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知る
しおりを挟む「成瀬さん」
駅の時計台の下でぼんやりと立っていると、藤堂さんがやってきた。
隣に立ち、壁に寄りかかる。
「シロくんはまだ仕事してるの?」
「あぁ。もう少しで来るんじゃないか」
今日は飲み会ではなく食事会をすることになった。
居酒屋だとコストがかかるからだ。特におれが。
そんなに飲まないなら食事はどうかと打診され、仕事終わりにやってきた。
春日部は自習室にいる生徒に質問され、少し遅れてくる。
言い出しっぺの千蔵は、なかなか気にいるように色が出せなかったらしく、珍しく苦戦していた。
「成瀬さんて男子校だよね」
「そうだ」
「この辺の学校?」
卒業した高校の名前を言うと、ギョッとした顔になった。
「え、そこ、超ガラ悪いじゃん。よく行ったね」
「そうだな。今も昔もガラが悪い」
「おれそこの高校に知り合いがいてね、進路の話をしに行ったことあるんだけど・・・ほら、昔やらなかった?こんな仕事がありまーすって紹介する授業」
「あぁ、やったな。誰も真面目に聞いちゃいなかったが」
「そうそう。教室に入った瞬間教科書が飛んできたよ。避けたけど」
「よく避けたな」
「反射神経だけはいいみたい。驚いたのがさ、不良ぶってるのにちゃんと教科書持ってきてるんだね。可愛いよねー。偉いですねって褒めたけどよく分かんない悪態つかれちゃった」
「・・・結構メンタル強めだな」
「そうかな。成瀬さんの時もそんな感じ?荒れてる具合ってどんな感じだった?」
「歓迎会があったな」
「新入生歓迎会?」
「あぁ。体育館裏か、屋上か、旧校舎で」
「なるほど。行ったの?」
「あぁ」
「意外とちゃんと行くんだね」
「後々絡まれるのが面倒だから、今のうちに叩き潰しておこうと思ってな。シロも一緒に行った」
「あ、そうか。あの子も暴れん坊だもんね」
あの子?
つい藤堂さんを見ると、首を傾げて少し笑った。
なんか、違和感。
何かは分からないけど。
探ろうと見つめていると、藤堂さんの視線がおれの後ろを捉えた。
「あのさ、おれの目がおかしくなければ、あそこにずーっと成瀬さんのクローンみたいな子がいるんだよね」
振り返ると少し離れたところに、ジャージを着て大きなエナメルバッグを担いだ真喜雄がいた。
不思議そうにこちらを見ている。
「あれはおれの弟だな」
「・・・マジで?クローンじゃん。おーい、こっちおいで」
いきなり手招きをして、大声で呼んだ。
真喜雄は一瞬体を跳ねさせたが、ちょこちょこ近づいてきてペコリと頭を下げた。
「・・・こんばんは」
「こんばんは。成瀬さんの弟さん?」
「・・・っす」
「わー。運動部って感じの子だ。可愛いじゃん。そっくりだね」
「こんな時間まで練習だったのか」
「・・・ん。・・・みっくんの友達?」
「まぁ、そうだな」
答えると、驚いた顔をした。
兄に友達がいるのがそんなにびっくりしたのだろうか。失礼な。
「おじさんさ、君のお兄さんとその友達とご飯行くんだけど、一緒に来る?」
また引っかかって藤堂さんを見る。ニコニコしながら真喜雄を見ていた。
真喜雄は首を横に振ると、ぽそぽそとつぶやいた。
「透吾、待ってるから・・・」
「トーゴ?」
「弟の友達だ」
「へぇー。・・・なんか見たことあるな。君、どこかで会ってる?」
「・・・おれは、分からないです、すみません」
「どこで見たんだろうな。君っていうよりも、・・・んー」
「まぁ、どこかですれ違ってるかもな」
「そうか。成瀬さんとそっくりだからそう思うだけかもしれないしね。あまり夜遊びしてちゃおじさんみたいになっちゃうから、早く家に帰るんだよ」
「・・・はい」
「10個くらい離れてるの?」
「そうだ」
「へぇー。可愛いね」
