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しおりを挟む「ひえっ・・・??」
声なのか呼吸なのか分からない音が喉から出た。
涼くんは困ったように笑って、ここからここまでだから、とカレンダーを指差した。
2泊3日。まさかの、出張!!
しかも!!
「飛行機の距離ってぇえぇ・・・?!なんでぇ・・・!」
「いや、飛行機って言っても北海道とかじゃないし・・・」
「遠いぃ・・・!」
ついて行きたい!けど、そんなこと言ったら怒られるから、言えない。
縋り付くように見つめるけど、涼くんは華麗に無視をして手帳を開いた。
「午後の講義は引き継いで、昼に新幹線に乗って空港に行ってくるね」
「え!?朝から行かないの!?」
「うん。また成瀬さんと行くから」
「えぇえ!?じゃ、じゃぁ!送るよ!空港まで!」
「ううん。大丈夫。交通費出るし、公共交通機関を使った方が正確だから。ありがとう」
素直にお礼を言われて、それ以上何も言えなくなってしまう。
どうにかあの手この手で空港までは一緒に行こうと思ってたのに、きっとこれは、もう、打つ手がない。
ていうか、また、成瀬さん!!
悔しい・・・!
「前よりは短期間だから、すぐ帰ってくるよ」
「・・・電話して」
「うん。するね」
「逐一連絡して・・・」
「何を?」
「仕事行くとか講義終わったとかお昼食べに行くとか食べたとか」
「しないよ?してる暇ないもん。またキャリーケース借りてもいい?」
うわ、はっきり断られた。泣きてぇ。
渋々頷くと、勝手知ったるおれの部屋に入り、キャリーバッグを出してくる。ゔぐぅ・・・!遠慮がなくて嬉しい・・・!
涼くんは前もって準備するタイプなので、下着もシャツも全てキャリーバッグに入れて蓋を閉じた。
「なんかねー、おれがまだ非常勤の時に出来たところなんだけど、立ち上げスタッフで成瀬さんと主任が行ったんだって。最近成績が伸び悩んでいる生徒さんが多くて、ちょっと視察してきてって塾長に言われたんだ」
「なんで涼くんなの?」
「クッション材として」
「は?クッション材?」
「・・・向こうの主任が、成瀬さんのこと敵視してるんだよ。WEB会議で話したことがあるんだけど、物言いが刺々しくて・・・。成瀬さんも正論しか言わないから一悶着あると大変だからって」
「主任は?」
「・・・うちの主任も愛想は良くて人当たりはいいんだけど、笑顔で毒吐くし、ど正論しか言わないし・・・どっちかっていうと成瀬さんタイプだから・・・」
ふぅ、とため息をつく。
あぁ、苦労してるんだな・・・。ここでおれがわがままを言って困らせたらダメだよな・・・。
ポンポンと肩を叩いて慰める。
「あ、でも向こうの主任、成瀬さんとうちの主任以外には優しいからおれはそんなに、嫌われてはないはず。出張の挨拶の電話も普通に対応してくれるし」
「そっか。でも無理しないでね。疲れたら、疲れたーって電話してきてね」
「ありがとう。お土産買ってくるね。空港で時間があると思うから」
「涼くんが無事帰ってきてくれればそれが一番だよ」
「えー?お土産って買うのが楽しいんだよ。おれあんまりお土産って買ったことがなかったから、選ぶの楽しみ」
「そうなんだ?じゃあお願いしようかな」
か、かんわいぃ~。
ニッコニコじゃん。お土産選ぶ時もこんな顔、するのかなぁ。うわー、見てぇー。でも成瀬さんに写真なんか頼めないしなぁ。
我慢するしかないかぁ。
「・・・あの、」
