Evergreen

和栗

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面白い子を雇ったのでお店に来ませんか、と電話があったのは、ちょうど和多流くんと車に乗り込んだ時だった。
2人で目を合わせて、面白いってなんだろうねと興味を惹かれてクマさんのお店にやってきた。
ドアを開けると店内の装飾は梅雨仕様になっていて、いたるところに紫陽花やてるてる坊主や小さな傘が飾ってあった。
「こんばんは」
「らっしゃい!」
声をかけると、いきなり目の前に高校生くらいの男の子が現れた。長い髪を一つに束ねてお団子にしている。
気の強そうな顔だけど、どことなく可愛げがある。クリクリとした目がじっとおれを見つめた。
「2人ですか」
「は、い」
「こっちっす!」
「ぶふっ!」
吹き出したのは和多流くんだ。
何かがツボにハマったらしい。結構笑いのツボが浅いんだよな。
「マツ、ここはラーメン屋じゃないんだぞ」
奥から犬飼さんが出てきた。
少しホッとする。
マツ、と呼ばれた子はすいません、と大きな声で謝ると、犬飼さんの横に立った。
「こんばんは。来てくれてありがとうございます。これが先ほど話した面白い子です」
「松木丈太郎っす。よろしくお願いします。吾妻学園の2年生っす。あの、おれ、藤堂先生の職業紹介、見に行きました!一番面白かったです!」
職業紹介??
和多流くんは笑いながら、あれね、とまた笑った。
そういえば去年、知り合いのツテで頼まれて断れなかったと言って、学校に行ってたな。ていうか、吾妻学園って・・・。
「あの、不良高校の・・・」
「はい。そうっす。でもおれ、喧嘩嫌いっす」
「あれ?おれ確か、秋ごろに2年生の前でやった気がするんだけどな・・・。君、いたの?」
「はい。おれ、留年したんで!また今年も2年です!」
清々しいな。
笑うのを堪えて席に着く。
そういえば成瀬さんとシロさんの母校だな、吾妻学園って。
あの高校から国立大学に行くんだから、本当にすごい。シロさんも誰もが知ってる美大卒だし。
学校始まって以来の快挙だったろうな。それを全く鼻にかけてないから余計にすごいんだ、あの2人は。
「お水持ってきました。あの、藤堂先生」
「先生はやめてよ。おれ、一般人ですよ」
「え!じゃぁ・・・藤堂さん。あの、よくこちらにいらっしゃるんですか?」
「うん。クマの友達なんで」
「・・・料理長のご友人、ですか・・・!」
和多流くんがまた吹き出した。我慢ができず、おれも吹き出す。
なんか、なんか、面白いなこの子。
心底驚いたように和多流くんを見て、大きくお辞儀をして厨房に駆け込んでいく。
「料理長!料理長のご友人がいらしてます!」
「あーもう、その言い方やめなさいって。はいどーも、いらっしゃい」
「な、なんなの、この子、おかしい、」
ひーひー笑いながら和多流くんが尋ねる。クマさんは呆れたようにため息をついてマツくんを見た。
「この子は、おれが昔働いてたゲイバーの常連さんの甥っ子。この子が7歳の頃から知ってるんだけど、もうねー、なんというか・・・」
「ちょうどバイトを募集しようと思っていたら、雇わないかと声をかけられまして。前にラーメン屋でバイトをしていたと聞いて、それなら飲食の知識も少しはあるだろうからと思って雇ってみました。結構評判がいいんですよ」
「おばさんウケ、良さそうだね」
「そうですね。可愛がってもらってます。マツ、グラスにアイスティーが入ってるから持ってきて」
「はい!」
背筋を伸ばして返事をし、マツくんは厨房へ入っていく。
すぐに戻ってくると、おれの左手の前にレモンとガムシロップを置いた。
ぱっと顔を上げると、どうぞ、とアイスティーを置かれた。
和多流くんを見ると、和多流くんの右手の前にレモンとガムシロップが置かれた。
左手でレモンを載せる。おれが左利きなの、知ってるのかな。犬飼さんに聞いたとか?なんで?
