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春日部 30
しおりを挟む堀田に相談に乗ってもらった後、俺は町屋を迎えにスポーツジムまで行った。そんでマンションで夕飯を食った後、星でも見に行かねぇかって誘ってみた。
恋人になってくれ、って告る為には、シチュエーションも大事かな、って思って。
町屋は「星空デートだね」って嬉しそうに了承してくれた。
町屋は俺と出掛ける時、デート、ってわざわざ言う。あの『恋人デート』の日から。
町屋も俺と恋人になりてぇって思ってくれてんのか?って思いそうになっけど、デートって言うのと同じくらい『親友』って言葉も俺に向けてくる。
町屋の本心が分かんねぇ。
でも、今日は必ず言う。
結局、堀田は恋のことは俺に何にも教えてくんなかった。
情けねぇツラしてるって言われて笑われただけ。
でも、堀田と会って気付かされたことがあった。
堀田への友情と町屋へ向かってる感情が全く別モン、ってこと。
俺は堀田のことも親友だと思ってるし、人間性も好きだ。
それをさっき再確認したけど、町屋への好意と比べてみると、中身が全然違う。
まぁ、セックスまでしちまってるしそれは当たり前なんだけど、種類も全然違くね?ってことに気付いた。
具体的に何が違うのかっていうのは、この先の将来のことを考えると分かった。
大学生活もあと半年しかねぇし、今は、就職のことを含めて将来のビジョンを考えたりしなきゃなんねぇ時期だ。
この先、堀田には多分今よりも会えなくなってくけど、困ったことがあれば俺は何でも協力してやりてぇ、って思ってる。
くそヤリチンで人付き合いの悪い俺を今まで助けてくれた分の恩返しがしてぇし、幸せになってもらいてぇから。
でも、町屋にはそう思えねぇ。
まず、会えなくなんのはぜってー嫌だし、町屋が他の誰かと幸せになるくらいなら、その幸せをぶっ壊して、二人で地獄みてぇなトコに堕ちちまっても構わねぇ。
幸せになる協力なんかじゃなくて、俺の手だけで幸せにしてやりてぇ。
物凄いエゴ。
俺が町屋に対して抱いてんのはそんな類いのきたねぇ感情だ。
だから俺はもう町屋の親友を名乗れねぇ。
きたねぇ感情は忌まわしい。
でも、すげぇ激しくて熱い。
こんな強い想いを抱くのは人生で初めてのことだから、それがちょっと誇らしくもある。
これも今の俺を形作ってる一部。
否定しちまったら、俺じゃなくなる。
だから、その想いを町屋にぶつける。
俺のきたねぇ部分を恋って言うのか、それとも違うもんなのか、多分町屋だったら教えてくれっと思うから。
★
1時間ほど車を走らせて目的地に着いた。
山ん中の展望台みてぇなトコの駐車場に車を停めて、ポツンと置かれてあるベンチに座ってそっから星を眺める。
「わぁ、結構、星見えるね。」
今日は一日快晴で明日の予報も晴れだったから、星も綺麗に出てる。
綺麗な星空と町屋の綺麗な横顔に勇気をもらい口を開く。
「あ、あのさ、町屋、話してもいいか?」
「うん。」
星空を眺めてた町屋は俺に視線を向けて笑ってくれた。
すげぇ楽しそうな顔。
やっぱりシチュエーションは大事だったらしい。
よし、頑張れ、俺。
「町屋っ、あのさ、お、俺のっ…………っ。」
「うん。」
町屋が両手を握りしめて俺を見つめてる。何か「頑張れ」って言われてる気がしてくる。
「俺っ、お前の。」
「うん。」
「こっ、」
「こ?」
『こ』の口で小首を傾げる町屋はすげぇ可愛い。
あの男から貰った高校生の町屋の画像よりも。
キスしてぇ。
唇に引き寄せられそうになってハッとする。
こんなトコでキスしちまったら、止まれなくなって話どころじゃなくなっちまう。
気を取り直して、町屋の両肩を掴む。
「町屋っ、俺のっ、恋人になってくれッ。」
「……え?」
言えた、ってホッとしてたら、町屋の顔は徐々に困惑したような顔になってった。
体から血の気が引いてくのが分かる。指先がすでに冷てぇ。
やっぱり駄目なのかって、思っちまったら、手が震えてきた。
その手をじっと見て、こっから先どうしたらいいのかを何も考えらんねぇ頭で必死に考えた。
「あ、いや、町屋が嫌なんだったら……。」
そこまで口走って、嫌なんだったらなんなんだよ?諦めんのかよ?無理だろ?って自問自答しちまった。
とにかく落ち着かねぇと。
町屋のこと撮ったハメ(られ)撮りで脅すか、なんて考えんな。それはさすがにきたねぇから、最終手段だろ。
取り敢えず、有耶無耶にして一回リセットしよう。
キスしてエロい気分にさせて、チンチンしゃぶって一発抜いてやったら、町屋は忘れてくれるかもしれねぇ。
町屋の肩に置いた手をぐっと引き寄せてキスしようとしたら止められた。
「え、あ、待って、春日部。」
「なんで拒むんだよ! キスなんて毎日してるだろ!」
「そっ、そうだけど、ちょっとまっ、待ってって。僕、混乱してて。」
俺は多分すげぇ必死な顔してたんだと思う。町屋は少し怯えたような顔してて、それが更に俺を焦らせた。
また無理やりキスしようとして今度は口の前に手を置かれて阻止された。
ちょっとした揉み合いみてぇになって、力勝負だとやっぱ俺は勝てなくて、途方に暮れちまった。
恋人になんのも拒まれて、エロいことして有耶無耶にしようとしても拒まれて散々な気分だ。
「あのさ、春日部。」
「……なンだよ?」
「僕たちってさ、とっくに恋人同士、じゃなかったの?」
「……は?」
「僕が大好き、って言うと俺も、って返してくれたよね? それってもう付き合ってるの確定でしょ? なんなら僕、婚約者みたいな気分だったんだけど。」
「……は?」
「えー、てっきり、春日部は僕にまだちゃんと好きって言ってくれてないから、それを言われるのかな、って思ってたのに。だから、もうとっくに恋人なのに、恋人になってくれなんて言われちゃって、ちょっと混乱してた。」
「……俺、ずっとお前の恋人だったのか? 親友じゃなくて?」
「そうだよ。だって僕は春日部に恋してるし、春日部は僕に恋してるんだから。文字通り恋人、でしょ?」
俺と町屋は俺の知らねぇうちに恋人同士だった。
町屋にずっと恋人だと思われてたのかと思うと、すげぇドキドキしてきた。
やべぇ。
それに、どうやら俺は町屋に恋してることで間違いないらしい。
<明日の更新は今のところ未定です>
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