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黒龍編
14.
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「……ん、…」
目を覚ますと、ヨトは真っ暗な空間に座っていた。
両手は後ろ手で柱か何かに縛られているようで、身体を動かす事が出来ない。
「どこだ、ここは……」
(確か、不審者が居ないか探して…給湯室で誰かに…)
薬物を嗅がされていた名残りなのか、頭に少し痛みがあるが、それ以外はこれと言って体のどこにも異常は感じられない。
どうにか縛られた縄から抜け出そうと身を捩っていると、目の前から強い光が入り込み、その眩しさで視界が真っ白になる。
ドアが開かれたのか、何者かがヨトへと近付いてくる足音が聞こえた。
「ほう、目覚めたのか」
その声は……ヨトの記憶の片隅に確かに存在をしているものに酷似していた。
「……誰、だ…」
「何だ、我の顔を忘れたのか。大きくなったなヨト。まさかあの男が寵愛している相手がお前だったとはな」
ヨトの目の前に立っているのは、白装束にグレーの羽織。真っ白な長い髪を緩く纏めた男…その姿が目に入るやいなや、ヨトは目を見開いた。
「ラ、セ、ツ……」
その名を呼ぶ声は震え、途端にヨトの口はカラカラに乾く。
「おや、覚えて居てくれたんじゃないか。嬉しいよ、ヨト」
「……っ……忘れるわけないだろう。……あの日…里を……俺の産まれた里を滅茶苦茶にしたお前の顔を……」
(あの日の、あの情景を、1度たりとも忘れたことは無い)
後ろ手で拳を握るヨトの手には、思わず力が入り微かに震えている。
「懐かしいな……お陰でこの名刀は我の物となった。この価値が分からない里の奴らは、この刀を堂の奥へと封印していた…そのような無能が集まる里など必要ない」
そう言ってラセツは腰に帯刀した、黒光りする刀を愛おしむかのように撫でた。
「そんな理由で……お前は!!!!」
歯をカチカチと鳴らし、面憎い目の前の相手を睨み付ける。
そんなヨトを嘲笑うかのように、彼の前にしゃがみ込むと憎悪で震えるその顎に手を置いた。
「お前も不運よなぁ。腰を据えた場所が再び無くなるとは」
「どうして…この国を……」
「ん?何故とは…面白い事を聞く。かの鉱物、あれを我の物にしたい。ただそれだけだ」
顔の殆どが長い前髪で覆われ、合間から覗く金色の瞳がこちらを見下ろし薄ら笑いを浮かべている。
ヨトは下唇を噛み、手の裾に隠していた小刀で手首を束縛している縄を切り解くと、そのままそれをラセツの目を狙い突き出す。
が、敢無くその左腕はラセツによって止められた。
「……っく、……」
手首をへし握られ折れるほどの力が加えられると、ヨトの顔は苦痛に歪み、カランっ……と小刀が冷たい床にぶつかる音が部屋に響いた。
「ん…?ほう、お前面白いものを持っておるじゃないか」
ふとラセツは握り込んだ手の、薬指に光る宝石に気付く。
「や、めろ…触るな……」
「これはかの鉱物であろう。まさかこの様なところにあろうとは……」
ラセツは不気味に笑いながら、その指輪をヨトの指から引き抜こうとした。
(たしか無理に引き抜こうとしたら俺の指が…って主が)
『ちなみにその指輪…俺以外、外せない魔法を施した。無理に外そうとすると、指が引きちぎれるから気を付けろよ』
次にくるであろう痛みに備え、ヨトはギュッと固く目を閉じた。
……だが、声を上げたのは、ラセツの方だった。
「ぐぁぁぁっ……くっ……」
顔に何か生温い液体が掛かる感触がした。
おそるおそる目を開けてみると…ラセツの腕から血が噴き出し、顔を歪めてそこを押さえ込んでいる。
彼の白装束が瞬く間に真っ赤に染まっていった。
「なんだそれは…鎌鼬でも仕込んであるのか。腕が切り刻まれようとは…くっ」
「……っ…なん、で……」
(ルークは、無理に外そうとすれば指が引きちぎれると言っていた……だが、実際は俺の指は傷1つない…指輪に手を掛けた人間の腕が傷だらけになっている)
状況の処理にヨトの脳はまるで追い付かず、血に染る憎き相手を、ただ呆然と見つめていた。
「……チッ……興が醒めた」
そう言ってラセツは血の滴る傷口を反対の手で押さえ、よろめきながら立ち上がりヨトに背を向けると入口へと近付いていく。
部屋を出ようとするラセツに代わり、数人の汚い布切れを巻いた大男たちが部屋へと入ってきた。