「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「え?おれ?春日部です」
「・・・春日部さん。ありがとうございます。メニューが決まったら呼んでください」
「あ、はい」
返事をするや否や、急に店の入り口に小走りで近づき、ドアを開けた。そして次の瞬間。
「カヨさーん!!そこにいていいっすからー!おれ持っていくからー!!」
と、大声で叫んだ。和多流くんもおれも面を食らってしまい、ポカンと見つめる事しかできなかった。
「料理長!カヨさんの分お願いします!」
「だから、やめなさいって。できてるから待ってて」
「はい!あ、すみません、メニューはお決まりですか?」
「じゃぁこの、コンビプレート。パンでお願いします」
「おれはパスタのコンビプレートで、サラダのみでお願いします」
「え、春日部さん、ご飯もパンもいらないんですか?」
「へ?うん、パスタもあるから・・・」
「足りますか?」
「た、足りるよ?量があるから・・・」
「なら、大丈夫です。おれ、ここのメニュー全部が好きだから、腹一杯で家に帰って欲しいので聞いたんです。失礼しました」
メモを取り終わると真っ直ぐ立ってぺこりとお辞儀をして厨房に戻ったら、そしてすぐにビニール袋を持って出てくると、外に飛び出した。
お弁当の配達かな?
「あの子面白いね」
「うん。吾妻学園に通ってるって、意外だった」
「おれ、あの子がいたの覚えてないんだよなー。あんだけ面白いなら覚えてそうなんだけど」
「教室で授業したの?」
「そう。おれのところは40人くらいだったかな。といっても真面目に聞いてる子なんていなかったけど。何人か出ていっちゃったし、教科書は飛んでくるわ大声で叫ぶわ、まぁ普通の高校生だなーって感じだったけど、学校外でもあんな感じだったら迷惑だよね」
それ、普通なのかな・・・。
おれの通ってた高校は、そんな事なかったけど・・・。
今は落ち着いたって聞いてたけど、以前よりってことなのかな・・・。
もう不良はいないって意味なのかなと思ってたんだけどな・・・。
成瀬さんたちが通ってころの話を聞いたことがあるけど、おれは絶対に無理だと思ったもんな・・・。
「すみません、マツがうるさくて」
「いえいえ。面白い子ですね」
「まさか藤堂さんと顔見知りとは思いませんでした」
「いやー、おれは全然覚えてなくて・・・」
「まぁ、あのくらいの子達ってみんな同じに見えますよね」
「やだなー。おじさんの意見ですよ、それ」
「若い子から見たらもうおじさんですから」
2人が笑いながら話しているのを聞いていると、マツくんが帰ってきた。年配の夫婦と一緒に。
親しげに話しながら席に誘導し、ブランケットを2枚持ってきて各々に渡した。そんなに寒いかな?と思ったけど、あまりジロジロ見るのも悪いので和多流くんの話に耳を傾ける。
でもやっぱり気になって、そっと横目で見る。マツくんがマグカップを置くところだった。
「今日は少し暑かったから、50度くらいにしました」
「あら、ありがとう。いつも面倒かけて、ごめんなさいね」
「いえ、おれも白湯が好きなんで分かります。こっちが旦那さんの」
「ありがとう。いつものセットを2つ、頼むね」
「はい!ありがとうございます!」
夫婦はニコニコしながらマツくんを見送り、そっとカップを持った。常連さんの好みを把握しているのかもしれない。
温度管理までするなんて、すごいな。
「面白いでしょう」
犬飼さんがプレートを持ってやってきた。
視界の端でご夫婦の旦那さんの方が動き、ブランケットの下で何かをしていた。
犬飼さんが小声で言う。
「あの方はインスリン注射を打つんです。だからいつもマツがブランケットを渡してるんです。目隠し用として」
「あ、そうなんですか・・・」
「おれは全然気づかなかったんですが、マツはすぐ気づいて、来店する時は必ずブランケットを渡すんです。奥様は体が冷えやすい体質で、前は水筒に白湯を入れて来てこっそり飲んでいたらしいんですが、マツがそれに気づいてくれまして。あの子が来てから配達もできるようになったし、助かってるんですよ」
「・・・すごいですね。記憶力も気遣いも・・・。よく人を見てるんだなぁ」
「あの子は行動や癖や表情をよく見てるんですよね。だから、クマのことを料理長って呼ぶのはクマが満更でもない顔をしたからなんですよ。藤堂さんが先生と呼ばれた時は困った顔をしたからすぐにやめたんだと思います」
なるほど。だからおれのアイスティー、左側に置いてくれたんだ。ちょっとした仕草でおれが左利きだと分かったんだ。すごいや。
