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二人の小話
しおりを挟む打ち合わせが終わって家に帰ると、なぜか玄関に寄りかかる涼くんがいた。こちらを見てパーっと表情が明るくなる。
慌てて車を停めて飛び降りて近づくと、おかえり、と笑ってくれた。
「ただいま。どうしたの?何かあった?」
「おかえりなさい。何が?」
「外にいるから・・・」
「・・・待ってただけだよ?」
こて、と首を傾げる。
え?待ってただけ、とは?
外で?わざわざ?え???
「ホットケーキ食べたくて、作ったんだけど・・・ふかふかにできたんだよ。えへへ」
「そ、そうなの?」
「ほうじ茶ラテ、作ってみたから飲もうよ」
「うん・・・」
外で待つなんて、何かあったんじゃないの?あんな、玄関に寄りかかって・・・。
部屋に入ると、いつも通り。
涼くんはほらほら、とお皿を出した。ふかふかのホットケーキが載っていた。
「すごいね。分厚い」
「牛乳パックでできるんだよ。シロップかける?」
「うん。・・・あの、本当に何もない?」
「え?」
「いや、その、・・・あんな、玄関に寄りかかって立ってたから・・・嫌なこととかあったのかなって、心配で」
「・・・・・・あ、と・・・もうすぐ、帰ってくるなって、思って・・・」
「・・・ん?」
「・・・もうすぐ帰ってくるなーって、あの、待ってただけ・・・です・・・」
顔が真っ赤になる。
は?はぁ???
待ってた、だけ・・・???
わざわざ外で・・・??
「・・・ご、午後、あの、本屋行くって言ってたでしょ?帰りにね、エプロン見たいな・・・。汚れがひどいから、あの、・・・わ、和多流くん?聞いてる?」
「・・・抱く」
「は?」
「午後は目一杯抱く予定になりましたので行きません。明日です」
「え?本屋、」
「涼くんが悪い。行かない。明日。今、抱く」
ホットケーキを素早く食べて、涼くんを引っ張って寝室に雪崩れ込む。
可愛過ぎんだろ!!
急な打ち合わせじゃなかったし、前々から予定は入ってたし、伝えていたし、なのに、わざわざ外に出て待つとか、どれだけ、どれだけおれの帰りを待ち侘びてたんだよ!?
可愛過ぎて閉じ込めてぇ!!
しっかり抱いて、余韻に浸りながらゴロゴロする。昼間から盛るといつもなら怒るのに、すんなり受け入れてくれたことに気づき、また元気になってしまった。うとうとしている涼くんを起こしてまた抱いて、甘えて甘えて甘え倒す。笑って受け入れてくれて、更に興奮した。やばいって。沼だろこれ。
******************************
「う、ふぅ、ふぅ、んぅ、う、」
「きもち?」
「ん、ん・・・きもち、」
明るい部屋で、足を大きく開いて見せてくれる。
そり返ったペニスがか細く跳ねて、可愛かった。
ローションでトロトロになったお尻はおれの指を絡めて離さない。
くん、くん、と、指を折ると前立腺が刺激されて腰が跳ねた。
ゆっくり前戯を堪能して涼くんを静かに追い立てるのが愉しくて、口元が緩む。
「ん゛ふっ、ふ、う、あ、あ、」
「可愛いよ」
「ん~・・・!もぉ、」
「もう?なぁに?」
「柔らかく、なったよぉ・・・」
「へ?」
「え・・・?もう、大丈夫、だよ・・・?ん・・・?」
トロトロの顔で、首を傾げる。
えと・・・うん、柔らかい。すごく柔らかい、よ?
まだこれからもっとトロトロにして、いかせて、潮を吹くのまで見て、それからって思ってて・・・。
だって、好きだよね?こうやって甘やかされるの、好きだよね?
「わたくん」
両手で頬を包まれて、引き寄せられる。涼くんは涙目で笑うと、いいよ、と言った。
「おいで?」
えっえっえっ。
天使?
