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和栗

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年末はほとんど休みがなくなるので、じゃぁ今のうちにのんびりしておこうねと話をしたはずなんだけど。
「んへへへへ。美味しい~」
涼くんはひどく酔っ払っておられます。
あーあ・・・エッチしたかったのに・・・。
おれの膝に座り、少し頭を揺らしながらお酒を煽った。
慌てて手からグラスを奪うとムッとした顔が振り返る。
そんな顔されても、可愛いだけなんだけどなぁ。
「飲み過ぎ」
「飲みたいの」
「明日休みだからって、調子乗っちゃダメ。1日寝てたいの?」
「和多流くんは?」
「え?」
「おれと寝てたくないの?」
「寝てたい」
もちろん睡眠ではない。
なんなら抱き潰したい。
涼くんは満足そうな顔をすると擦り寄ってきた。
服の中に手を入れて優しく撫でてくる。
手が暖かくて心地いいなと思っていると、いきなり乳首を摘まれた。驚いて肩を跳ねさせると、目尻を下げて笑い、おれを見上げる。
「えへへ、乳首みっけたー」
ぐぅっ・・・!!! 
可愛い・・・!
くにくにといじりながら、ふにゃりと笑って上目遣いで見つめてくる。
押し倒したい。が、おれは記憶に残らないセックスはしたくない。
自分だけが楽しむのも抵抗があるし、何よりとっても良い夜を過ごしたのに相手がまるで覚えてなかったら悲しすぎる。
だからしない。しないって決めたのに。
「和多流くん」
「うわっ、」
耳元で優しく名前を呼ばれて、背筋が熱くなった。
あぁもう、襲っちゃおうかな。
「へへ、耳弱いねぇ」
「涼くんの声、エロいんだよ」
「わーたくん」
「へ?何、」
「わっくんがいい?」
「絶対やだ」
「和多流くん?」
「和多流って呼んで」
前から思っていたけど、涼くんもおれのこと呼び捨てにしないんだよな。
いいよって、呼んでって言ったんだけどな。
「え、え、いやぁ、・・・和多流くんで・・・」
「なんで呼ばないの?」
「えぇー?・・・恥ずかしいから」
は??それだけ??
何、顔赤らめてるの?
すっげー可愛いんですけど。
恥ずかしいからって、呼び捨て以上に恥ずかしいことたくさんしてるんですけど。
あーもう、可愛い。可愛すぎるだろ。
「あれ?勃ってる。へへー、エッチだなぁ」
「抜いてきます」
「え?なんで?おれとしないの?」
うぅうっ・・・!!
いつもは恥ずかしそうに遠回しに誘ってくるのに、今日は酔ってるからかなりストレート。しかも、する前提で聞いてきてくれるのがかなり嬉しい。でも記憶、残らないだろうしなぁ・・・。
正直すごくすごくしたいけど、意地が邪魔をする。
衝動を必死に理性で抑えつけ、肩を掴んで少し体を離す。
涼くんはムッとするとバッとお酒を奪い取り、一気に煽った。
「こらこら!危ないって!」
「うるさいなぁ!和多流くんのバァーカ!」
バーカって言い方、子供っぽくて可愛いんだよな・・・。じゃなくて。
グラスを全てシンクに置いて、お酒をしまおうと瓶を持つとその手を叩かれた。
「返してよ!やけ酒すんだから!」
「や、やけ酒って・・・もう寝ようよ。ね?」
「絶対断らないって言ったのに!嘘つき!嫌い!」
「え、えぇー・・・嫌いって、酷いなぁ」
酔ってるって分かってるけど、傷つくなあ。
他の人に言われてもなんとも思わないけど、涼くんに言われる言葉って一喜一憂してしまう。
天に昇る時もあれば、地獄に落ちる時もある。昔からそう。
「涼くん、今のは傷ついたよ。本当に嫌いならしょうがないけどさ」
「・・・おれも傷ついたもん」
「前も言ったけど、おれは記憶に残らないセックスはしたくありません」
「・・・おれがしたくても?」
「うん」
「・・・じゃぁいってきます」
「うん、待って?どういうこと?」
「ママんとこ行って遊んでくる」
「ちょっと待った。何、男引っ掛けんの?」
「ママのところで遊ぶだけ」
「だから、」
「断らないって言ったじゃん!嘘つき!記憶に残るか残らないかなんて、分かんないじゃん!覚えてるかもしれないのに!」
「だからって男引っ掛けに行くのは違うでしょ」
「バーカ!和多流くん以外に足開くかぁ!すぐ疑うんだ!和多流くんは何も分かってない!おれはぁ!和多流くんだけだ!バーカバーカ!一生そうやっておれのこと疑っておれのこと傷つけてろ!ふんだ!」
バフっとクッションを投げられた。
結構、本気で怒ってる?