「んー?」
「・・・い、行く前に、その、甘やかして、あげたいなーって・・・」
「・・・ん!?え!?マジ?いいの??」
「う、うん・・・。す、好きにして、いいよ」
耳まで真っ赤にして小さくいう。
あー、行かせたくねぇー。
まだ出張は先だけど、今日も目一杯甘やかしてもらいました。
*******************
『行ってくるね』
そうメッセージが届いた。
うー、行ってしまった・・・。
いってらっしゃい、と短くメッセージを送る。いやほんとはさ、めっちゃ長文で返したいんだけどさ!重いじゃん・・・。
あーあ、と思って伸びをした時、なぜかシロくんからメッセージが届いた。というか、写真。
開いてみると、なぜか成瀬さんと涼くんの自撮りだった。
成瀬さんがブスッとした顔で写っている。涼くんは遠慮がちに笑ってピースをしていた。
「なんっじゃこりゃーー!!」
『やっぱりかかってきたー!うけるー!もーさー、絶対ヤキモキしてると思ったからー、僕が美喜ちゃんに頼んだの!』
思わず電話をかける。シロくんは大笑いしながら手を叩いているようだった。
「はぁ!?」
『心配だし本当に春日部くんと一緒なの?って。写真送ってって。じゃないと追いかけるからって!んっふっふ!』
「・・・」
『で、ちゃんと春日部くんと写ってたから送ったわけ。感謝してよね』
「ありがとうございます」
素直にお礼を言ってしまう。
スーツの涼くん・・・しかも、ピースだし・・・。遠慮がちな笑顔、可愛かった・・・。あとで保存しなきゃ。
『次は飛行機に乗ってから送ってもらうから、楽しみにしてて』
「すげーファインプレーだね」
『一昨日喧嘩したから、美喜ちゃんも無碍にできないのよ』
「うわー、弱みにつけ込んでるじゃん」
『それくらいしたたかじゃないと、美喜ちゃんの相手は務まらないのよ。じゃ、またあとで楽しみにしててよね』
「マジで、ありがとうございます」
通話を終えてもう一度写真を見る。涼くん・・・天使みたいな可愛さ・・・。それにしても成瀬さんのこの、顔・・・。涼くん大丈夫かな。とばっちり受けてないかな。
少し心配だったけど、気持ちを切り替えて仕事に向き合う。
一通りきりのいいところまで進めて、コーヒーを淹れようと立ち上がった時、涼くんから電話がかかってきた。即座に通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ、和多流くん?』
後ろがガヤガヤしてる。空港に着いたのかな。なんか、アナウンスが流れてるし。
「ついたの?」
『うん。・・・あのね、おれ、実は飛行機乗るの、初めてなんだ。すごいね。飛行機って、あんなに大きいんだね』
・・・は?
はぁ??
可愛すぎんだろ。あんなに大きいんだねって・・・わざわざおれに、かけてきたんかよーー!!
抱きしめてぇーー!!
『あれ?和多流くん?』
あ、しまった。魂が抜けかけてた。
慌てて返事をする。
「は、初めてなんだ?」
『うん。あ、でも成瀬さんには内緒なんだけどね。かっこ悪いし・・・』
おれにはかっこ悪いところを見せてくれるんだ。愛おしいー・・・。好きー・・・。
『すごく楽しみで、つい電話しちゃった。これからね、飛行機で食べるお弁当買うの。今成瀬さんがトイレ行ってるから、電話したんだ。さっき新幹線でも食べたんだけど、空弁も食べたくて、えへへ。食べすぎちゃうんだけど・・・』
ゔわー!めっちゃ話してくれるじゃん!超興奮してるじゃん!
