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出会い編
4.
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広い広い執務室に、トントントンと規則的な音が響く。
いつもの様に執務机で書類と戦うルークは、朝から落ち着かない様子をみせている。指で机を叩きながら、「心ここに非ず…」といったようだ。
「……ヨト」
ヨトは相変らず…何度言っても、本棚の微妙な隙間から出てこようとはしない。
半ば諦めたルークは、もう慣れたものとなった大きな独り言を発した。
「なんでしょう主」
「ちょっと疲れたから…こっちに来てくれないか」
ヨトは狭い隙間で器用に首を傾げながら、言われた通りルークの隣へと瞬時に移動した。
「来ましたが……?」
「じゃぁ、ここに座って」
「……は?」
ルークが膝を叩き「ここ」と示した場所は……なんと、彼の膝の上であった。
「ここ、早く」
「い、いや……いくらなんでも主……」
(まさかこの男は、膝の上に乗れ…と言っているのであろうか。いや、さすがに、男の…それも王子の膝に乗るだなんて……)
遠慮気味にヨトは体を引く。
「……ヨト」
有無を言わさない、ルークの圧のある低い声が部屋に響く。
「…………わかりました」
しぶしぶヨトは、彼の膝にちょこんと座る。
「もっとちゃんと座って」
腰に腕を回され、ぐいっとヨトの体はルークの方に引き寄せられる。彼の体と自分の体がぴったりと密着し、そこからじんわりと温かさが伝わる。
「ちょ!!主……!重いですから!!」
どうにか逃げ出そうと体を動かすも、想像以上に逞しい彼の腕にがっちりとホールドされて身動きが取れない。
「重くない。……ついでにヨト、俺の代わりにここに名前書いて」
ルークは空いている手を机の上に置き、そこにある書類を指でトントンと指し示した。
「は、はぁ?…主の名前を書けばいいので?」
「いや、ヨトの名前でいい」
「お、俺の?」
「いいから……」
何で俺の名前を……と怪訝な表情を浮かべながらも、言われた通り書類の右下にある線が書かれた部分に自分の名前を書いた。
「これでいいですか?」
「完璧。ありがとう、ヨト」
「いえ……」
(お礼を言われると何だか擽ったい)
いつまでこのままなんだろう…とヨトは横目でルークを見ると、彼は引き出しの中からゴソゴソと何かを取り出している。
ルークが何をしているのか分からないヨトは、彼の行動を目で追うのを止め、先程サインをした書類に目線を移した。
(俺がサインをしていい書類なんて…そんなものあるのか?)
不思議に思いながらその紙を見出しを読んだ瞬間……ヨトは目を見開いた。
「ちょっと待ってください、主。……こ、この書類……」
「こっちも完璧」
ルークはヨトの左手を触り何かをしている。
…………おそるおそる、自分の左手を確認する。
そこには……薬指に、見たことも無い程の大きな宝石の付いた指輪が……嵌められていた。
そう、これはまさしく、エンゲージリングである。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」
自分でも驚く程の大きな声が出た。
そんな様子のヨトを笑いながら、自分も書類へ流れるようにサインをする。
その見出しには
「婚姻届」
と大きく書かれていた。
「さて、これで俺とヨトは晴れて夫婦だ」
「は、いや……ちょっと、……な、何言ってんですかアンタ…正気ですか…」
ヨトは目を白黒させ、口を魚のようにパクパクさせた。
人生何が起こるかわからない、突如として隠密から王太子妃に大出世である。
「ちなみにその指輪…俺以外、外せない魔法を施した。無理に外そうとすると、指が引きちぎれるから気を付けろよ」
ルークは笑顔で恐ろしい事を口にした。
「いや!!!!!落ち着け!?アンタ王子だろ!?もっとあるじゃん!?家柄とか世継ぎとか!!アンタも俺も男ですけど!??」
衝撃のあまり、まるで友人に話すかのような口調になってしまっている事に気付かないヨト。
「んー?別に次期国王はゼノが適任だと思っているし、俺はずっとそう言い続けている。アイツ頭良いしな。……それに俺はヨトがいい。お前以外考えられない」
そういうとルークは、目の前にあるヨトの首元に顔を埋めた。
「何をどうしたら会って4日の……しかもアンタの部屋に忍び込んだ他所の国の隠密と結婚しようって考えに至るんですか!!!!?????頭大丈夫ですか!!!!??????」
「まー、あれじゃん?運命ってやつ」
「知らんがなそんな運命……」
嵌められた指輪は外せないと言われ、サインをしてしまった書類は…ヨトが取り乱している間にルークが従者か何かを呼んだようで、既にこの場には存在しなかった。
「……ちなみにだけど、その指輪。お前が探しているタルスゼーレだ。まぁ、ごく1部だが」
「………………はぁぁぁぁぁ!!!????」
(ひゃ、ひゃくおく……ひゃくおくの宝石が……おおおおおお俺の指にィィィィ
各国必死になって探して……ルークが命を狙われまくる理由の石が……俺が、里長に命じられて探していた、その石が…………
まさか……俺の指、に……)
今、ヨトの脳に与えられている情報は、彼の処理能力を大きく上回っている。
「今度からサインする時は、ちゃんと内容を確認してからにするんだな」
「……あ、あ、、アンタが……アンタが言うなーーーー!!!!」
顔を真っ赤にして騒ぎ立てるヨトの手を優しく握り、その甲にルークは口付けを落とすと、まるで瞳孔が開いたかのような目で彼を見つめた。
