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和栗

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和多流くんは時々ものすごい甘えん坊になる。
とにかくキスを求めて覆い被さってきたり、おれの服に頭を突っ込んだり、抱っこしてと言ったり。大型犬みたいで可愛いので甘やかしてしまう。
今日もすごく甘えてくる。さっきからキスの嵐。嬉しいからいいんだけど。
甘えたいだけでしたいわけではないらしいので、変なところを触ったりはしない。背中を撫でたり腕を撫でたり、手を握ったり抱きしめたり。それだけで嬉しそうにしてくれる。
ひとしきりキスをしたあと、和多流くんはおれの胸に倒れ込んでふう、と息をついた。
「いーきもち・・・」
「おれも」
髪を撫でる。いつも通りの色。耳を撫でるとパッと顔が上がった。
「耳はダメ」
「触りたい」
「・・・そんな可愛い顔してもダメ」
「は?可愛い顔?」
「ほらそれ。首傾げて、もう。あざといな」
「そんなこと言うの和多流くんだけだよ」
「涼くんは分かってないんだから」
「・・・でもおれ本当に、和多流くん以外に可愛いってあんまり言われたことないな」
いきなりガバッと起き上がって、まじまじと見下ろされた。
キョトンとしていると、何とも複雑そうな顔。
「どうしたの?」
「世の中の男どもの目が腐っててザマーミロとも思うけど何でこの可愛さに気づかないかなという怒りも込み上げてきて・・・でもおれだけが知っていたいという独占欲が・・・」
「・・・あははっ!なにそれ!」
「・・・うー、こんなに可愛い子がおれの彼氏なんて信じらんねぇ・・・」
「あ、ねぇ。おれずーっと思ってたんだけど」
和多流くんはおれの横に寝転がると、頬杖をついてじーっと見つめた。
うつ伏せになり、腕を組んで頭を上げる。
「恋人と彼氏って何が違うんだろう」
「んー?うーん・・・やっぱり恋人は結婚とか考えてる相手に使うんじゃない。分かんないけど」
「和多流くんはどっちが嬉しい?彼氏ですって言われるのと、恋人ですって言われるの」
「・・・ダーリンとか?」
ぶはっと吹き出して笑ってしまう。
バシッとお尻を叩かれたので叩き返すと、腰をつねられた。背中を撫でて宥めると、ぺとーっとくっついて首筋に顔を埋める。
「いーじゃん、ダーリン」
「じゃあおれはなに?」
「・・・ハニーかベイビーかな?あ、シュガー?」
「やだなぁ」
「何がいいの?」
「えー?えへへ」
「誰かに紹介することあんの?」
「あるよ。姉さん」
いきなりガバッと起き上がると、真顔で正座をした。驚いて見上げていると、咳払いをした。
「いつ会うの」
「え?んと、おれの休みに合わせてくれる予定。姉さんが有給取れたらまた連絡がくるよ」
「・・・おれはお留守番ですかね?」
「・・・え、う、うん・・・」
申し訳ないけど姉さんと会うのはかなり久しぶりだし、そうしてもらいたいけど・・・怒るかな。落ち込むかな。
和多流くんはじっとおれを見つめたあと、また咳払いをした。
「お迎えには行かせてください」
「え?はい・・・分かった」
「・・・手土産買わないとな」
「いやいや、いらないよ」
「涼くんの彼氏としてそこはきっちりしたい!」
「彼氏だからって何!?え?じゃあおれも朝多流さんに菓子折りとか送った方がいいの?」
「いや、あいつにはいらないけど」
「じゃあ姉さんにもいらないじゃん」
「いや!必要!よく思われたいんです!!」
ギョッとしてしまう。
和多流くんはハッとすると、目を逸らした。
良く、思われたいんだ。姉さんに。おれと付き合ってるから、そか。おれも朝多流さんとかクマさん達に良く思われたいなと思うもん。
そっか・・・和多流くんもそんなふうに思ってくれてるんだ。
「姉さん、昔はバターがたっぷり入ったお菓子が好きだったな」
「そ、そうなの?」
「うん。おれ、フィナンシェ持っていくつもりだった」
「・・・クッキーかな・・・それとも、うーん」
「・・・恋人ですって紹介するね」
「うん・・・ん!?」
「ねぇ、今度はおれ」
ガバッと抱きつくと和多流くんはバランスを崩して壁にぶつかった。いてー!と頭を押さえたので慌てて撫でると、笑いながら押し倒された。

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