こんなに食べ物で興奮するようになるなんて・・・。
あー、そばにいたかったなぁ・・・。
「空弁の写真送ってね」
『うん!あ、飛行機の写真も送るね』
「うん、うん。楽しみ。今度おれとも乗ろうね」
『えへへー。うん、旅行とか、行きたいねぇ。あ、じゃあ、切るね。またね』
成瀬さんが戻ってきたのだろう。通話を終えて胸を抑える。
かっわいかったぁー。
テンション高かったー。
涼くんの初めての飛行機、成瀬さんに先を越されるのはものすごく悔しいけど、可愛かったし電話くれたし、気にしないことにしよう。
ウキウキしながらコーヒーを淹れると、写真が届いた。
空弁を持って自撮りをしている涼くん。笑顔。しかも背景が飛行機。
「かっわいぃ~!!癒される~!!」
つい、叫んだ。
今夜のおかずはこの写真だな。
*******************
あの後飛行機に乗った時の写真がシロくんから送られてきて、おれは満たされていた。
夕方頃に、着いたよー、とメッセージが届いた。無事に着いたようで安心した。
おれは1人、寒い夜道を歩いて自分の空腹を満たすために店を探した。
今日はクマの店も休みだし、どうするかな。
商店街に向かい、定食屋なんかを見てみる。
そういや1人の時って、いつも何を食べていたっけなぁ。
ラーメン、カツ丼、カレー・・・。基本外食とレトルトで、ワンプレートとか丼ものばっかりだったな。
涼くんはマメだからいつもメインに副菜、ご飯にお味噌汁を作ってくれる。それがもう当たり前になってしまったから、何を食べたら満足するのか分からなくなってしまった。
初日からこれじゃ、先が思いやられるな。
せっかくだから涼くんの苦手なものでも食べるか。
激辛ラーメンのお店に入り、注文をする。
辛すぎるものを食べると唇が腫れるって、言ってたな。ちょっと見てみたい気もするけど、激辛が本当に苦手らしくて、無理強いはさせられなかった。
ずぞっと音を立てて麺をすする。
うん、これこれ。この辛さ。うまっ。
ビールも飲んで、店を出る。
すぐ終わっちゃった。
そりゃそうだ。1人なんだもん。
携帯を見ると、涼くんから連絡が来ていた。
晩御飯これ!と写真付きで。ちょっとほっこりする。美味しそうだな。今度一緒に食べに行きたいな。
家に帰ってシャワーを浴びてベッドに腰掛けた時、携帯が音を立てた。涼くんからの電話だった。
「もしもし?ホテル着いたの?」
『和多流くんー!何入れてんだよー!』
げっ!怒ってる!
「え?え?えーっと、」
『キャリーバッグ!知らない巾着が入ってるから何かなと思ったら、なんでバイブとローションが入ってんの!バカ!!』
「あ、それはさ、ほら、寂しくないようにって・・・」
『寂しくなんかならないよ!個室だったから良かったけど、相部屋だったらどーすんだよ!』
「相部屋なの!?」
『違うからこうやって電話してるんじゃん!もぉ!』
「寂しくならないの?なるべくおれと同じ大きさのものを選んで入れたんだけど・・・」
『おれ、怒ってるんですけど』
分かってます。分かってますとも。これ、出張終わったらはちゃめちゃに怒られるんだろうなぁ。
「おれは寂しいからオナホ買ったよ」
『知らないよ!』
「だってさー、・・・顔も見て話せないし・・・触れないし・・・会えないもん。おれは寂しい」
『・・・も、もぉっ。・・・顔見たら、会いたくなっちゃうから、普通の電話なんだよ。分かってよ・・・』
う・・・。今唇突き出してるんだろうなぁ。可愛いだろうなぁ・・・。
「・・・涼くん」
『何?』
「・・・ごめん、勃っちゃった」
『へ!?な、なんで!?』
「いや、その、耳元で声聞いてたら・・・」
下半身がソワソワする。つい、ホールに手を伸ばす。
パッケージを開けて、中にローションを垂らす。
「涼くんごめん、このまま、いい?」
『え?!え!?あ、ぅ・・・10分待って!』
「え?なんで?」
『・・・シャワー、浴びてくるから・・・。お、おれはしないけど!そのまま寝るだけだから!』
「うん、分かった。ありがと・・・。早くね」
一度通話を切って、大人しく待つ。
