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和栗

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「ただいまぁ・・・」
「おかえりー。え!?」
朝イチに美容院に行くというので見送った。帰宅してきたので顔を出すと、困った顔の和多流くん。その髪色は、金色。
「・・・え??どうしたの??金髪??」
「・・・配合間違えちゃったって言われて・・・染め直すにも髪が傷みすぎちゃうからできなくて・・・嫌だこの色!!勘違いおじさんみたいじゃん!!」
ひとしきり叫んだ後、和多流くんは部屋に飛び込んでしまった。
配合を間違えるって、どうしてそうなったんだろう。
いつも行ってる美容院で、いつもカットしてくれる美容師さんを予約してたと思うんだけどな・・・。
ていうかその美容師さんとは仲がいいから直接電話して、いつもみたいによろしくーってラフな感じで予約してたのに。
「和多流くん」
「・・・みないで」
頭からすっぽりフードをかぶってパソコンの前に座っている。
明らかにしょんぼりしている。
「どうしちゃったの?」
「・・・ちょっとテンションが上がって、ペラペラおしゃべりしすぎたら、間違えちゃったって言われて・・・ちょっと明るくなるだけだと思うけどどうするって聞かれて、深く考えずに、いいって返事しちゃって・・・自業自得なんだけどこんなに明るくなるなんて・・・」
「そんなに盛り上がったの?」
「・・・涼くんがクリスマス、ちょうど休みになるから、嬉しくて嬉しくて・・・」
「そ、そんな話しで盛り上がったの?」
「だって今までいつも仕事入れてたのに!今年は入れないでくれたから嬉しいに決まってるじゃん!!」
「で、クリスマス間近でその髪色になっちゃったんだね」
「・・・最悪だ・・・勘違いおじさんの色だ・・・」
「何それ?」
「この髪色で若い子と出かけてはしゃいでたら痛々しいじゃん」
「そ、そうなの?似合ってるしいいじゃん、はしゃいでも」
「え?」
「え?」
「・・・似合う?」
「うん。似合ってるよ。よく見たら、そんなに金色って感じじゃないね。あ、シャンプーのいい香りだ」
フードをとって髪色を確認する。海みたいな爽やかな香りがして、胸がキュッとした。
いい香り。
ふわふわの髪を触ると、パッと顔が上がった。
「嘘ついてない?」
「ついてないよ。似合うよ。たまにはいいよね、こんな色も」
「・・・じゃあ、いっか・・・。はー、笑われたらすげー落ち込むーと思って帰ってきたんだよ。似合うならいいや」
「また次行った時はいつもの色にしたらいいんじゃない?」
「うん。悪いことしちゃったから、後で連絡しておかないと・・・。カラー代タダにしてもらっちゃってさ・・・。おれが悪いのに」
「今度行く時にお菓子とか持って行けば?ほら、商店街のパン屋さんにさ、クッキー売ってるじゃん。あれ美味しいよ」
「あぁ、そうしようかなぁ・・・」
「・・・なんか、パン食べたくなってきた。行かない?」
「今なら焼きたてがあるかな。行こうか」
気を取り直したみたいだ。
上着を着て2人で家を出る。ついでに夕飯の買い物もしようと、エコバッグも持つ。
商店街のパン屋さんはとても美味しくて品揃えも豊富。そしてなんと言っても安い。ボリュームもあるし、言う事なし。職場の近くのパン屋さんより大きいのに値段は3割くらい安いのだ。
「食パン買おうか」
「うん。もう家のないもんね」
「チーズパン売ってるかなー。前行った時売り切れだったから」
「おれはバゲットサンドがいいな。チーズと生ハム」
「涼くん、ほんと好きだね。絶対買うもんね」
「へへへ。あとはクイニーアマン」
「・・・おれが買ってあげるね。可愛い」
和多流くんは何故か目尻を下げてふにゃりと笑う。
何が可愛かったんだろ。
パン屋に到着してパンをトレーに載せて行く。
あんクロワッサン、メロンパン、クリームパン、ついつい予定してなかったものまで買ってしまう。
ついでにホットコーヒーも買って、商店街の先にある公園で食べることにした。
「んー、おいひぃ」
サンドイッチにかぶりつくと、和多流くんがニコニコしながら見ていることに気づいた。
コーヒーを飲みながらおれに手を伸ばし、口元を撫でる。
「マヨネーズついてた」
「え、うぷっ」
ズボッと指を突っ込まれる。
「舌、あったかくて気持ちいいね」
「いきなりやめてよ。ていうか、人もいるし・・・」
「はー、可愛い。最近本当に、美味しそうに食べるよね。見てるだけで幸せ」
「お、大袈裟だなぁ・・・」
「これ半分にしよう」
コーンマヨのパンを半分にちぎり、渡してくれる。
焼きたてでふわふわ。美味しい。
「・・・ねぇ、本当に似合う?」
「え?髪?うん。似合うよ」
ちょっと不服そう。携帯で写真を撮ると、ギョッとした顔になった。
「ちょっとぉ、いきなりはダメでしょ」
「いつもいきなり撮るのは和多流くんじゃん」
「絶対変な顔してた」
「してないよ。かっこいいもん」
「消してよ」
「ダメ」
「もぉー。・・・ね、一緒に撮ろうよ」
ぐっと顔を近づける。インカメラにしてシャッターを切ると、いっぱい撮ろ、と言われた。何度もシャッターを切っていると、いきなり頬にキスをされた。驚いてカシャ、とシャッターを切る。
「わぁ!もぉ!」
「ふふふっ。今の送ってね?絶対」
「も、もぉ!外なのに・・・」
「マーキング」
「いつもしてんじゃん・・・」
「毎秒してたいです」
「なにそれ」
「涼くんもして?」
「家で!」
ぐいっと耳を引っ張る。
和多流くんは痛がりながらも笑っていた。
パンを美味しく食べて、帰り道を歩く。
たまにはのんびりこんなふうに過ごすのもいいよね。
和多流くんも元気になってきたことだし、夕方にイルミネーションとか、見にいけたらいいな。

なーんて思っていたら、帰りにクマさんと遭遇し、金髪を散々笑われて機嫌が悪くなり、スッポリとフードをかぶって部屋に閉じこもっちゃった。
もう放っておこ。
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