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しおりを挟む涼くんが、おれを避けている。
くっつこうとすると何かするふりをしてそっと避けたり、距離を取る。
どうかした?と聞くと、何が?と首を傾げる。
何かしたのかな・・・。
そんなことが続くと寂しくなる。
寂しさを埋めたくてどうにか触れたくて、ベッドに入ってからそっと腰に手を回す。ビクッと跳ねて、眠いからごめんね、と小さく言われた。
「・・・ぎゅってしていい?」
「・・・ん」
そっと抱きしめると、体がこわばっていた。
何かしたんだろうなぁ・・・。
でも怒ってないしな・・・。
どーしよ・・・。
******************
「ふーん、で、休憩中のおれのとこまで来ちゃったのね」
「悪かったな」
分からなさすぎてクマに相談しにきた。
子供の頃からの友達というのは、こういう時にありがたい。
おれの悪いところを知っていても、長年つるんでくれている。
無意識に涼くんに何かしたのかもと思って、クマのところに話に来た。気を利かせた犬飼さんが買い出しに行った。
「うーん。あなたさ、結構乱暴なところあるからね」
「乱暴?」
「人の扱い方とか?まぁだいぶ丸くなった方だし、おれは気にならないけどさ」
「扱い方って・・・暴力とか振るってないよ」
「暴力だけじゃないよ。乱暴っていうのはさ、言葉遣いとか、仕草とか、触り方とか、色々」
「なんか変だった?おれ」
「・・・うーん、具体例が難しいな。春日部くんがどう感じてるか分からないし。例えばさ、おれに、うるせーって言うでしょ?おれは別に何も気にならないけど、春日部くんにとっては乱暴だなーって思うかもしれないね」
「えー、言ったのかな・・・」
「あとさ、肩とか叩く時。相手によっちゃ痛いって感じるかもね。手が大きいから」
叩いたのかな・・・。
えー、うるせーとか、言ったのかな・・・。
喧嘩とかしてないし、まさかこの間のセックスの時に、なんかしちゃったか!?
あの後謝り倒したら許してくれたけど、後々になってムカついてきたとか!?
「まぁ会話はしてくれるんでしょ?」
「してくれる・・・」
「直接聞いたら」
「何言われるかわかんねぇ・・・こえー・・・」
「うーん、わたくんがそこまで思い詰めるなんて、春日部くんてばすごくいい子なんだね」
「え?」
「春日部くんがちゃんと想ってくれてるのが分かるから、あなたもそうやって必死に考えるんでしょう」
「別れたくないから必死なんだよ」
ゲラゲラ笑われた。
悔しい。
面白がり始めたので適当に挨拶をして店を出る。
うーん、あの夜何かしちゃったのかな・・・。あの日から確かに、セックスはしてないな。
口数はいつも通りだと思うんだけどな。
帰り、お迎えに行った時に話してみるか・・・。
*******************
ソワソワしながら駐車場で涼くんを待つ。
小走りで近づいてくる人影が見えて、ついつい運転席から飛び出す。
「お、おかえり」
「ただいまー。寒いから乗っててよかったのに」
「まぁたまには・・・。さ、帰ろ」
車に乗って、勇気を出して手を繋ぎたいと声をかけると、涼くんは少し戸惑ったように手を出した。できるだけ優しく、そっと握る。やった。手、握れた。嬉しい。
帰ったら話そう。
嬉しくてたまらなくて、顔がニヤける。
家に帰ると、涼くんはテキパキと食事の準備をした。
肉じゃがお腹いっぱい食べて、一息つく。
お茶を淹れて座るように促すと、ちょこんとダイニングチェアに座った。正面に座って、じっと涼くんを見つめる。
「あの、涼くん。・・・単刀直入に聞くんだけど、おれ、何かしたかな」
「・・・」
「最近避けてるよね?少し寂しい。おれが何かしたなら、ちゃんと謝りたいから、教えて欲しい」
心臓がバクバクして苦しい。
おれ、マジで、何をしたんだろう。
涼くんはしばらく沈黙してから言い淀むと、バッと顔をあげておれを見つめた。
「和多流くんは」
「うん」
「・・・た、叩くのが、好きなの?」
「・・・え?」
「この前、・・・き、騎乗位、した、時、お尻を、その、めちゃくちゃ叩いてきて・・・」
え?え!?
