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和栗

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二人の小話

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「はい」
和多流くんがちょっと出てくる、と言って20分くらい。
帰ってきたと思ったらいきなり花を一本差し出された。
透明のセロファンに包まれて、赤いリボンがついていた。
「え?」
「これも。はい」
次は長細い手提げ袋を渡された。中にはガラスの瓶が入っていた。
「ど、どうしたの?」
「ん?花だよ。ガーベラっていうんだって」
「へぇー。急にどうしたの?」
「綺麗だったから買ったんだよ」
他に何も買ってきた様子がなかったので、わざわざ花だけ買いに行ったみたいだった。
「ありがとう。白のガーベラ、綺麗だね」
「似合うって思って」
「玄関に飾っていい?」
「うん。ガーベラって、2センチくらい水につければいいんだって。茎が溶けちゃうから、溶けたらそこを切ってまた水につければ長く楽しめるって」
「そうなの?バラってさ、深く水につけなきゃいけないって言うけど、花によって違うんだね」
「おれ、洗濯物の続き干すから飾ってきてくれる?」
流しに行って、ラッピングを外して花瓶にガーベラをさす。
玄関に飾って一枚写真を撮り、ロック画面に設定する。へへ、可愛い。
朝仕事に行く時、夜仕事から帰宅した時、お風呂に入る時、お風呂から出た時、ガーベラが目に入って嬉しくなる。
丁寧に丁寧に茎を切って水を変えて、長く楽しめるようにしていたけれど。
生き物だから、花びらの先がしおれてきて、散ってきて、茶色くなってしまった。
寂しい気持ちになる。
「和多流くん、枯れちゃった」
花瓶を見せると、本当だね、と小さく言っておれの頭を撫でた。
「そんな悲しい顔しないの」
「・・・んー、分かってるけど、やっぱ落ち込むね」
「大事にしてくれてありがとうね」
「写真撮っといてよかった」
「また綺麗な花があったら、買ってくるよ」
顔を上げるとキスをされた。
次の日仕事から帰ってくると、花瓶にオレンジ色のチューリップがさしてあった。
ふわりといい香りがする。
「わぁ!可愛い!」
「買い物ついでに花屋さん覗いたら、たまたま香りのいいチューリップが入荷になったんだって」
「花びらがふわふわしてる。本当に、いい匂いだね」
「茎に何箇所か切り込み入れると頭がまっすぐになるんだって」
「ありがとう。嬉しい」
鼻を近づけて香りを楽しむ。和多流くんが何枚も写真を撮った。照れくさくて笑ってカメラを遮ると、抱き寄せられた。
チューリップも長く咲いてくれた。
寒いと花びらが閉じて、暖かくなるとそっと開く。
生きてるんだなーって、嬉しくなった。
だけどやっぱり枯れてしまう時はくる。一枚花びらが落ちた。香りはもう、ほとんどしなかった。
買い出しに行くために外に出る。
商店街のスーパーで買い物をして、花屋が目に入った。
ここら辺は花屋がここに一軒だけ。ここでいつも買ってきてくれてるのかな。
そっと店の中に入ると、若い男の店員さんが出てきた。
びっくりして固まる。てっきり女の人がやっているお店だと思っていたので、面食らってしまった。
すごく、真面目そうな、整った顔の人。
「プレゼントですか?」
「あ、いや、自宅用で・・・」
小さな声で答える。
和多流くん、この人がいるからここで花を買ってるのかな。いやいや、そんなことは・・・。でも、なんか、和多流くんが好きそうな人だな・・・。
「これとかどうですか?長くもちますよ」
「・・・これ、なんですか?」
「アルストロメリアっていう花です。蕾が次から次へとついて、寒さにもそこそこ強いから古くなった花を摘んでいけば長く楽しめますよ」
「へぇ・・・」
店内を見渡す。家にある花瓶が売っていた。ここで買ったんだな・・・。
「チューリップとかもありますけど」
「あ、今、チューリップが家に・・」
