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二人の小話
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「ちょっとだけ体重増えてた」
ジム帰り、ふふ、と得意げに笑う涼くんにときめく。
体重が増えて喜ぶなんて、子供みたいでかわいい。
そんなことを言ったら怒るのはわかっているので黙っておこう。
天気のいい平日に町中を歩くのは気持ちがよかった。
「いい汗かいたね」
「ちょっと疲れたけどね。あ、プロテインおいしかった?ネットで評判だったのを買ってみたんだ。和多流くんが好きならしばらくこれにしようかなって思うんだけど」
「おいしかった。結構高いやつなんじゃないの?」
「そこまでじゃないよ。おれさ、ジム行き始めてから体調が安定してきてるんだよね。ご飯もおいしく食べられるし、変な話、おなか下さなくなった」
「え?お腹弱かったっけ?」
そんな印象がなかったので驚くと、恥ずかしそうに頬をかいた。
「うーん、そうなんだよね。なんか・・・ご飯を食べるとお腹が痛くなるっていうか。でも今は平気だよ」
「ムラがあったんじゃない?食べないときは本当に食べなかったでしょ」
「うん、そうかも。・・・恥ずかしいんだけど、ご飯が金額でしか見えてないことがあったから、これを買うくらいなら貯金に回したいって思っちゃうっていうか・・・ちょっと異常だよね」
そんなことを思いながら、おれとも食事をしていたんだろうか。
そんな風にしか思えないくらい切羽詰まった生活をしていたのだ。気づかない自分に腹が立った。もっと頼ってくれてよかったのに、頼ろうと思うような男じゃなかったんだおれは。
「あの、」
「あ、でもねぇ、和多流くんとご飯行くのは楽しかった!だって知らない料理とかいっぱい出てくるし、全部おいしかったし。それにおれの目を見て話してくれるし、話を聞いてくれるでしょ。だからね、その時はあんまりお金のことは考えなかったかな」
「そうなの?」
「うん。話してたら思い出した!前に行ったローストビーフ丼がある居酒屋、また行きたいね」
「あぁ、前に車で行ったところか」
「そうそう。おれだけ飲んだところ。今度は電車で行こうよ」
「・・・いや、車だな」
「え?なんで?おれ運転する?」
「いやいや、あそこさぁ・・・ラブホ街が近いから」
「・・・え?何?行きたいの?」
「行きたいですね。あの時だってどんなに連れ込みたかったことか」
ネガティブに考えるのはやめよう。
だって、今、一緒にいるんだから。これから2人でおなか一杯食べて過ごせばいいんだから。ただ、それだけなんだから。
涼くんは顔を真っ赤にして、連れ込めばよかったじゃん、と言った。
連れ込めないよ。だっておれのこと本当に友達としてしか見てなかったし。それに、あの頃の涼くんってあどけなくて純粋で少年みたいだったから、おれの理性が必死に止めたっていうか・・・。
「・・・おれ、多分、拒まなかったよ」
「えー?どうかな。友達のままがいいって言ってたかもよ」
「・・・わ、和多流くんに、嫌われたくなかったし・・・だから、多分、誘われてたら寝てたと思う・・・」
少しだけ目尻を赤くしてつぶやいた。
心臓がきゅっと締まって苦しくなった。
今までもそうだったのかな。嫌われたくなくて誘いに乗ったり、自分の意思に反することをしてきたのかな。
肩に手を置こうとしたとき、パッと顔が上がった。少し困ったように笑って、でも和多流くんはそんなことしないと思った、と言った。
「え?」
「なんか、多分和多流くんは・・・おれにはそういうことしないなって、思ってたんだよ。だからちゃんとさ、付き合ってから誘ってくれたんでしょ」
「そりゃ、そうだよ。当たり前じゃん。おれの気持ちだけで連れ込めるわけないもん。それだけ本気だったんです」
「・・・うへへっ」
顔を真っ赤にして照れ臭そうに笑うから、今度はぎゅーっと胸が締まった。
さっきのとは違う、気持ちのいい締め付け。
おれのことを信用してくれてたんだ。安心できてたかな。そうだったらいいんだけど。
「わ、和多流くん・・・あのさ、」
「ん?」
「・・・きょ、いこ・・・」
「・・・・ん゛!!??」
「え!?ま、また・・なんでそんな、のどが詰まったような・・・」
「え!?え!??いいの!?行っていいの!?」
「ローストビーフにね」
「ちょっと待って、調べますので。少し時間をください」
「何を調べるの」
「いい部屋」
「だから、」
「行かないなんて言わせないよ。おれの気持ち知ってて断るなんて、ひどいことしてると思わない?」
「・・・や、その、」
「連れ込まれるの、嫌?」
「・・・」
「・・・それとも無理やり連れ込まれたいの?おれ、そういうプレイも大好きだよ。もちろん涼くん限定でね」
「・・・ここ、道端なんですけど」
あ、やっべ。
慌ててあたりを見渡す。人が少なくてよかった。見境なくスイッチが入ってしまった。
でもさっきの流れは食べた後ホテルに行きたいって意味じゃなかったのかな。
誘われてテンション上がっちゃったけど違ったのか?涼くん、時々難しいからわかんないな。それがまた駆け引きをしているみたいで楽しいし興奮するんだけどさ。
・・・・涼くん、もしかして分かっててやってるのか・・・?
