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春日部 35

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    堀田を驚かせるつもりだったのに、俺がびっくりさせられた。


    堀田は彼女と結婚する。

    思ってもみなかった報告に頭が真っ白になった。思わず自分がするべきサプライズの手順を忘れて「マジかよ!?」なんて叫んでた。

    早過ぎねぇか。

    こっちは『恋』つーもんに目覚めたばっかなのに、堀田が遥か先に行っちまったみてぇで、ちょっと焦った。

    でも堀田の気持ちも分かる。

    俺だって町屋と結婚してぇから。

    出来ねぇから考えねぇだけで、出来るんなら今頃アイツの目の前に婚姻届を突きつけてるかもしれねぇ。町屋がこれから就職先で出会う人間に『コイツは"売約済み"なんだ』って牽制しときてぇから。

    結婚つーのは、恋人よりもっと相手を『自分だけのもの』に出来るって制度だろ?
    独占欲の塊みてぇになってる俺からすれば、すげぇ羨ましい制度だ。


    だから堀田もそれくらい彼女を愛してるんだと思えば、そんな相手が見つかって良かったな、おめでとう、って気になった。

    それに、堀田の彼女も本当に堀田のことが好きなんだなってコトが分かる。

    俺と町屋つー違うタイプのイケメン二人を前にしても全く目の色が変わんなかったから。

    媚びることも、気を引きたいが為の変な言動も全然無い。
    丁寧に接してくれてるけど、絶対に誤解を生まない距離感で、俺と町屋を見る目は『恋人の友人』の域から一歩も出ようとしてねぇ。

    すげぇ安心した。

    堀田が一生添い遂げようとする女だけあんじゃん、って思った。

    おまけに、堀田の彼女は俺と町屋が付き合ってる、って話も変に騒ぐことなく受け止めてた。ちょっと戸惑ってはいたけど。
    堀田は全然信じてくんなかったのに、堀田の彼女は「私はお似合いだと思うよ」って言ってくれたし。

    まぁ、それが本音なのか延々と続きそうな堀田と俺のやり取りを切り上げさせる為の方便だったのかは分かんねぇ。
    でも、それ聞いた町屋が嬉しそうにしてたから、別にどっちでもいい。





    お化け屋敷から出たら堀田が喉が渇いたって言い出して、じゃあ軽く夕飯でも食おうぜってことになった。

    あんだけギャーギャー騒げば喉も渇くだろうなって、自分のことは棚に上げて堀田の掠れちまった声を馬鹿にしながら遊園地内にあるフードコートに行った。

    夕食時なだけあって、そこそこ混んでる。

    並んでる店を見て、何食うか考えてたら堀田がビールを飲みたいって言ってきて、彼女さんも賛同したから堀田はビールが売ってる店に並んだ。

「町屋も飲めよ。帰りの運転は俺がすっから。」
「えっ、いいの? ありがとー、春日部。」

    ニッコリ笑われて『そんなに可愛い顔すんなよ』って頭撫でてやりたくなったけどここは人目が多過ぎる。それに、堀田の彼女の目の前でイチャイチャするのはさすがにマズい。俺にだってそれくらいの分別はつくから自重した。

    町屋は堀田の後を追いかけるようにして店に並んだ。

    残された俺と堀田の彼女は、席の確保を頼まれたから、4人用の丸テーブル席を見つけて二人が戻るまで座って待つことにした。

    椅子を一つ挟んだ正面に堀田の彼女は座って、一息ついたみてぇに「ふぅ」と吐息を漏らした。
    俺は二人だけにされてちょっと落ち着かねぇ気分になった。
    俺を媚びた目で見ねぇのは助かるけど、自分に好意がどっぷりあるような女以外との接し方がイマイチ分かんねぇ。バイト先のオバチャンと話すような感じでいいのか…?
    対応を決めかねてると堀田の彼女が急に笑いだした。

「ふふふ。ほんと二人は仲がいいんだね。」

    えくぼの浮いた笑顔でそう言われて、咄嗟に後ろ振り向いて町屋と堀田を確認した。
    アイツらそんなに仲睦まじくしてんのか、また抱きついてんじゃねぇだろうなって、ちょっと焦って。
    そしたら「あ、そっちじゃなくて」って言われて堀田の彼女の方に視線を戻した。

「あっくんと春日部君。長い付き合いなんでしょ。さっきもまるで漫才みたいな掛け合いするから思い出し笑いしちゃった。」

    漫才みてぇな掛け合い、つーのは多分俺のジェットコースターと堀田のお化け屋敷での怯えっぷりをどっちが酷ぇ様だったかを言い合ってた時のことだろう。

「ポンポン言いたいこと言い合って、ちょっとハラハラするくらいだけどちゃんと解り合ってる友達って感じで凄くいい関係だよね。……ちょっと嫉妬しちゃった。」

    嫉妬、ってワードがやけに強調されてた気がしてマジマジと堀田の彼女の顔を見た。

    それで気付いた。

    笑ってっけど、細められた目の奥は笑ってなくね?


    ああ、そういうことかよ。

    この人は初セックスで堀田のうなじにキスマークをガッツリ残すような女だった。

    俺と同じだ。

    独占欲が強い。

    俺が堀田を狙うことが今後あるかもしれねぇと思って、牽制をされたんだろう。
    あり得ねぇことでも可能性を潰しておきたいってコトか。

「……アンタが嫉妬することなんて一ミリもねぇよ。堀田はアンタのことがすっげぇ好きだし、俺は男が好きなんじゃねぇ。町屋だけが好きなんだ。堀田は一生ダチだ。」

「……そうなの?」

    こんな会話の途中にも堀田に視線を送って小さく手を振ってる。今度はホンモノの笑顔。

    すげぇ。

    ぜってーライバルにはしたくねぇタイプだ。

「ああ。安心してくれ。」
「そっか。変なこと言ってごめんね。気を悪くしちゃった?」
「いいや。でも、マジでねぇから。……あと、ついでに言っとくけど、町屋だって堀田に…ってことはねぇから。一生俺は町屋だけだし、アイツだってそうだから。」

    過去はどうあれ、もう町屋は俺のもんだ。

「分かった。……あ、あっくーん。ビールありがとう。」
「春日部と何話してたの?」
「ふふ。お化け屋敷の時、春日部君がね、こっそり町屋君と手を繋いでたから冷やかしてたの。」

    見られてたらしい。
    なんつー目ざとさだ。

「は!? 手? マジで? そこまで徹底して設定守ってんのかよ。すげぇな。……まさか、親でも人質に取られてんじゃねぇだろうな!?」
「あ? そんなワケねぇだろ。どんな犯罪グループなんだよ、ったく。……恋人なんだから手ぇぐらい繋ぐだろ?いい加減信じろって。」

    そう言っても堀田はやっぱりガハガハ笑ってて信じてくれねぇ

    町屋は「見られちゃってたかー、恥ずかしい」って言いながら、俺の分のコーラと自分のビール、たこ焼き2パックと焼きそば2パックをテーブルに並べてる。
    ニコニコしてて嬉しそうな町屋。
    その穏やかな笑顔見たら『まぁ、いいか』って気になった。
    堀田はずっとダチなワケだし、今日は無理でもいつか信じてくれる日が来んだろうって、肩の力が抜けた。

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