涼くん、シャワー浴びてるのかな・・・。ちゃんとボディークリームも入れといたの、気づいてくれたかな。
涼くんの写真を見ながら待っていると、電話がかかってきた。
慌てて通話を押す。
「涼くん!」
『わ!びっくりした・・・。あの・・・ビデオに、する?』
「え!?」
『・・・多分、明日から忙しいから、今日だけだと思うから・・・』
「す、する!するする!」
ビデオに切り替えると、薄暗い部屋にいる涼くんが写った。どこかにスマホを立てかけているようだった。両手を振ってくれる。
「ゆ、浴衣・・・!!」
『あ、うん・・・』
「わぁ・・・脱がせたい・・・」
『な、何言ってるの。・・・その、んと、いいよ・・・。しても・・・。手伝えなくて、ごめんね・・・』
改めて言われると、照れるな・・・。
照れるけど、嬉しい。
つぷ、とペニスをホールに入れる。
涼くんの中だと思うと、すぐにいきそう。
「涼くん・・・」
『・・・あの、もっと顔寄せようか?』
「ん・・・足、開いてもらっても、いい?」
『え!?う、うん・・・』
膝を立てて、恥ずかしそうに足を開いてくれる。太もも、ツルツルで綺麗だ。
青色のボクサーブリーフ。おれとお揃いのやつだ。
涼くんは恥ずかしそうにいろんなところに視線を飛ばしていた。そして意を決したように、いきなり部屋の明かりをつけた。
「涼くん・・・!嬉しい・・・」
『・・・せめて、これくらいは・・・』
「はっ、ん・・・!涼くん、気持ちいー・・・」
『・・・み、見たい?』
「見たいっ。全部、見せて・・・!」
涼くんは浴衣をよけると、パンツからペニスを出した。触りたい。しゃぶって、いかせたい。
細い指先がペニスを撫で、握り込んだ。
『ふ、ぅ、』
「涼くん、声、ほしい・・・」
『らめっ、隣、聞こえちゃう・・・』
「~・・・!帰ってきたら、ホテル行こ、ね?めちゃくちゃに喘いで、いっぱい声、聞かせて・・・!」
『う、うんっ・・・。和多流、くん、気持ちいい・・・?』
「すげーいい・・・!キスしたい・・・!涼くん・・・!」
できないのに、ついねだってしまう。
すると、画面の中の涼くんが顔を近づけた。目を閉じて、薄く唇を開いてくれた。
「あ!ぅ、あぁ・・・!」
それを見て、いった。いってしまった。
肩で息をして、ぼんやりと画面を見つめる。
涼くんは恥ずかしそうに、した?と聞いてきた。
「い、いっちゃった・・・」
『え?早いね』
「キス顔、あまりにもエッチで・・・ごめん。涼くんもいって?」
『・・・おれ、今無理かも。ちょっと緊張してるし・・・』
「そ、そっかぁ・・・そか・・・」
『ねぇ、その、オナホの方がよかった、の?』
「はぁ!?」
少し心配そうな顔で聞いてくるから、ついすっとんきょうな声をあげてしまう。
『早かったし・・・』
「バカだなぁもう・・・!涼くんがいいのを我慢して渋々使ってるだけだし、キス顔が、ほんとにめちゃくちゃエロかったんだよ!破壊力抜群だったんだよもう!スクショ取れば良かった・・・!」
『・・・なら、よかった』
安心した顔。オナホに嫉妬・・・。すごく、可愛い。今から飛行機で飛んで行きたいよ。抱きしめたいよ。
『・・・あの、ごめん、明日早いから・・・』
「え?あ、そう・・・。あと5分は?ダメかな」
『普通の通話にしていい?』
「うん。あの、ありがとうね。すごく気持ちよかった」
『和多流くんの顔、可愛かった』
「いや、可愛くないでしょ。・・・涼くん、これから1人でするの?いったあとの写真欲しいな」
『調子乗らないでね』
あ、怒られた。
でも嬉しい。だって、声が優しいもん。
少しおしゃべりをしてから、通話を切った。名残惜しかったけどさ。
ホールを片付けて下着を付け直し、ベッドに潜り込む。涼くんの匂い。落ち着く。
枕に顔を押し付けて悶々としていると、また携帯が音を立てた。
涼くんから写真が送られてきた。なんだろうと思って見てみると、上から自撮りした写真。はだけた浴衣、力の抜けたペニス、手の平には、吐き出したであろう体液。そして恥ずかしげな涼くんの顔。
「りょ、りょぉくん~・・・!」
わざわざ、送ってくれたの、神すぎる~・・・!!