可愛い、の言い方が、千蔵の言い方とまた違ったものだった。あいつは真喜雄をマスコットのように思っているのでこねくり回して可愛がるが、藤堂さんは親戚の子供でも見るような目で見ていた。
そんな年でもないだろうに。
「飴食べる?」
「えっ」
「餌付けしないでくれるか」
「もう会うこともないかもしれないじゃない。記念に一つ。はい」
本当に飴を取り出して、真喜雄に差し出した。顔には出ないが嬉しそうに受け取ると、ペコリと頭を下げた。
そして口を開いた。
「・・・あの、」
「ん?なんだ」
「・・・みっくん、や、あの、兄、のこと、ありがとう、ございます」
「・・・あ?」
「あははははっ!か、可愛いな、いえ、どういたしまして。あはは、」
「お前、お世話になってます、だろ。こういう時は」
「あ、そうか。・・・んと、さ。母さんが、気にかけてたから、たまに、また、帰ってきて」
「あぁ。分かってる。今度勉強も見てやるから楽しみにしておけ」
「透吾がいるから大丈夫」
やけに強く、はっきり言われた。
ついムッとすると、藤堂さんがまた笑う。
真喜雄の携帯が鳴り、終わったから、と呟いてまた頭を下げ、塾の方へ歩いて行った。
藤堂さんはまだ笑ったままだった。
「可愛いじゃん、おれの弟なんて馬鹿だから疲れるよ」
「あいつ、今ので今日1日分しゃべったな」
「そんな無口なの?いやー、いいなー、面白かった。高校生って面白いよね」
「・・・なぁ」
「ん?」
「・・・おれとシロと同い年って、嘘だろ」
「え?今更?そうだよ。嘘嘘」
さらっと返されて、ついイラッとする。
おれは基本、歳上には敬語を使いたいタイプなので、騙された事にムカついた。
シロのことをあの子、と言ったり、真喜雄に向かって話しかける時におじさん、と言ったり、前々から会話をしていて引っかかることがあったけど、まさか年齢を偽っていたとは。
「立派な33歳です。もうすぐ34歳」
「・・・この野郎」
「いやー、あぁ言わないとずっと敬語で話されちゃうなーって。せっかく仲良くなれたんだからいいじゃない」
「よくねぇ。騙しやがって」
「でもさ、無理あると思わない?おれが27って。ありえないよ。今までよく気づかなかったね」
「老け顔の27かと思ってたからな」
「老け顔って。ま、いいのいいの。タメ口でこのままよろしくね」
「絶対に敬語なんか使わないから安心しろ」
「ありがとー。ほんっと面白いね、成瀬さん」
「いつか殴ってやる」
「涼くんに言い付けるよ」
「勝手にやってろ」
「え?いいの?涼くん結構強いよ?腕っ節じゃなくて、口ね」
「おれに勝てるのか?」
「うわー、怖いなぁ」
「お、ま、た、せ!・・・こわっ。なぁに?」
千蔵が歩いてきて、不穏な空気に気づいて呆れた顔をした。
パシっと藤堂さんの肩を叩く。
「わたくん、怒らせないでよ。怖いんだから」
「あはは。ついつい若い子からかっちゃった」
「もぉー」
イライラしながら舌打ちをする。春日部がようやくやってきたので、さっさと焼肉屋に向かった。
********************
「あ、思い出した。涼くんのいとこだ」
突然、藤堂さんが叫んだ。
ビールを飲んで顔を赤くした春日部が、眠そうに首を傾げる。
「直哉がどーかした?」
「成瀬さんの弟さんと同じエナメルバッグ持ってた」
「・・・えー。部活の?成瀬さんの弟さんて高校どこですか?」
学校名を答えると、驚いた顔をした。
「おれのいとこ、同い年で同じ部活っすよ!」
「へぇ。そんなこともあるんだな」
「えーっと、弟さんてポジションどこですか?」
「フォワードだ」
「へぇえー!かっこいいっすね・・・へへへ」
「涼くん大分きてるね」
「いとこね、おれのいとこ、直哉もね、フォワードだったんす!でも、中学の時、ポジション取られちゃって・・・かわいそぉだったなぁ・・・」
「そうか。・・・なおや?」
聞き覚えのある名前だった。
真喜雄の友達の1人に、いなかったか?
