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黒龍編
29.
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(どう、して……)
ルークはその2つの瞳が写し出す人物の姿が、信じられずにいた。
「ルーク!大丈夫ですか!怪我は!?」
自分の目の前で、両手に短剣を持った人間がこちらを心配そうに振り返る。
「なん、で…どうし、て…戻ってきた……」
驚きのあまり、ルークは声を上手く出す事が出来ない。
「大事な人がピンチの時に駆けつけないなんて、そんなの嫁としても隠密としても失格ですから」
ルークの目の前に現れたヨトは、それまでとはまるで別人の…生まれ変わったかのような生き生きとした顔で笑っていた。
「グァァァァァァァ!!!!!」
その時、黒龍の絶叫が樹海に響き渡る。
そこには、大きな翼の翼膜を破られよろめく巨体と、そこから降りてくる黒い影が2つ。
その黒い影の1つが、ヨトの隣へと着地してみせた。
「いやぁ、話には聞いてたけどかっったいねぇ黒龍…翼膜破るのが精一杯。初めまして、ルーク王子。俺らも手助けしますよ」
可愛らしいピンク色の髪の毛を携えた青年が、ドロリと液体がまとわりついた短剣を片手に手を振る。
未だ驚きを隠せず、その場に立ち尽くすルークに、ヨトは背負っていた刀を差し出す。
「ルークこれを。ウチの親父…里長からの届け物です」
「…これ、…は?」
震える手でそれを受け取ると、ゆっくりとその刀身を抜いてみせた。
「タルスゼーレで造られた刀です。親父曰く、それなら黒龍も切れるだろう、と」
「そんな…あの鉱物からこんなものが…」
驚きから言葉を失うルークの横に、もう一つの影が飛び込んできた。
「ルハオ、ヨト、王子。どうやらあの龍に影縫いは有効のようだ」
綺麗な着地でその場に降りたグアンが、手にしたクナイを軽く掌の上で投げながらそう皆に告げる。
「影縫い?」
聞き慣れない言葉に、ルークは眉間に皺を寄せる。
「あぁ、この特殊なクナイを生物の影に刺し、その動きを封じる技。まぁ、もって数秒だが」
「十分だよ。その一瞬の隙で、俺があの黒龍の目を狙う。そしてそれで怯んだ時に、ルークがその刀で首を落とせば」
ヨトはそう言いながら、痛みで興奮状態になったのか、殺気に満ちた目でこちらの様子を伺う黒龍を睨みつける。
「オーケーオーケー!じゃぁグアンが動きやすいように、俺は黒龍の気を引いておこうか」
ルハオはそう言いながら、指で丸を作りウインクをした。
「ルーク…」
ヨトはルークに駆け寄ると、その刀を握り締める手にそっと自分の手を重ねた。
「ルークの気遣いを無下にしたことは謝ります。でも…絶対に貴方を失いたくは無い。一緒に黒龍を倒しましょう」
そう意気込むヨトに呆気に取られていたルークは、空いた手で自分の顔を覆い声を上げて笑う。
「…はぁ、つくづく自分がみっともないな。…わかった、やろうヨト。それにグアン、ルハオ。皆でアレを倒そう。力を貸してくれ」
「はい…!絶対に仕留めましょう」
「承知」
「もちろんですよ、王子!…そんじゃ話は終わりかな?いっくよー!」
ルハオが勢いよく黒龍の眼前に飛び出すのを皮切りに、各々が体勢を整える。
周りの木々を足場にして飛び回るルハオを、うっとおしそうに黒龍は前足で叩き落とそうと黒い腕が宙を斬る。
「……ッグァァ…!!!」
一瞬、その黒龍の動きが声と共にピタリと止まった。
「いいぞ、…行け!ヨト!」
「了解」
グアンの声を受け、ヨトは黒龍の体を軽い足取りで登る。あっという間にその堅い瞼で覆われた眼球部に辿り着くと、手にしていた短刀を思い切り突き刺した。
「グァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
鼓膜が破れそうなほどの悲鳴が、樹海全部に響き渡る。