もしかして普段から思うところがあって、お酒の力で爆発してる?
おれ、普段からそんなに疑ってたかな。
まさか、無意識?うわ、最低じゃん。
漠然と不安なのかもしれない。前に家出されたこともあるし、成瀬さんに嫉妬してたし。
そりゃ、疑われたら嫌だよな。
涼くんはすくっと立ち上がるとベッドに倒れ込んで布団にくるまった。
お饅頭みたいで可愛い。いや、そんなこと考えてる場合じゃないな。
「涼くん、ごめん」
「もぉ寝る」
「・・・しないの?」
「しない!断られたからもうしない!嘘つき!」
「ごめんって。・・・いや、うん、ごめんね、融通利かなくて・・・。ちゃんと覚えていてほしいから、酔った勢いではしづらいって言うか・・・」
「もう、酔いなんか覚めた」
小さくつぶやいて、静かになった。
部屋を片付けて隣に潜り込むと、すでに眠っていた。
小さな寝息だった。
静かすぎて時々心配になる。
壁に寄り、体を丸めている姿は子供のようだった。
背中から抱きしめて体温を感じる。ほかほかして気持ちよかった。


******************


洗濯物を干して部屋に戻ると、涼くんがちょうど起き上がった。ぼんやりしてからおれを見つめる。
うーん・・・怒ってるのかな・・・。
体調、悪いのかな。どっちだろう。
「おはよう。ご飯食べる?」
無言で首を横に振る。
すくっと立ち上がると洗面台に向かったので、慌てて追いかける。
「体調どう?」
「・・・」
「頭痛くない?気持ち悪いとか、胃がムカムカするとか、」
「悲しい」
はっきりとした声で言われてスッと胸が冷たくなった。
覚えてるのか。ちゃんと、記憶あるんだ。
シャカシャカと歯を磨き始めたので、腰に手を回して抱き寄せる。抵抗されなかった。なんとなくそれが寂しかった。
どうでも良くなって投げやりになってたらどうしよう。
「・・・あの、ごめんね」
「・・・」
「・・・もう断らないって言ったのに、約束破ってごめんね」
「・・・和多流くんがしたい時だけすれば良いんじゃない」
それって、セックスっていうのかな。
それって、すごく独りよがりじゃないか。
せっかく2人でいるのに。
「酔っ払ってると思って、だから、」
「何度も聞いた。でも覚えてる」
「結果論でしょ。もしかしたら覚えてなかったかもしれないじゃん」
「覚えてるよ」
「なんで言い切れんの?」
「だってそんなに酔ってなかったもん、おれ」
え。
えぇ?
あんなにベタベタのふにゃふにゃになったのに?
いつも以上にいやらしくてエッチだったのに?
酔ってなかっただと?じゃぁ、あれはもしかして、酔ったふりして積極的になってたってこと?
「和多流くんが普段からおれのこと疑ってるのがよく分かったよ」
「疑ったんじゃなくて心配になったんだよ」
「嘘だね」
「嘘じゃないよ」
「普通、簡単に、男引っ掛けに行くのかって聞く?」
「だ、って、さぁ!涼くん、勝手に出て行ったじゃん!おれのこと置いて行ったじゃん!何も言わないで、いきなり、いなくなっちゃったじゃん!」
「・・・」
「・・・ごめん」
つい感情的になってしまう。
喧嘩をしたいわけじゃないのに。
仲直りしたいのに。
涼くんと穏やかに生きていきたいだけなのに。
苦しい。
深呼吸して気持ちを整えていると、涼くんはおれの腕からすり抜けて洗面所から出ていった。追いかけるのも嫌になってダイニングでぼんやりしようと足を向けると、ちょこんとダイニングテーブルに座る姿があった。
「・・・ご飯食べていい?」
「え?あぁ・・・うん」
用意した朝食を静かに食べ始めたので、おれも箸を持つ。
無言で食べ進めていると、するっと足に絡みついた。
涼くんの足だった。
「・・・もうどこにも行かないよ」
「・・・ごめん、大人気なかった」
「・・・おれもだから、おあいこね」
2人で食器を洗い、リビングへ戻ってソファに腰掛ける。
少し気まずい。涼くんもそうだろう。
でも一緒にいてくれるんだなぁ。嬉しい。
「和多流くん」
「ん?」
「・・・嫌いって言ってごめんね」
細くて小さな声だった。
それも覚えてたんだ。もしかして本当に全部覚えてるのかな。
意外とお酒、強いのかも。
「いや、言われる原因はおれだったからさ・・・。びっくりしたけど、いいよ」
「・・・」
「・・・あの、おれもごめんね。夜にしたいんだけど・・・いいかな」
「・・・和多流くんが酔った勢いでしたくないっていうの、分かってたんだけど、わがまま言いたくて、ごめん・・・。うざいよね」
「いや、うざいっていうか・・・正直めちゃくちゃ抑えるの頑張ったよ。すっげー抱きたかったし・・・」
「そうなの?」
「そりゃそうでしょ。涼くんがあんなにエロい顔で誘ってくるんだもん。しかも酔ってなかったんでしょ?」
「酔ってたけど覚えてるだけだよ」
「したかったけど、ちゃんと覚えておいて欲しくて、」
「思うんだけどさ・・・」
「ん?」
「覚えてない方が都合いいことも、あるんじゃない?」
「へ?」
「・・・た、たまにさ、ほら、・・・おしっこしてるとこ見たいとか言うじゃん。あと、お尻洗ってるとことか・・・」
「うん。見たい」
「・・・素面じゃ絶対無理だから・・・酔ってる時なら、覚えてないこともあるかもしれないから、」
「え?つまり昨日は見せてくれるつもりだったの?」
ボッと火がついたように顔が赤くなり、膝を抱えて小さく頷いた。
ぐわっと体温が上がり、一気に下半身に集中した。
嘘だろ。マジかよ。あの時おれが抱いてたら、もしかして覚えてないふりとかしてたわけ?