確か、中学も同じだった。
「はい!直哉!おれの可愛い弟みたいなもんです!ほら、体験来てた女の子、和泉ちゃんの、お兄ちゃんす」
「・・・苗字は?」
「えー?田所、です。おれの、母方の、・・・直哉はね、すっげー努力家なんすよ。ポジション変わっても、頑張って必死に、・・・泣きながら、練習、してたんす・・・」
あの子が、あの子が春日部のいとこで、真喜雄とポジション争いをした子なのか。
知らなかった。
そんなそぶりを見たこともなかったし、真喜雄に聞いたこともなかった。
悔しかっただろう。長年立っていたポジションを取られて、相手が真喜雄ならば余計に悔しかったはずだ。あいつは誰の背中も追いかけないし、誰のことも眼中にない。
自分だけが楽しめれば、登り詰められればいいと思っている節もある。
中学の頃なんて、態度や顔にこそ出ないが今よりも酷くて傲慢だった。
昔の自分を見ているみたいで嫌になるくらいに。
そんな男にポジションを取られたのに仲良くしてくれて、怪我をしたり体調を崩せばわざわざ家に届け物をしてくれて、笑いかけていた。
どんな気持ちで、真喜雄と共にプレイしていたんだろう。
「あ!でもね!今の方が楽しそうなんですよ!直哉、フォワードやってた時取っ付きにくいって言われたことあって、気にしてて、ポジション変わったからちょっと気持ちも穏やかになったかもって、言ってて!おれもそう思うんす!成瀬さんの弟さんにお礼したいくらいっす!」
「・・・田所くんは、よくうちに来てて・・・勉強をたまに、見ていたからよく知ってる」
「え!あれ成瀬さんの事だったんだ!友達のお兄さんがめっちゃ頭いいからたまに教えてもらってるって、言ってましたもん。へへへ、嬉しいなぁ。おれの尊敬する人が、可愛いいとこに勉強教えてるなんて。・・・へへへ、眠いかも、」
突然目を閉じて、項垂れた。
藤堂さんが肩を抱き寄せて膝に頭を乗せた。
どことなく、春日部と田所くんの雰囲気が似ていた。
そりゃそうだ。血が繋がってるんだから。
「おれね、柔道やってたんだけど」
「え?」
藤堂さんが春日部の飲み掛けのビールを口に入れた。
「スポーツって、実力主義じゃない?そりゃそうだよね。勝つためにやってんだからさ。涼くんもテニスやってたからさ、痛いくらい分かると思うんだ。レギュラー落ちとかメンバーから外されるとか。個人戦とか団体戦とか好みじゃない方やらされるとか、おれなんて階級変えろって言われたことあるし。辛いけど、いとこの直哉くんは運良く、より楽しい方にシフトチェンジできたんじゃないかな。だからね、お礼をしたいって、本心だと思うよ」
「・・・どうかな、田所くん自身は」
「うーん、本人はどう思ってるか知らないけど、今も同じチームでやってるなら、弟さんとサッカーをするのが楽しいんじゃない?直哉くんはいい子だったよ。人のために動ける人だし、成瀬さんの弟さんもお兄さんのためにお礼が言えるいい子だった。サッカー以外のところでもお互いに好意的だから、仲良くできるんだよ」
「・・・そうか。それならいいんだけどな。でも合点がいった。どうしてあの女の子に睨まれたのか分からなかったが、そりゃポジション奪った人間のクローンが塾にいたら、嫌だな」
「和泉ちゃんのこと?睨まれたの?」
「おれの弟のことが嫌いらしい。本人に聞いたら嫌われるほど接点がないから理由は知らないと言ってたが・・・。まさかこんなところで知るとはな。お互いの気持ちも、分からんでもないな」
「あはは!あの子気が強くて白黒はっきりしてる子だから、面白いよね」
会ったことがあるのだろう。
確かに気は強そうだった。
帰りも睨まれたし。
飲み込んだビールが、なんとなく苦味が強いように思えた。
隣に座る千蔵を見ると、頬杖をついておれを見ていた。