最近、こういう感じが多いんだよな。
誘われたと思ったらかわされるっていうか。
おれにガツガツ来てほしいってことだよね?求めてほしいってことだよね?すっげー可愛いんですけど。すっげーエッチじゃん。うわ、もう、ガツガツ行こう。
「早く帰ろう」
「ローストビーフ丼だけだからね」
「いやいや、またもう・・・。意地悪だね。おれが分かったって引き下がったら寂しいくせに」
「・・・」
「・・・引き下がった方がいい?」
ちょっとしおらしく聞いてみると、耳まで真っ赤にしてさらにうつむいた。あぁもう、やっぱ、そうなんじゃん。おれに求めてほしいんじゃん。なにそれもう、嬉しいんですけど。幸せすぎる。
求めるにきまってるじゃないか。大好きだもん。いっぱい愛したいし愛されたい。涼くんもきっとそうだよね。だから顔を真っ赤にするんだよね。
「とりあえず、一回帰ろう」
「・・・がいい、」
「え?」
「・・・ベッド、大きいとこ、が、いい・・・」
「・・・・エッチ。大好きだよ」
下を向いたまま歩き始めた涼くんの隣に並ぶ。
早く家に帰って、一回しよう。
そうしないと我慢ができない。
ジム帰り、ふふ、と得意げに笑う涼くんにときめく。
体重が増えて喜ぶなんて、子供みたいでかわいい。
そんなことを言ったら怒るのはわかっているので黙っておこう。
天気のいい平日に町中を歩くのは気持ちがよかった。
「いい汗かいたね」
「ちょっと疲れたけどね。あ、プロテインおいしかった?ネットで評判だったのを買ってみたんだ。和多流くんが好きならしばらくこれにしようかなって思うんだけど」
「おいしかった。結構高いやつなんじゃないの?」
「そこまでじゃないよ。おれさ、ジム行き始めてから体調が安定してきてるんだよね。ご飯もおいしく食べられるし、変な話、おなか下さなくなった」
「え?お腹弱かったっけ?」
そんな印象がなかったので驚くと、恥ずかしそうに頬をかいた。
「うーん、そうなんだよね。なんか・・・ご飯を食べるとお腹が痛くなるっていうか。でも今は平気だよ」
「ムラがあったんじゃない?食べないときは本当に食べなかったでしょ」
「うん、そうかも。・・・恥ずかしいんだけど、ご飯が金額でしか見えてないことがあったから、これを買うくらいなら貯金に回したいって思っちゃうっていうか・・・ちょっと異常だよね」
そんなことを思いながら、おれとも食事をしていたんだろうか。
そんな風にしか思えないくらい切羽詰まった生活をしていたのだ。気づかない自分に腹が立った。もっと頼ってくれてよかったのに、頼ろうと思うような男じゃなかったんだおれは。
「あの、」
「あ、でもねぇ、和多流くんとご飯行くのは楽しかった!だって知らない料理とかいっぱい出てくるし、全部おいしかったし。それにおれの目を見て話してくれるし、話を聞いてくれるでしょ。だからね、その時はあんまりお金のことは考えなかったかな」
「そうなの?」
「うん。話してたら思い出した!前に行ったローストビーフ丼がある居酒屋、また行きたいね」
「あぁ、前に車で行ったところか」
「そうそう。おれだけ飲んだところ。今度は電車で行こうよ」
「・・・いや、車だな」
「え?なんで?おれ運転する?」
「いやいや、あそこさぁ・・・ラブホ街が近いから」
「・・・え?何?行きたいの?」
「行きたいですね。あの時だってどんなに連れ込みたかったことか」
ネガティブに考えるのはやめよう。
だって、今、一緒にいるんだから。これから2人でおなか一杯食べて過ごせばいいんだから。ただ、それだけなんだから。
涼くんは顔を真っ赤にして、連れ込めばよかったじゃん、と言った。
