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しおりを挟む「涼くんて女装似合いそうだよね」
直哉のところに顔を出したら、突然和泉ちゃんに言われた。
ぽかんとしていると、自分の部屋から花柄のワンピースを持ってきておれに合わせる。
「涼くん細身だし、顔も整ってるし、少しお化粧すれば女の子だよ」
「あー、玲ちゃんそっくりだし、いけるかも」
直哉まで言い始めて、見てみたいと言われて、まぁ家の中ならいいか、と思って化粧をしてもらって、ワンピースを着てみた。
そしてなぜかウィッグを被せられた。
「な、何でこんなもの持ってるの?」
「あー、おれの。マネキンに被せてアクセサリー合わせたりしてんの」
「へぇ・・・ていうかもうさ、」
「あはははははは!!!!玲ちゃんだなー、これ!」
鏡で見たら、玲ちゃんがいた。
直哉は大笑いしながら写真を撮り、和泉ちゃんは満足そう。
「肌が綺麗だから化粧のノリがよかった!めっちゃ楽しい!」
「それ着て帰れば?」
「嫌だよ」
「藤堂さんて女装も無理な人?」
和泉ちゃんが首を傾げる。
・・・セーラー服を着たおれを見てにやにやしていたけど・・・ここまでがっつり女装をしたのは初めてだからな・・・。
「どうなんだろう。しらない」
「見せてあげなよ」
「えぇー?いいよ。脱ぐ」
「ダメー。お迎え来るんでしょ?ここまで来てもらおうよ。お父さんたちもいないし」
「えー?!・・・恥ずかしいからいいよ」
と話していたら、マンションの前に着いたよ、と連絡が来た。
和泉ちゃんがスマホを奪い取り、突然電話をかける。
「もしもし、藤堂さん?今涼くんがめちゃくちゃ可愛いから上まで来てください!」
「ちょ、ちょ!やめてよ!」
「オートロック開けたんで!待ってますから!」
通話を切って返される。
も、もぉー・・・。
「藤堂さん、可愛いの?って食いついてたよ」
「超愛されるなー、涼くん。にしてもマジで玲ちゃんだな。写真送ってあげなよ。おれ連絡先知らないから涼くんに送っておくわ」
「いらないってば」
写真が大量に送られてくる。
ため息をつくと、インターホンが鳴った。2人に背中を押されて玄関に立つ。
振り返るとニヤニヤしながら部屋のドアに隠れていた。
渋々ドアを開けると、和多流くんが立っていて、目が合ってギョッとされた。
「えっ」
「あ、お、お迎えありがとう・・・」
あ、け、結構恥ずかしいかも・・・。
和多流くんはおれを見つめると、ひく、と口元をひくつかせた。
え!初めて見る反応だ・・・。
嬉しくなさそう・・・。
「あ、涼、くん・・・似合うね?」
「・・・ありがとう」
いやいやいやいや、絶対嘘でしょ。
目、そらしてるじゃん。
困ってるじゃん。
「き、着替えてくるね」
「うん、あ、何か荷物があれば車に積んでおくよ」
「特にないから大丈夫」
「そ?じゃあ外で待ってるね」
「藤堂さん、お茶飲んで行ったらいいじゃないですか」
直哉が声をかける。
和多流くんは笑顔のまま黙って首を横に振ると、外にいるよ、と言った。
ドアが閉まる。
「思った以上に反応が薄かったね」
「な。もっと褒めたりするかと思った」
「好みのメイクじゃなかったのかな。着替えるね」
「ギャルの方が良かったのかな。今度やってみようよ」
着替えを済ませてエントランスに降りると、和多流くんは車に寄りかかって電子タバコを吸っていた。おれと目が合うと慌ててしまう。
「あ、その、ごめん」
「え?全然?大丈夫だよ。おまたせ。お迎えありがとう」
「・・・あ、メイク落とした?」
「落としたよ。クレンジングオイルってすごいね。ツルッとした」
「・・・うん、」
なんだか煮え切らないな。
車に乗り込んで黙って走る。
・・・そ、そんなに変だったかな。女装、似合わなかったかな。似合って嬉しいとかじゃないけど、和多流くんのことだから喜ぶと思ったら、全然喜ばなかった。
和多流くんにもNGなものってあるんだな。あんだけ色々コスプレさせられたけど・・・さっきのが1番反応が悪いもん。
駐車場に車を入れて家に入ると、黙ったままソファに腰掛けた。隣に座ると、ぐりんっと首が回って和多流くんがおれを見た。
「涼くん」
「は、はい?」
「・・・ごめん!!」
「え?」
「・・・おれ、ほんっとに、女性はダメなんです・・・」
「・・・え?はい、知ってる、」
「・・・涼くんが、女性に見えて、びっくりして、直視できなくて、それがすごく申し訳なくて、」
話しながら、俯いてしまう。
そんなにびっくりしたのか、とこちらがびっくりしてしまう。
思い詰めることはないと思うんだけどな。
宥めるように抱きしめると、恐る恐る抱き返してくれた。
「おれだよ。涼だよ」
「・・・可愛い涼くんがいるって言われて、すごく楽しみで・・・でも見てみたら、涼くんなのかそうじゃないのか、分からなくなって、」
「うん、うん」
「・・・涼くんが、あーゆー趣味、なら、受け入れたいと思ったけど、・・・ごめん、自信、ないかも・・・」
「は?!」
「このままでいてほしいです。他は何も望まないから・・・このままの、かっこいいままの涼くんでいてほしいです」
「待って!!勘違いしてない!?おれ別に女装が趣味なわけじゃないよ!?」
「・・・え、ほ、ほんと・・・?」
「どー考えてもそうでしょ!いや、ほら、あの、・・・和多流くんに、・・・キスして欲しくてリップクリームとかは塗ってますけど・・・」
「涼くんがしたくてしたわけじゃないの?さっきの」
「違うよ!和泉ちゃんと直哉が、似合うから着ろって・・・直哉なんて玲ちゃんみたいって大笑いしてたし・・・」
「うん、似てた。・・・よかったぁ・・・涼くんがこのままで、よかったぁ・・・」
「・・・そんなにびっくりした?」
「・・・女装した涼くんのこと、心の底から可愛いって、言えなくて、・・・涼くんがショックを受けたらどうしようかと思って、パニックになった・・・」
「・・・和多流くんてズレてるよね」
おれ的には笑ってほしかったし、揶揄ってもらった方が気が楽だったんだけどな。
「おれは、このままのおれです。ずっとね」
「よかった・・・」
セーラー服と何が違うのか分からないけど、ホッとしているから余計な質問はやめておこう。
それにしても、意外にも受け入れられないことがあるんだなと、驚くと同時に安堵している自分がいた。
女装すら受け入れられていたら、次の休みにはクローゼットにレディースの服とかかかっていそうだし、メイクも覚えておれを着せ替え人形みたいにしていただろう。
考えただけでもゾワゾワするので、和多流くんの反応に少し安心したおれなのであった。
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