叩いた!?おれが!?
サーっと頭の血が下がる。
「すごい笑って、叩いて、おれが、泣いたら嬉しそうにしてて、おれ、お、お尻痛くて、・・・」
「・・・えっと、あの、ごめんなさい・・・」
「覚えてないんだなって、思ってたんだけど、また叩かれるのかなって思ったらちょっと、したくなくなって・・・」
「ごめん!ほんっとうに、覚えてなくて・・・!なんか言ってた?おれ・・・」
「・・・あ、ぅ、」
顔が真っ赤になる。そんな卑猥なこと言ったのかな。
ていうか、笑って叩くとか、鬼畜じゃん・・・!最悪じゃん・・・!
「おもち、みたいって・・・言った・・・」
「お、おもち・・・」
「ずっと可愛い可愛いって連呼しながら叩いて、おもちみたいって、つねったり、また叩いたり、いい音だねって、言うし・・・。真っ赤になっちゃって、びっくりした・・・」
「本当にごめんなさい!!もうしません!!」
椅子から滑り落ちて正座して頭を下げる。
何、言ってんだ、おれ!!!
暴力してんじゃん!暴言吐いてるじゃん!最悪だ!!別れたいって言われても拒否できない!いや、別れたくないから回避したいけど、回避できる材料がない!挽回できない!
「あと、その・・・やりすぎてお尻が痛かったから少し避けてた・・・」
「え!?き、切れたりしてない!?」
「ヒリヒリしただけ。・・・叩くの、好きなの?好きなら先に言って欲しかった」
「いやそんな、好きとかはないんだけど、いやちょっと待って、ごめん、混乱してる!えっと、えっと、お尻はもう、平気・・・?」
「赤いの引いたよ。もう痛くはない、けど・・・」
また顔を赤らめた。けど、なんだろう。
別れ話とかには、ならなさそう。だけどお預けになりそうな、雰囲気はある。
別れるくらいならお預けでいい。別れたいとか言われたら、おれ、多分、死ぬ。
「・・・あの、そんな顔しないで。怒ってないよ」
「え?変な顔してる?」
「なんか、死にそうな顔してた」
「いや、あの、実際死にそうなんです・・・」
「すごくすごく嫌だったわけじゃないよ。本気で、おれのお尻が可愛いと思ってるんだろうなぁっていうのは分かったし。・・・叩いた後、ちゃんとチューもしてくれたから、単純にお尻が好きなのかなって、思ったし・・・」
「ほ、ほんとうに、この前は、ごめんなさい。調子に乗りすぎて、おれ、」
「ううん。よく考えたけど、勝手に手錠をつけたおれが悪いもん。おれだけの和多流くんだって思って、嬉しくなっちゃって・・・」
「涼くんだけの和多流です!あれはあれでめっちゃ興奮した!け、ど、・・・せめて前で止めて欲しかった・・・かな、と」
「怖かったよね。ごめんね」
涼くんも床に座り、手を伸ばしておれの頬を撫でた。
うぅっ優しいし。
「怖くはないよ。涼くんだもん。抱きしめたくてもそれができなかったから、もどかしかったんだ。いや、でも、それでも叩いていい理由にはならな、」
「改めて聞くけど、叩くの好き?」
叩くのが好きなんじゃなくて、おれに翻弄されている涼くんを見るのが、好き、なんだけど・・・。
なぜか首を横に振ることができなくて、見つめ返すことしかできなかった。それを好きだという返事だと思ったのか、涼くんは顔を赤らめた。
「・・・また、叩きたくなったら、言ってくれれば、叩いて、いいよ」
「え!?」
