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合流
しおりを挟む堀田から電話があったのは九時過ぎ。
「町屋クンも来て」と二人が居る居酒屋に呼び出された。
堀田と春日部が飲み始めたのは大体五時半頃からだったはず。
二人だけの話には決着がついたのだろう。
そして僕が呼ばれたってことは、堀田は僕たちのことを認めて祝福してくれると考えていい……はず。電話での雰囲気的にも。
それでも少しだけ緊張しながら居酒屋に着くと、堀田は僕を見るなり抱きついてきた。
予想していない事態に戸惑ったが「春日部をよろしくな」と言われて、胸が詰まった。
それを聞いていた春日部も僕と堀田に抱きついてきて「俺は幸せモンだ」と呟いた。
正直、店中の注目を集めてるのではないかという恥ずかしさも少しあった。が、嬉しさがそれを上回った。
「春日部を必ず幸せにするからね。」
二人の背中をポンポンとあやすように叩きながら誓うと僕への抱擁はより強くなった。
暫しそうしていると、店員が少し気まずそうに「あのー、お飲み物は?」と声をかけてきたので、男三人は抱擁を解いた。
堀田は照れ隠しなのか「やべー、青春っぽいことしちゃった」とガハハと笑った。
テーブルの上には徳利とお猪口がある。日本酒を飲んでいたらしい。しかし、もう一度生ビールで乾杯をするらしいので生を三つ頼んだ。
僕は春日部の隣に座った。
春日部に隣に座ってほしいと言われていたから。
いつも僕は堀田の隣に座っていた。正面に堀田がいると少し不思議な感じがする。
堀田も「あれ?」って一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐに「あー、そうだよな」と納得したようだった。
隣に居る春日部を見ると目が合って「町屋」って名前を呼ばれた。春日部の口角はにんまりと上がっていて頬は赤い。
いい感じに酔っ払ってるね、と言うと「会いたかった」と噛み合わない返事をされてしまう。
心臓に太い矢が刺さったくらいキュンとした。
春日部は結構な量の酒を飲んだらしい。
体が酔いのせいで少しだけ前後に揺れてる。それを安定させる為なのか、僕の膝の辺りに手を置いた。
そっと手を重ね握り返すと春日部は嬉しそうに目を細めた。
デレデレで、すごく可愛い。
酒は春日部≧堀田>僕、の順で強いから、春日部がここまで酔っているところはあまり見たことが無かった。
セックス中以外で、しかも家の外でこんなに無防備に甘えられることは珍しい。
今すぐ連れて帰りたい衝動に駆られるが、堀田とも話がしたかった。
幸い堀田は春日部ほどは酔って無いようだった。といっても泥酔一歩手前くらいかもしれないが。
テーブルに生ビールが届いた。何に乾杯すべきか?と悩み堀田に向け「結婚おめでとう」と言った。すると堀田にも「結婚おめでとう」と返された。春日部が僕たちの結婚の話もしたらしい。
春日部は「ありがとさん」と言いながらジョッキをカツンとぶつけてきた。
一杯目の生ビールというのは何故こんなに美味しいのか。
ゴクゴクと喉を鳴らしジョッキの半分ほど空けると、正面に座る堀田と目が合った。ちなみに春日部からの視線も感じるが、照れるのでそっちの方は気付かない振りをする。
堀田はニヤニヤした顔で僕と春日部を交互に見た。
「春日部、顔、締まり無さ過ぎてやべーぞ。」
チラリと隣を見ると蕩けそうな笑顔を向けられた。
堀田の話は聞こえて無いらしい。
確かにヤバい。
いつもと雰囲気が違うのは、酔ってるということ以外にも、堀田に認めてもらえたからという嬉しさがあってのことだろう。
「おーい、春日部、無視すんなって。」
「……あ?」
「あ? じゃねーって。つかお前もう限界じゃね?」
「全然。」
全然、と言った春日部は5分後に寝た。
堀田が、春日部とどんな話をしたのかを僕に教えてくれている途中に。
頬杖をついてうとうとしていたから大丈夫かと確認をすると「大丈夫だ」と言いながらあくびをして横になった。
そして「ちょっとだけ貸せ」と言って胡座をかいている僕の太ももに頭を乗せてきた。
心地よい重みがのしかかってきて、条件反射のように頭を撫でてしまって、ハッとする。
すぐに手を離して恐る恐る堀田を見ると「ワオ」と両手を上げてオーバーリアクションをされた。
目は笑ってるからドン引きはされなかったようだ。
さすが堀田だ。破天荒な春日部の長年の親友なだけある。
春日部は眠気に襲われているだけで、具合が悪いわけではなさそうだったのでそのまま寝せておくことにした。
僕たちは座敷の端の奥側の席に居るので他の客からはあまり見えないだろう。それでも気休めに頭が乗っていない方の膝を立て春日部を隠した。多少行儀が悪いが、男同士の膝枕を見せてしまうよりはいいだろう。
あと僕が出来ることと言えば酔っ払ってしまうことだけだ。
堀田に「お疲れ」と言われもう一度ジョッキを合わせた。
堀田は控えめにビールを一口だけ飲んでジョッキを置き、背伸びをすると春日部の様子を見た。
春日部はぐっすり寝てしまっている。それを確認してから堀田は話し始めた。
「町屋クン、今日さ、仲間はずれにしちゃって、ゴメン。」
「あ、ううん。気にしてないよ。」
飲む時はほとんどが三人。
でも多分今日は飲むことが目的じゃなかったから、春日部だけを呼んだのだろう。
「春日部の気持ち、ちゃんと確認しとかなきゃって思ってさー。」
「そっか。」
「で、確認したら3時間ずっと惚気られちゃったよー。甘ったるくて、もう、酷い胸焼けよ。」
トホホ、と項垂れてぐったりとしたポーズを取る堀田。
堀田には悪いが嬉しくなった僕は、テーブルの下に隠れている春日部の頭をそっと撫でた。
「それは、ごめんね?」
僕の謝罪に顔を上げた堀田は笑ってた。いつものニヤニヤ顔じゃない、ちょっとだけ大人びた笑顔で。
「……俺さ、入学式の日に町屋クンに声かけたじゃん?」
「うん。ヤリサーに入ろう、って言われたね。」
「わはは、よく覚えてんなァ。」
「そりゃ覚えてるよー。入学早々、変な奴に絡まれたって思ったもん。」
でも、そのお陰で僕の大学生活は充実したものになった。
「第一印象サイアクじゃん。……でもさ、町屋クンを一目見て、くるモンがあったんだよね。あ、コイツなら俺と春日部のいいダチになってくれるかも!って。ここで声かけなきゃ見失うって思ったら、何も考えないで声かけちゃったワケよ。」
堀田は店員にウーロン茶と僕の分のビールを頼んだ。
「……ありがと。」
声を描けてくれたこと、注文をしてくれたこと、どっちに対しても礼を言うと、堀田は歯を出してニヤッと笑った。
「まさか二人が恋人になるなんてことは思ってなかったけどさ。でもまぁ、結果的に俺の直感は間違って無かったということで、二人は存分に感謝するように。」
偉そうに胸を張る堀田に、僕はテーブルの上に手をつき「ははー」と頭を下げた。
二人で笑って、ビールとウーロン茶が来たらまた乾杯をした。
それからは色々な話をした。
春日部の昔の話、ユキさんと住む新居の話、結婚祝いは何がいい?なんてこととか。ちょっとした下ネタとか。
やがて春日部も目を覚まし、まだ飲むと言い張ったので、それから終電ギリギリまで飲んで騒いで楽しんだ。
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