そういえば、口を挟んでこなかったな。
「すまん。ほったらかした」
「ううん。聞いてるの楽しかったから」
「・・・会ったことあるのか?」
「僕が会ったことがあるのは、水出くんって子と山田くんと宮田くんだけよ」
「・・・おれも驚いた。まさかこんなところで繋がってるとは」
「ふふ、人って面白いよね。ねー?わたくん」
「そうだね。おれだってまさか、涼くんの先輩の彼氏がシロくんだとは思わなかったもん」
「もっと早く春日部くんのこと知ってたらモデル頼めたのになー」
「いつ頼もうが許すわけないでしょ?」
ピリッとした空気になった。
お互いに笑ってはいるけど、藤堂さんに関しては冗談では済まないレベルで空気がピリピリしている。多分、それを楽しんでるんだろうなこいつは。
「シロくんは成瀬さんを描いてればいーの。涼くんはダメ」
「描いてるもーん。あ、じゃぁさ、2人まとめて描いていい?わたくんの筋肉は描きたいと思ったことあんのよね。美喜ちゃんと違ってモリモリしてるじゃない?」
「ジッとしてるの無理だよ」
「動いてていーよ。軽く描くだけだから」
軽快なリズムで話が進んでいく。
真喜雄のことを考えた。
好きなサッカーをずっとポジションも変わらず今でも続け、スタメンも死守している。もちろんあいつも、見えないところで努力はしているし、先輩にも小突かれて嫌な思いをしたし、スランプだってあったはずだ。でも、なんとか自分で乗り越えてきている。マキオがどう感じているか分からないが、友達も支えてくれる人もいる。
誇らしいと思うのと同時に、少しだけ嫉妬した。
おれにもあの時誰かがいたら、違った未来があっただろうか。
自暴自棄になって治療に専念せず、喧嘩や暴力に明け暮れたあの頃とは違う未来が、あっただろうか。
膝が痛んだ気がした。
少しだけ悲しくなって、誤魔化すようにため息をつく。
「聞いてる?美喜ちゃん」
「え?」
「やっぱ聞いてなかった!もう!今ね、失恋したらどっちが立ち直るの早いかなって話してたの」
「どっち、とは?」
「真喜ちゃんと田所くん」
「・・・お前らアホなのか?」
「若い子の話をしてると楽しくてさ。ほら、俯瞰してみられるじゃない。おれらはもう通ってきちゃった事だしさ」
「失恋したことあるのか」
「そりゃーあるよ。おれのことをなんだと思ってんの」
「意外だった」
「失恋しまくったよ。この子に」
テーブルの下で腕が動いていた。
春日部の頭を撫でているのだろうか。
「失恋したわたくんって大変なのよねー。酔うまで飲むって言ってほっとんど酔わないし。オールしても意味ないのよね」
「酔えそうになると冷静になっちゃうんだよねー。こんなにアプローチしてんのになんで気づかないんだろうって、自信なくなっちゃって」
「・・・春日部は、多分、自分が求められることを知らないんだろうな」
藤堂さんが優しく微笑んだ。目を伏せて、そうだね、と柔らかく答える。
「おれについてこられた時点で、おれは春日部のことを評価している。だけど、当の本人はそれを理解できてないし自分なんか、と感情を置き去りにしている節もあるから、それにムカつくこともあった」
「分かるよ。ネガティブなことにポジティブなんだよね。この子」
「そうだな。おれが教えた人間で残ってるのは、春日部だけだ。何人辞めたか、数えたらきりがない」
「それが原因で主任に怒られたんだもんね、美喜ちゃん」
余計なことを言うので足を踏む。
千蔵は大袈裟に叫ぶと肩を叩いてきた。
「おれ、成瀬さんの弟の方が立ち直り遅いと思うなー」
「やだ、賭けにならないじゃない。僕もそう思うもん」
「人の弟で遊ぶな」
「否定しないんだ?」
藤堂さんが意地悪く笑う。言い返してやろうとした時、ムクッと春日部の体が起き上がった。