その写真で3回ほど抜きました。
大満足です。
*******************
「・・・連絡なかったな・・・」
翌日、おはようのやりとりをしてから音沙汰なし。
あっという間に夕方になってしまった。
お昼にお好み焼きを焼いてみたので作ってみたよと写真を送ったけど、既読にはなったものの返事はなかった。
さ、寂しい・・・!
仕事なのは分かってる。分かってるけど、けどさ・・・。会えないんだもん。
おれが出張の時、涼くんは連絡を控えてくれてたのに。
おれは堪え性がない。
お疲れ様、と当たり障りのないメッセージを送ってしまう。
いかん。部屋に1人でいるからこうなるんだ。
勢いよく家を出て電車に乗る。
ガタガタ揺られながら目的の駅で降り、静かに歩いてバーのドアを開ける。ママが少し驚いた顔でこちらを見た。
「やだ、まだ開けたばっかよ?どうしたのよ」
「飲みに来たの」
「あんたのかわい子ちゃんは?仕事?これから来るの?」
「いや、出張」
答えると、ニヤニヤと笑ってビールを出した。
「何、可愛いとこあんじゃない。寂しいんだ?」
「そうだよ。おれ、可愛いとこしかないの」
「褒めたんだからチップ」
「あんまりいじめないでよ。2日目でここまで落ち込んでるんだから」
タバコに火をつける。灰皿が出された。深く吸い込んで、吐き出す。
涼くん、まだ仕事してんだろうなぁ。
どこ?と聞かれたので行き先を伝えると、いいところよねー、と言われた。おれは行ったことないけどね。
「昨日から行ってるの?」
「うん。昼から、前乗りでね。明日帰ってくるけど、遅いみたい」
「空港まで迎えに行くんでしょ?」
「公共交通機関の方が正確だし交通費出るからって断られた」
「あら、あんたがそこで引き下がるの珍しいわね」
「あの子1人じゃないし」
「大変ねぇ、出張なんて。あるのね」
「結構イレギュラーだと思う。本人も言ってた」
「まぁたまにはあの子の有り難みを噛み締めて過ごしなさいよ」
ほら、とカレーが出された。大盛り。
いただきますと声をかけて口に入れる。うまい。
涼くんもママのカレー、好きなんだよな。
「仲良くやれてんのね」
「おかげさまで」
「よかったじゃない。あの子最近よく笑うし、ふっくらして健康的になったし、見ていて安心する」
「そうだね」
「あと、あんたもね」
「え?おれ?」
「いきがってブランドもの身につけてさ、虚勢はってたじゃない。男食い散らかして自分の存在を見せつけようとしたりさ。見ていて心配だったのよ」
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「そうよ。でもあの子と付き合って変わった。運命の相手って、本当にいるもんなのね」
「・・・運命とか信じてなかったけど、あの子を見てると信じていいかなって思うよ」
「あんたは今の方が好きよ。あと太ったし、少しザマーミロって思ってるわ」
「え、太った!?」
「幸せ太りって気づかないもんなのよ~」
えー、太ったのかな・・・。
腹の肉をつまむ。うーん・・・。
ジム、もっと通わないといけないかな。
何杯かお酒を飲んで、支払いを済ませて外に出ようとすると呼び止められた。振り返ると紙袋を渡される。中身はタッパーに入ったカレーだった。
「ありがとう」
「まったく、しおらしい顔しちゃってさ。あんた、最近諦めよくなったわね」
「え?どーゆーこと?」
「あたしだったら、公共交通機関を使うって言われたら、そうなんだで引き下がらないけどねー」
じゃーねと手を振られる。お店を出て電車に乗る。