「犬飼さんのことは、犬飼さんなんですね」
「一度、副料理長と呼ばれましたが、否定したらやめましたね」
「涼くんが先生って知ったら、ずっと先生って呼びそうだよね」
「外で呼ばれるのは恥ずかしいんだよなー」
「あの子、塾は通ってないんですか?」
「通ってませんね。あの子、頭はいいんですよ。文系なんか特に」
「へぇー。じゃあなんで留年したんですか?」
「うーん、個人の事情なんでおれからはちょっと・・・まぁ、あの学校だからお察しください」
喧嘩が嫌いと言っても、巻き込まれることはあるのだろうか。
そりゃそうか。あの学校だもんな。
でもいい子だし、面白いし、何より怖くないから、きっと運が悪かったんだろう。
静かに食事を終えると、さっとお皿を下げに来た。カラになったお皿を見ると、急にパーッと笑顔になった。
ずっと真面目な顔をしていたので、あまり笑わない子なのかと思ったけど、年相応の笑顔を見られて少し安心した。改めて、笑顔って大事なんだなと思う。
和多流くんが驚いたように笑って、どうかした?とマツくんに問いかけると、笑顔のまま答えた。
「空っぽのお皿を見ると、美味しかったんだなーって嬉しくなるんすよ。料理長の作るものは、なんでも美味しいから本当に嬉しいっす」
和多流くんも顔を綻ばせた。
友達を褒められるのって、嬉しいのかな。
お会計を済ませて外に出ると、犬飼さんとマツくんが見送ってくれた。
軽く手を振って角を曲がる。和多流くんが小さく笑った。
「犬飼さん、マツくんのことすっごい気に入ってるよね」
「おれも思った」
「クマがヤキモキしてそうだな。涼くんも気に入ったでしょ」
「面白くて、ついつい観察しちゃうかな。あんなに面白い子なのに、本当に覚えてないの?」
「うーん、覚えてないんだよね。いたっけなぁ・・・。リーゼントはちらほらいたんだけどね」
「り、リーゼント・・・」
「今年も呼ばれてるんだよね。またやろうかな。結構いい金額もらえるし」
「成瀬さんが前に特別講師として呼ばれて行ってたけど、あれとは別なの?」
「待合室にはいなかったから別じゃない?明日にでも連絡するかなー」
あれ?
和多流くんも気に入ってる?
結構声をかけていたし、笑ってたもんな。
あの子、どこか憎めないというか可愛がりたくなるんだよね。
明日成瀬さんに話しちゃお。面白い子がいるって。
きっと和多流くんもシロさんに話すだろうし。
「和多流くん、また行こうね」
「うん。次は何食べるかなー」


******************


「あのぅ、春日部先生・・・」
講義を終えて自分の席に戻ると、別の講師から声をかけられた。
困ったような顔をして、数人の先生が窓を指差す。
「あの、多分そこでウロウロしてるの、吾妻学園の生徒たちなんですけど・・・今講師は女性しかいなくて、成瀬先生と主任もいなくて、でも生徒と学生が怖がってて・・・」
確かに、男はおれしかいなかった。
いつもこういう時は成瀬さんか主任が対応してくれていたけど、今はおれしかいない。へなちょこなおれしか。
話しかけて来た先生もどことなく不安そうにおれを見ている。
おれだって自分には頼りたくないから、よく分かります・・・。おれしかいなくてごめんなさい・・・。
「ちょっと、見て来ます・・・」
見て来たところで何もできないけど・・・。
そっと正面の入り口を開けると、数人のヤンキーがガードレールに寄りかかったり、しゃがみ込んで携帯をいじっていた。
何もしていないのに警察を呼ぶわけにはいかないので、恐る恐る声をかけてみると思いきり睨まれた。
「あの、誰か待ってるの?」
「あぁ?関係ねぇだろ」
「他の場所に移動してくれないかな。歩行者にも迷惑がかかるし・・・」
「うるせぇな。お前誰だよ」
男の子が立ち上がり、ぐっと胸ぐらを掴んできた。
ヤバい、殴られる。やっぱりおれはへなちょこだ。どうしたらいいか分からない。身構えると、ガードレールに寄りかかっていた男の子が慌てたように姿勢を正し、おれ胸元を掴むもう一人の子の手を振り解いた。顔を引き攣らせ、2人は動きを止める。彼らの視線の方へ目を移すと、見知った顔があった。が、しかし。出立を見ておれは言葉を失った。
「・・・お前ら、春日部さんに何してんだ?あ?」
「あ、ま、松木くん・・・知り合い?」
「ちょっと人を待ってて、それで、」
「お前らレベルがこんなところで誰を待つんだよ。言ってみろ」
リーゼントにダボダボのスラックス。大きめのポロシャツを着て学生鞄を持って立っていたのは確かにマツくんだった。
マツくん、だけども!