眠たげに目を擦り、顔も擦る。子供のようだった。
「涼くん大丈夫?」
「ん・・・。寝てた、」
「楽しくてたくさん飲んじゃった?」
「うん・・・。もっと飲む」
「やめておきな?飲むならお茶ね。はい」
「和多流くん、全然酔わないね」
「あまり飲んでないからね」
嘘つけ。浴びるようにガブガブと飲んでたくせに。
春日部は満足そうに頷くと、適度がいいよ、と説得力のないことを言った。隣で吹き出す音がした。
そろそろ行こうか、と声がかかり、店を出る。
藤堂さんは春日部の肩を抱きながら、タクシーに乗って走り去っていった。
千蔵とマンションに向かって歩きだす。
しばらくすると、ポツリと言った。
「挫折しない人なんて、いないよね」
「ん?・・・あぁ」
「・・・僕さ、描けなくなったじゃない。何年か前」
「そうだな」
「美喜ちゃんは、てっきり、放っておいてくれるタイプだと思ってたんだ。だからね、本当に黙ってそばにいてくれた時、驚いたの。励ましもしないし慰めもしないし、同情もしないし。なんでここにいるのかなって思ったくらいよ」
確か、個展が終わって少ししたくらいじゃないだろうか。
この部屋に来てみると、アトリエで呆然と佇む千蔵がいた。
音もなく涙を流して、真っ白なキャンバスを見ていた。
声をかけると、怖い、と小さな声で言ったのを、おれはきっと忘れないと思う。
アトリエから出し、入れないように鍵をつけてドアを塞いだ。
ソファに座らせ肩を抱いて寄り添った。
黙って外に出たら黙って追いかけて隣を歩いた。
涙を流したらそっと拭って、暴れ出したら好きなようにやらせた。疲れて眠ったら抱きしめた。
おれが昔、やってほしかったこと、求めたことを、しただけだった。
「あれ、今になって思うとすごーく大事だったなって思うんだ」
「そうか」
「黙ってそばにいるなんてさ、普通できないもん。僕だったらずーっと話しかけてると思う」
「・・・それが心地いいという人もいるんじゃないか」
「美喜ちゃんとか?」
「は?」
「だってそうでしょ?僕ってば、ずーっとしゃべってるもん」
確かに。
最初の頃は煩わしかったが、話しかけられると余計なことを考えずに済む。
あぁ、だから今もこうやって話しかけてくれたのか。
「ありがとう」
「え!?やん!素直!素敵よ!」
「・・・悪いことばかりじゃないよな、挫折ってやつも」
あの時膝を壊されてなければ、千蔵とも出会ってないわけだし。
この未来で、間違いじゃなかった。
出会えてよかった。
昔の自分を少しだけ受け入れられる。
「真喜ちゃんもさ、きっとするよ。だから気に病まなくていいのよ、直哉くん?のこと」
「あぁ」
「はー・・・挫折した真喜ちゃん、早く見たいなぁ。絶対醜くてドロドロで不細工よ、きっと」
「はぁ?」
「怒りと悲しみと後悔と妬みと嫉み、ぐちゃぐちゃになった真喜ちゃんを見たいなぁ。美喜ちゃんとはまた違った醜さがあるんだろうなぁ」
「・・・気色悪い」
「綺麗なものばっかり描いてたってつまらないじゃない。ねぇ、ちゃんと教えてね。絶対よ」
うねるような熱がこもった瞳で見つめられて、首を横に触れなかった。
見てみたいと思ってしまった。
千蔵の描く醜い絵は、おれも、好きだった。
抗えない。
沈黙を了承ととったのか、ニヤリと笑っておれの手を引いた。
小走りになる。
「おい、」
「ね、早くセックスしよ」
「声がでけぇ」
「次は美喜ちゃんが大きな声を出す番だよ」
背筋が痺れた。
余計なことを考える暇すら与えてもらえない。
だが、それくらいでちょうどいいんだ、おれは。
黙って千蔵の後に続く。
早くベッドに飛び込みたいと思った。
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