引き下がらない、と言われても・・・。成瀬さんもいることだし、仕事だし、迎えに行けないし・・・。
ふぅ、とため息をついて揺られていると、携帯が震えた。バッと取り出して確認する。
『終わって、ご飯食べてきたよ。和多流くんもお疲れ様!』
スタンプも送られてきた。桃うさのスタンプ。ジーンとする。やっと返事きた・・・。
『ママにカレーをもらったから明日食べよう』
『ママのところ行ったの?今電車?』
『そう。たまには顔出そうかなって。涼くん、明日遅いんだよね』
『うん』
飛行機のチケットの写真が送られてきた。
登場時間も書いてある。そのあとに新幹線のチケットの写真。結構遅い時間だな。
『駅まで迎えに行くよ』
『ありがとう。たぶんクタクタだから、嬉しい』
よかった・・・断られなかった。
おやすみ、ときたので名残惜しかったけどおやすみと返す。
はー、待ち遠しいな・・・。
迎えに行きたかったなぁ・・・。でも、新幹線のチケットももうあるんだもんなぁ。
・・・・・・新幹線。もうあるんだよね?
もう一度確認する。指定席。時間も書いてある。
「あたしだったら、公共交通機関を使うって言われたら、そうなんだで引き下がらないけどねー」
ママの言葉が頭の中で反響した。
引き下がって、たまるかーー!!!!!
「もしもし、シロくん!?」
駅に降り立った瞬間に電話をかける。
『はーい、シロでーす。なぁに、こんな時間にー。もう寝るとこ、』
「明日、おれ、涼くんのこと迎えに行くわ。一緒に行く?」
『えー?でも、もう新幹線のチケットあるし・・・車で行ってものってくれないよ?』
「向こうが公共交通機関を使うなら、おれらも使えばいいんだよ」
答えると、シロくんは一瞬黙り込んだ。そして理解したのだろう。
『お迎え行くーー!!わたくん、最高!僕チケットとるから!!』
やっぱりこういう時にシロくんはありがたい存在だ。
通話を終えて家に帰る。
明日が楽しみだ。早く会いたいな。
******************
「やー、もう、わたくんってほんっと頭いいわ」
空港の喫茶店でコーヒーを飲む。
昼に車で家を出て、コインパーキングにおいてシロくんと合流し、新幹線に飛び乗った。平日の夕方なんて自由席で十分だ。
公共交通機関を使うというなら自分たちも使えばいいのだ。
駅弁を食べながら空港に向かった。
出口付近の喫茶店で時間を潰す。
外はもう暗くなっていた。
飛行機の灯が眩しい。
「まだ来ないから、なんか見て周る?」
「お土産でも見る?どーせ美喜ちゃんは買ってこないだろうしー。あ、写真来てたんだったわ。送るわ」
確認する。相変わらずブスッとした成瀬さんと遠慮がちに笑う涼くん。空弁と写っていた。
「可愛いなぁ」
「あげないわよ」
「涼くんだよ!涼くん!目が悪いんじゃないの」
「はぁ!?美喜ちゃんのこと馬鹿にしたの!?刺すわよ!」
ぎゃーぎゃー言いながらお土産を見る。
あ、涼くんが好きそうだな。いちごのバームクーヘン。いちごどら焼きもいいな。
「それ美味しそうね。どら焼きの方」
「だよね。買おうかな」
「美喜ちゃんに買おうかな。甘党だからこういうの大好きなのよ」
「意外だよ。あの見た目で甘党って」
「あの人ケーキバイキングで出禁くらうくらい食べるわよ」
「信じらんねぇ。気持ち悪くならないわけ?」
「それがねー、その後ラーメンとか行けちゃう人なのよ」
「うわ・・・」
「あー、このチョコレートも買うー。絶対好きだもん」
「あ、美味しそうだね」
「買っちゃお」
「おれも買おう」
いちごどら焼きとチョコレートを買う。涼くん、喜んでくれるといいんだけど。
