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黒龍編
15.
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「だとよ」
「いいんじゃね?…ふーん、よく見りゃ可愛い顔じゃねーか。始末する前に遊んじまおうぜ」
「いいねぇ、…よォ兄ちゃん…存分に可愛がってやるからなぁ」
「お前、男相手にヤれんのかよ」
「この顔なら突っ込めんだろ。最近ヤってねぇからなぁ」
3人の大男達が己の汚い欲望を口にしながらヨトを取り囲む。
ヨトはその男達から目線を外さないよう、足元に落ちた小刀を拾い上げて構えた。
ジリジリと間合いを取りながら、1番端の男にヨトは勢いよく飛びかかる。
彼の一撃が男の腕に傷を入れた…が、同時に別の男がヨトの横腹を殴り、その勢いで壁に向かって体を吹き飛ばされた。
「……っ、…く、そっ……」
鈍い音が鳴り響く。
ぶつかった衝撃でひび割れた壁の破片が、パラパラとヨトに降りかかる。
「さて、…遊びの時間は終わりだなぁ」
腕を切られた男が、その傷に舌を這わせながらヨトに1歩近付くと、同時に他の2人も同じように近付いた。
ヨトは自身のその可愛らしい顔の眉間に皺を寄せ、その男たちを威嚇するかのように睨み付ける。
(くっそ、どうすれば……ここで捕まって好きにされるくらいなら、いっそ自害したほうが……)
唐突にヨトの中に染み付いた極端な隠密精神がここにきて蘇る。
殴られた横腹と打ち付けた背中も痛む。暫くはまともに動けそうにない。
壁に寄りかかったまま手にした小刀を、ヨトは己の首に宛てがった。
(主…ごめんなさい。…最期に、主にお会いしたかった…)
目を閉じれば、その瞼には優しく微笑むルークの顔が蘇る。震える手で、頸動脈辺りに置いたその小刀を首の皮膚へと押し当てる。
(…ホントなら、主の腕の中で終わりを迎えたかったな……)
ふと、壁から冷気が漂ってきた。
(ん?…この壁こんなに冷たかったか?)
ヨトの手の動きが止まる。
その白くて綺麗な首には、赤い線が薄く滲んでいた。
顔を上げてみると、周りを取り囲む男達も腕を擦り寒がる素振りを見せている。
「おい、なんか急に寒くないか……」
「まだ日が落ちるには早いだろ」
「お、おい!!!!」
男の1人が慌てた声を上げる。
「あ、足が……!!」
そう叫び慌てる男たちの足は氷漬けになっており、そのまま地面と繋がれている。
見れば、ヨトの周囲以外の床1面が極寒の湖に氷が張ったかのようになっていた。
パキィ、パキィ……と氷を踏み鳴らす…少し不気味にも感じられるその音が、入口の方から聞こえる。
「だ、誰だ!!!!」
男たちはどうにか上半身だけを動かし、その音のする方に向けた。
「……お前ら、俺の大事な人間に何やってんだ。あ?」
(この声は……!!)
聞き覚えのある声に、ヨトは勢いよく入口の方に顔を向ける。
「あ、る……じ?」
そこに立っていたのは、右手に青く光る冷気を纏わせ、光の無い瞳を大きく見開いた……表情のないルークの姿だった。
「ひっ……」
その、鬼の様な形相でドス黒いオーラを纏った男の姿に、男たちは息を飲んだ。
ルークが1歩歩みを進める毎に、部屋に溢れる冷気が増す。
「おい、そこのお前…その汚ぇ手で、俺のヨトを殴ったよなァ……」
これまで聞いた事のないドスの効いた声でルークは、1番左に立っている大男を指さしそう言った。
ヨトの横腹を殴ったその男に向けられる右手。
忽ち男の手は氷漬けとなり…次の瞬間に氷が粉砕さられるかのようにその手ごと弾け飛んだ。
「ひぃぃぃぃ……!!!!」
部屋中に男の悲痛な叫びが響き渡る。
「お、おい!!!な、な、何なんだあいつ!!」
尋常ではないその様子に、別の男は怯え切った情けない声を上げる。
「ま、まて……金髪に赤目……話にしか聞いた事ねぇが……この訳わかんねぇ魔法……まさかアイツ……アイラード大陸の…大魔術師……」
真ん中に居た男が、すっかり気の抜けた声で、何かを思い出したかのように呟いた。
「はぁ!?どう見てもありゃこの国の王子だろうがよ!!!そんなのが…あの伝説の……」
「く、詳しい容姿や名前なんて誰も知らねぇだろうが!!!だって、あの伝説の魔術師を相手にした奴は誰も!!!!!」
一人の男が興奮気味にそう叫び、はっとした表情になったかと思えばそこで言葉を止めた。
すっかり意気消沈した、腕を消された男が自傷気味に笑いながら言葉を続ける。
「アイラード大陸の大魔術師…そう呼ばれる男と対峙した者で…生きている者は、いない……」
「……馬鹿はよく喋る」
ルークがそう言いながら男たちの前に手を翳す。
それをそのまま横に動かすと、順々に彼らの全身が氷漬けとなり……そのまま、弾け飛んで跡形もなく消え去る。