「言ってみろって言ってんだよ。ガンつけられたとか難癖つけてるだけだったら、それはお前らのせいだろうが。態度がなってねぇんだよ。マナーも悪いし」
「ご、ごめん。帰るよ・・・」
「帰らせるかよ。お前今、春日部さんに手ェ出したろ。この人はおれの尊敬する方の友達なんだよ。免許証出せ」
ぎろりと睨みつけられ、2人は諦めたように財布を出して、免許証を出した。その手はかすかに震えている。
マツくんは受け取ると、住所を確認してからポケットにしまった。そしてシッシと手を払うと、あとで返しに行くから、と端的に告げた。それがまるで死刑宣告のようで、2人はがっくりと項垂れてとぼとぼと歩いて行った。
チラッとマツくんを見ると、マツくんもおれを見ていた。
「あの、ネクタイ曲がってるっす。すみません、あいつらが・・・」
「あ、大丈夫・・・。あの、マツくん、その髪型・・・」
「え?あ、えっと、おれなりの正装っす。おれ、童顔だからこのくらいしないと舐められるっつーか・・・」
「・・・うん、かっこいいよ。助けてくれてありがとう」
それしか言えない!!他に言いようがない!
おれの生活して来た世界にはいたことのない人たちだったから怖かったし、マツくんもお店でのイメージと違うし、こんなに襟足の長いリーゼントも初めて見たし、驚きすぎて何を言ったらいいかも分からないし。
マツくんは大きな目をさらに大きく見開くと、照れたように笑った。その笑顔はお店で見た時と同じ、可愛くて人を安心させる笑顔だった。
「おれ、この格好でお礼言われたの初めてっす」
「え?いや、普通するよ。助けてくれたんだし・・・」
「吾妻に通ってるだけで迷惑がる人もいるし、ガラ悪いやつばっかだし。でもそれが役に立つこともあるけど、少ないから・・・」
「春日部」
後ろから声がして振り返ると、成瀬さんが小走りで来るところだった。
おれの前に立つと、ジロリとマツくんを見下ろす。
「あ!!」
「お前、吾妻の生徒だな。うちの講師に何を、」
「成瀬先生!!あの、去年特別講師としていらっしゃってましたよね!おれ、成瀬先生の授業が分かりやすくてまた教えて欲しいって思ってて、でも担任にどこの塾か聞いても教えてもらえなくて、春日部さんと同じところなんですか!?」
いきなり捲し立てられた成瀬さんはポカンとしてからおれを見て、知り合いかと尋ねた。
頷くと、呆れたようにまた見下ろしてため息をつく。
「名前は」
「松木丈太郎っす!2年生です!」
「2年?去年おれの講義を聞いたんだろ?おれは2年に講義をしたが・・・留年したのか」
「はい!」
「なぜ」
「成瀬先生の授業を真面目に聞かなかったやつと、あと別の特別授業の時に先生に教科書を投げつけたやつに焼き入れたら停学になりました!単位が足りなくてダブりました!」
それ絶対、和多流くんのことじゃん・・・!!
喧嘩は嫌いって言ってたけど、殴り合いはするんだね・・・。
焼き入れって初めて聞いた・・・。
成瀬さんは鼻で笑うと、バレるようにやるんじゃねぇよ、と言った。なんか違う気がする。根本的に違う気がする。
「おれ理系が全然ダメで、だから、犬飼さんに春日部さんが塾で講師をしてるって聞いて、通おうと思ってここに来たんす。そしたら成瀬先生もいるから、」
「おれは高校生は教えていない。予備校の講師だ。そもそもここは入塾テストがあるから平均点以下なら通えないぞ」
「そうなんすか・・・。受けるだけ受けたいっす」
「お前、理系は苦手と言ったが、文系は自信があるのか」
「あ、はい!国語と、英語と、社会は好きっす!」
答えるや否や、突然成瀬さんが英語で話し始めた。
げっ、おれ、全部聞き取れねぇ・・・!!
単語は理解できるので、必死に頭の中で組み立てる。多分、なんで吾妻学園に通ってるんだって、聞いたのかな・・・?
