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春日部 31

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    町屋は俺に恋してて、俺は町屋に恋してる。

    だから二人は恋人同士、らしい。

    町屋が言ってるんだから間違いねぇ。

    俺の想いが恋で、町屋も俺に恋してんなら、同じような感情を町屋も俺に抱いてるってこと、か?

    町屋に向かっちまってる執着だったり嫉妬だったりを、町屋が俺に対して抱いてんなら、やべぇ。

『春日部、誰も見ないで僕だけを見てよ。……僕たちは恋人同士、なんだから』

    『恋人デート』の日に町屋が言ってくれたこの言葉はあの日だけのリップサービスだったワケじゃなくて、恋人としての町屋の本心ってことか?

    マジでやべぇ。

    心臓がドキドキ通り越してバクバクしちまって、顔も熱くなってくる。


    親友と恋人の違いなんて、他人(と本人)への説得力だけだと思ってた。

    でも、自分の心臓の早さを思うと違うんだってことが分かった。

    自分と同じ想いを相手も持ってるって、よく考えると奇跡じゃね?

    その感情が恋だから、二人は恋人になる。

    言われてみれば、すげぇ単純な答えなのに、実証すんのは奇跡。

    顔がニヤけちまう。

    多分顔は真っ赤で締まりのねぇやべぇ顔しちまってんだけど、そんな俺を見て町屋も笑ってる。

    俺は今、キュンキュンしてドキドキしてふわふわしてウキウキしてる!


「……もう一回確認すっけど、俺はお前に、恋、してて、お前は俺に、恋、してるんだな?」

    念を押したのは、もう一回町屋の口から『僕は春日部に恋してる』って言葉が聞きてぇから。


「そうだよ。春日部は僕に恋してて、僕も春日部に恋――、え、うわっ。」

    もう一回聞きてぇ、なんて思ってたくせに全部言わせる前に体が動いちまった。

    ベンチから立ち上がって町屋の脇に手入れて抱き締めて、そのまま持ち上げた。
    小せぇガキ抱っこするみてぇに。
    ただ、ガキじゃねぇから重くてよろけた。

「ちょ、春日部っ。落ちるって。」
「わはははっ、首に腕回せよ、町屋。」
「もう、僕、抱っこはする方がいいのに。」

    そう言いつつも町屋は首に手回してきて、足もカニ挟みするみてぇに体に絡ませてきた。俺はケツに手回して支えてやって、完全なる抱っこの出来上がり。
    成人の男同士でやる抱っこは客観的に見なくても大分やべぇ絵面だろうな、って思ってたら、町屋もそう思ったのかクスクス笑ってる。
    笑う町屋が可愛くて愛しくて、このままずっとくっついたまんまでいてぇ。

「町屋は俺の彼氏か?」
「うん。春日部も僕の彼氏だよ。」
「やべぇな。俺、マジで浮かれちまってんだけど、このまま、マンションまで歩いて帰っちまおうかな。」
「えー、いやだよ。」
「何だよ、ノリ悪ぃな。そんなにハズいかよ?」
「ううん。時間がかかるから、いやだ。僕は早くマンション戻って、春日部を抱きたい。」

    町屋は窮屈な体勢で背伸びして俺にキスしてきた。
    一瞬だけくっつくような軽いキス。

    こんなこと言われてキスされちまったら、俺だってすぐにヤリたくなる。

    ここでヤっちまうか?出かける前に中は綺麗にしといたし、って思ったけど、俺にとっては恋人になってから初めてのセックスになるワケで、人が来るかもなんてスリルは今日はいらねぇ。100%気持ちを町屋に向けて繋がりてぇから、言われた通り早く帰ることにした。


    抱っこしたまま、車の前まで連れてってもう一回キスして、町屋を地面に下ろした。

「運転は俺な。」
「うん。安全運転で帰ろうね。」
「ああ。……その前にもう一回キスしていいか?」
「うん。もちろん。……大好きだよ、春日部。」



    町屋が大好きだなんて言うからキスは一回だけじゃ収まんなくて、かなり長い間唇合わせてた。





    マンションへ向かう車中は、甘ったるい空気が流れてて、信号で止まる度にキスしたくなっちまう。そんな思いで停車中に町屋を見たら、人目が無いことを確認して頬にキスしてくれた。

    幸せ過ぎてやべぇ。

    恋人と親友はやっぱ違う。

    町屋の言ってくる、大好きって言葉も受け取り方が違うと、こんなに胸がぎゅっとなるような切ない言葉だったんだな、って。
    親友に対するモンだと思ってた時も嬉しくはあったけど、今はマジでやべぇ。泣きそうになる。


「お前の言う大好き、って親友に対する好意なのかと思ってた。」

    マンションまではあと30分で着く。気は急いでたけどなるべく落ち着いて安全運転を心がける。
    大事な人を乗せてっから。


「あははー、春日部は本気で僕と親友だと思ってたんだ。照れ臭いとか、男同士だからって理由で親友って言ってるんだと思ってた。」
「あんま笑うなよ。経験がねぇから、これが恋だ、つーのが分かんなかったんだよ。お前に対する気持ちが友情や家族愛じゃねぇ、つーのは薄々分かってたんだけとな。」
「そっか。じゃあ、春日部の初恋って僕?」
「まぁ、そういうことになるんだろうな。……なんかハズいな。……でもよ、初恋、なんて綺麗な言葉が合わねぇくらいに、えげつねぇことお前に対して思っちまってんだけど、いいんだろうか。」
「えげつないこと?」
「……言わなきゃダメか?」
「無理にとは言わないけど、聞いてみたいな。」
「マジかよ。……ドン引きすんなよ?」
「しないよ。」
「……お前がこの先、俺じゃねぇ誰かを選んだとすんじゃん。」
「んー、まぁ、無いと思うけど。」
「そこは、はっきり無いって言えよ。」
「ごめん、無いよ、絶対。」
「なんか俺が無理やり、絶対って言わせた感じだよな。」
「そんなこと無いよ。」
「……俺、面倒臭ぇな。お前の言葉一つで浮かれたり不安になったりしちまう。」
「全然、面倒じゃないよ。むしろ愛しいって思うよ? だから話を続けて。」
「……ああ。もし、お前が俺以外の誰かを選んだら……多分、前に撮ったエロい動画拡散するって脅して、それでもダメなら拐って監禁でもしちまうんじゃねぇかな、って思ってる。……ヤバくね?」

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