…後に残ったのは、美しい細氷だけであった。
「いいんじゃね?…ふーん、よく見りゃ可愛い顔じゃねーか。始末する前に遊んじまおうぜ」
「いいねぇ、…よォ兄ちゃん…存分に可愛がってやるからなぁ」
「お前、男相手にヤれんのかよ」
「この顔なら突っ込めんだろ。最近ヤってねぇからなぁ」
3人の大男達が己の汚い欲望を口にしながらヨトを取り囲む。
ヨトはその男達から目線を外さないよう、足元に落ちた小刀を拾い上げて構えた。
ジリジリと間合いを取りながら、1番端の男にヨトは勢いよく飛びかかる。
彼の一撃が男の腕に傷を入れた…が、同時に別の男がヨトの横腹を殴り、その勢いで壁に向かって体を吹き飛ばされた。
「……っ、…く、そっ……」
鈍い音が鳴り響く。
ぶつかった衝撃でひび割れた壁の破片が、パラパラとヨトに降りかかる。
「さて、…遊びの時間は終わりだなぁ」
腕を切られた男が、その傷に舌を這わせながらヨトに1歩近付くと、同時に他の2人も同じように近付いた。
ヨトは自身のその可愛らしい顔の眉間に皺を寄せ、その男たちを威嚇するかのように睨み付ける。
(くっそ、どうすれば……ここで捕まって好きにされるくらいなら、いっそ自害したほうが……)
唐突にヨトの中に染み付いた極端な隠密精神がここにきて蘇る。
殴られた横腹と打ち付けた背中も痛む。暫くはまともに動けそうにない。
壁に寄りかかったまま手にした小刀を、ヨトは己の首に宛てがった。
(主…ごめんなさい。…最期に、主にお会いしたかった…)
目を閉じれば、その瞼には優しく微笑むルークの顔が蘇る。震える手で、頸動脈辺りに置いたその小刀を首の皮膚へと押し当てる。
(…ホントなら、主の腕の中で終わりを迎えたかったな……)
ふと、壁から冷気が漂ってきた。
(ん?…この壁こんなに冷たかったか?)
ヨトの手の動きが止まる。
その白くて綺麗な首には、赤い線が薄く滲んでいた。
顔を上げてみると、周りを取り囲む男達も腕を擦り寒がる素振りを見せている。
「おい、なんか急に寒くないか……」
「まだ日が落ちるには早いだろ」
「お、おい!!!!」
男の1人が慌てた声を上げる。
「あ、足が……!!」
そう叫び慌てる男たちの足は氷漬けになっており、そのまま地面と繋がれている。
見れば、ヨトの周囲以外の床1面が極寒の湖に氷が張ったかのようになっていた。
パキィ、パキィ……と氷を踏み鳴らす…少し不気味にも感じられるその音が、入口の方から聞こえる。
「だ、誰だ!!!!」
男たちはどうにか上半身だけを動かし、その音のする方に向けた。
「……お前ら、俺の大事な人間に何やってんだ。あ?」
(この声は……!!)
聞き覚えのある声に、ヨトは勢いよく入口の方に顔を向ける。
「あ、る……じ?」
そこに立っていたのは、右手に青く光る冷気を纏わせ、光の無い瞳を大きく見開いた……表情のないルークの姿だった。
「ひっ……」
その、鬼の様な形相でドス黒いオーラを纏った男の姿に、男たちは息を飲んだ。
ルークが1歩歩みを進める毎に、部屋に溢れる冷気が増す。
「おい、そこのお前…その汚ぇ手で、俺のヨトを殴ったよなァ……」
これまで聞いた事のないドスの効いた声でルークは、1番左に立っている大男を指さしそう言った。
ヨトの横腹を殴ったその男に向けられる右手。
忽ち男の手は氷漬けとなり…次の瞬間に氷が粉砕さられるかのようにその手ごと弾け飛んだ。
「ひぃぃぃぃ……!!!!」
部屋中に男の悲痛な叫びが響き渡る。
「お、おい!!!な、な、何なんだあいつ!!」
尋常ではないその様子に、別の男は怯え切った情けない声を上げる。
「ま、まて……金髪に赤目……話にしか聞いた事ねぇが……この訳わかんねぇ魔法……まさかアイツ……アイラード大陸の…大魔術師……」
真ん中に居た男が、すっかり気の抜けた声で、何かを思い出したかのように呟いた。
「はぁ!?どう見てもありゃこの国の王子だろうがよ!!!そんなのが…あの伝説の……」
「く、詳しい容姿や名前なんて誰も知らねぇだろうが!!!だって、あの伝説の魔術師を相手にした奴は誰も!!!!!」
一人の男が興奮気味にそう叫び、はっとした表情になったかと思えばそこで言葉を止めた。
すっかり意気消沈した、腕を消された男が自傷気味に笑いながら言葉を続ける。
「アイラード大陸の大魔術師…そう呼ばれる男と対峙した者で…生きている者は、いない……」
「……馬鹿はよく喋る」
ルークがそう言いながら男たちの前に手を翳す。
それをそのまま横に動かすと、順々に彼らの全身が氷漬けとなり……そのまま、弾け飛んで跡形もなく消え去る。
…後に残ったのは、美しい細氷だけであった。
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