不本意にも隠密から婚約者(仮)にハイスピード出世をキメた俺は、最強執着王子に溺愛されています

鳴音 伊織

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ホワイトデーとは【後編】

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「でき…た」

黄金に輝く円錐台。
茶色の帽子を被り、ひとたび揺らせば「ぷるんっ」と左右に弾む体。

そう、プリンである。

「おー、なんとか完成したねぇ」
「やりました…遂に…遂にプリンが…!!」

カエラム王宮のキッチンの隅っこ。
ヨトとハルは、水色の皿に乗ったプリンを拍手で迎えた。

あれから何度か…ルークの目を盗み、プリン作りに励んだヨトとハル。
ルークの目を本当に騙せたのか…それは定かではないが、その後彼が何かを言ってくることは無かった。
皿を両手で持ったヨトの目は、これまでに無いくらい光り輝いている。
「ホワイトデーに間に合ってよかった。ルーク王子は今、会食に出てるんだっけ…?」
「はい、もうすぐ帰ってくるとは思いますが…」
時計が示すのは夜8時を回ったところ。
確かそのくらいにルークが帰ると、今朝言っていたとヨトは記憶している。
「じゃぁ、後はがんばって!味見はしてないけれど…まぁ、大丈夫でしょ。変なもん入れてないし」
「ええ!…ルーク、喜んでくれるといいな…」
幸せそうに頬を桜色に染め、プリンに微笑みかけるヨトの顔を、ハルは笑顔で見つめていた。



>>>
「お、おかえりなさい、ルーク」
「あぁ、ヨト。すまないな1人にしてしまって。…おいで」
予定通りの時間に帰還したルークは、私室に戻ると手早く着替えを済ませ、入口に出迎えにきたヨトに両手を広げた。
ヨトは少し恥じらいながらも、その腕に飛び込む。
「あ、ルーク。ちょっと、ソファで待っててください」
「うん?どうした…ヨト?」
ぎゅぅ、と抱き合い軽くキスを交わしたところで、ヨトはルークの腕からすり抜け、そそくさと部屋を出て行く。
ルークは不思議そうにその背中を見送り、言われた通りソファに腰掛けると、メイドが用意した紅茶に手を付け彼の帰りを待つこととした。

「あ、あの…ルーク。…その、あの…」
部屋に戻ったヨトの手には小さな皿が1枚。
そこには綺麗な黄色い物体が乗せられていた。
「ん?それは、プリン…か?」
紅潮した顔のヨトが、その皿をルークの前に差し出した。
「えっと、…いつも、ありがとうございます、ルーク。その、…今日はハルの世界では『ホワイトデー』という日で、その…好きな人に、愛や感謝を伝える風習らしくて…」
「なるほど?…それで、俺にこれを?」
ルークは目の前の皿をまじまじと見つめる。
「は、はい。…せっかくなんで…作って、みました…」
その言葉に、ルークの目は大きく開かれる。
彼は何度もそのプリンとヨトの顔を交互に見比べた。
「作った…だと?…ヨトが?これは、お前の手作りなのか…?」
「は、はい。そうです…」
その瞬間、ルークの顔に満開の花が咲く。
絶世の美丈夫の極上の笑顔…
それは、死人が出てもおかしくない殺傷能力。
うっかりヨトもその心臓を射抜かれかけ、慌てて正気を保つ。
「これは…国の宝として後世まで保存するしかあるまい」
「いえ、食べてください」
「ヨトの手作りだぞ…?」
「俺の手作りです。食べてください」
大きな手のひらでその美しい顔面を抑え苦悩する姿に、ヨトは「ルークって、こんな人だったっけ」と虚無顔になるのをどうにか堪え、手にしていたスプーンで、その弾むプリンをひとすくいする。
「味の…保証は出来ませんが。…どうぞ」
自分の前に運ばれたプリンに、ルークは驚きを見せるも、直ぐにその顔は蕩けるような笑顔に変わり、形のいい唇を開く。
(わ、…食べさせてって、事…?)
スプーンを渡してしまおうと思っていたヨトは、ルークの反応にあからさまに顔を紅くする。
ドクンドクンと高鳴る鼓動で揺れるプリンを、おそるおそるその真っ赤な唇へと運ぶ。
薄い唇が黄色いそれを捉えると、直ぐに吸い込まれるように消え、唇に残る水分を舌先で舐めとる様からヨトは目を離せずに居た。
(なんで、プリン1口食べるだけでそんな色っぽいんだ…この王子は)
「ん、甘い。美味しいよ、ヨト…ありがとう」
いつもは少し意地悪に笑うルークの口元が、今日は綺麗に弧を描く…そんな様子にヨトの心臓はもう爆発してしまいそうだった。
「い、いえ。…喜んでもらって、良かった…」
ルークの横に座り俯くヨトの身体は持ち上げられ、いつもの定位置である膝上へと置かれる。
「まさか…これを作っていてくれたとは。…万が一にでもハルと浮気等していないだろうか、とゼノに監視させていたのだが…こんな報告は上がって来なかったな」
「は!!!!?????」
(ちょ、いつの間に!??隠密の俺が全然気付かなかったけども!!!??)
プリン作りに夢中になりすぎて、その様子を薄ら笑いで見つめるゼノになど気付くはずもなかった。
「…ヨト、おかわり」
「は、はい」
そう言って口を開くルークへの餌付けは続く。
気が付けば、ヨトが持つ皿は綺麗に空になっていた。
「お前が、俺の為に作ってくれるとは…これ以上の喜びはない。本当にありがとうな、ヨト」
「い、いえ。ルークにはいつも世話になってますし…あと、その…」
テーブルの上に皿を置いたヨトは、伏し目になり何か落ち着かない様子で視線を泳がせている。
「うん?…どうしたんだ?」
不思議そうにヨトの顔を覗き込むルークの唇に、「ちゅ」と音を立てて柔らかいものが触れる。
「…!?」
「…大好きです、ルーク。これからも、…俺と一緒に居てください」
赤く染めた頬で作る可愛い笑顔は、すぐにルークに貪られることとなる。
「当たり前だ。…俺も、愛してるよヨト」

(あま、い…)

ルークから感染うつるその甘さの余韻は、ヨト心を暫くの間蕩けさせていた。

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