「そうなんですね。カーネーションもおすすめですよ。このレースフラワーと合わせると、豪華に見えます」
「・・・じゃあ、それを・・・」
せっかく花を買いに来たのに、なんか、落ち込む。
紙に花を包んで渡してくれた。
受け取って店を出る。
和多流くん、あの人と仲良いのかな・・・。
おれと同い年くらいの人だったな・・・。
でもおれみたいにヒョロくないし、ずっと笑顔だったし、愛想もよかった。
うー、何落ち込んでるんだよ。バカ。
「ただいまぁ」
「おかえりー。今仕事終わったんだ。買い物ありがとう。あれ?花、買ってきちゃった?」
和多流くんが少し残念そうな顔をした。
やっぱり、あの人に会いたかったのかなぁ・・・。
「花びら、落ちてきたから・・・」
「あ、本当だ。・・・次はおれが買ってくるからね」
「おれが行ったの、やだった?」
「え?ううん」
「あのお店好きなの?」
「えー?そりゃ、まぁ、好きだよ。店長さん、いい人だし」
「・・・あっそ」
荷物を持ってキッチンに入る。冷蔵庫に入れていると、隣に和多流くんがしゃがみ込んだ。
「なんか機嫌悪い?」
「・・・ちょっと」
「・・・なんか、話し、した?」
「誰と?」
「店長さんと」
「・・・おすすめ、聞いただけ」
「本当?」
「何、やましいことでもあるの?」
バン、と冷蔵庫を閉める。
キッと睨むと、和多流くんは少し照れたようにおれを見ていた。
「いや、おれさ、結構涼くんのこと話しちゃってたから・・・」
「仲良いんだね」
「嫌だったよね、ごめん」
「別に。おれのこと見たって、おれだって分かんないでしょ」
「あのお店スーパーの前だから、知ってると思うよ。おれもくっついて行くじゃん。ねぇ、やっぱりなんか聞いたんでしょ?だから機嫌悪いんでしょ?」
「知らないよ!バカ!!」
もぉ!イライラする!!
ギューっとシンクの縁を掴む。
もう無視をしようと決めた時、ため息が聞こえた。
「ごめんなさい。喋りすぎました。次は、気をつけるから・・・」
「・・・」
「・・・や、その、言い訳じゃないんだけど、やっぱり接客する人って話が上手いっていうか・・・。聞き出すのも上手いっていうか、ついつい話しすぎちゃったっていうか・・・。おれ、あーゆーおばさんに弱いんだよ!友達のお母さんみたいで、なんか、つい、ベラベラ喋っちゃうっていうか、ごめんなさい!」
「え?おばさん??」
「え?」
あれ?どういうこと?
話が噛み合ってない??
「若いお兄さんだったよ?」
「え?お兄さん?誰のこと?」
「花屋の人・・・」
「・・・え?店長さんはおばさんだけど・・・。おばさんって言っても、50代くらいだけど」
「えぇっ!?おれと同い年くらいの男の人しかいなかったよ?」
「えー?それは知らないな。いつも前を通るとおばさんしか・・・。あ。んふふふっ。もしかして、ヤキモチ妬いた?」
カーッと全身が熱くなる。
部屋に逃げようとすると、簡単に捕まえられた。ダイニングテーブルに押し倒される。
足の間に体を捩じ込まれて、逃げられない。
「そのお兄さんに会いに行ってると思ったんでしょ」
「ちが、ぅ、うん、」
「んー。可愛い、可愛い。だーい好き」
顔中にキスをされる。すっごいニヤニヤしてる!むかつく!!
「涼くんに喜んで欲しくて花を買ってたんだよ。男の子のことは知らないよ。いつもおばさんしかいなかったもん。あー、可愛い、可愛いよー。大好きだよー」
「も!やめてよ!バカ!」
「おれが花を買いたい理由は、笑って欲しかったからだよ。本当に、それだけなんだ。ほら、花畑に行った時に喜んでくれたでしょ。だからね、プレゼントしたくて」
「・・・」
「機嫌なおしてよ。せっかくのお休みなんだから。買ってきてくれた花、活けよう?」
「・・・ん」
「・・・あーもう、何でそんなに可愛いのかなー。可愛い可愛い。やっぱ少し、ベッドに行こう」
ぐんっと抱き抱えられ、ベッドに連れて行かれる。ジタバタもがいても、和多流くんの寝技からは抜け出せなかった。
結局夕方に花を活けて、少しだけ出掛けて、この日は終わってしまった。
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