「す、すごかったね」
ぜーぜーと息を切らしながらもふにゃりと笑ってくれる。
そりゃー、ね?もう、たまんなかったんで・・・。
結局いつもと同じようにガツガツしちゃって、申し訳ないなぁなんて思っていたら。
「足りた?」
「えっ」
「足りたかな。いつも我慢させてたから・・・ごめんね?仕事、シフト制だし不規則だし」
「ぜ、ぜ、全然!謝ることじゃないよ!毎日家に帰ってきてくれるだけで嬉しい」
「えー?帰るよ・・・だって、おれと和多流くんの家だもん」
「・・・好き」
「え!?あ、あ、ありがとう・・・」
くりくりと頭を撫でられる。
甘やかしてくれてるんだ・・・。
無条件の愛って、こういうことなのかなぁ・・・。
気持ちよくて、目を閉じる。涼くんの暖かさに包まれるのは幸せだ。
******************************
「たまには涼くんにもたくさん触っていただきたいなと、思います」
突然の要求。すっぽんぽんで真面目な顔をされても、笑っちゃう。
「いつもおれが先走っちゃうからたまには、涼くんに・・・」
黙って頷いてぽす、と和多流くんの胸に倒れ込むと、そのまま後ろに倒れた。
「おれも触っていいの?」
「うん。触って?」
「・・・えへへ」
弾力のある肌に触れる。
しっとり汗ばんで、吸い付いてくれる。
心音を聞くのが心地よくて、ついつい深くため息をついてしまった。
いい匂い。温かくて気持ちいい。
「嬉しい。イチャイチャしよ」
「んー。すべすべ・・・。涼くん可愛いねぇ」
「和多流くん、最近余裕がない感じが多かったもんね」
「だって早く抱きたくて、包まれたかったんだもん」
「うん。ぎゅー」
背中に手を回して抱きしめる。肩を抱いて額にキスをしてくれた。
気持ちいい。穏やかな時間も大好き。
そこから2人で肌を撫で合った。
何度もキスをして笑って、くすぐったいところに触れて転がって、冗談を言いながらおしゃべりをして過ごした。
「眠くなって来ちゃった」
「本当?実はおれも」
「和多流くん、背中撫でて」
「うん」
サラサラと撫でてくれる。
お返しに首元を撫でると、ニコッと笑ってくれた。
「セックスっていろんな形があるね」
「え?」
「今すごく気持ちいい。満たされてる。涼くんがおれのそばにいてくれるのが嬉しくてたまんない」
「・・・えへへ。おれも」
「電気消そうか」
「うん」
「眠るまで、撫でてて欲しい」
「もちろんだよ。だって、触ってるの気持ちいいもん」
「・・・涼くんはおれを甘やかす天才だな」
「ん?」
「大好き」
「おれも。くふふっ」
「ふふふっ」
くすくす笑って布団を被る。2人きりの世界。
******************************
「・・・和多流くんて、悩んでる時髭を抜くよね」
「へ?」
お茶を持って部屋に入ると、唸りながらパソコンを睨みつけていた。
髭を摘んで何度も抜いている。
「禿げちゃうよ」
「・・・えー?抜いてた?そっかぁ・・・知らなかった」
「無意識の癖って中々直らないし、気づかないよね」
「涼くんは唇がムッと出るよね」
「へ?」
「寂しい時とか気に入らない時とか、我慢する時」
「・・・えー?そう?」
「うん。だから可愛くて可愛くてチューってしちゃう」
「出てるかなぁ」
「ふふっ。自分じゃ気づかないよね」
お茶を受け取って口をつけ、また髭を触る。
笑うと、あ!と言いながら一緒に笑った。
********************************
「わた、早く片付けなさい」
あまりにも片付けが進まないから、普段呼ばないような呼び方で声をかけてみた。
怒るかな。驚くかな。どっちかなーと思っていたら、キョトンとした顔で見上げてきた。
その顔が本当に幼い子供みたいで、こっちが驚いた。
「和多流くん?」
「・・・あ、うん」
止まっていた手が動き始める。
寝室に残っていた和多流くんの私物は、仕事スペースに納められた。
本棚には2人で読む雑誌や本を納め、ネットで買ったミニテーブルと椅子のセットを置いて、のんびり出来る空間を作った。
試しに腰掛けてみる。
「結構いいね。お茶でも淹れようか。何がいい?」
「じゃあ冷たい緑茶」
「わかった。待っててね」
キッチンでお茶を淹れ、寝室に戻る。和多流くんは腕を組んで天井を見つめていた。
「どうかしたの?」
「・・・いや、その、」
「うん」
「・・・男っていつまで経ってもマザコンなんだなーって・・・」
「・・・え、どうしたの?」
お茶を渡すと、受け取って口をつけた。
カラン、と氷がぶつかる音。
「・・・さっき涼くんに片付けなさいって言われた時」
「うん」
「・・・母ちゃん思い出した」
ぶはっと吹き出す。
片付けをしない時、あんな風に言われてたんだ。
和多流くんは顔を真っ赤にすると、あんまり記憶がないはずなのに、とつぶやく。
つい笑ってしまった。
「でも別に、似てたわけじゃないでしょ?」
「いや、んー・・・似てたかもね。声を荒げる人じゃなかったから」
「えー?あははっ。絶対似てないよ」
「だから、男はマザコンだって言ったでしょ。つい思い出しちゃうんだから」
「ふふっ。わたって呼ばれてたんだ」
「うん」
「わた、お昼何がいい?」
「ちょっとぉ・・・やめて」
「わたはオムライスが好きだもんね?オムライスにしよっか」
可愛いなーなんて思っていたら、和多流くんの瞳が光った。ふいっとそっぽを向いたけど、気づいてしまった。
もう呼ばれることがないんだもんね。
悲しいもんね。
なのに、可愛いからってからかっちゃった。
「・・・あの、ごめんね。もう、やめるから」
「・・・やめないで」
「え?」
「・・・なんか、色々思い出せて、良かったかも。辛いことばっかりじゃなかったよ。ねぇ、オムライス作ってよ。大好きなんだよ」
「・・・うんっ。あとカレーとグラタンが好きだよね。今度作るね」
「うん。大好き。嬉しい」
「野菜もちゃんと食べるんだよ」
「わー、もぉ・・・」
今のも似てた?と聞くと、敵わねぇなーってぼやきながら笑った。
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