尊い。
可愛い。
あぁ、いじめておけばよかった・・・!
「和多流くん?怒ってる?」
「怒ってる。自分に。我慢しなきゃよかった」
「いや、まぁ、酔った勢いが嫌って言うのは分かるよ・・・。でも、その方が都合がいい時も、あるって言いますか・・・」
「やめて。今すっごい勃ってるから追い打ちかけないで」
「・・・うわ、本当だ」
「可愛すぎるだろ・・・。ふざけんなよ、反則だよ。あー、抱いときゃよかった」
「いつも後悔するよね」
「学習できないタイプなんです」
「夜に、したいんだよね?」
「今。今すぐ」
「ダメ。夜って言ったでしょ」
あぁ、やっぱりお預けだ。
きっと夜も抱かせてもらえないんだろうな。
喧嘩するといつもそうだし。
だからしたくないのに、同じことを繰り返してしまう。
あー、我慢するのしんどい・・・。
最近涼くんの手の中で転がされている気がする。
主導権を握っているようで、実は涼くんの思惑通りにことが進んでいるんじゃないかって思ってしまう。いや、絶対そうだ。
昔のおれだったらそれを逆手に取って相手を服従させていたはずなのに、涼くんにはそれができない。
付き合いたての頃の方がまだぐいぐい迫っていけたけど、涼くんの導火線の位置をだんだん把握できてきたせいか尻込みしている部分もある。
それに、無理やりは嫌だし・・・。
「・・・忘れちゃおうかな」
「え?」
「・・・んと、や、・・・わ、忘れちゃった」
「え?何が?」
「・・・さっき喋ってたこと、全部」
え。何急に。どうしたの。
意図が読めなくてじーっと横顔を見つめると、耳まで赤く染まって俯いた。
さっき喋っていたことを忘れるって、どういう・・・。え、うそ。うわ、可愛い・・・!
「忘れちゃったの?」
「・・・ん」
もしかして、歩み寄ってくれてるのかな?
おれが落ち込んでるの分かったから?
忘れちゃおうかなって、すっげ、可愛いー・・・。
「えー。酷いなぁ。涼くんがお風呂でエッチしたいって言ったのに。おれが全身くまなく洗ってぬるぬるのままエッチしたいって言ったのに、忘れちゃったの?」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!」
「言ったよ。忘れちゃったの?」
おれを見て狼狽えて、眉を垂らした。
ぐぅうっ・・・!早く襲いたい。
もう手の中で転がされてても主導権握られててもどっちでもいい。
「お風呂入ろっか」
「・・・うん」
うん!うんだって!素直!かっわいいー!
あー、ジーパンが窮屈だ。
いそいそと準備して、涼くんとお風呂に入る。
全身を泡だらけにして2人で目一杯気持ち良くなった。
なんて幸せなんだ。
よくよく思い出せば怒った姿もおれとできなくて臍を曲げていただけだし。
あー、おれって単純。
「ほら、ボディークリーム塗るから寝転がって」
「んー・・・もうできないよ・・・」
「えー?夜もしたいねって、涼くんが言ったのに」
「言ってないよ」
「言ってたよ。だから夜もしようね。それまではそうだなぁ・・・少し昼寝でもして、何かつまんで、ドラマでも観ようか」
「・・・もー」
ツルツルの肌にクリームを塗りたくる。
我慢ができなくてまた少しエッチなことをした。
涼くんは文句も言わずにたっくさん鳴いてくれて、そのまま眠ってしまった。
もしかしておれって手の中で転がされているくらいがちょうどいいのかも?なんて思ったりして。
超単純でしょ。

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