「あ、でもあんまりしつこく叩かないでね。仕事は立ち仕事が多いけど座ることもあるし・・・」
「怖くないの?」
「・・・ん」
携帯を出された。動画だった。涼くんのペニスが激しく揺れて、パンパンと腰を打ちつける音。涼くんは啜り泣いていた。
仰向けになったおれがうつると、バチン!と痛々しい音が響いた。
『いたぁい!!ゔ、ゔ、いたいよぉ・・・!』
『あーもう、可愛い。泣いた顔も可愛い。大好き。愛してるよ。ね、ほら、もう1回』
『いたーーい!!ひえっ、えっ、いた、ゔぅー!』
『はー、気持ちいい・・・!可愛い・・・!おれだけだからね、気持ちよくできるのも、痛くさせるのも、全部おれだけ。はぁ、可愛い。柔らかいお尻・・・可愛いねぇ・・・』
バチン!と今までで一番大きな音がして、涼くんが叫んで、動画は終わった。
愕然とした。動画のおれが、本当に嬉しそうに涼くんを痛めつけていたから。顔が見れない。俯いて拳を振るわせる。あぁ、本当に、おれって最低だ。
きっと、元カレにもしてたんだろう。元カレどころかセフレ、ワンナイトの相手にもしていたかも。
大事にしたい人に、なんてことをしてるんだろう。
「・・・嬉しそうで、嬉しかった」
「は?」
予想外の言葉に顔を上げる。涼くんは目を伏せて携帯を握りしめていた。
まつ毛が震えていた。泣いているのかな。
「痛かったんだけど、和多流くんが嬉しそうで、おれも、嬉しくなって・・・だから、動画、撮った・・・。痛かったのに、何度も見返して、ずっと、興奮してたんだ・・・。気持ち悪くて、ごめん・・・」
「・・・え、気持ち、悪くなんてないよ。ていうか、」
「おれ、マゾなのかなぁ・・・。おれがマゾでも、引かない?」
目が合う。涙がたっぷりと溜まり、今にも溢れてしまいそうだった。
「したくなくなったんじゃなくて、マゾだって引かれたら嫌で、避けてた・・・。ごめんなさい」
「引くわけないじゃん!!どんな涼くんでも、おれはずーっと大好きだよ!」
「ほ、ほんと?」
「嘘なんかつかないよ!ていうか、マゾじゃないと思うよ。叩かれるのが好きなわけじゃないでしょ?」
「・・・和多流くんにお尻叩かれるのは、いいかなって、思っちゃった」
「え、・・・」
「毎回は痛いけど、嫌になるかもしれないけど、たまになら・・・。だって本当に嬉しそうで、なんか、きゅんって、しちゃって・・・」
「そ、そう?なの?・・・おれも叩くのが好きか、分からないけど・・・涼くんのお尻はずっと触ってたいくらい、好き・・・」
「おもちみたいだから?」
「本当にごめんなさい。もう少し他の例えがあるのに・・・」
「・・・和多流くんがこねたから、柔らかくなっちゃったんだよ」
ぺた、と抱きついてくる。嬉しい。ようやく、ちゃんと触れ合えた。
キツく抱きしめ返す。
「怖くて痛い思いさせて、ごめんね」
「ううん。理性が飛んだ和多流くんも、たまにはいいかなって思ったよ。疲れたけど」
「・・・気をつけます」
「・・・あ、愛してるって、たくさん言ってくれて嬉しかった」
「そんなに言ってた?!薄っぺらくなりそうだな・・・」
「すごく嬉しかった。泣いちゃうくらい、嬉しかったよ」
じーんと胸が熱くなる。
頭にキスを落として、優しく抱きしめる。
ちゃんと話ができてよかった。安心した。
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