「今です!!!ルーク!!!!」
「…あぁ、任せろ」
グラり、と横に重心を崩した黒龍の眼前に、高く跳び上がったルークは、手にしたその光り輝く刀を振り被り、その首めがけて思い切り振り下ろす。
轟音と共にそこには、2つに分かれた黒龍の体が…静かに崩れ落ちていった。
ルークはその2つの瞳が写し出す人物の姿が、信じられずにいた。
「ルーク!大丈夫ですか!怪我は!?」
自分の目の前で、両手に短剣を持った人間がこちらを心配そうに振り返る。
「なん、で…どうし、て…戻ってきた……」
驚きのあまり、ルークは声を上手く出す事が出来ない。
「大事な人がピンチの時に駆けつけないなんて、そんなの嫁としても隠密としても失格ですから」
ルークの目の前に現れたヨトは、それまでとはまるで別人の…生まれ変わったかのような生き生きとした顔で笑っていた。
「グァァァァァァァ!!!!!」
その時、黒龍の絶叫が樹海に響き渡る。
そこには、大きな翼の翼膜を破られよろめく巨体と、そこから降りてくる黒い影が2つ。
その黒い影の1つが、ヨトの隣へと着地してみせた。
「いやぁ、話には聞いてたけどかっったいねぇ黒龍…翼膜破るのが精一杯。初めまして、ルーク王子。俺らも手助けしますよ」
可愛らしいピンク色の髪の毛を携えた青年が、ドロリと液体がまとわりついた短剣を片手に手を振る。
未だ驚きを隠せず、その場に立ち尽くすルークに、ヨトは背負っていた刀を差し出す。
「ルークこれを。ウチの親父…里長からの届け物です」
「…これ、…は?」
震える手でそれを受け取ると、ゆっくりとその刀身を抜いてみせた。
「タルスゼーレで造られた刀です。親父曰く、それなら黒龍も切れるだろう、と」
「そんな…あの鉱物からこんなものが…」
驚きから言葉を失うルークの横に、もう一つの影が飛び込んできた。
「ルハオ、ヨト、王子。どうやらあの龍に影縫いは有効のようだ」
綺麗な着地でその場に降りたグアンが、手にしたクナイを軽く掌の上で投げながらそう皆に告げる。
「影縫い?」
聞き慣れない言葉に、ルークは眉間に皺を寄せる。
「あぁ、この特殊なクナイを生物の影に刺し、その動きを封じる技。まぁ、もって数秒だが」
「十分だよ。その一瞬の隙で、俺があの黒龍の目を狙う。そしてそれで怯んだ時に、ルークがその刀で首を落とせば」
ヨトはそう言いながら、痛みで興奮状態になったのか、殺気に満ちた目でこちらの様子を伺う黒龍を睨みつける。
「オーケーオーケー!じゃぁグアンが動きやすいように、俺は黒龍の気を引いておこうか」
ルハオはそう言いながら、指で丸を作りウインクをした。
「ルーク…」
ヨトはルークに駆け寄ると、その刀を握り締める手にそっと自分の手を重ねた。
「ルークの気遣いを無下にしたことは謝ります。でも…絶対に貴方を失いたくは無い。一緒に黒龍を倒しましょう」
そう意気込むヨトに呆気に取られていたルークは、空いた手で自分の顔を覆い声を上げて笑う。
「…はぁ、つくづく自分がみっともないな。…わかった、やろうヨト。それにグアン、ルハオ。皆でアレを倒そう。力を貸してくれ」
「はい…!絶対に仕留めましょう」
「承知」
「もちろんですよ、王子!…そんじゃ話は終わりかな?いっくよー!」
ルハオが勢いよく黒龍の眼前に飛び出すのを皮切りに、各々が体勢を整える。
周りの木々を足場にして飛び回るルハオを、うっとおしそうに黒龍は前足で叩き落とそうと黒い腕が宙を斬る。
「……ッグァァ…!!!」
一瞬、その黒龍の動きが声と共にピタリと止まった。
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「グァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
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