マツくんは少し考えると、とっても滑らかに英語で答え始めた。
成瀬さんよりも発音が綺麗かもしれない。
ていうか聞き取れない。
「大した志だな。たかだかあの高校くらいで」
「おれ、昔、吾妻の人に助けてもらったことあって、あんなに優しい人がいるんだから、学校も評判、よくなって欲しいっす」
「まぁ、難しいだろうな」
「はい!できることがあればと思っておれ、生徒会長もやってるんす!美化委員も作りました!」
ブフッと吹き出す声が聞こえた。
成瀬さんが笑ったんだ。
あの成瀬さんが、めちゃくちゃ笑ってる!信じられない!
やっぱりこの子、すごいな。人に好かれる子って、こんな感じなんだ。
「お前、ダブったくせに生徒会やってんのか」
「はい!おれがやった方がいいかなと思いまして」
「なぜ」
「おれ、番長なんで」
また吹き出して、今度は肩を震わせた。
番長って、今の時代に存在するんだ・・・。なんかもう、カルチャーショックだ・・・。
「まだあんのか、番長制度」
「はい」
「ふーん・・・。じゃぁ、テスト受けてこい」
え?!
普通は親御さんと一緒に面談を受けてからやるのに!?
ていうか、じゃぁって、何!?
「ありがとうございます!」
「春日部、お前見てやれ」
「あの、主任に怒られないですか・・・?」
「おれのした事だと言えばいい」
えー!それが一番言いづらいんだけど!!
マツくんは目を輝かせ、春日部先生のクラスに入りたいです!と大きな声で言った。
入れると思うけど・・・なんか緊張するな・・・。
マツくんは個室でテストを受け、なんとかかんとか通えることになった。
文系はものすごく成績がいいのに、理系はボロボロ。あと1点足りなかったら通えないところだった。
大変なことになったな・・・。
これから週1回、教えることになってしまった・・・。マツくんのことだから自習室のことを知ればそこにも来るだろう。
「あっはっはっはっ!!あーおかしい!番長って!リーゼントって!腹いてぇ~!」
帰宅途中の車内で、和多流くんに先ほど起きたことを詳しく話すと、ゲラゲラ笑い始めた。
やっぱり、笑うよね・・・。成瀬さんも笑ってたくらいだし・・・。
「そういやクマに聞いたんだけどさ、あの子の親代わりのおじさんって人、翻訳家みたいだよ」
「翻訳家?へぇー!だから英語が得意なのか!」
「かもね。小学校に上がるまで色んな国に連れまわされてたらしくて、クマが初めて会った時にはもうペラペラだったらしいよ。まぁ、飲み屋に子供連れてくるなよって思ったけど」
「それはすごいね。理系はボロボロだったから、これからどうなるかな・・・」
「リーゼントで来るかな」
「あ、それは成瀬さんが禁止した。塾に来る時は髪を下ろすことが条件って、話してた」
「抜かりないなぁ。ていうか、初対面で成瀬さんのこと懐柔させるのってすごいよね」
「シロさんに話したら涙流して笑うだろうね。成瀬さんが笑ったくらいだし」
「あぁ、大爆笑してた。多分泣いてたよあれ。電話で話したんだ」
やっぱり。
誰が聞いたって笑うよ。
来週から大丈夫かな。
にしても・・・。
「怒ってる時のマツくん、かなりこわかったよ」
「そりゃー怖いんじゃない?ていうかおれも今結構怒ってるけどね」
「え、」
「いやー、おれの涼くんになにしてんの?って思ってるよ。流石に高校生には仕返しできないなーとは思ってたけど、マツくんがケジメつけてくれるならそれで許そうかな」
「喧嘩嫌いって言ってたし、乱暴なことはしないと思うよ。それにちょっと掴まれただけだし、おれがへなちょこだっただけ、」
「涼くん。あのね、人のものに手を出した時点でアウトなの。だからね、制裁は受けるべきなの。おれはそれをマツくんに託したの。分かる?」
分かんないって・・・。でもそういうと長くなるから、黙って頷くことにした。
そんな大袈裟なことはしないと思うけど、と思ったのも虚しく、翌日マツくんが例の2人を連れてやってきた。
顔が腫れて体も重そうで、見ていて痛々しかった。菓子折りを持って来たので受け取らないわけにもいかず・・・。
若干引き攣りながらも笑顔で受け取り、もうしないでね、と、軽く言うと2人とも姿勢を正して大きな声で返事をした。
成瀬さんが後ろで吹き出した。いやもう、笑ってる場合じゃないってば。



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