お腹が空くだろうと思って、空弁も買った。食べるのは新幹線だけどさ。
そろそろ着く頃かな。
ソワソワしながら出口に立つ。
ちらほらと迎えにきたであろう人たちがいた。
「なぁんか、さ?」
「ん?」
「僕たち、恋人に夢中すぎない?」
「そうだね。なんか変?」
「ううん。・・・前は寂しくなったら友達とパーっと飲みに行ったり、食事に行ったり、遊び歩いたりしてたのに・・・。今はお利口にお家で待っててさ。僕と美喜ちゃん、10年も一緒にいるんだよ?なのにさ、まだ寂しいって思うんだって・・・本当に、大好きなんだなーって、思ってさ」
「・・・おれも、なんだかんだ友達の期間を含めたら、結構長いんだよなー。寂しい時にシロくんにも飲みとか食事に付き合ってもらったけど、埋まらないんだよね」
「そうそう。美喜ちゃんじゃないと、ダメなのよ」
「おれも。涼くんじゃないとダメ」
「美喜ちゃんもそうだったらいいのになぁ」
「そうじゃないの?じゃなかったら写真、わざわざ送ってこないよ」
「そうかなぁ。あ!」
出口から人が歩いてきた。
緊張してきた。
キョロキョロと涼くんを探す。内緒で来たし、びっくりするかな。驚いた顔が可愛いんだよなー。
涼くんが見えた。
成瀬さんと一緒だった。
2人は顔を見合わせると、涼くんは弾かれたように笑い、成瀬さんは呆れたように笑った。あれ?驚かない。
「シロくん、迎えに行くこと言ったの?」
「言うわけないじゃない。サプライズだもん」
「えー?全然びっくりしてないよ?」
2人がキャリーケースを転がしながらこちらへやってきた。
「ただいま」
にこーっと笑ってくれる。うぁあ・・・!抱きしめたい・・・!
「んふふっ、あはははは!ぜーったい、いると思ったよ!」
「え、えぇ!?」
「春日部が絶対に2人は空港に来るって言うから、そんなバカなことするわけがないと思っていたんだが・・・まさか本当にいるとはな」
「な、なんでぇ?なんで分かったのよ、春日部くん」
「最初、安心してもらうために飛行機のチケットの写真を送ったんですけど・・・。発着時間を知ったらきっと来るだろうなぁと思って」
「子供じゃあるまいし、そんなことしてんのかお前らは。バカじゃないのか。仕事だぞ、こっちは」
成瀬さんが呆れ顔で言う。うーん、この毒の効いた発言、久々だなぁ。
「んもー、バカとか言わないでよ!早く会いたかったの!あ、春日部くん、新幹線のチケット交換こ。はい」
「え??」
「僕、美喜ちゃんの隣に座るから!わたくんの隣に座ってね。ちゃーんと指定席だから」
涼くんはゲラゲラ笑って、用意周到ですね、と目元を擦った。相当おかしかったんだね。涙溢れてるし。
4人で新幹線に乗り込む。おれと涼くんの席は一両離れた席だった。さすがだね。邪魔されたくなかったからちょうどいい。
「お疲れ様。あ、空弁買っといたけど食べる?」
「本当?食べたい」
「・・・迷惑じゃなかった?」
「え?お迎え?全然。嬉しかったよ」
「ほんと?」
「うん。・・・おれだって早く会いたかったもん」
こそっと耳元で囁いてくれる。うぅ・・・!嬉しい。幸せ・・・。
手を繋いで新幹線に揺られる。
家に帰ったらたくさんキスをしなくちゃ。
いっぱい、イチャイチャしようっと。
って思ってたんだけど無理でした。
だっておれが勝手に入れたローションが使用されていて、聞いたら顔を真っ赤にして俯いちゃったから。
ということはバイブも・・・と思ったらもう、止まれませんでした。
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