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和栗

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「涼くん!!ちゃんとインナー着て!!」
いきなり大声で言われて飛び跳ねると、和多流くんか怒った顔をして近づいてきた。
「え、え、」
「早く!インナーを着なさい!」
「・・・わ、忘れちゃって・・・ごめん、今着てくる・・・」
お風呂入る前に準備した着替えの中にインナーが入ってなかった。
持ってくるのを忘れたんだと思ってTシャツだけ着て洗面所から出て、いきなりこれだ。
なんで怒ってるのか、意味がわからない。
部屋に戻ってもそもそ着替えると、ドアがノックされた。
恐る恐る開けて様子を伺うと、目を逸らした和多流くんが咳払いをしていた。
「んんっ、うん。それなら、大丈夫」
「・・・なんか、変だった?」
「・・・いや、その、・・・ってたから、」
「え?何?」
「だからっ!・・・乳首、立ってたから」
「・・・は?」
「あのねぇ!やたらめったらエロさを振り撒いておれをどうしたいの!!まったく、けしからん!」
・・・はぁ??


******************


「涼くん!ベストはダメ!!」
「わぁ!な、何!?」
背後から叫ばれて飛び跳ねる。
歯磨き粉がベストに垂れた。
「あ、あぁ!せっかく着たのに・・・」
「ベストはダメ!クリーニング出しておくからセーターを着なさい!」
「もうセーターだと暑いんだって!」
「ベストは!!腰のラインが綺麗に見えちゃうからダメ!!せめてニットのベスト!!」
「持ってない!」
「おれのがあるでしょ!!」
サイズが違うしダボダボするし幼く見えるから嫌なのに。
ていうか、なんでくだらないことで怒られなきゃならないんだ。
おれの自由じゃん。バカ。
せっかく、成瀬さんも着てるから着ていきたかったのに・・・。
かっこいいんだよなー。できる男の服ってイメージだ。おれもあんなふうになりたくて、せめて格好だけはと奮発したのに。
こんなこと言ったら和多流くんは怒り狂うだろうけど。
「・・・いらない」
「おれのが嫌なの?」
「そーだよ。おっきいもん」
和多流くんは目をカッと開くと、なぜか顔を赤らめた。
「おっきいとか、言わないのっ」
「は?」
「まったく、エッチだな」
「・・・はぁ?」
呆れて首を傾げると、すぐ険しい顔になり、怒りながら洗面所を後にした。
なんだよ、もう。


******************


「仕事漬けだが、体調崩すなよ」
昼食を取りながら成瀬さんの言葉に頷くと、ため息をつかれた。
成瀬さんの目の下に若干隈ができている。そりゃそうだよなー。
いきなり成績が落ちてしまった学生をなんとかしてやりたいって、休みの日も自習室にきて付きっきりだし。
シロさんのストレスも溜まってそうだなぁ。
「なんか甘いものでも食べますか?」
「いや、いい」
「そうですか?」
「食べ始めたら止まらん」
意外だ。
甘いものが好きって女子たちが知ったら、バレンタインとかとんでもないことになるんだろうな。
まぁ、ここはそういうイベントは禁止だけど。
「あ、もう直ぐバレンタインですね」
「ん」
「シロさんは張り切るタイプですか?」
「そうだな。誕生日だし」
「え、シロさんバレンタインが誕生日なんですね」
「いや、おれだ」
えぇえ!?
し、知らなかった・・・!
めちゃくちゃ張り切りそうだ・・・。
「藤堂さんも張り切りそうだな」
「え?そうですか?去年は・・・」
あ、去年は家出してたんだった。
それどころじゃなかったんだよな・・・。
今年、何かしたほうがいいのかな?
いやでも、なんか最近怒ってることが多いし・・・やりづらっ。


******************


「ただいま・・・」
「おかえり」
うーん、今は怒ってなさそう・・・。
恐る恐る助手席に座る。
すっと手が伸ばされて肩を跳ねさせると、困った顔をされた。
「ごめん、怖かった?」
「し、死角だったから、」
「・・・朝、ごめん・・・。クリーニング出しておいたから」
「ん、ありがとう・・・」
「・・・ご飯、外で食べない?」
「うん、いいよ」
頷くとホッとした顔になる。
なんか、ストレス溜まってるのかな。
伸ばされた手はハンドルを握るために戻された。
ゆっくり走ってたまに利用するファミレスについた。
疲れ切った頭を癒したくて、煮込みうどんを注文する。ふとパフェの写真が目に入り、すごく食べたくなった。
バレンタインフェアかぁ・・・。チョコパフェ、美味しそう・・・。
「涼くん」
「え?はい」
「大丈夫?疲れてる?ごめんね、夜ご飯、家で食べたかったかな」
「ううん、大丈夫。いつも作ってくれてありがとう」
「いや、それはこっちのセリフで・・・あの、この間休みの日結局仕事だったでしょ?代休って取れる?」
「うーん、しばらく無理かなぁ・・・予定が分からないんだ」
「あー・・・そっか、うん・・・。分かった」
残念そうな顔。
ここ最近の休みはないに等しいので、和多流くんに寂しい思いをさせたかもしれない。
ん?あれ?もしや?
「和多流くん」
「あ、ごめんごめん。聞いただけだから気にしないで」
「もしかして甘えたいの?」
「・・・はい!?」
「なんか意味不明な怒り方するから、そうなのかなって」
顔を見ると、明らかに狼狽えていた。
耳まで真っ赤だし。
あ、なんだ。そうだったのか。
「ごめんね。この前の休みのご飯は和多流くんの好きなもの作るって約束してたのに」
「あ、いや、その、」
「夜も結局時間がバラバラだし・・・。今日は、一緒にお風呂入ろうよ」
「・・・ゔぐっ・・・!!」
「嫌かな」
「嫌なわけない・・・!」
奥歯を噛み締めながら答えるので笑ってしまった。
テーブルの下で足を絡めるとまた狼狽えて目を逸らし、チラッとこちらを見た。
「そーだよ。甘えたかったの。ちょっとイラついてました。ごめん」
「おれも甘えたい」
「・・・おれだって涼くんのことべちゃべちゃに甘やかしたいし」
「んへっ」
気が抜けて変な声が出る。
食事をしながらついでにパフェを頼み、2人で食べた。
周りに他のお客さんもいないから存分にイチャついて、家に帰った。
「涼くん、ごめん、疲れてるんだって分かってるんだけど・・・1回だけいい?」
「うん。おれもしたかった」
「・・・さっきもしかして、おれのこと誘ってた?」
キラキラと期待のこもった目で見つめられて、ついつい頷く。
パーっと表情が明るくなり、嬉しそうに抱きつかれた。
背中を撫でて抱き返す。次の休みはたくさんしよう、とつぶやかれた。くすぐったかった。



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