「始末しろ。左手だけは残しておけ、後は好きにしていい」
そう冷たく言い放つと、ラセツは闇の中へと姿を消した。
目を覚ますと、ヨトは真っ暗な空間に座っていた。
両手は後ろ手で柱か何かに縛られているようで、身体を動かす事が出来ない。
「どこだ、ここは……」
(確か、不審者が居ないか探して…給湯室で誰かに…)
薬物を嗅がされていた名残りなのか、頭に少し痛みがあるが、それ以外はこれと言って体のどこにも異常は感じられない。
どうにか縛られた縄から抜け出そうと身を捩っていると、目の前から強い光が入り込み、その眩しさで視界が真っ白になる。
ドアが開かれたのか、何者かがヨトへと近付いてくる足音が聞こえた。
「ほう、目覚めたのか」
その声は……ヨトの記憶の片隅に確かに存在をしているものに酷似していた。
「……誰、だ…」
「何だ、我の顔を忘れたのか。大きくなったなヨト。まさかあの男が寵愛している相手がお前だったとはな」
ヨトの目の前に立っているのは、白装束にグレーの羽織。真っ白な長い髪を緩く纏めた男…その姿が目に入るやいなや、ヨトは目を見開いた。
「ラ、セ、ツ……」
その名を呼ぶ声は震え、途端にヨトの口はカラカラに乾く。
「おや、覚えて居てくれたんじゃないか。嬉しいよ、ヨト」
「……っ……忘れるわけないだろう。……あの日…里を……俺の産まれた里を滅茶苦茶にしたお前の顔を……」
(あの日の、あの情景を、1度たりとも忘れたことは無い)
後ろ手で拳を握るヨトの手には、思わず力が入り微かに震えている。
「懐かしいな……お陰でこの名刀は我の物となった。この価値が分からない里の奴らは、この刀を堂の奥へと封印していた…そのような無能が集まる里など必要ない」
そう言ってラセツは腰に帯刀した、黒光りする刀を愛おしむかのように撫でた。
「そんな理由で……お前は!!!!」
歯をカチカチと鳴らし、面憎い目の前の相手を睨み付ける。
そんなヨトを嘲笑うかのように、彼の前にしゃがみ込むと憎悪で震えるその顎に手を置いた。
「お前も不運よなぁ。腰を据えた場所が再び無くなるとは」
「どうして…この国を……」
「ん?何故とは…面白い事を聞く。かの鉱物、あれを我の物にしたい。ただそれだけだ」
顔の殆どが長い前髪で覆われ、合間から覗く金色の瞳がこちらを見下ろし薄ら笑いを浮かべている。
ヨトは下唇を噛み、手の裾に隠していた小刀で手首を束縛している縄を切り解くと、そのままそれをラセツの目を狙い突き出す。
が、敢無くその左腕はラセツによって止められた。
「……っく、……」
手首をへし握られ折れるほどの力が加えられると、ヨトの顔は苦痛に歪み、カランっ……と小刀が冷たい床にぶつかる音が部屋に響いた。
「ん…?ほう、お前面白いものを持っておるじゃないか」
ふとラセツは握り込んだ手の、薬指に光る宝石に気付く。
「や、めろ…触るな……」
「これはかの鉱物であろう。まさかこの様なところにあろうとは……」
ラセツは不気味に笑いながら、その指輪をヨトの指から引き抜こうとした。
(たしか無理に引き抜こうとしたら俺の指が…って主が)
『ちなみにその指輪…俺以外、外せない魔法を施した。無理に外そうとすると、指が引きちぎれるから気を付けろよ』
次にくるであろう痛みに備え、ヨトはギュッと固く目を閉じた。
……だが、声を上げたのは、ラセツの方だった。
「ぐぁぁぁっ……くっ……」
顔に何か生温い液体が掛かる感触がした。
おそるおそる目を開けてみると…ラセツの腕から血が噴き出し、顔を歪めてそこを押さえ込んでいる。
彼の白装束が瞬く間に真っ赤に染まっていった。
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「……っ…なん、で……」
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「……チッ……興が醒めた」
そう言ってラセツは血の滴る傷口を反対の手で押さえ、よろめきながら立ち上がりヨトに背を向けると入口へと近付いていく。
部屋を出ようとするラセツに代わり、数人の汚い布切れを巻いた大男たちが部屋へと入ってきた。
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そう冷たく言い放つと、ラセツは闇の中へと姿を消した。
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