不本意にも隠密から婚約者(仮)にハイスピード出世をキメた俺は、最強執着王子に溺愛されています

鳴音 伊織

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黒龍編

エピローグ

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「これは一体、どこに向かうんです?」

黒龍討伐も一件落着…肝心の召喚主であるラセツの姿を見付けることは出来なかったが、一先ず日常は平穏を取り戻した。

ヨトはメイドのエルザに用意された衣服を身に纏い、言われるがままに馬車へと乗り込んだ。
馬車は外出に使う物よりふた周り程大きく、それを引く馬も2頭に増えている。
深い蒼で彩られたフカフカのまるでベッドのような座席に腰掛けながら、広い車内だと言うのに自分に密着して腰に腕を回すルークに尋ねた。
「あぁ、これは今からチェイラの里に向かう」
「俺の故郷に…?あぁ、黒龍討伐のお礼とかですか?」
隙間なく体を合わせるその様子に、ヨトも満更では無い様子で自らもルークの体に凭れかかる。
(まぁたしかに、結局あの討伐は親父が用意してくれた刀と兄さん2人の助力あって…って感じだったけど、わざわざそれで…?)
「まぁ、それもあるが…。ちゃんと挨拶をしておこうと思ってな」
「挨拶…?」
不思議そうな顔でルークの顔を見上げるヨトの額に唇を落としながら、ルークは悪い笑みを浮かべた。
「お前を嫁に貰います、という挨拶だな」
「…へぁ…!?」
思っても居なかったその返答に、ヨトはどこから出たのか解らない声を上げる。

あれから、ヨトはルークの正式な婚約者として現国王と現王妃に挨拶を済ませた。
(こんな他所からきた何処の馬の骨とも解らない男…めちゃくちゃ反対されるんだろうな…)
と、胃の痛い思いをしていたヨトだったが…その予想は見事に裏切られ「君はその高い戦闘能力で黒龍討伐に一役買ったと聞いたよ。それにルークが選んだのなら間違いないだろう。幸せになりなさい」「あら可愛らしい!今度お買い物に行きましょう」等と、完全ウエルカム状態で無事ロイヤルファミリーに加わる事となった。
ヨトの心配の種であった跡継ぎ問題も「長女のアリラが隣国に嫁いで子沢山だし、まぁどうとでもなるだろう」という、本当に国王かと疑う軽いお言葉で全て解消された。

「ま、まぁ確かに…正式な婚約者になったから、親父には言わなきゃなって思ってましたけど…ルーク忙しいのに、よく時間取れましたね」
「あぁ…それは、黒龍討伐の褒美として1ヶ月の休暇をもぎ取ったからな」
「い、1ヶ月も!?」
ルークは王子としてだけでなく、大魔術師の職務も兼任している為か、何時も異常な量の書類に追われている。
「その間の仕事は、ゼノとアレックスに押し付けてきた。今回アイツら結局何もしてねぇからな。当然だろ」
(…ゼノ殿、アレックス殿…尊い犠牲に感謝します…)
慣れない書類仕事でヒーヒー言う2人に思いを馳せ、ヨトは心の中で手を合わせた。
「そんなことより、なぁ…ヨト」
ニヤリ、とルークの口元が弧を描いたかと思えば、いつの間にかヨトの体は、ベッドのように広い座席に沈んでいた。
「……な、ナンデショウ、ルーク」
(これは…まさか??い、いやいくらなんでも馬車の中だしそんな…)
ヨトの背中には、これからの展開を「まさか…」と思いながらも完全に否定が出来ず、冷や汗が伝う。
「チェイラまでは3日は掛かるだろう。その間、どうやって過ごすか、だが…」
いつの間にかルークはヨトの体に覆いかぶさり、その首元に浮かぶ魔法刻印に顔を埋めた。
「いや、あの、嘘でしょ?ルーク…ここ、馬車の中です…」
「ん?だからどうした。体が辛くないよう上等なベッド式のもの用意しただろ」
(いやもう、ベッドって言ってんじゃん!!)
「え、えっ…いや、声外に聞こえたらどうするので?」
「先に頑丈な防音壁を魔法で張ってある。幾らでも可愛い声出していいぞ、ヨト」
「さ、流石に揺れたら御者さんとか馬とかに迷惑なのでは…」
「可愛い事を言うんだな。それも安心しろ。既に車体には風魔法で少し浮かせてある。少々の揺れなど何の負担にもならん」
(準備万端すぎるだろ…完璧かよ)
心の中でそうツッコミを入れているヨトの気持ちなんていざ知らず、ルークは白い首筋に噛み付き、胸元を弄り…準備万端である。
「…んっ、ちょ…ま、って…」
「1度やってみたかったんだよな。部屋に篭って一日中お前を可愛がるというのを」
「ひっ…い、1日どころか3日……」
泣き言を漏らすヨトの唇を長い指で優しく触れながら、それとは裏腹の...至極愉しそうな悪い笑みをルークはヨトへと向ける。
「じゃぁ、ヨト。ここで選択肢をやろう。...この3日間、俺にドロドロに愛されるか...俺にぐちゃぐちゃに愛されるか」
「どっちも変わらないと思います、ルーク」
「......楽しい3日間にしような、ヨト」
「お、おれ…そんな体もたな……この!!!絶倫王子っっ!!!!」

そんな叫びも虚しく…この後ヨトは、味わった事のない濃密な3日間を過ごすことになるのであった。

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