「骨の髄まで愛してやる。可愛い俺のヨト」
いつもの様に執務机で書類と戦うルークは、朝から落ち着かない様子をみせている。指で机を叩きながら、「心ここに非ず…」といったようだ。
「……ヨト」
ヨトは相変らず…何度言っても、本棚の微妙な隙間から出てこようとはしない。
半ば諦めたルークは、もう慣れたものとなった大きな独り言を発した。
「なんでしょう主」
「ちょっと疲れたから…こっちに来てくれないか」
ヨトは狭い隙間で器用に首を傾げながら、言われた通りルークの隣へと瞬時に移動した。
「来ましたが……?」
「じゃぁ、ここに座って」
「……は?」
ルークが膝を叩き「ここ」と示した場所は……なんと、彼の膝の上であった。
「ここ、早く」
「い、いや……いくらなんでも主……」
(まさかこの男は、膝の上に乗れ…と言っているのであろうか。いや、さすがに、男の…それも王子の膝に乗るだなんて……)
遠慮気味にヨトは体を引く。
「……ヨト」
有無を言わさない、ルークの圧のある低い声が部屋に響く。
「…………わかりました」
しぶしぶヨトは、彼の膝にちょこんと座る。
「もっとちゃんと座って」
腰に腕を回され、ぐいっとヨトの体はルークの方に引き寄せられる。彼の体と自分の体がぴったりと密着し、そこからじんわりと温かさが伝わる。
「ちょ!!主……!重いですから!!」
どうにか逃げ出そうと体を動かすも、想像以上に逞しい彼の腕にがっちりとホールドされて身動きが取れない。
「重くない。……ついでにヨト、俺の代わりにここに名前書いて」
ルークは空いている手を机の上に置き、そこにある書類を指でトントンと指し示した。
「は、はぁ?…主の名前を書けばいいので?」
「いや、ヨトの名前でいい」
「お、俺の?」
「いいから……」
何で俺の名前を……と怪訝な表情を浮かべながらも、言われた通り書類の右下にある線が書かれた部分に自分の名前を書いた。
「これでいいですか?」
「完璧。ありがとう、ヨト」
「いえ……」
(お礼を言われると何だか擽ったい)
いつまでこのままなんだろう…とヨトは横目でルークを見ると、彼は引き出しの中からゴソゴソと何かを取り出している。
ルークが何をしているのか分からないヨトは、彼の行動を目で追うのを止め、先程サインをした書類に目線を移した。
(俺がサインをしていい書類なんて…そんなものあるのか?)
不思議に思いながらその紙を見出しを読んだ瞬間……ヨトは目を見開いた。
「ちょっと待ってください、主。……こ、この書類……」
「こっちも完璧」
ルークはヨトの左手を触り何かをしている。
…………おそるおそる、自分の左手を確認する。
そこには……薬指に、見たことも無い程の大きな宝石の付いた指輪が……嵌められていた。
そう、これはまさしく、エンゲージリングである。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」
自分でも驚く程の大きな声が出た。
そんな様子のヨトを笑いながら、自分も書類へ流れるようにサインをする。
その見出しには
「婚姻届」
と大きく書かれていた。
「さて、これで俺とヨトは晴れて夫婦だ」
「は、いや……ちょっと、……な、何言ってんですかアンタ…正気ですか…」
ヨトは目を白黒させ、口を魚のようにパクパクさせた。
人生何が起こるかわからない、突如として隠密から王太子妃に大出世である。
「ちなみにその指輪…俺以外、外せない魔法を施した。無理に外そうとすると、指が引きちぎれるから気を付けろよ」
ルークは笑顔で恐ろしい事を口にした。
「いや!!!!!落ち着け!?アンタ王子だろ!?もっとあるじゃん!?家柄とか世継ぎとか!!アンタも俺も男ですけど!??」
衝撃のあまり、まるで友人に話すかのような口調になってしまっている事に気付かないヨト。
「んー?別に次期国王はゼノが適任だと思っているし、俺はずっとそう言い続けている。アイツ頭良いしな。……それに俺はヨトがいい。お前以外考えられない」
そういうとルークは、目の前にあるヨトの首元に顔を埋めた。
「何をどうしたら会って4日の……しかもアンタの部屋に忍び込んだ他所の国の隠密と結婚しようって考えに至るんですか!!!!?????頭大丈夫ですか!!!!??????」
「まー、あれじゃん?運命ってやつ」
「知らんがなそんな運命……」
嵌められた指輪は外せないと言われ、サインをしてしまった書類は…ヨトが取り乱している間にルークが従者か何かを呼んだようで、既にこの場には存在しなかった。
「……ちなみにだけど、その指輪。お前が探しているタルスゼーレだ。まぁ、ごく1部だが」
「………………はぁぁぁぁぁ!!!????」
(ひゃ、ひゃくおく……ひゃくおくの宝石が……おおおおおお俺の指にィィィィ
各国必死になって探して……ルークが命を狙われまくる理由の石が……俺が、里長に命じられて探していた、その石が…………
まさか……俺の指、に……)
今、ヨトの脳に与えられている情報は、彼の処理能力を大きく上回っている。
「今度からサインする時は、ちゃんと内容を確認してからにするんだな」
「……あ、あ、、アンタが……アンタが言うなーーーー!!!!」
顔を真っ赤にして騒ぎ立てるヨトの手を優しく握り、その甲にルークは口付けを落とすと、まるで瞳孔が開いたかのような目で彼を見つめた。
「骨の髄まで愛してやる。可愛い俺のヨト」
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