なDT卒業をするべきだ。今まで辛い思いをした分、一生の思い出になるようなセックスを。
私がそんな気持ちで逃がしてやると言っているのに、基樹くんは眉尻を下げて悲しそうにこちらを見ている。
「堤さん、どうしてですか?俺のこと、…俺の胸のこと、可愛いって言ってくれたのは嘘だったんですか?……やっぱり気持ち悪いって思ってたんですか。」
「一ミリもそんなこと思ってない。今だって服をひん剥いて絆創膏ベリベリ剥がして舐め回したいと思ってるけど、キミにはもっと相応しい人がいるんじゃないかな。」
一夜限りの相手で済ませていいことじゃないと思うから。もっと大事に自分で選んだ人としてほしい。なんていつになく格好いいことを考えて自分に酔っていたら、基樹くんが徐に立ち上がり服を脱ぎ始めた。
「だったら、お願いします。俺は堤さんがいいんです。」
あっと言う間に上半身が裸になって、絆創膏だけが貼られている美しい肉体が露になった。
思わずごくりと喉が鳴ってしまい恥ずかしくなる。
「あの、も、基樹くん?お願いしますって言われても……。もうちょっと、自分を大事に、ね?」
抗いきれない魅惑的な身体の前で、小さい声でごにょごにょと説得を試みる。しかし聞こえていないのか基樹くんの手は止まらず、とうとう絆創膏に触れた。けれど躊躇しているのか震える指でほんの少しだけ絆創膏を剥がしたところで、自分の両胸を手で覆い隠した。
真っ赤になって瞳を潤ませて泣きそうな顔の基樹くんに私は見つめられた。
「堤さん、あの、そんなにじっと見られてると、恥ずかしい、です。……っ。」
胸が大きく揺れて荒い息が吐き出されると、それはまるで喘ぎ声のように私の耳に届いた。
そのせいでもともと存在しているかどうかが定かでない理性が吹っ飛んだ。
「基樹くん、自分で脱ぎ始めたくせに恥ずかしがって隠すとか、どこでそんな高等テクニック覚えたの?」
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