連れ込めないよ。だっておれのこと本当に友達としてしか見てなかったし。それに、あの頃の涼くんってあどけなくて純粋で少年みたいだったから、おれの理性が必死に止めたっていうか・・・。
「・・・おれ、多分、拒まなかったよ」
「えー?どうかな。友達のままがいいって言ってたかもよ」
「・・・わ、和多流くんに、嫌われたくなかったし・・・だから、多分、誘われてたら寝てたと思う・・・」
少しだけ目尻を赤くしてつぶやいた。
心臓がきゅっと締まって苦しくなった。
今までもそうだったのかな。嫌われたくなくて誘いに乗ったり、自分の意思に反することをしてきたのかな。
肩に手を置こうとしたとき、パッと顔が上がった。少し困ったように笑って、でも和多流くんはそんなことしないと思った、と言った。
「え?」
「なんか、多分和多流くんは・・・おれにはそういうことしないなって、思ってたんだよ。だからちゃんとさ、付き合ってから誘ってくれたんでしょ」
「そりゃ、そうだよ。当たり前じゃん。おれの気持ちだけで連れ込めるわけないもん。それだけ本気だったんです」
「・・・うへへっ」
顔を真っ赤にして照れ臭そうに笑うから、今度はぎゅーっと胸が締まった。
さっきのとは違う、気持ちのいい締め付け。
おれのことを信用してくれてたんだ。安心できてたかな。そうだったらいいんだけど。
「わ、和多流くん・・・あのさ、」
「ん?」
「・・・きょ、いこ・・・」
「・・・・ん゛!!??」
「え!?ま、また・・なんでそんな、のどが詰まったような・・・」
「え!?え!??いいの!?行っていいの!?」
「ローストビーフにね」
「ちょっと待って、調べますので。少し時間をください」
「何を調べるの」
「いい部屋」
「だから、」
「行かないなんて言わせないよ。おれの気持ち知ってて断るなんて、ひどいことしてると思わない?」
「・・・や、その、」
「連れ込まれるの、嫌?」
「・・・」
「・・・それとも無理やり連れ込まれたいの?おれ、そういうプレイも大好きだよ。もちろん涼くん限定でね」
「・・・ここ、道端なんですけど」
あ、やっべ。
慌ててあたりを見渡す。人が少なくてよかった。見境なくスイッチが入ってしまった。
でもさっきの流れは食べた後ホテルに行きたいって意味じゃなかったのかな。
誘われてテンション上がっちゃったけど違ったのか?涼くん、時々難しいからわかんないな。それがまた駆け引きをしているみたいで楽しいし興奮するんだけどさ。
・・・・涼くん、もしかして分かっててやってるのか・・・?
最近、こういう感じが多いんだよな。
誘われたと思ったらかわされるっていうか。
おれにガツガツ来てほしいってことだよね?求めてほしいってことだよね?すっげー可愛いんですけど。すっげーエッチじゃん。うわ、もう、ガツガツ行こう。
「早く帰ろう」
「ローストビーフ丼だけだからね」
「いやいや、またもう・・・。意地悪だね。おれが分かったって引き下がったら寂しいくせに」
「・・・」
「・・・引き下がった方がいい?」
ちょっとしおらしく聞いてみると、耳まで真っ赤にしてさらにうつむいた。あぁもう、やっぱ、そうなんじゃん。おれに求めてほしいんじゃん。なにそれもう、嬉しいんですけど。幸せすぎる。
求めるにきまってるじゃないか。大好きだもん。いっぱい愛したいし愛されたい。涼くんもきっとそうだよね。だから顔を真っ赤にするんだよね。
「とりあえず、一回帰ろう」
「・・・がいい、」
「え?」
「・・・ベッド、大きいとこ、が、いい・・・」
「・・・・エッチ。大好きだよ」
下を向いたまま歩き始めた涼くんの隣に並ぶ。
早く家に帰って、一回しよう。
そうしないと我慢ができない。
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