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和栗

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ソファに寝っ転がって携帯をいじる。
必死にパズルゲームをしていると、和多流くんが覆い被さってきた。
「涼くんー」
「重い」
「えぇっ」
「あっ!」
連鎖を失敗してゲームオーバー。
せっかくここまできたのに・・・!
「重いの好きだよね?」
「・・・」
「ねーねー、おれさー、ちょっと靴がほしくて・・・スニーカーがよくてね?涼くんのもだいぶ履き潰したし、またお揃いの、買わない?明日行こうよ」
「・・・」
「涼くん?」
「・・・おれのゲーム時間・・・」
「え?」
「おれのゲーム時間返して!」
「へ!?あ、え?」
「これがクリア出来ればもう一回できたのに!もっとやりたかったのに!」
「ゲームなんて、してたんだ?知らなかった・・・ごめんね」
ヘラっと笑っておれの首に顔を埋めようとしたので、ぎゅむっと押しのける。
貴重な時間だったのに。行きの電車の中でしかできないし、思うように進まないし、ようやく家でできると思ったら邪魔されるし・・・!
「靴なんかいらない!」
「・・・あ、結構本気でやってたの?ごめんなさい、」
「もう寝る!」
「ご、ごめんごめん。ごめんね?あ、おれの携帯でダウンロードする?そしたら、」
「レベルが違うもん!最初からなんてやりたくない!」
「ごめんって・・・。怒らないでよ。明日はお休みの日だよ?出かけようって約束、」
「もー!分かってない!バカバカ!行かない!ゲームの時間が欲しい!!」
和多流くんは目を丸くした後、しゅんとした。
しばらく考えた後、分かったよ、と小さく頷いた。
ベッドに寝転がると目を閉じて、少し不貞腐れたように壁際に向いた。
ムッとしてソファに寝転がったまま小さくなる。そのまま不貞寝した。



******************************



自分の部屋のベッドに寝転んで、必死にゲームを進める。珍しく1人時間を堪能している。
和多流くんには悪いけど、たまには必要な時間だよ。
「あ!やった!えへへっ」
ようやくクリアできた!次のステージだ!
齧り付いてゲームをしていたけど、結局ゲームオーバーになってしまった。
あーあ・・・。もうライフが残ってないや。
何しようかなぁ。参考書でも解こうかな?と思ったら、ゲーム内に通知がきた。なぜかライフが満タン。え??なんで??
通知を見ると、ライフが送られました、と書かれていた。右下にはユーザーネーム、「ワタル」と表示されている。えぇっ。
コンコン、とドアをノックすると、どーぞ、と短い返事。部屋に入ると、すこーしだけ気まずそうな和多流くんが振り返った。
「ゲーム、登録したの?」
「・・・うん」
「ライフ送ってくれたの?」
「・・・まぁ、うん。まだゲーム、する?」
「ライフ貰ったし、やろうかな」
「・・・ライフ終わったら、出かけたいです」
ものすごく小さな声。
ベッドに腰掛けると、すぐさま隣に腰掛けて距離を詰めてきた。
「いい?いい?ね、行きたいよ。約束したよね?」
「ライフ終わったらね」
「ほんと?いいの?やった!・・・あ、でも、たまには1人時間も必要だよね。ごめんね・・・」
「変なちょっかいかけなければ別に・・・」
「えっじゃあ今、あの、くっついてていい?」
「うん」
携帯を見つめながら返事をすると、膝に頭を乗せて顔を押し付けてきた。
しばらくそのままゲームを楽しむ。
ライフが終わると、パッと起き上がった。
「終わった?」
「うん。難しいから使い切るの早いや」
「何時間か経てば増えるんでしょ?」
「ん?うん」
「じゃあ後でまた、送るよ」
「和多流くんはやらないの?」
「うん。あんまり興味ないし・・・」
「あ、ライフ送るために課金しちゃダメだよ。いかにお金をかけずに楽しむか、それを追求してるんだから」
「分かったよ。あのー、靴、ほんとに、いらない?」
え?靴?何の話?
和多流くんはしおしおと萎んでいくと、やっぱりダメかな、と目を伏せた。
えーっと、えーっと、なんだっけ?覚えてないや。
この落ち込み具合から見ると、おれは何かを断ったんだろうな。
何が、と聞いたらさらに落ち込むんだろうな。
「スニーカーなら、いいよ」
おれの、そろそろボロくなってきたし。
和多流くんはパーっと表情を明るくさせると、行こう、と笑った。
合ってたみたいでよかった。
ゲームは一度おしまい。
画面を消して、立ち上がる。和多流くんはニコニコしながら早く行こうよ、と急かした。
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